シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

THE LAW 刑事の掟

またしても主演詐欺! ブルース・ウィリスが「一旦帰る」とか言い出して物語の舞台から姿を消す!

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2019年。マット・エスカンダリ監督。ニッキー・ウィーラン、ブルース・ウィリス。

 

スティーブ・ウェイクス警部補の相棒トニーが何者かに殺害された。銃撃現場を目撃したウェイトレスのマディソンも被弾し、救急病院に搬送される。捜査を進めるうち、事件は警察内の組織犯罪であると突き止めるスティーブだったが、証拠となる銃弾はマディソンの体内に残されていた。彼女の命を狙う悪徳警官たちは、警察の立場を利用して病院を占拠。事態に気づいたスティーブは、満身創痍になりながらも病院に潜入する。(映画.comより)

 

どうもおはよう。憎しみを花束に代えてる?

近頃わたくしは仮眠気味っつーか、何しかごっつ眠くて、休日はしこたま眠ってます。映画好きにとって睡魔は天敵。ウトウトしながら見たものは夢か映画か!? 眠たくなるのは季節柄か!?

それはそうと、私は映画を観ているとき、たまにデジャヴュ現象を体験するのである。初めて観る映画なのに「知ってるぞコレ!」と神経がピーンってなって、そのあとに続くショット展開や筋運びが手に取るようにわかるのだ。実際にその通りの画面が来ることもあるし、来ないこともあるのだが、いずれにせよ摩訶不思議な事であるよなー。

あるいは一切は私の気のせいで、過去に夢で見たイメージや、絵ないしは映像の記憶などがたまたまその映画と似通っており、それを「知ってるぞコレ!」と鼻息荒く錯覚してるだけなのかもしれない(まあ、結局のところデジャヴュってそういう事なのかもしれないよね)。

では、初めて観る映画なのに、先の画面、先の展開が事前に分かるのはどういう理屈なのだろう。本当に私は予知夢を見たのだろうか。結論から言うとノンなのだ。

再三言ってることだが、映画理論には定石というものがあり、よほどの実験映画やアート志向のデタラメ映画でもない限り「次のショット」はある程度決まっている。パターン化されているのだ。たとえ監督がパターンから逸脱したくても、パターンを無視すると画面が繋がらなくなるので、結局は定石…つまり映画理論に従わねばならない。人が思ってるほど映画に自由はない。むしろ映画とは「制度」である

ゆえに私だけでなく、映画ばかり観てる連中というのは、それこそ予知夢のように、絶えず「次に来る画面」を幻視していて、それが正しく来たときの気持ちよさや、スカされたときの驚き…といったものに対して感動を覚えてるわけ。

 

つまり何が言いたいかというと二度とデジャヴュなんか起こんなということである。

こちとら初めての映画をなるべく新鮮な気持ちで観たいねん。「知ってるぞコレ!」とか要らんのじゃ。デジャヴュが起きると鮮味が落ちるだろうが。デジャヴュだか予知夢だか知らんが、俺から映画を観る楽しみを奪うのはやめろ。

次また起きたらしばくからな。デジャヴュ。

既視感のガキをしばき回す。

そんなわけで本日は『THE LAW 刑事の掟』です。こき下ろしてます。

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◆ブルース、帰ってもうてるやん◆

近年、ブルース・ウィリス主演詐欺がひどい。

限りなくブルースが主演のように見えるパッケージだが、いざ蓋を開けてみれば思いっきり脇役で、登場シーンもごく僅か…という背徳の裏ぎりで、『ダイ・ハード』(88年)世代のオヤジファンの心を弄んでばかりいるというのだ!

悪質な主演詐欺がおこなわれるのは決まってビデオスルーの低予算映画である。

だが、たとえ現在のブルース・ウィリスがビデオリリースから3ヶ月もすれば掃き溜め直行デスティニーの弱小Vシネマで小遣い稼ぎに奔走する晩節汚しまくり俳優に成り下がったとしても、その全盛期を見てきた浮世のオヤジたちにとっては未だに憧れの存在なのだ!

彼らは…、彼らというのは浮世のオヤジたちのことだが、浮世の彼らはブルースの新作がビデオ屋に並ぶたびに「ブルース・ウィリス完全復活!」という嘘八百の文言をうっかり信じて脳死でレンタル。夜の楽しみにと後生大事にレンタルバッグを小脇に抱えて家路につけば「草生える」などと不思議な語を操る中学3年の息子は「おかえり」も言わずに自部屋へ直行。晩飯時には嫁のパクチーブームに付き合わされて「“草生える”の草ってパクチーのことか…?」と息子に話しかけるもフツーに無視されてしまい、ようやく発泡酒片手にソファーに身を沈めてブルース主演作を見始めたが、期待に胸躍らせたのも束の間、実はブルースは主演ではなく脇役だったことを知り、放屁。それでなくとも度し難いつまらなさにまたぞろ屁をこき、思わず草が生えた。そうこうしてる間に映画が終わると嫁にチャンネル権を奪われ、せんべいをばりばり食べながら『逆賊 民の英雄ホン・ギルドン』を見始めたその肥えた後姿を尻目に「ブルースは俺を裏ギルドン」などと人知れず低級ギャグを呟き、死ぬまでこんな日々が続くのだろうか…と虚しき生活を哲学するんである。溜息ブルー。

 

そんな、見た目は汚くても心は汚れ知らずのオヤジたちを一度ならず二度三度も騙くらかす溜息ブルース作品。関心しねーなぁ。

というわけで、本日はオヤジ救済措置の一環として『THE LAW 刑事の掟』を叩き斬って候!

この作品、各映画サイトやDVDパッケージの概要欄では相棒を殺されたブルース刑事をあたかも主役のように書き立てているが、さにあらず。流れ弾を受けて入院している一般女性ニッキー・ウィーランこそが本作の主役なのだ。ズコ~~。

物語はこんな感じ…。ある晩、路地裏で警官が撃たれた。ブルースの相棒である。偶然そこに居合わせたウェイトレスのニッキーは左腿に流れ弾を受け、駆けつけたブルース刑事によって病院に運ばれる。一方、腿の銃弾から身元がバレることを恐れた犯人2人組はニッキーを抹殺して銃弾を回収すべく病院に潜入するのだった…。

 

ずばり本作は、物騒な2人組から命を狙われた一般女性が深夜の病院内をちょこちょこと逃げ回るソリッド・シチュエーション・スリラーなのだ!ズココ~。

とは言え、ここまでは想定の範囲内。きっとブルース刑事がニッキーを庇いながら知恵と工夫の二人三脚で難局を乗りきるスリリングな攻防…それこそ『ダイ・ハード』のようなウィットに富んだハード病棟アクションが展開されるはずなのだ!

しかし、そんな淡い期待も開幕早々に潰えてしまいます。ニッキーをセキュリティ万全の隔離病棟に移して「ここに居れば安全だ。必ず犯人は捕まえるから、いい報告を待っててくれ」と言い残して病室を出て行こうとするブルースの後ろ姿に、観る者は思わずこう呟く。

ひょっとしてオマエ…帰んの?

そう、帰るんである。

ブルース刑事は事件現場を再捜査すべく、ニッキーを病院に残して立ち去ってしまうのだ。これによって事実上「病院=物語の主舞台」から完全に姿を消したことになる。

ブルースの「ブ」の字はああああああ!?

そう! 本作はブルースの「ブ」の字もない中身だったんである! だって帰っちゃうんだもん!

f:id:hukadume7272:20201110022731j:plainニッキーを病院まで送ったあとにすぐ帰っちゃうブルース(病院が舞台なのに)。

 

◆推理という名の直感…否!シックスセンスが火を噴く◆

そんな早退ブルースとすれ違うように病院に現れたのが2人組の犯人。

実はこの犯人たちはブルースと同じ職場の汚職警官。病院職員をだましてニッキーに警官殺害容疑の濡れ衣を着せ、彼女が休んでる隔離病棟から全職員を避難させた。もちろんニッキー暗殺を目撃されないためだ。

ブルース刑事いわくセキュリティ万全(笑)の隔離病棟に取り残されたニッキーは、ブルースが手配したクソの役にも立たないザコ警備員が瞬く間にブッコ・ブッコロ・ブッコされてしまったことで、正真正銘のボッチ・ヒトリボッチ・ボッチとなってしまう。

おまけにブルースと連絡を取ろうにも電話は圏外!(電波圏外って…病院として終わり散らかしてるだろ)

それにしても、ただでさえ他の患者や病院スタッフがいないうえに廊下に警備員を1人つけただけ&電波の届かない隔離病棟にニッキーを移すという愚策…。どうぞ暗殺してくれと言わんばかりの老刑事のダメな計らい。ブルース刑事のマヌケさが際立つ采配であったわ。

そんなわけで、片足を負傷したニッキーが犯人2人からあの手この手で逃げまくる…というブルース不在の鬼ごっこがメインと化す『THE LAW 刑事の掟』。掟もオクラもあったものではない。

f:id:hukadume7272:20201110024858j:plain逃げるニッキー。

 

ニッキーはヤケにたくましい女だった。左足を撃たれたというのに、まあよく歩く(サツキとメイぐらいよく歩く)。

とはいえダッシュできる機動力はないので一度でも見つかれば大ピンチだが、幸いにも犯人たちの知能指数がすこぶる低かったため、土壇場で頓智を働かせてうまくやり過ごすことに連続成功する。

ちなみに、この手の鬼ごっこサスペンスではカメラが犯人側=捜す人間を映してるときは隠れてる人間を見つけることができず、逆に主人公=潜む人間を映してる間は見つかる危険性が高い…というのが映像文法の習わし。

スラッシャー映画でも何でもそうだよね。逃げ惑うヒロインが殺人鬼に捕まるのは決まってカメラがヒロイン目線に立ってる時だろ?

ところが本作では、ここ一番というサスペンスシーンで必ず犯人側=捜す人間にカメラがフォローしているので緊張感を欠くことおびただしい。犯人たちが銃を構えて「女はどこだ!?」なんつって周囲をキョロキョロとばかりしているのだ! 先の映像文法から言えばそんなことをやってるうちはニッキーは絶対捕まらないので、観る者サイドは「ああ、このシーンのニッキーは大丈夫そうね」と気楽な心持ちで彼女の安全を100パーセント確信しちゃうわけ。

だってニッキーは、映像文法…うんにゃ!カメラの法則…うんにゃ! 映画の制度によって完璧に庇護されているというのだからねええええええ! 

何なの、この映画の作り手たち。頭脳が貧しいの? 知力が乏しいの? 想像力が欠如して久しいのォ!?

つまらないB級映画を貶すとき、人はよく「バカ」という言葉で劇中キャラクターの行動を批判するけれども、実はキャラクターの行動以前にカメラの行動自体がバカであることが多いのよね。つまり劇中キャラと作り手の知能指数は比例する。バカが撮ったら、そりゃあバカしか出てこないわけだ。

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犯人A(バカ)。

 

そんなニッキーの院内逃亡シーケンスの端々でブルース刑事の捜査模様が短くカットバックされ、少しずつ事件の核心に迫っていく。

このブルースパートでは名探偵ブルースの推理力が火を噴くが、よく考えるとそれって推理じゃなくてなのよね。

「相棒が殺された。きっと複数犯の仕業だ!」

       ↓

「なんとなく情報屋が危ない気がするだ!」

       ↓

「やっぱり情報屋も殺されてた。勘当たってた!」

       ↓

「てことは犯人は警察内部にいるだ。おれの勘はよく当たるだ!」

       ↓

「てことはニッキーが危ないだ! なんとなくそんな気がするだ!」

       ↓

「急いで病院に行くだ! たぶん今頃ニッキーがピンチだ!」

 

この勘の冴え。

もはやシックスセンス。さすが名探偵ブルースと言わざるをえない。飛躍した理論がたまたまぜんぶ的中して真犯人を割り出せました。憶測フローチャートの鬼。

f:id:hukadume7272:20201110023413j:plainブルース刑事の推理力が火を噴く。

 

ブルース刑事が病院に駆けつけたころには映画はラスト5分だが、なんとニッキーは既に自力で犯人を撃退しています!!

ニッキーつよ~。

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ほいでブルースはと言うと、追い詰められてへろへろになってる犯人をしばき回して漁夫の利を得ました。そして満身創痍のニッキーに向かって優しい言葉をかけてあげるのです。

「もう安心していい」

いや、おまえ何もしてへんやんけ。

どの口が言うねん。「安心していい」というセリフは人助けした人間が口にする言葉であって、何もしてない人間が自力で困難を乗り越えた人に対して言うべき言葉じゃないんだよ。なに「自分も手柄立てた」みたいなイキった顔しとんねん。

さらにブルースは優しい言葉をかけてあげるのでした!

「生きてると信じてた」

だから「信じる」んじゃなくて「助ける」んだよ、フツーは。

さも「キミが自力でどうにかすることは最初から分かってた」みたいなしらこい顔してクライマックスに遅刻したことを正当化しようとすな。

 

そんなわけで、昔は『ノーバディーズ・フール』(94年)とかで割としっかり芝居してたブルース御大も今や手抜き芝居に味を占め、直射日光で眩しいみたいな顔だけで全てのシーンを乗りきるような省エネ俳優になってしまいました。ざんねん。

ちなみに本作の製作総指揮には20人もの能無しどもが名を連ねている。この時点で察するべきでした。

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もはや主要キャストの記念写真にすら写ってないからな、ブルース。

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