シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ブロードウェイ・メロディー

姉の婚約者奪っておいて「しくしく。悲しい」って、いやいや。ホッタン、イズ、ユー!

f:id:hukadume7272:20201021043523j:plain

1929年。ハリー・ボーモント監督。ベッシー・ラヴ、アニタ・ペイジ、チャールズ・キング。

 

歌手のエディはザンフィールド一座の新しいレビュー「ブロードウェイ・メロディー」で新作の歌を唄うことになった。彼を頼ってやってきた恋人のハンクとその妹のクィニーも、エディの計らいでザンフィールド一座の舞台に出演することになるが、エディは美しい女性に成長していたクィニーに心を奪われ、またクィニーもエディに惹かれていく…。(Amazonより)

 

皆おはよう。仏壇に毒消しをお供えしてる?

今日は特に話すことがないな。「仏壇に毒消し」という不埒なワードを思いついた時点で今日の私の想像力は底をつきました。

そういえば私は、昔から生きてく為の活力を1日ずつ支給されてる感じがしている。1日の終わりに眠りに就くとその日の活力が一旦リセットされて、翌日になると「はい、今日の分の活力です。これでうまくやり繰りしてね」とまた支給されるようなイメージなので、なるべく日々、むだな活力を使わないようにというか、だからお小遣いみたいに、活力のペース配分をしながら細々と生活をしています。RPGゲームでいうMP(マジックポイント)みたいなモノだろうか。強力な魔法ばかり連発すると立ちどころにMPが底をついてしまうので、特にダンジョンなんか入ると回復もそうそう出来ないし、後先を考えながらMPを使っていかないといけないわけですよね。まあ、そんな感じのイメージが俺の人生なので、毎日ダンジョンっていうか、だからまあ、毒消しは必要ですよね。

いや、取り留めのない話をして申し訳ない。だけどこのブログに「取り留め」なんか求める方がバカだと思うし…。人生は取り留めたり、取り留められたりさ。

そんなわけで本日は『ブロードウェイ・メロディー』だけど、悪いな、ぶち切れております。

f:id:hukadume7272:20201021044614j:plain

 

◆世界初だか第1号だか知らんけど◆

第2回アカデミー賞で作品賞に輝いた世界初の全編トーキーによるミュージカル映画である。

また記念すべきMGMミュージカル第1号でもあり、ここから『オズの魔法使』(39年)『雨に唄えば』52年)が作られ、ミュージカル映画の歴史が胎動したわけちゅん。

しかしミュージカル映画の始祖だからといって必要以上に有難がるほど素直な人間では僕はありませんからこの際はっきり言わせてもらうけど『ブロードウェイ・メロディー』は正確にしっちゃかめっちゃかミュージカルという語によって速やかに忘却さるべき愚作の骨頂ザッツオールだといえます。

まあ、なんとも酷いドサンピンミュージカルなのである。

首を絞められた九官鳥のごとき耳障りな歌声と、カニみたいにカチャカチャと横歩きするだけの人をなめたダンス。タップや群舞などは小学生の避難訓練さながらであるし、バークレー・ショットが発明される4年前の作品なので見せ方にも工夫がない。作られたのが1929年なので、当然こまかいカット割ができる技術もなければカメラの機動力も無に等しく、終始しょうもない歌と踊り、それに人を苛つかせてやまない物語がスイスイと進行していくんである。

なんたる悲劇だ! これなら自治会主催の演芸大会でババアの日本舞踊でも見ていた方がマシかもしれない。

…と、私がこんなことを言うと「怒ったってしょうがないでしょ、ふかづめさん。そりゃあトーキーが発明されて間もない頃の映画なんだから、現代人たる我々の目に多少なりとショボく映るのも止む無しじゃん」と言う人があるかもしらんが、きっさま~、よくもぬけぬけと!

そも「昔の映画だから多少の拙さはご愛嬌」みたいな発言は昔の映画をナメてる奴ほど口にするっていうか、同時代の作品に対する無知を披歴するがごとき愚論であり、ひいては昔の映画をロクに観たことがない奴らのファッキン寝言に過ぎず、たとえば『散り行く花』(1919年)『サンライズ』(1927年)なんかを観ていれば罷り間違ってもそんな発言はできないにも関わらずその発言をしたということはやっぱりおめぇロクに昔の映画観てねぇんじゃねーかバカクリームコロッケが! という一方的な決めつけが華麗に成立するわけだな。

しかしまあ「怒ったってしょうがないでしょ」というフレーズに関しては首肯するにやぶさかではないので、いちど冷静さを回復しようと思ほゆ。

f:id:hukadume7272:20201021050821g:plainカチャカチャ歩きすな。

 

まずは筋をザッと紹介する。

作曲家の青年が自作曲「ブロードウェイ・メロディー」を引っ提げてニューヨーク・ブロードウェイの一座に加わった。青年のフィアンセはブロードウェイ進出を夢見るダンサー姉妹の姉。青年は二人のために曲を提供したが、一座の長は男ウケ抜群の容姿を誇る妹だけを雇用した。すっかり天狗になった妹はNYきってのプレイボーイにコマされ、姉妹仲は険悪化。あまつさえ姉と婚約した青年までもが妹に恋をしてしまう…というロクでもない中身だ。

姉妹を演じたのは、サイレント期~トーキー初期にかけて活躍したベッシー・ラヴアニタ・ペイジ

ベッシー・ラヴという女優は、モンタージュを確立した「映画の父」ことD・W・グリフィスの最古典『國民の創生』(1915年)『イントレランス』(1916年)の端役からキャリアをスタートさせ、グリフィスから現在の芸名をもらった。健康な歯茎を露出させてにっこり笑うことを得意としており、1986年まで頑張って生きた(享年87歳)。

アニタ・ペイジは『踊る娘達』(1928年)でジョーン・クロフォードと共演し、そのコケティッシュな美貌で世界中を魅了した。今でいうロリ系の女優である。ファンレターは週に1万通。儚げな表情を得意としており、2008年まで頑張って生きた(享年98歳)。

姉と婚約していたのに妹に鞍替えするクソッタレの青年役にはチャールズ・キング。詳しいことは知らんが11人兄妹なんだと(何番目かは不明)。

f:id:hukadume7272:20201021043443j:plainグリフィスに見出されたベッシー・ラヴ(左)、男性人気最強のアニタ・ペイジ(右)。

 

◆ホッタン、イズ、ユー!◆

なんといってもこの映画はメインキャラが全員忌々しい、ということが言えていくと思う。

物語序盤ではベッシー・ラヴ演じる姉者が非常に鬱陶しく、一座への対抗心からプロ劇団員に突っかかったり団長に激しく抗議したりと一人騒々しい。ブロードウェイへの憧れと田舎出の劣等感から「是が非でもNYで成功してやる!」と過度の興奮状態に陥っているのだ。

もっとも、実力さえ伴っていれば彼女の抗議・闘争も応援できるというものだが、先述のとおり歌は九官鳥の窒息ボイス、踊りはカチャカチャのカニ歩きなので威勢のよさが却ってイタい。自惚れにも程があるのだ。

f:id:hukadume7272:20201021053843j:plain
短気なラヴ姉。

 

物語中盤ではアニタ・ペイジ演じる妹者が猛烈に鬱陶しい。

たまたま一座の代役に選ばれたことでチヤホヤされ、スケコマシ男爵からも金品を貢がれ有頂天になり、「私は可愛いからソロになれば絶対売れる」といって長年組んできたラヴ姉とのバディを一方的に解消してしまう。だが姉同様に実力はない。

本作のようなサクセスストーリーに天狗展開は付き物だが、それにしてもアニタの天狗ぶりはいささか度し難い。なまじアニタ・ペイジの小悪魔ルックは現代の美的感覚にも十分耐えうるもので、まるで90年もの時を超えて銀幕越しに田中みな実を幻視してるようで非常に不愉快です。

f:id:hukadume7272:20201021053919j:plain
田中みな実気質のアニタ。

 

物語終盤ではチャールズ・キング演じる作曲家が爆烈に鬱陶しい。

ラヴ姉と結婚を誓っておきながら、その妹であるアニタの尻を追いかけるのだ。恋をすること自体は不可抗力なので別にかまわんが、その理由が「久しぶりに会ったらすごい可愛くなってたから」って…ド軽薄の食品サンプルかおまえは。

しかもこのキング坊。アニタに心変わりしたことをラヴ姉に隠しており、あわよくば三人で上手いことやろう…なんて助兵衛なことを考えているンである。姉妹に二股かけるとは。まったく作曲家の風上にも置けない男である。欲望交響曲を奏でやがって。

f:id:hukadume7272:20201021053952j:plain
食品サンプルとしてのキング坊。

 

そして恋の顛末はこうだ!

なんとアニタもキング坊のことを愛していたが、姉の婚約者ゆえに寝取るわけにはいかず、その捌け口としてスケコマシ男爵とやけくその恋を演じていたのである。

故にここには恋の噛ませ犬が二匹発生しております。

婚約者を妹に盗られたラヴ姉と、ストレス発散に利用されたスケコマシ男爵です。

まあスケコマシ男爵はスケコマシだから特に同情する必要もないが、ここへきてラヴ姉が急に不憫に思えてくるんだよね。妹にバディは解散されるわ、ブロードウェイには出られへんわ、婚約者は奪われるわ…と、踏ンダリング蹴ッタリングなんだよ。

しかし二人の只ならぬ関係を察したラヴ姉は、アパートを飛び出したアニタを追えずにいるキング坊に向かって「追いなさいよ、意気地なし! あんたみたいな意気地なしとは婚約解消よ! それにあちきは最初からお遊びだったのよ、チキショー!」と叫ぶ。自らヒールを演じることでキング坊に二股の後ろめたさを感じさせることなくアニタとの仲を取り持ったのである。

だが、ここまでされてなお鈍感なキング坊。ラヴ姉の心遣いに全く気づかない。

キング坊「えっ、婚約解消? お遊びやったん!? チッキショ~。キミって女はひどい女だよ! 最低な気分だ!」

いやいやいやいや引く引く引く引く。

真に受けてるやん。普通わかるやん。普通わかるやーん!(Yan!)

f:id:hukadume7272:20201021052223j:plain

 

しかもキング坊! ここからの大荒れがすごい。

キング坊「ッキショ~。じゃあ今こそ発表するけど、じつは僕、アニタを愛しているんだ! ちょっと追ってくる!」

ドア、バーン!!!

廊下…シューッ!!

キング坊「アニタァァアア!!」

 ラヴ姉   「えー」

ふかづめ「えー」

f:id:hukadume7272:20201208035250j:plain

 

愚鈍の食品サンプルかおまえは?

おまえがアニタに惚れてることなんてラヴ姉はとうに見抜いてる。だからこそ自分から婚約解消を申し出てくれたんじゃねえか、このバカ豚ポップコーンが。もしかしてキャラメル味か…? バカ豚ポップコーンキャラメル味の食品サンプルなのかおまえは?

そして独り部屋に残されたラブ姉。あんなキング坊でもやはり愛していたのか、膝から崩れ落ちて慟哭します。ラヴ姉ぇ――――ッ!

 

そんなわけで、晴れてアニタとキング坊が結ばれて映画は終わります。クソが。本年度最高の「クソが」が部屋にこだましたよ。2020年度クソがモンドセレクションに出品できるクオリティの「クソが」が刺激的な香りを燻らせながら部屋にリフレインしているよ。

しかもラヴ姉の婚約者を奪ったアニタ、悪びれもせずキング坊と腕を組んで帰ってきて「姉さ~ん!」なんてとびっきりの笑顔でラヴ姉に抱きつきます。…正気を疑うわ。

姉の結婚をぶち壊したことに対してごめんなさい的な思いを吐露するターン…ないの?

普通は「姉さんごめんなさい。私…私…」→「いいのよ。あんたが幸せならそれでいいの」→「姉さーんっ」→「妹者っ」→姉妹仲直り!…のパターン、パティーン、パトゥーンじゃないの? 何をあたかも略奪愛なんてなかったみたいな顔して「姉さーんっ」なのか。しらこいわー。

しかも再結成しないからね、この姉妹。

ラヴ姉は別のダンサーと新バディを組んでブロードウェイを目指すのだ。アニタの身の振り方はよくわからんが、どうせキング坊との結婚を機にダンサー引退して人生あがりなんだろう。女子アナみたいに。

しかも映画のラストでは、ラヴ姉の出発を見送ったアニタが「離れ離れになって悲しい」とか言ってめそめそ泣いてやんの!

発端おまえだよ。

ハナレバナレ、ホッタン、ユー。

わかる? ねえアニタ、わかる?

ホッタン、イズ、ユー!

f:id:hukadume7272:20201021052707j:plainアニタことミス・ホッタン。泣く道理がわからねえわ。戻せ、その涙。逆流させて目の中に戻せ。

 

◆『戦艦ポチョムキン』と『黄金狂時代』が如何にすぐれた映画かってこと◆

そんなわけで途中何度もエレキギレしながらの大変健康に悪い鑑賞となりました。

エレキギレ…頭から稲妻を放つぐらい激怒すること。

「世界初の全編トーキー・ミュージカル」だとか「アカデミー作品賞受賞」といった威光がいかに映画本編の質とは無関係であるかを図らずも傍証した考古学的失敗作。ムシケラトプスだ。

結局姉妹がブロードウェイに立つことはないので、表題曲である「ブロードウェイ・メロディー」のレビューも披露されず。前章で紹介した通りバックステージもののプロットになっているが、話が小さくまとまってる上に仲違いした姉妹のダイアローグは水掛け論に等しい。それをことごとく死に時間へと変えるのはワンシーン・ワンショット主体の重苦しいカメラである。ルビッチやホークスのスクリューボール・コメディであれば台詞の応酬に合わせてカットを変えていく…というふうに物語と映像を同じ筋肉で動かせるわけだが、カットはできないわ、接写もできないわ…では、ねえ。

技術的にできないことに関しては仕様がないが、技術の限界を訴える前に知恵と工夫でカバーしようという志があったのかと言えば、それも、ねえ…?

f:id:hukadume7272:20201021054408j:plainねえ?

 

カメラ、セット、ダンス、カット! 総てにおいて平面的な画作りの退屈さからは『戦艦ポチョムキン』(25年)がいかに先鋭的な構図によって映画表現の豊穣に辿り着いていたか、また同じ平面でも『黄金狂時代』(25年)で勾配/傾斜を活劇化したチャップリンの空間術ってやっぱすごいよね、ってことを改めて実感するわなぁ。

まあ、本作を皮切りにMGMミュージカルは栄華を極め、以降ジーン・ケリー、フレッド・アステア、ジュディ・ガーランド、レスリー・キャロンといった歌劇スターをぽこぽこ輩出することになるので、その蛇口をひねっただけでも十分な功績なのだろう。

ま、俺は認めないけどね!!!

ちなみにアニタ・ペイジ、確かにかわいいけどスンゲェ猫背でした。

f:id:hukadume7272:20201021050252j:plain
ヘイズコード制定前夜の作品なので入浴シーンも何のその。