シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

アントマン&ワスプ

すべてがデカすぎ。異議、蟻!

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2018年。ペイトン・リード監督。 ポール・ラッドエヴァンジェリン・リリーマイケル・ダグラスミシェル・ファイファー

 

元泥棒でバツイチのヒーロー、アントマンことスコット・ラングは、2年前にアベンジャーズの戦いに参加したことがきっかけで、いまはFBIの監視下に置かれ、自宅軟禁の日々を送っていた。あと3日でFBIの監視から解放されるという日、スコットの前にアントマンのスーツの開発者であるハンク・ピム博士と、博士の娘のホープヴァン・ダインが現れ、2人が極秘に進めていたある計画に協力するよう要請される。そんな彼らの前に、ピム博士の研究技術を狙い、壁をすり抜ける謎の敵ゴーストが現れ…。(映画.comより)

 

おはようございますう。

デヴィッド・ボウイって歌メロがよく分からないから意外とカラオケで歌えないよね。曲は何百回も聴いてるけど、いざ歌うとなると歌メロが思い出せない。あとレッド・ツェッペリンとかも。

まぁ、基本的にカラオケには行かないんですけどね。

あんな密閉空間でド素人の汚い歌を聴いたり聴かせたりして金まで払うって、拷問でしかないものね。拷問を受けて金を払うようなもんだよ。「いたぶってくれてあざしたぁ」つって拷問料フリータイム1200円を支払うようなもんだよ!

あと、カラオケルームには大学生が多いしね。大学生って大嫌いなんですよ。よくゲロを吐いたり大声を出したりするじゃないですか。騒ぎ過ぎなんですよ。騒ぐ人は苦手です。「本を読め」って思います。

そんなわけで本日はアントマン&ワスプ。大学生を踏み潰したいです。

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◆話のスケール激ショボ映画◆

「蟻ナメんな映画」としてのユニークでフレキシブルな独自性はかなり後退していて大いに不満が残る出来だったが、個人的にはある一点において結果オーライになった作品なので、最終的に私がサムアップするまでの様子をドラマティックに綴ることにする。

本作はアントマン(15年)の続編なのだが、アメコミとかMCUと聞いてもチンプンカンプンな人のためにアントマンというヒーローを一言で説明してあげる。

ガスマスク付けた変態です。

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アントマン「ヤァー!」


そんなアントマンを演じているのがジャド・アパトー一派のコメディアン、ポール・ラッド40歳の童貞男(05年)『無ケーカクの命中男』(07年)で主人公の友達を演じることが多い二番手俳優だね。そんなポール・ラッドがようやく日の目を見たのがこのシリーズである。

だが彼は二代目アントマンで、初代アントマンは蟻んこスーツを開発した科学者マイケル・ダグラス。蟻んこスーツを着れば自在に身体のサイズを縮小できるんだ。つまり蟻のように小さくなれるってことさ!

ダグ博士はワスプ(スズメバチ)の格好をした妻ミシェル・ファイファーとともに「アントマン&ワスプ」というコンビ名で世界の危機を救っていたが、ワスプが縮小しすぎて元のサイズに戻れず量子世界に囚われてしまった!

…という悲しい過去が明かされたのが前作。

そして本作では、ダグ&ミシェルの娘エヴァンジェリン・リリーが二代目ワスプを襲名、二代目アントマン(つまり主人公ポール・ラッド)と共にミシェル・ファイファーを量子世界から救い出す…というえらくセコい話が展開する。

二代目アントマンと二代目ワスプがバディを組む二代目ナメんなムービーなのだ!

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アントマン 「ヤァー!」
ワスプ「ヤァー!」

 

ヤァーやあるか。

 

とにかくこのシリーズは製作費こそジャイアント級だが映画のスケールがアントマン同様メチャメチャ小さいというメタハードSFギャグである。

今作の敵として現れるゴーストは登場時から瀕死でゼェゼェ言ってるし、ダグ博士の研究所を奪おうとする武器ディーラーは何の能力も持たないパンピーなので事実上はディラン不在。

それに他のマーベルヒーローが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年)で世界の危機に立ち向かっている同時間帯に原子より小さくなっちゃったママンを元の大きさに戻すみたいな野暮用にうつつを抜かしているわけで、涙が出るほど話のスケールが小さい。

アントマン自身もマーベルヒーローの中で唯一なんの悩みも持たないボンクラなのだ。

じつに平和な映画である。

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アントマンとワスプはいつも仲良し。実は両想いだったりなんかしちゃったりして!


◆前作のように小さきを尊べ!◆

監督は前作に続いてイエスマン “YES”は人生のパスワード』(08年)ペイトン・リードなので相変わらずコメディ路線を突っ走っている。

前作アントマンMCU作品のなかでは上位にくるほどの快作だったが、とは言えどうも過大評価され過ぎているきらいがあって、本作ではいよいよボロが出たというか…、コメディ監督としてのペイトン・リードの限界が見え始めた気がする。


まず映画的な瑕疵として、ロケの悪さは相変わらずだし、アントマンが自宅謹慎の罰を受けていて時おりFBIが様子を窺いに来るたびに大慌てで自宅に戻る…というギャグもクロスカッティングを放棄しているせいで間に合うの!? 間に合わないの!?サスペンスが不成立に終わっている。

上手い監督だったら、アントマン宅に向かうFBIと慌てて自宅に急行するアントマンをクロスカッティング(同時並行で提示)して、観客に「間に合えー! 間に合えー!」ってドキドキさせたあと、FBIが自宅に踏み込むとアントマンが何食わぬ顔でドラムを叩いてたり風呂に浸かってたりして一笑い起きる…という風になるのだが…。

まぁいいよいいよ! こういう細けぇ瑕疵は前作にもあったから!


続編モノとしてちょっとどうかと思うのは、やはりアクションシーンの構築。

異議、蟻!

そもそもアントマンが世界中でウケた理由は、なんでもかんでも巨大化する昨今のビッグバジェット映画の潮流に逆らうかのように縮小アクションという逆転の発想を視覚化してみせたところにアリ!

縮小能力を駆使して通常の人間では通り抜けられない場所からの潜入・脱出、あるいはアリ軍団の援護・連携プレーなど、小人ヒーローならではの立ち回りが斬新だったのではなかったか。

アリ軍団が「勝機アリ!」とばかりに監視カメラを遮蔽したり、設計図を隠したり、サーバールームを破壊したり。彼らがせっせと筏を作ってアントマンを運んでやる水管の場面はインディ・ジョーンズもびっくりの冒険活劇だった。インディ・ジョーンズのほかにもミッション:インポッシブルトイ・ストーリーロード・オブ・ザ・リングといったさまざまなパロディを横断した、豊潤かつ煌びやかな映像世界がとっても楽しかったよねぇぇぇぇ。

また、人々が踊り狂うディスコや水が溢れ出る浴槽など、われわれにとっては当たり前の景色が小男アントマンにとっては九死に一生レベルの危険地帯である…という映像表現(アオリの構図)は、やがて機関車トーマスが暴走する娘の部屋が「決闘の場」「遊戯の場」の反転を繰り返すアクション・コメディとして昇華されてもいた。

ミクロとマクロを往還してこそのアントマンだ!

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「決闘の場」と「遊戯の場」の反転。いわば緊張と緩和のギャグアクション!


本作ではそうした要素がほぼ淘汰されてます。

不満アリ。

さまざまな工夫に満ちた縮小アクションは巨大化アクションへと単細胞化され、小人目線から見たミクロ世界ゆえのダイナミズムは忘れ去られる。そして縮小能力はもっぱら敵の攻撃をかわすためだけに使われるという格下げ残念用法。

小さきを尊ぶアントマンのコンセプトがブレブレやないか!

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今回はキティちゃんのペッツ・ディスペンサーが巨大化。アントマン自身も超巨大化。わかりやすくインフレしてます。


二代目ワスプに扮するエヴァンジェリン・リリーはもうひとつ魅力的に撮れていないので、アメコミミューズ特有の「萌え」が足りない。にも関わらずアントマン以上に活躍している…という皮肉な扱いで、バディ感にも乏しい。

狭い部屋で急に巨大化して頭をぶつけたアントマンをクスクス笑うシーンだけは猛烈に可愛かったけど。

先に述べた「話がセコい」という件についてだが、前作ではあえて小男アントマンになぞらえて極小サイズの取るに足らない物語にした…ということをメタ的なギャグとして容認することができたものの、本作ではただセコくてつまらない話になってしまっている。

ミシェル・ファイファーを量子世界から救うためにはあのアイテムが必要だ!→ あのアイテムが奪われたので取り返さなきゃ!→ 取り返すためには蟻んこスーツを奪回しなきゃ!…という風に、ひたすら大本を正していくだけの一本調子なハナシが続いていく。

娘の小学校に潜入するくだりこそアントマンの縮小能力が活きる絶好の機会なのに、ギャグもアクションもサスペンスも皆無で…ただの死に時間と化している。あのシーン何だったの…?

そこへゴーストや武器ディーラーが絡んできてアイテム争奪戦が繰り広げられるわけだが、いずれも脅威になりうるディランではないので退屈なほどシンプルな話にゴタついたキャラがゴタゴタ絡んでくる…という非常にうざったいシナリオで。

多分こうなったのはアダム・マッケイエドガー・ライトが脚本から抜けてしまったのが原因。

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撮影中のアントマンはキザ。ワスプは茶目っ気たっぷりで、アントマンの肩に頭をコテッと乗せちゃったりなんかして!

 

◆脇役の魅力には異議ナシ◆

第一章の冒頭で「ある一点において結果オーライになった」と言った「ある一点」とはマイケル・ダグラスミシェル・ファイファーである。

このシリーズが他のアメコミ映画と一線を画すのはゲスト俳優の扱いが非常に丁寧なことザッツオールといえる。

アメコミ映画におけるゲスト枠というのは大体がただ突っ立ってセリフ言うだけの省エネ演技。まぁ、作品に箔をつける為だけに起用しているようなものなので通常はそれでいいわけだ。

しかし当シリーズは違う。

ダグ博士は終始出ずっぱりの上に、前作では大きく足を開いて椅子に座るという氷の微笑(92年)パロディをやってくれるような謎のサービス精神を見せつけている(何やっとんねん)。本作でもアントマン&ワスプと行動を共にして相変わらずの頑固親父ぶりを披露。ツッコミの腕も上げておられる。

そして生き別れた妻ミシェル・ファイファーとの再会シーンでは不覚にも貰い泣き!

「ミッシェル・ファイファーの唇が好きィー! ドレスから覗く鎖骨も好きィー! イェッヘッヘ!」と歌っていたのはMr.Childrenだが、量子世界で30年経ってもなぜか生きながらえていて化粧もバッチリミシェル・ファイファーは60歳にしてなお美しい!

この二人に関してはアリ

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何を食って30年も量子世界で生き続けたのかは謎!

 

幽霊のようにあらゆる物質をすり抜ける宿敵ゴーストを演じたハナ・ジョン=カーメンも悪くない。 

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年)トゥームレイダー ファースト・ミッション(18年)『レディ・プレイヤー1』(18年)と、死ぬほど豪勢なキャリアを築いている世界一ラッキーな新人女優である。

 

あと、ローレンス・フィッシュバーンが浮気してますねぇー。

この隙っ歯のおっさん、DCの『マン・オブ・スティール』(13年)にもレギュラー出演してるからね。

おまえは関ジャニ∞とNEWSを掛け持ちしてた頃の錦戸亮

 

また、ミリオンダラー・ベイビー(04年)『クラッシュ』(04年)でシリアスな芝居を見せたマイケル・ペーニャが、まるでマイケル・ベイ映画に出てくるような脱力必至のお調子者を演じている点も前作と変わらず。

まさか自白剤のギャグがクライマックスに利いてくるとは…。

なおアントマンのヒットを受けてか、近年はコメディ映画のオファーが殺到している模様。

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出てくるだけで笑いをさらう男。もうオマエが主役でいいよ。『ペーニャマン』やってくれ!

 

 

そしてアントマンの娘役を懸命に演じたアビー・ライダー・フォートソンちゃん。

異議ナシの可愛さ!

揺れるぅー。『gifted ギフテッド』(17年)のマッケナちゃんとの間で揺れるぅー。

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困った表情が爆裂キュートなアビーちゃんであります。

 

巨大化に凭れ掛かってアントマンの魅力を見失いかけてる節は大いにアリだが、この小市民的な世界観はやはり楽しく。たとえMCUが終わっても是非作り続けてほしいと思う。

でもその前に製作陣はミクロの決死圏(66年)ミクロキッズ(89年)を観返して初心に返ってね。お願いしますわ。