シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ソニック・ザ・ムービー

速すぎるソニックに作り手のアイデアが追いつかない…ってとこまでがワンセットの映画。

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2020年。ジェフ・ファウラー監督。ソニックさん、ジェームズ・マースデン、ジム・キャリー。

 

宇宙最速で走るパワーを持つ青いハリネズミのソニックが、故郷を離れて遠い地球へとやって来る。ひょんなことから出会った保安官トムとバディを組んだソニックは、マッドサイエンティストのドクター・ロボトニックが企てる陰謀を阻止するべく大冒険を繰り広げる。(映画.comより)

 

朝がきたぞ、泥に眠りし民たちよ。

何かと不安なコロナ禍にあって、何ヶ月も音信不通だった友人とようやく連絡が取れたので、先日その友人の生存記念パーティーを開いて参りました。なんて情に厚いボクだというのだろう。

だが、その友人は待ち合わせ時間ギリギリになって「駅で財布を落としたので遅れます」などとぬかし30分の遅刻。死んでしまえ。 まあ、久しぶりに美味しいお酒を飲めたので、ゆるす。

そんな大らかな気持ちでお送りする本日は『ソニック・ザ・ムービー』です。いってこましたろ。

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◆99分を駆け抜けた音速戦士◆

セガが誇るソニックシリーズが音速で映画化。

いかんせん私はゲームシリーズに触れたことがないので全くわからんのだが、どうやら任天堂が誇るマリオシリーズへの対抗馬としてセガが開発したマリオ殺しコンテンツらしい。

音速ハリネズミのソニックがマリオへの憎しみをばら撒きながらフィールド上をぎゅんぎゅんに爆走しては敵各種を破壊するというクレイジーなゲーム性がめっぽう爽快らしく、日本よりもアメリカ市場で爆発的な人気を誇っているというのだ。あっ、へぇー。

そんなソニックがスクリーンに登場(音速で)。製作途中にYouTubeでティーザートレーラーを公開したところ1日の再生回数が1200万回、2日目には2000万回突破と音速でバズる。ところがソニックのデザインをめぐり「きしょい」、「ヒューマノイド」、「不気味の谷」など批判殺到。低評価が26万を超えるなど音速で炎上したが、その後ソニックのCGデザインを音速で修正した。

で、いざ蓋を開けてみれば世界興収3億ドルの音速スマッシュヒット!

ちなみに宿敵・任天堂の『名探偵ピカチュウ』(19年)は4億ドルを突破しているが、製作費は『ピカチュウ』の約半分なので実質的に純利益ではソニックが上。はい、ピカチュウ破壊~。

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それに全米興収だけ見るとフツーに『ピカチュウ』より上回っているというのだ。
はいピカチュウ完全破壊~。

 

さらには、この世界興収は『メン・イン・ブラック:インターナショナル』(19年)『ターミネーター:ニュー・フェイト』(19年)『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19年)を大きく上回ってもいる。

MIBとターミネーターとX-MEN、もろとも破壊!

ソニックすごいなぁ。破壊しまくりじゃん。

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製作段階のソニック(上)と修正後のソニック(下)。

 

そんなソニックを主役に爆走する音速の99分があなたの瞳を駆け抜けるというのだっ。

まずはこの上映時間に感動する。当然「音速ハリネズミの爆走活劇」が描かれるわけだから100分以内におさめることは半ば義務と見据えていただろうが、現在のハリウッドメジャーは90分台の壁にぶち当たっていて、90分で済む話を90分で語りきれる人間がロブ・ライナーぐらいしか残ってないという深刻な肥満症を抱えている。

私としては、仮に本作が108分や115分だったら完全にアウト・オブ・眼中だったが(只でさえソニックに興味ないし)、99分ということを知って俄然興味が沸いた。これは見届けねばならんな、と思ったのだ。

なんとなれば、99分という数字の意味は100分を超さないよう配慮したということに他ならないからです。たまたま99分になったのではなく、そこには作り手の“90分台の壁”との格闘の痕跡が認められるわけだ(こうした格闘は洋邦問わずアニメ映画に多いんだけど)

おそらくポスプロの最終段階では105~110分ぐらいあったのだろうが、そこから幾つかのシーンをカットしたり、エンドロールの長さを調整するなどして意図的に99分59秒以内におさめたのだろう。つまり「何が何でも100分は超さない」という製作側の意図が読み取れるわけで、そうまでして切り詰めた99分のフィルムにはさぞかし興奮に満ちた時間が疾駆しているのだろう…と考えたからこそ私はこの99分を祝福するのです!

そんな“99分の意図”は見事に本作を成功に導き、この得体の知れないハリネズミのハードアクションとメロドラマに満ちた冒険譚を音速で走破した。これと同質の感動を味わったのはスピルバーグの『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(11年)以来かもしれない。

f:id:hukadume7272:20201110041159j:plain音速ランナー、ソニック。

 

◆韋駄天エイリアンの孤独と躁鬱コメディアンの狂気◆

映画は、故郷の惑星で敵に襲撃されたソニックがワープリングで単身地球に逃れてきたところから始まる。

…いや違うな。いま言ったことは嘘だ。忘れてくれ。

本当のファーストシーンはジム・キャリー演じる悪の博士がサンフランシスコ市街をボコボコ爆破しながらソニックを追いまくるシーンに始まる。時系列としては物語のクライマックスだ。そのあとソニックがこんなザマになるに至った経緯を観客に説明することで一から順を追って物語が紡がれていく…といった回想形式なのである。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(20年)でもやってたが、最近流行りのよくあるやつだな。

「ノロマな君たちにもわかるように話してやるぜ!」

そしてソニックが地球に逃れてきたところまで話が遡るというわけだ。

地球へ逃れて幾日なりや。モンタナ州グリーンヒルズの洞穴に生息するソニックは天涯孤独の身だったが「ぜんぜん寂しくないし!」と観客に息巻き、自慢の高速移動を使ってひとりで卓球やベースボールを楽しんでいた。

残像が見えるぐらい動きが速すぎて“相手ありきの遊び”を一人でこなせるのだ!

f:id:hukadume7272:20201110041418j:plain1人9役の音速野球。

 

とは言え、やっぱり孤独だったんですぅぅぅぅ。

近所に住む地元警察官のことをいたく気に入ったソニックは、速度違反を取り締まる警官の前を目にも止まらぬ韋駄天走りで駆け抜け、スピードメーターが叩き出した数値を確認して新記録の樹立をからからと喜ぶ。ありえない速度に目をぱちくりさせる警官のリアクションすら楽しんでゆく!

その警官が恋人と肩を抱き合って金曜ロードショーを見ていると、ソニックも家の窓からひょっこりと顔を覗かせ、二人の肩越しに映画を鑑賞。そうすることで家庭の輪に加われたような心持ちがしたのだ!

ソニっきゅううううん!

なんてオマエはいじらしい奴だと俺にいうんだ!

本当はその二人と友達になりたい…否! むしろワンチャン家族になりたいと願いながらも、自身が韋駄天エイリアンゆえに素性を隠さねばならず、ようよう編み出した立ち回りが決して気づかれないように二人の生活に勝手に参加するという身寄りのない背後霊のごときロンリネス・ライフ! それでもオマエは「一人でもヘッチャラさ。オレは観客の同情を買うような悩めるヒーローじゃないからな!」などと嘯いては、懸命に虚勢を張るというのか!

この時点で私はソニックの孤高精神…及びそれゆえの可愛らしさにメロメロ。水に濡れて毛をぷるぷるしたあとに爆発モヘアになるところも含めてメロメロ!

なんだ、このセガが生み出したエイリアンは? 可愛いじゃねえかチクショー。

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水に濡れたのでちょっぴり不服そう。

 

その後、警官に素性がバレた拍子にワープリングを紛失したソニックは、なんだかんだでその警官と仲よくなりリングの回収を急ぐ。そこにジム・キャリー演じる悪の博士が襲い掛かってくる…というのが大まかな筋。

警官役には代役起用の多いお鉢回り俳優ジェームズ・マースデン。誰かが蹴った役はだいたいこの男のもとに辿り着きがち。代表作は『X-メン』(00年)におけるサイクロップス、『きみに読む物語』(04年)における恋の噛ませ犬、『魔法にかけられて』(07年)におけるアホの王子など、二枚目~三枚目から破壊光線を出す目まで多種多様な目を持つ役者である。

そんなわけで男二人旅が始まるのだが、道中ソニックはマースデンに無理ばかり言ってバケットリストを埋めようとする。“死ぬまでにしたいことリスト”だな。「バーで喧嘩する」とか「ロデオに乗る」とか、まぁそんなもんだよ。そして最後の項目が「友達を作る」

ソニっきゅうううううううううううう

なんてオマエはいじらしい奴だと俺だけにこう何度も何度も言うのか!!

f:id:hukadume7272:20201110043144j:plain音速でヌンチャクを振り回す子。

 

それにしても、まさか敵役がジム・キャリーだったとはな。登場シーンではジム・キャリーのそっくりさんだとばかり思っていたわ。まあ、さすがに歳を取ったけれども、エッグマンという敵役をクレイジーに演じていたで。

ジム・キャリーといえば、2008年に躁鬱病をカミングアウトしてからはメディアでの奇行が目立ち、Twitterで「ぼいーん、ぼいーん」と意味深な文章を連投。エマ・ストーンとキャンプして焚火の前でセックスしたいというプランを本人に提案したことで批判殺到など、自傷的な言動の数々で世間を騒がせた。

出演作でも終始ロウなテンションでかなり異様な佇まいだったが、久々のコメディ回帰となる本作では喜劇と狂気の結節点の上でうまくバランスの取れた芝居をしていたと思う。全盛期の『マスク』(94年)『ライアー ライアー』(97年)のような痛々しいまでにペルソナ全開のショーマンシップと、それゆえに躁鬱病と戦っている自制の現在との陰陽を上手くひとつのキャラクターに落とし込んでるっつーか。

それにしても、ピーター・セラーズ然りロビン・ウィリアムズ然り、コメディアンほど鬱病になってしまうのよなあ。道化の仮面を被る代償は自らのキャリアをも蝕んでゆくというのかぁー。

f:id:hukadume7272:20201110043327j:plainジム・キャリー。苦手な俳優だけどこの映画はよかったです。

 

◆ソニック…あなたはあまりに速すぎた◆

映画後半の目玉は何といっても音速活劇。

装甲車とのチェイスが横の構図を彩ったかと思えば、エッグマン(ジム・キャリー)が飛行艇に乗り換えたことで今度は縦の構図が豊かになる。

そして奥行きを司るのはソニック自身だっ!

「追手がしつこいからちょっと行ってくる」とかいって逃走中の車から飛び降りたソニックが敵の追尾ロボを迎撃し、その足でフツーに走って車中に復帰する場面はとても気に入っている。「そういえばあなた、車に乗る意味ないぐらい足速いんだよね…」って。ソニックはマースデンがいるから車に乗ってる=人間世界の走行速度に合わせてるだけであって、別に自分一人だけならピュッと走って一瞬で逃げきれちゃうわけよ。

まさにここが活劇としての『ソニック・ザ・ムービー』のおもしろポインツである。

たとえば、エッグマンが対ソニック用ミサイルを発射しようとしてもソニックは彼の親指が発射ボタンに触れる前に全米一周できるぐらい速いので、本来ならエッグマンなど取るに足らない相手なのだが、いかんせんマースデンというド凡人と行動を共にしているがゆえに人間の速度感覚に合わせ、かつマースデンを事故に巻き込まないように配慮せねばならないわけぇぇぇぇぇぇ。

したがってソニックは、いわば常にブレーブをかけながらの逃走劇に甘んじざるを得ないのだ。これは、換言すれば主人公が本気を出せない活劇とも言える(ソニックが本気を出すと一瞬で敵シバいて話終わっちゃうからな)。

だからこそ速すぎて困るみたいな遊び心満載の演出が火を噴いてるんだよね。

この映画は、単にスピード感が楽しい爽快アクションではなく、むしろスピードありすぎて逆にアクションとして成立しないという機能不全すらきたしたキャラクター設定を自嘲気味に笑うメタアクションなのである。ソニックは「速すぎて困ったちゃん」なのである!

f:id:hukadume7272:20201110045335j:plainエッグマンの必殺技「ミサイル乱れ撃ち」すらもトロ過ぎて退屈しちゃうソニック。

 

もっとも、肝心の高速演出はいささか気になったがね。

ソニックが速すぎて周囲の動きが止まって見える…みたいなハイスピードカメラを使った演出は『X-MEN: フューチャー&パスト』(14年)『ジャスティス・リーグ』(17年)で既にやり尽くされていて鮮味を欠く。後塵拝しまくり。

あと映画冒頭。ソニックが森の中を疾走するシーンで流れるクイーンの「Don't Stop Me Now」とかね。100人中100人が思いつくやつじゃん…っていう(歌詞の中に「スーパーソニックマン」とあるから意地でも使いたかったのかな)。

ことによると鮮味を出すにはソニックはあまりに速すぎたのかもしれない。

実際、速すぎるソニックに作り手のアイデアが追いつかない…ってとこまでがワンセットの映画だったりもするので、「現在の映像技術では速さを表現できないぐらいの音速キャラなんです」って帰結には妙に納得させられたんだけど。

むしろ、そうよねって。“計り知れないほどのスゴさ”を表現するための最善の方法ってスゴさの表現を放棄することですから。作り手が「これだけスゴいんです!」と言ってスゴさの上限を見せちゃうことは、裏を返せば「それだけしかスゴくない」ということにもなる。だから、計り知れない力というのは、決して観客に見せないからこそ計り知れない…否!計り知られないんだよねぇ。

そういう意味では、ソニックの高速演出の失敗はそれゆえに成功である、ということが言えていくのかもな。

 

そんなわけで『ソニック・ザ・ムービー』は、今や絶滅寸前の“90分台の活劇”を楽しめる大変貴重な作品となっているんだ。

ソニックの愛らしさもさることながら、ポストクレジットシーンでは尻尾をプロペラみたいに回して飛行する可愛らしいキャラクターの姿が! この子、テイルスって言うんだって(男の子なんだって!)。すでに続編製作が決定してるので、次作でお目にかかれることでしょう。いやぁ、楽しみだわ~。

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尻尾ぷるぷる狐のテイルス。こりゃ波乱の予感やで!

 

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