つべこべ言ってもええねん。

2023年。ウルフルズの面々。
ウルフルズの面々が野外コンサートをする。
少し前に似たような話の映画があったろ
まわりの男がどんどん出世していくアレだよ
立場は逆だがまさに僕がそうみたいなんだ
信じるも信じないも君次第 本当の事なんだ
不思議な~ 力さ~
あうあうふ、あうふ! まだや思てユニコーンの「与える男」歌とてたっ。
余談だけど「少し前に似たような話の映画があったろ」ちゅうのは伊丹十三の『あげまん』(90年) のことやね。宮本信子演じる芸者あがりの女が、関係を持った男たちの運気をことごとく上げていく不思議なコメディで、「あげまん」は当時の流行語にもなった。
まあ、宮本信子と公私に渡るパートナーだった伊丹十三は97年に不審な死を遂げているわけですけども。
そんな話はどうでもいいのだよ。
最近の若い子たちは…、なんて雑な枕詞で十把一絡げにするのはよくないと知りつつも、雑な枕詞で十把一絡げにした方がわかりよいからそうするのだけど、最近の若い子たちは考察サイトをよく閲するらしい。
映画やアニメの話をしていても、「考察サイトを見たんですけど~」とか「考察サイトによれば~」なんつって、事あるごとに考察サイトを援用することでしか映画の話もできないらしく、その都度、おれなんかは「や、考察サイトとかいいから。おまえ自身は何を感じて、どう考えたんだよ? おまえの言葉を聴かせろよ」と思って候。
STEP1. 映画を見る
STEP2. 疑問を抱く
STEP3. 考察サイトで得心する
ここまでがセットらしいのよね、最近の子たちの映画の見方って。
非常にクソだなと思います。極めてクソだし、甚だしきクソにして、由々しきクソでもあると思います。
ふかづめ説教タイムの始まりです。
あのね、まずね、あーたは、考察サイトが考察サイトがと言うけどね、考察サイトに書かれていることが、なぜトゥルーであるという前提の上に立つことが、そんなにもできるの?
考察サイトなんてもんは、こじつけ、深読み、妄想、誤読、当てずっぽうが9割方。そらPVを稼がにゃならんから、書き手は必死こいて己が論を補強しうる説得材料を都合のいいよう、レトリックを駆使して牽強付会、我田引水しますわな。拡大解釈しますわな。よくよく考えたらおかしな点も、流し読みしていると流れでなんとなく納得してしまう、パワー詐欺。これがレトリックの秘術です。その秘術で勝つのが考察サイト。負けたのがオマエ。
そも、どこの馬の骨とも知れないその書き手を、どうして“絶対に正しい見解を示してくれるスーパー賢者”とみなすことができるんですかオマエは。顔も名前も実績も知らない、たまたまテキトーにクリックしたリンクの先に居ただけの考察サイトの運営者の文章を、どうしてそうも、まんまと、うかうか信じてしまえるんですか、オマエという矮小な知的生命体は。アホなんですか? 破茶滅茶にアホなんですか? 騙されても、殴られても、それにさえ気づかずパラパラを踊り続ける2001年の渋谷のギャルですか? だとしたら逆にカッコいいです。パラパラ教えてください。
映画を見ていて、分からない点があれば、まず分かろうとしろ。
言ってる意味わかるか?
わからなきゃ、これもスマホで調べるか?
姿勢の問題だ。精神の問題だ。
「いまのシーン、ちょっと分からないなー。あとで考察サイトで調べよ♪」
こんな奴はもう映画を見る必要がないっていうか、いちいち分からないことにぶち当たってはその都度考察サイトを閲する必要に迫られる営為、すなわち映画鑑賞なんてしない方がよほど幸せな人生を送れると思うから、いっそ映画など見なくてよろしい。
あのな、考察サイトを見ること自体が100パーセント悪いと言っているんじゃない。「分からない点があれば、まず分かろうとしろ」と、わたくしは、ああ、訛った方が親近感が湧くなら訛らせますよ、あたくすは言っているの。
考察サイトを見る前に、まず分かろうとしろ。
考えろ、っつってんの~。
自分の頭で考えろ。何のために詰まっとんねん、脳みそ。悪魔に吸われるためか? マジかよ。オマエの脳みそって悪魔に吸われるために詰まってんの! 蟹なん? そんなの悲しすぎるだろ。違うだろ? オマエは蟹じゃないだろ。考えるために詰まってんだろうがよ。じゃあ使えよ頭。必死で考えてくたびれろ。考えすぎて眠くなれ。正面から考えても分からなきゃ裏から考えろ。コペルニクス的回転とかしろ。ニュートン超えろよ。
それでも分からないときのインターネットだろおおおおおおおお。
どうしても分かんねーときのインターネットだよ、アホンダラ。
そう。考察サイトとは、考えても分からないアホが最終的に寄る辺を求めては仮初の“なんちゃってトゥルー”に自らを慰める思考的敗残空間。わかりやすく言えば、負けを認めたザコ現代人の脳の焼却炉。
“誰かの見解”ごとき些末な一角を、さも“この世の真理”と受けとる阿呆の狭隘よ。
これだけ言うとくぞ。
考察サイトを見れば見るほど、読めば読むほど、主体的思考を奪われ、痴呆化し、他者の言葉に毒される軟弱体質に堕した挙句、必ず路傍で死にます。
まあ、映画批評サイトも同じだけどね。
たとえば『シネマ一刀両断』を読んで「ほっほーん」と何かを得た気になっているオマエは、確実に何かを失っている。
他はどうでもいい。オマエにとってのオレもどうでもいい。
オマエが、考えろ。
閑話休題。
2000年から毎年のように開催しているウルフルズの野外ワンマンライブ「ヤッサ!」をU-NEXTでタダで見たよ。そんなわけで本日は『ウルフルズがやって来る! ヤッサ!2023 ええねん ええねん 笑えれば!』です。
ウルフルズの4名。
◆ロックバンドはつべこべ言わないの◆
2023年5月20日。大阪・万博記念公園もみじ川芝生広場。
「世界の国からこんにちは」のSEとともにトータス松本、ジョン・B・チョッパー、サンコンJr.が旅芸人のようなふざけた羽織をまとって特設ステージに現れ、手を振りながら「ありがとー」などと言ったのち、急に「バンザイ~好きでよかった~」を始める。
急に始めるなよ。
客席のフアンらはトランス状態に陥り、天に手を伸ばしたまま、くねくねと左右に揺曳し「イェーイ」や「バンザーイ」と言うなどした。知覚が拡張してしまったのだろう。かわいそうに。
ちゅか、まだ1曲目なのにもう大団円みたいな様相、呈してるやん。
続けざまに「大阪ストラット」。ほとんど歌メロがなく関西弁を捲し立ててる曲なのでハチャメチャの様相を、これは呈す。なにわファンク。ビバ大滝詠一。
それが終わるや否や「明日があるさ」が始まった。
なんて懐かしいんだ。2001年にジョージアのCMソングに起用されて、流行語大賞を獲って、そのあと吉本興業のお笑いさん達とコラボして紅白歌合戦でまた歌とて。社会現象だったな。今にして思えば何やったんやろ。広告戦略の勝利か!
「明日があるさ」が始まると、ボン、ボン、ボン、ボンボボン…という印象的なリフを奏でるサックスに合わせて舞台袖からヤッサダンサーズが出現する。コソ泥のような姿勢で。この子らの踊りはヤッサ名物らしい。
会場のフアンらは「明日がある、明日がある、明日があーるーさー」などとニヤニヤしながら歌うトータス松本に呼応するかのごとく、まるで横書きの「勝訴」みたいにグッズのタオルを横に広げて揺曳してみたり、意味もなく両手をパンパン叩くなどして「最高ー」と言った。
まだ3曲目やのにもう大団円みたいな様相、また呈して。

やおら「トゥルルルルル、トゥッ、トゥッ、トゥッ」という世にも奇妙なスキャットが響き渡ると、気でも違ったのか、ヤッサダンサーズたちが服を脱ぎ始め、あらかじめその下に着ていたビキニが露わに。
「SUN SUN SUN'95」である!
バカまる出しの曲だから思春期のころは嫌いだったが、今は大好きだ。
「さんさんさん おてんとさまさま サマー」というサビの途方もないダサさと無味乾燥ぶりに辟易していた思春期のおれは、しかし「SUN」と「燦々」と「お天道さま(太陽)」が掛かっていて、なおかつ「おてんと様様」と太陽に感謝しつつ「様」と「サマー」をも掛けるという“大人の言葉遊び”を楽しむ感性が足らなかった。なんてザマーだろう。
あと「扇風機も 空を飛ぶよな猛暑」
「手あたり次第 愛嬌振りまくモーション」
「焼けた体に 塗っておくれよローション」
「連れて歩きたいよぅ 目も醒めるプロポーション」
も、ええねん。
「連れて歩きたいよぅ」も「太陽」と掛けてるしね。
かと思えば「ビッグビキニキニキニ~」なんてチッチキチー活用形みたいなわけのわからんコーラスが耳から離れず、普段よく痰が絡むおれは、いつも「ビッグビキニキニキニ~」で咳払いをしているんですョ。「ん゛っんんんんん~」みたいな。文で説明してもわからんか。意味あれへんわ。
あとウルフルズはロック/ファンク/R&B/ブルース/ゴスペルなどを多分に摂取し、古典のパロディ、翻案、布教、ちゅか日本語ロックに落とし込む巧者なので、ほとんどの曲に原型、わかりよくいえば元ネタがあり、たとえば「SUN SUN SUN'95」なんかは60's風サーフ・ロックのご陽気で古臭いサウンドをあえてやるっていうか、まあ、たぶんビーチボーイズの「Fun Fun Fun」なのである。

さて。曲が終わるとトータスのMC。「あらためまして、ウルフルズです」と丁寧に挨拶したあと、さっそく気温の高さに不平を垂れる。
「いやー、すごい天気やなぁ」だの「去年のヤッサは曇りで『これぐらいがええわ』って痩せ我慢で言ったんですけどね。けど曇りぐらいが丁度ええかもしれん」だの「ちょうどあそこに太陽があって、直撃喰らってる感じやわ」だの。
むちゃくちゃ文句言うやん。
暑すぎてちょっと不愉快なってるやん。
そない、つべこべ言うなら日照角度を計算したうえで特設ステージ組みなはれや。我がで太陽直撃角度のステージ作って「暑っつー。太陽直撃やん」やあれへんがな。
メンバーのジョン・Bとサンコンは容疑者のように押し黙ったまま太陽光線に苦しんでいた。かわいそうに。
トータス「暑っついな~、しかし!」
むちゃくちゃ文句言うやん。
※2025年の「ヤッサ!」はあいにくの雨で、そのときは「雨のアホー!」と不平を垂れていた。
散々つべこべ言ったあとは「ツーベーコーベー」。
これは最近の曲だから知らなんだが、最近聴いて大好きになった。こってこてのオールド・アメリカンロック。これはチャック・ベリーの「Run Rudolph Run」やろか。
「なんとかなるさ」は魔法の言葉
「どうにもならん」は阿呆の言い草
ロックバンドはつべこべ言わないの!
つべこべ言ってもたかがロックンロール
「ツーベーコーベー」を貼りつけます(YouTube)
そのあとも続く「アイズ」、「グッゴー!」、「Yahoo!~黒田の子守唄」、「ゾウはネズミ色」。
ここらへんは2022年の最新アルバム『楽しいお仕事愛好会』の収録曲で、おれは2006年ごろ、曲でいえば「バカサバイバー」、「暴れだす」、「サムライソウル」あたりを最後に一度ファンを辞めちまってるからぜんぜん知らんにゃけど、「ゾウはネズミ色」とか特にステキやったわ。
「人の言うこと、聞きすぎるとブレる。聞かないとズレる」の簡にして要を得た詞の意味と、言葉のリズムに見るたいへんな匠。トータス松本は難語とか比喩とか高度な修辞法を用いず、なるべくアホに、なるべくアホに言葉を扱い、なるべくアホであろうとする。
でも「ゾウはネズミ色」って意味深長やろ? ゾウはピンク色じゃなく、どこまでいってもグレー。白でも黒でもない。この曲の中に「あれは答えじゃなかった。そう、あれは答えじゃなかった。こんなにも堂々と間違えた」って歌詞があんにゃけど、これは97年のヒット曲「それが答えだ!」に対するセルフアンサーソングだという。ほんで実際、次に披露された曲は「それが答えだ!」。
ちゅか最新アルバムのタイトルが『楽しいお仕事愛好会』ってなに?
“大人の言葉遊び”も一周すれば好々爺の世迷い事になるで。先鋭化しすぎやろ、言葉を。達観しすぎやろ、おっさんを。だってオメェ、1個前のアルバムタイトル知ってる? 教えたろか?
『ウ!!!』やで?
そんなアバンギャルドな。「ア!!!」やろ。
ほて「それが答えだ!」のあとは表題曲「楽しいお仕事愛好会」。この曲には、おれが弱いトータスリリック涙腺刺激ワードゥがまきびしのように散らばっていた。
「転がってたら30年。ぶち当たってもまた笑う」
「インスタントの袋麺。俺のテスコは7000円」
「英語はわかりません。日本語しかわかりません。しかも関西弁」
「誰も知らないメロディー。ウケねらいのパロディー。ただの思いつき。そう、あついのがすき」
「続いていくんだな。続いてきた事そのまま」
ここで1部終了。
ウルフルズの面々が「ありがとー」とか抽象的な事柄をぶつぶつ言いながらステージ袖にはけていき、フアンも芝生の上に座りこみ水分補給をしたり光合成をするなどして命を潤す。休憩中は巨大モニターにジャルジャルの「ウルトラズ」のコントが映し出され、観客が「パッパッパ」と笑うなどする。
さすが大阪。さすがウルフルズ。休憩時間さえもエンターティンメンで埋め尽くす。なんてサービス精神の発露だとこのおれに言うのか。
「あついのがすき」を貼りつけます(YouTube)
◆なにがありがとうやねん◆
さいさいさいさい、後半戦。
サックス、トランペット、トロンボーンによるヤッサホーンズが激烈にシブい演奏で煽れば、ステージ上部のせり上がり舞台から白スーツに身を包んだトータスがムィ~~ンとせり上がってきて「あなたが好きだからー!」とチャミスルのCMにおけるチャン・ドンゴンじみた歌詞を絶叫する。聴いたことのない曲だったが、あとで調べたら『ウ!!!』に入ってる「センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~」という、割に近年の曲らしい。
ほんで『ウ!!!』て。
それにしても当世風のテクノ調でありながら80年代ディスコソングにまとめ上げた「センチメンタルフィーバー」には、紛れもなく「ガッツだぜ!!」や「それが答えだ!」の血が流れていますよ。最初のサビを聞いただけでわかった。このあと一体どんなAメロを聞かせてくれるのか!?
ジョンB「僕のまわりはインチキだらけ♪ どこもかしこもデマだらけ♪」
おまえが歌うんかい。
ド衝撃だわ。おまえが歌うんか。
サビだけトータスが絶叫して、それ以外はベースのジョンBが細っそい細っそい声で歌うという。なんぼほど切り拓くねん、新境地。「僕のまわりはインチキだらけ」やあれへんがな。でもこの演奏はヤッサダンサーズや舞台演出も相俟ってベストアクトだ。
「センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~」を貼っつけまーす(YouTube)
その次はおれも大好きな「事件だッ!」。
思春期のころは歌詞が恥ずかしかった。ダサすぎて。直球のラブソングすぎたんや。でも歌い出しは昔も今も気に入っている。
「デートの途中でおまえにど突かれた
何すんだコノヤロー! でも嬉しかったんだ」
もうこれは天才かと思う。いかなロック調のラブソングとはいえ「ど突かれた」なんてワードを放り込めるのはウルフルズだけ。ほんでそのあと「何すんだコノヤロー!」やで。惚れた女性に向かって。
此度のヤッサでは原曲よりアップテンポで、トータスもアップアップしつつ、足でテンポテンポを取りながら、元気満点、天真爛漫のヤッサダンサーズに囲まれて高すぎるマイクに咆哮する。思えば56歳のトータス松本が20年以上前のロックナンバーをキーを下げることなく、むしろBPMを上げて、夏日の中、大汗かきかきコンサートでがなっている。端倪すべからざることだ。なんてソウルフルだ。だからウルフルズだ。ソウルフルズだ!
「センチメンタルフィーバー」をベストアクトに挙げた直後に言うのもなんだが「事件だッ!」がベストアクトです。
その後はブルースたっぷりの「ひとつふたつ」でトータスの歌唱力を堪能したのち「笑えれば」、「愛がなくちゃ」など往年の名曲で心を涼めたり熱くさせたおれに突如、聞き馴染みのない前奏。ドラムのサンコンがステージ袖にはけていき、代わりにトータスがドラムスローンに座ったかと思えば、謎の衣装で大変身したサンコンがハンドマイクを持ち、ヤッサダンサーズを従えてステージ中央に躍り出る。
「コミコミ」が披露されます。
「酸いも甘いも 噛み分けて♪
気がつけば ホウレイ線♪」
おまえも歌うのかよ。
闇討ちのサンコンソロ。ウルフルズ30年やっててサンコンのソロ曲なんて初めてやん。ていうか歌唱力がもう…一般のおっさんのソレなのよ。
『ソ!!!』なのよ。
ほんで『レ!!!』なのよ。
ほんでなんやねん「コミコミ」て。でもこんなソレって良いコレやわ。ぜんぶコミコミでアレやわ。
サンコン(Dr)の熱唱。
ここからは怒涛のソレ。
ゲロッパ! ゲットー! ジェームス・ブラウンまるだし、スウィングしまくりのファンクナンバー「続けるズのテーマ」。曲名も歌詞もこの上なくダサいがグルーヴは最高にイカすッパ。
この曲といい「ロッキン50肩ブギウギックリ腰」といい、近年のトータス松本ときたら“ギャグを人質として差し出すかわりに本気の大人のファンクを子供(J-POPリスナー)を無視してやる”というギリ等価交換ロックに立ち向かっている。変に若返りを図らず、流行に迎合することなく、ハッケヨイ防波堤、時代の波を中年腹でドカーンと受け止め、弾き返す、1/1スケールの等身大のおっさんの粋。
「続けるズのテーマ」の後奏が続くなか、各メンバーのソロが入り、そのまま「ウルフルズ A・A・Pのテーマ」へともつれ込む。昔からバカバカしい曲だなと思っていたが、MVを見て腰砕け、「A・A・P」が「アホ・アホ・パワー」の略だと知って背骨までへしゃげた。「エー!」とか「エー!」とか「ピー!」とか言いながらA・A・Pの振りつけを忠実に踊るフアンらは確実にアホと化していた。
アホの次はバカ。
であるからして、次の曲は「バカサバイバー」。ウルフルズの中期にして達しえたディスティネーション。信じがたくも美しいナニワのアンセムと言わざるをえまい。
ナニワの次はまたナニワ。であるからして「ええねん」へとなだれ込みます。昔から色んな番組でタイアップしてる有名曲だし、近年だと浜田雅功の「スマドリでええねん」のCMでよう耳にするけど、いま改めて冷静かつ慎重に聴けばかなり前衛的っちゅーか、攻めた曲よね。だって終始「ええねん、〇〇でもええねん」だけで進行していくし、歌謡曲のAメロ→Bメロ→サビの展開性が全き絶無。リフだけが転がり続けるR&Bのようや。
サビがなくてもええねん。

演奏が終わったあと、さっきあんだけ日差しに不平を垂れていたトータスが「晴れてよかったわ」と掌返しのMC。態度を急変させる。「じゃ、最後の曲いきますか!」と叫べば、フアンが不安に「えー!?」と不平を垂れ出した。
「や、そんなん、だって、言ってもね…? わかってるくせに! 暫定的に“最後の曲”」
客席がドッと笑う。おれは納得した。
コンサートのアンコールにおける茶番劇に自己言及するアティチュードがこんなにも似合うのはウルフルズをおいて他にない。関西。といえば笑い。といえば吉本新喜劇。といえばベタな笑い。つまり予定調和。
予定調和さえも“予定”に組み込める西の血、というかね。これが関東出身のオシャレな若手バンドだとメタ発言になってしまうのだろうが、トータスが発することで吉本新喜劇というか、劇中劇のように聴こえてくるから不思議よね。
そんなわけで暫定的なラストは「いい女」。
原点にして定番にして、頂点にして鉄板。トータスが吹き散らかすブルースハープから始まるR&Bバラード。いい男。
そこからアンコールに入って、サム・クックのカバー版「ワンダフル・ワールド」、わたくし大好きの「ツギハギブギウギ」を終えたのち、しばしトータスのお着替えタイムを挟んでの「ガッツだぜ!!」。
バカ殿の衣装でせり上がりから出現したトータスは3時間も歌い続けて息も絶え絶え。大分しんどそう。ズラもズレてる。それなのに「逢えない、抱けない、できそーもない」とか下品な事柄を歌います。なんて卑猥な生命体なんだ。幼きころに聴いたころ、サビ前の「万が一、金田一、迷宮入りする前に」という歌詞に「この男はアホだ」と感じたことを克明に記憶している。
そして「ガッツだぜ!!」といえば毎度恒例、MVでもお馴染みの、大サビ直前でトータスが「うっ」とか言って死んだフリをする茶番が幕を開ける。トータスが死ぬとセリが再びムィ~~ンと上がってその死体を天高く運ぶ。するとフアンらが「ガッツだぜ、ガッツだぜ」とエールを送り、急に復活したトータス、ぱちっと開けた目は寝起きみたいに綺麗な二重。キョトンとして。やおら立ち会って両腕を天に突きあげ「うおおおお~!」と咆哮した。
「うお~」やあれへんがな。
なんですのん、これ。
そして大サビに入るとステージ上に黒子が現れ、トータスの頭部に兜を装着し「馬鹿正直」と書かれた激烈にださい軍配を渡す。途端、目を疑う光景がおれの眼前に広がった。
トータスが被った兜のてっぺんにT字の細棒がついており、それがタケコプターの要領でくるくると高速回転しながら大量の火花を撒き散らすのだ。
最前列の客にしてみれば「ガッツだぜ」というより「アッツだぜ」だったろう。ぜんぶ掛かってるもん、火の粉。
そして軍配を振り回しながらトータス、「がばええええ!!!」、「があええええ!!!」、「だあええええ!!!」と、もはや歌いもせず絶叫する。察するに「がなれ!」と客席を煽っているのだろうが、悲しい哉、うるせえ哉、叫びすぎて何も聞き取れないし、傍から見ればバカ殿のカッコして兜を被ったフラフラのおっさんが頭のタケコプターをぷるぷる回転させながら火花を好き放題に撒き散らして奇声をあげてるだけザッツオールの狂気沙汰なんである。

曲が終わるやトータス、「ありがとー」などとよくわからないことを言った。
ありがとう?
わけのわからん。死んだフリする茶番して、せり上がりで勝手に高なって、寝起きみたいな二重なって、キョトンとして、無脈絡的に「うおおおお!」ゆうて、物騒な兜から火花よおけ出して「だあええええ!!!」など意味をなさないこと叫んで。ほんで「ありがとー」ゆうて。
なにがありがとうやねん。
なんやねん、ありがとうて。
トータスが忌々しそうに兜を外すとメンバーらが集合し、特設ステージの裏手からバンバンあがる打ち上げ花火をフアンらと一緒に鑑賞するという謎めいた時間が約3分間流れる。
「ええやん」
「ええなー」
「ええやんかいさー」
「ええねやがな」
なにがええねん。
だが、この終演時間はまだ完全に陽が沈みきる前っていうか、なんならフツーに明るい時間帯だったため、いまいち花火が映えず、色彩不明瞭にして風流感ぜず。しかも花火が消えたあとの黒煙が妙に汚らしく、大阪の空を墨で塗り潰していく。
空、汚ったね。
それもまたええねん。空汚くてええねん。絵に描いたような打ち上げ花火じゃないところがウルフルズ。絵にならないのがナニワイズムなんじゃない。


◆everybody going to fly away◆
ウルフルズを聴いていたのは学生時代だから20年以上前になるが、聴かなくなってからも定期的に軽チェックはしていて、2014年の「どうでもよすぎ」とか大好きなんですョ。ビートルズサウンドに乗せて「体にいいことしすぎ 雑誌やテレビの見すぎ」とか「ナチュラル心がけすぎ 健康に命かけすぎ」みたいな“どうでもいいこと(世間の人々が拘泥していること)”を絶叫しながら列挙していくのだが、初めて聴いたとき「説明書がぶ厚すぎ 箱とかゴミとか出すぎ」って歌詞に大笑いして。
飛び道具のようなウケ狙いのような、ナンセンスで馬鹿々々しい曲と思いきや、オールドロックの音像と構造を忠実に再現し、限りなくテキトーに見える平易な歌詞は、しかしその内奥にミラーボールのごときコノテーションを含んでいる。
風刺が風刺に聞こえないのもウルフルマジックだ。トータス松本のソロ曲「明星」における「パソコンがなんだ 検索がどうした 答えは見つけたか」の、このうえなく平易な言葉で現代病を撃つ詞(ミスチル桜井なら1曲まるまる使って長広舌を振るいそうなテーマをたったの一行で)は、もう“巧い”とか通り越して、一発でハッとさせられすぎてなぜか魂を掴まれて涙が出たし、おそらく「答えは見つけたか」という一文の種は名曲「それが答えだ!」。
みなの興味がとうにないことぐらい、シッカリ気付いてるけどもう少し続けていいですかね。きっといいよね。
「それが答えだ!」は未だに不思議な曲で。
2番の始まりは「どこへ行くのか、誰かれ忙しそーです。ひとりじゃ情熱も、チョチョぎれそーです」と弱気になって、でもそのあと「もっとドジをふめ、自分を好きになれ。げに、しょーもないこともいーじゃない。ドンと来い」と強気になったかと思えば、またぞろ「来てくれない、レスキュー隊。親知らず、悩めど」と気分が下がる。
「行く」、「来い」、「来てくれない」が複雑に交差する。かの代表曲「ガッツだぜ!!」が、同年に世間を暗いムードに包んだ阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件に対するフラストレーションから生まれた曲なので、それを踏まえて深読みするなら「それが答えだ!」も97年当時の世相を描出した詞世界、すなわちミレニアムを控えてアッパーでもダウナーでもない、大笑いする気にはなれないし、神妙な顔つきもなんか変だし…っていう宙吊りの時代にムチを打った曲ではないかしら。MVの世界観がバブル期のディスコブーム(懐古主義)というのも合点がいくし。
そうそう。松居大悟の『くれなずめ』(21年) という映画では、主演・成田凌の口を通して「『それが答えだ!』って言いながら何が答えか言わないっていう。それがいいのよ」と言わせており、ハッとしてパッと霧が晴れたな。キャット。
あとどうでもいいけど、サビ終わりの「エブリバディ強引でも不安じゃねえ」が「everybody going to fly away」に聴こえる日本語ロックの妙味たるや天下一品だわさ。
と、そんなことを思い出しながら猛烈に楽しんだヤッサ2023のすてきな映像。おれもカッコイイおっさんになりたいな。そのためには何をすればいいのか。
そうだ。ポンチョを見にいこう。
「それが答えだ!」を貼りつけることだけが答えじゃなくて、ぜんぜん関係ない「おっさんのダンスが変だっていいじゃないか!」を貼りつけたっていいじゃないか。