薄い、軽い、中身がない! だけどザック・デザイナーには感謝。
2017年。ザック・スナイダー監督。ベン・アフレック、ガル・ガドット、ヘンリー・カヴィル、エズラ・ミラー、ジェイソン・モモア、 レイ・フィッシャー。
「マーベルなんかに負けてられるかー」と啖呵を切ったDCのお抱えヒーロー6人組が共闘して『アベンジャーズ』に対抗する。
『ジャスティス・リーグ』批評というか、アメコミ映画批評とザック・スナイダー批評についての記事です。
もしもあなたがアメコミ映画好きなら気を悪くしてしまうような内容かもしれませんが、私は自分のジャスティスを信じてこの映画を批判するものです。
この評論自体が私にとってのジャスティス・リーグなんだ!
なにをいってるかぜんぜんわからないって?
安心しなよ、僕自身もよくわかってないから。
①アメコミブームについて思うこと
個々のマーベルヒーローたちがひとつの世界で共闘するクロスオーバー企画「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」が始まって、かれこれ10年が経つ(10年!)。
一応律儀に毎回付き合ってきたけど、そろそろ疲れてきました。
近年のアメコミブームは質より速さ。作ること自体が目的化しているので、映画としての出来にはかなりムラがある。
MCUが大成功したのは、消費される前に新作をどんどん提供するという大衆文化的なマーケティングを映画市場に導入したから。そして押しメンという概念を持ち込んでキャラ優位のコンテンツへとシフトしたからだ。
これってAKB48グループの戦略とほとんど同じだよね。
矢継ぎ早に新曲を出して飽きさせず、ファンに「あなたのお気に入りは誰ですか?」みたいな選択肢を与えて特定のメンバーを応援させる(二次創作や妄想材料としてもお使い頂けます)。
もう、AKB48ならぬアメコミ48だよ。
ひとつの映画としては全然ダメでも、企画としての魅力があるから結局勝ち。
たとえどれだけ映画がヒドい出来でもキャラものとしては楽しめるし、どうせ次があるからといって出来の悪さは不問に付してしまう。
何が言いたいかといえば、アメコミ脳で観る分にはとても楽しいけど、映画としてはあまり褒められたものではない…という不思議な矛盾を孕んだ現象だということだ。
それが昨今のアメコミ映画。
そしてマーベルに遅れを取って始まったのがDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)。
マーベルに比べると明らかに駒(キャラクター)が弱くてパッとせず、批評的にも興行的にも成功したのは『ワンダーウーマン』(17年)のみ。
ワンダーウーマンの命綱がすげえ。
この命綱一本でゴリ押ししているDC。その度胸たるや。
本作『ジャスティス・リーグ』の布石として作られた『マン・オブ・スティール』(13年)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)、『スーサイド・スクワッド』(16年)のDC前哨戦は、キャラものとして観れば楽しめるかもしれないけど、映画としては救いようがない。
「なんでもいいから『ジャスティス・リーグ』に間に合わせろ!」という感じで、いかにも突貫工事で作っているのが画面によく表れていて。マーベルよりもDC派としては憤りすら感じました。
だけど『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クインは、私がmixiで毎年やっている『ひとりアカデミー賞』で主演女優賞に輝いたほど素晴らしいキャラクター造形でした。ハーレイ・クインは最高。バットで殴られたい。
②メンバー紹介
それじゃあ、勝手にロックバンドに置き換えて『ジャスティス・リーグ』のメンバーを紹介していくぜ!
ギター担当。バンド活動をしていないときはコウモリ男のコスプレをしてゴッサムシティを守っている。
『ジャスティス・リーグ』を立ち上げたリーダーだが最弱メンバーでもある。周りが超人ばかりなのに彼だけが普通の人間なので、怪物軍団との戦闘になると安全圏からメンバーを応援している。
大富豪なので金に物を言わせて様々なメカニックを開発する、小手先の名人。
メインボーカル担当。バンド活動をしていないときは銀行強盗が人質に向けて撃った銃弾を弾いたりしている。
『ジャスティス・リーグ』をまとめ上げる肝っ玉母さん。
ソロアルバム『ワンダー・ウーマン』は社会現象になるほど大ヒットしてガル様旋風を巻き起こした。
正直、ワンダーウーマンがいるからこそバンドは首の皮一枚で繋がっていると言っても過言ではないほど、レコード会社・DCにとっての精神的支柱。
ボーカル担当。バンド活動をしていないときは故郷クリプトン星に思いを馳せている。
弱点のクリプトナイトを使われない限りは宇宙最強のボーカリスト。
たびたび理性を失って味方をバッシングする癖があるので長らくバンドを脱退していた問題児だが、ついにこの音楽ドキュメンタリー映画『ジャスティス・リーグ』で復帰するかも…!?
アクアマン(演:ジェイソン・モモア)
ドラム担当。バンド活動をしていないときは海に潜って漁師を助けている。
孤独キャラを演じているが、本心ではメンバーと一緒にライブができて嬉しいと思っているツンデレドラマー。
「海と会話ができる」という共通点から、レコード会社・ディズニーのお抱えバンド『モアナと伝説の海』に似ているとされ、「モモアと伝説の海」というコミックソングの作曲をオファーされている。
ちなみにロックバンド『アベンジャーズ』のソーはライバル。
フラッシュ(演:エズラ・ミラー)
キーボード担当。バンド活動をしていないときは服役中の父の面会に行っている。
音速のキーボーディスト。あまりに速すぎて「手を動かしてないのにキーボードが鳴っている!」として人々を驚かせている。
敵対するレコード会社・マーベルに所属しているバンド『X-MEN』のクイックシルバーとキャラがカブっていることについて悩んでいる。
サイボーグ(演:レイ・フィッシャー)
ベース担当。バンド活動をしていないときはフードを被って街をぷらぷらしながら「死にたい、死にたい…」と呟いている。
ほぼ全身サイボーグなので、本当は『ジャスティス・リーグ』のようなロックバンドではなくエレクトロニカをやりたいと思っていたが、ワンダーウーマンに「一緒にロックしましょうよ、サイボーグさん。うっふん」と言われて「はい」と言ってしまった男。
休日はネット漬けで、情報リテラシーが異常に高い。
そんな6人が活躍する『ジャスティス・リーグ』。
世界は安泰だあー。
③ザック・スナイダーというドアホ
本作の不安材料は、監督がザック・スナイダーという点だった。不安材料というか、この時点で公開前から「あ、もうダメだ」と半ば諦めていた。
ザック・スナイダーといえば、『300 〈スリーハンドレッド〉』(07年)、『エンジェル・ウォーズ』(11年)、そして『マン・オブ・スティール』や『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で知られるCG大好き監督。
筋肉系のマイケル・ベイをビジュアル系にしたようなドアホの監督である。
「弓を射るときはこうするんじゃあ!」と言って自ら演技指導するザック・スナイダー(ドアホ)。
「映画はビジュアルだ」という端的に映画を履き違えた信念のもと、スローモーション、VFX、背景は全部合成といったデジタル技術依存症ならではの発想で、湯水のように金を使ってキメの画を作ることに妄執する。
もうね、全編ビデオゲームのムービーシーンみたいな映像ばかりで。「これ、映画なの?」っていう。それがザック・スナイダー。
ビジュアル設計はできても、ショットが撮れなければ映画ではない。
たとえば本作でも、ラストシーンで強敵を倒したあとに世界が元通りになって、ひとりの少女が大地に咲いた花を愛でる…みたいなシーンがあるのだけど、その花すらもコンピュータグラフィックスで作ってるのね。
もう愕然としたよ。映画監督なのに一輪の花さえ撮れないなんて。完全なるビデオゲーム脳か!
バットマンやワンダーウーマンが靡かせるマントや髪も、誰がどう見ても送風機で人工的に起こした風だし、背景の光学合成も「あぁ、グリーンバックを使ったスタジオ撮影なんだな」というのが丸出しで、大いに興趣を削ぐ。
夢ひろがりんぐのアメコミ映画なのに「そこ、スタジオじゃん!」って思わせた時点で失格でしょう。世界観もヘチマもないったらありゃしないよ。
たとえばスピルバーグなんかは「映画のダイナミズムは自然物に宿る」ことを踏まえた上でSFXやCGを効果的に使っているから、どれだけデジタライズされた作品の中にも映画の色気がある(特にスピルバーグは風の使い方が上手いですね)。
スローモーションの天才サム・ペキンパーは、ただ「カッコイイから」という理由だけでスローを濫用するザック・スナイダーとは違って、スローモーションで倒れる馬や噴き出した血がそれ自体で美しくて残酷だし、空間設計や状況説明たり得ている。
むやみにスローを使う前にペキンパー観て勉強しろ!
本稿ではクソミソにこき下ろしてるザック・スナイダーですが、映像化不可能と言われたアラン・ムーアの難解アメコミ『ウォッチメン』(09年)の映画化は好きです。
あと、フクロウが活躍するCGアニメーション『ガフールの伝説』(10年)も。
④陰の立役者 ザック・デザイナー
さて、ようやく映画の話。
コウモリ男、とびきりワンダーな女性、駆足男、水泳選手、ほぼサイボーグといったDCヒーローが集結して、「ワイルドでいこう!」を代表曲に持つ宿敵・ステッペンウルフを倒そうとするけどまったく歯が立たないので、前作で死んだ超人男を生き返らせて彼にどうにかしてもらおうと丸投げする…という内容です。
ジャスティス・リーグの宿敵・ステッペンウルフ。
名曲『ワイルドでいこう!』でお馴染みの67年に結成したカナダのロックバンド。
バットマンが仲間集めに奔走する中盤までは、たしかに『七人の侍』(54年)みたいな楽しさはある。「みんなでグループLINEしてるのかな?」みたいなことを想像する楽しさですよ。
そして、仲間が増えていくごとにビジュアルの統一感が崩れていって、見れば見るほどダサく思えて半笑いになってしまうというおかしみ。
なまじ『アベンジャーズ』(12年)に比べて陰気な連中が多く、チーム間の友情や衝突もないので、「大して仲良くない人たちとコスプレ大会して微妙な空気になる」みたいなシリアスな笑いが醸成されるのだ。こういう半笑いイズムは好きですよ。
冷静になって見ると「いい歳した大人がコスプレして何をやっとるんだ」感がすごい。
ただ、この前半1時間は、会話している人物の顔の切り返しショットが主体で、『アベンジャーズ』と同じ轍を踏んでしまっている。まぁ単調。
唯一の救いは、ダイアン・レイン(スーパーマンの義母)とエイミー・アダムス(スーパーマンの恋人)といった本格派の芝居。この二人がいないと画が持たない。
ダイアン・レイン(左)…個人的に大ファン。本作では白髪のおばあさんを演じているが、53歳になった今なお衰えを知らない綺麗な女優。80年代はロックスターのジョン・ボン・ジョヴィと交際していた。
エイミー・アダムス(右)…個人的に大ファン。日本では甘ったれたディズニー映画『魔法にかけられて』(07年)で知られているが、本来は『ザ・マスター』(12年)や『メッセージ』(16年)などやや通向けの映画に出演している犬顔女優。
ザック・スナイダーなので、とにかく映像が軽くて薄い。
おまけに全編ほぼ背景合成。三点照明も下手くそなので、画面がものすごく平板になっちゃってて、なんというか…、バカっぽいんですよ。画が。
どうやら決戦の舞台はロシアらしいが、空も大地も真っ赤に染まっててさ。
どう見ても地獄だよ!
しかもプレイステーション2みたいな一昔前のCGで「うわ、ショボ~…」っていう。
決戦の舞台になる、荒廃して真っ赤っかのロシア。
ロシア国民でもロシアだと分からないぐらいロシア感ゼロのただの地獄!
良かった点といえば、ワンダーウーマンのケツが若干見えたことと、激おこスーパーマンに顔面を掴まれたバットマンの頬がぷっくりしてて可愛らしかったこと。結局キャラの良さに集約されてしまう。
あとはコスチュームですよ。監督のザックよりもはるかに良い仕事をしていたのがコスチューム・デザイナーの皆さん。
アホのザックに「監督、このシーンのバットマンは重厚感を出すために露出アンダーで撮ってください」とお願いしてもどうせ伝わんねえだろうと思っていたのでしょうね、あらかじめ一人につき数十着のコスチュームを用意して、各シーケンスに合わせてコスチュームの色・生地・テクスチャーを微妙に全部変えてるんですよ。
すばらしい仕事ぶり。
もはやこの映画の監督はザック・スナイダーというよりザック・デザイナーだよ!
映画の出来はアレだけど、コスチュームはキメ細やかで格好良いのだ!
そしてクライマックス。出ましたねぇ、ザック・スナイダーお得意の直線突進型アクション。
殴られたキャラクターが水平に500メートル吹き飛んで建物をボコボコ貫通していく…という『ドラゴンボール』オマージュの、重力にも痛覚にも質感にも無頓着なぺらぺらのアクション物量押し!
マンガやアニメなら気持ちいいけど、映画でそれをやるとビデオゲームになってしまう。
あとさぁ、中盤あたりからロシアに住むある一家がカットバックで時おり描かれて、「何だろう、この家族は? 本筋と関係あるのかな?」なんて思っていると、ロシアが地獄と化すクライマックスに至って、この家族がただ単に逃げ惑う市民だったことが明かされるんだけど…、このクロスカッティング、要る?
⑤キャラクター劇として
キャラものとしては、「一人ひとりの掘り下げや人間関係が描けてない。チーム感がなーい!」といって批判されているが、私はそんなレベルの高いことをこの映画には求めません。
むしろバットマンとワンダーウーマンの夫婦喧嘩や、ワンダーウーマンに優しくされてうっとりしているサイボーグ、またサイボーグとアクアマンの仲の悪さ、それを取り持って道化を演じるフラッシュ、そしてバットマンとスーパーマンの和解…みたいな、下手くそなりに描こうとしている相関図を忖度&脳内補正して、それなりに楽しめました。
あと、何度でも言うがダイアン・レインとエイミー・アダムスの助力によって、辛うじてドラマと呼べるものはありました。この手のガチャガチャしたお祭り映画において「芝居ができる俳優」というのは本当に有難いものだ(前作でスーパーマンの義父を演じたケビン・こなすーも写真で登場)。
だけど、バットマン好きとしては随所でバットマンの凡人ぶりがディスられる描写が切ない。
雑魚一匹に悪戦苦闘して、ワンダーウーマンのゆる気の腹パンでブッ倒れそうになり、スーパーマンにちょっと突き飛ばされただけで骨が外れる。強敵ステッペンウルフは超人メンバーにお任せして遠目から見守るという非戦闘員っぷり…。
フラッシュ「アンタはどんな能力を持ってるんだ?」
バットマン「金持ちだ」
バットマンは特殊能力を持たないけど、キャラ的にも映画的にも一番深い!
そしてツンと突き出た耳が可愛い!
追記
近年のアメコミ映画を観るたびにいつも心の片隅で感じているのだが、敵のキャラクター造形がなぜこれほど貧しいのか。
もはやダサいとかではなく、デザインとして未完成だと思うの。
日本のデザイナーやアニメーターに頼めば100倍カッコいいラフ画を提供してくれるぞ!
ラスボスのステッペンウルフ。没個性魔王。なんやこのブスは、ふざけとんのか。
日本のクイエイターに任せゆうね。
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のラスボス、ドゥームズデイ。没個性怪獣。
日本のデザインセンスに比べてレベルが低すぎる。
こういうさぁ、海外のセンスの悪さを見ると、普段当たり前のように日本のマンガやアニメを享受していることが心底有難く感じる。