今度のイェーガーは法事の嫁! そして富士山がぽこぽこしている。
2018年。スティーブン・S・デナイト監督。ジョン・ボイエガ、スコット・イーストウッド、カイリー・スパイニー。
自らの命と引き換えに人類を救った英雄スタッカーを父に持つジェイクは、父とは別の道を歩んでいたが、KAIJUに復讐心を燃やす少女アマーラと出会ったことをきっかけに、義姉である森マコと再会。マコの説得により一度は辞めたイェーガーのパイロットに復帰することになるが…。(Yahoo!映画より)
おはようございます。
昨日は『パシフィック・リム』(13年)の評を読んでくれてアリス。読んでない人は今すぐ読むことをおすすめします。なぜなら読んでくれると僕がうれしいから。
そして今日は、前作の余熱で鑑賞した『パシフィック・リム: アップライジング』の評をのっけたいと思ってますね。
先に言っておきますがこの映画は相当ヒトをなめた映画です。たいへん腹立たしく、今現在わたくしの顔はクチャクチャになっております。
追記
昨日の『パシフィック・リム』評にて、「ロケットパンチ」と表記するつもりが「ロボットパーンチ!」と誤字しちゃってました。ロボや特撮に暗い人間が少しイキったらこのザマです。かつて「ATフィールド」のことを「ATM」と間違えて、エヴァ好きの友達から叱られたことを思い出しました。叱られてばかりの人生です。
Image:dreadcentral.com.
◆富士山がぽこぽこしていた◆
前作から20年後の地球を舞台に、かつて爆死した司令官イドリス・エルバの息子を主人公とした物語が紐解かれる。まぁ、物語もなにもロボと怪獣がシバき合ってるだけの映画なのだが。
前作に続いてギレルモ・デル・トロが監督する予定だったが、映画会社のゴタゴタに巻き込まれ「辞メルモ!」と叫んでメガホンをぶん投げる事態が発生。辞メルモ・デル・トロのかわりにド新人のスティーヴン・S・デナイトを後釜に据えての製作となった。悪い予感しかしない。
映画会社の社長は「監督させるならデナイトでないと!」と得意満面でジョークを言い放ち、デナイトもまた「俺でないと!」と叫んで意欲を剥きだしにした。悪い予感しかしない。
主人公を演じるのは『スター・ウォーズ』新三部作や『デトロイト』だか『デルトロイト』だか(17年) でいきなりスターダムにのぼり詰めたジョン・ボイエガ。まさにボイエガって感じの逞しい俳優である。ともにイェーガーを操縦する同僚をスコット・イーストウッドが演じている(クリント・イーストウッドの倅ウッド)。
また、中国からはジン・ティエン嬢、日本からは新田真剣佑が出演に応じており、「アップライジング!」と一言叫んで契約書にサインした。
前作から続投となるのは菊地凛子と科学者コンビ(チャーリー・デイ&バーン・ゴーマン)だが、菊地凛子は映画前半で「キクチー!」と叫んで爆死してしまう。
本作は中国資本が入っているためジン・ティエンを活躍させねばならず、そのため同じアジア人女性が食い合うので菊地凛子にはご退場願ったという事情なのだろう。
前作のヒロインをこんな形で死なせるなんて許せない…。キクチー! くやチー!
アヒル口をしながらヘリに乗るキクチ。この直後に爆撃を受けて「キクチー!」と叫びながらのご退場である。
主なストーリーラインは前作とほぼ一緒。軍を除隊してふらふらしていたボイエガを訓練教官の倅ウッドが再び入隊させ、新人パイロットたちと共にイェーガーを乗り回してカイジューをシバき倒す、といった充実の中身である。
劇中では中国企業や中国人がわんさか出てくるが、「やっぱりこのシリーズの根底には日本文化の血が流れているよねー」ということに途中で気づいたのか、クライマックスとなる決戦の舞台は東京。しかしカイジューに襲われた東京都民は「やばいやばい」とか「やべーやべー」といった言葉しか口にしないボキャブラ貧民として描かれている。
しかも東京に出現した三体のカイジューは富士山を目指していた。
彼らはカイジューライフを向上させるために富士山でハイキングをするつもりなのだろうか? 違う、そうじゃない。
どうやら富士山を爆発させる狙いがあるらしい。
なんでそんなことするの…。
しかもこの映画に出てくる富士山はなぜか活火山になっていて山頂ではマグマがぽこぽこ湧いていた。
富士山の頂上。
どこだよ、そこ!!
どうなってんだよ、このぽこぽこぶり。こんなもん別にカイジューが手を下さずとも勝手に爆発するでしょ。
◆今度のイェーガーは法事の嫁!◆
前作とはずいぶんな変わり様である。
夜間シーンと海辺のロケーションが大部分を占めた前作とは打って変わり、本作では白昼堂々と大都市の真ん中で戦うという『ウルトラマン』状態。
あのねぇ…。「前作とは違ったことを」という姿勢は前向きに評価したいが、かといって夜間シーンを日中シーンにして海辺を火山に変えればいいという話じゃないんだよ。
そもそも前作がなぜ夜間と海辺に拘ったのか、スティーブン・S・デナイトは一度でも考えたことがあるのだろうか。鋼鉄のボディが最もフェティッシュに映えるからだよ、バカ。そのために豪雨とネオンまで使っていたではないか。
どうも今度の監督はオタクではないらしく、その辺の拘りがまるで見られない。機体の質感も出ていなければカイジューのディテールも煮詰めていない。原画をもとにグラフィックに起こしてCGで肉付けしてハイ終了てなもんよ。どこにも血が通ってないというか、事務処理感がすげぇのなんのって。
Image: ©Legendary Pictures/Universal Pictures.
サイズ感や重量感がまったく画に乗ってないんだよ。
そもそもイェーガーの動きが速い、軽い、なんでもできる。
巨大ロボならではの不器用で緩慢な動きがあるからこそ「ロボットが戦ってる!」という現実感と一撃の重さがひしひしと感じられた前作に比定して、本作のイェーガーは『トランスフォーマー』(07年)よりも機敏で『エヴァンゲリオン』よりも身のこなしが軽い。姑を前にした嫁ぐらいよく動く。
今度のイェーガーは法事の嫁!
全長80メートルのイェーガーがパタッて倒れたりムクッと起き上がったりするの。そんで仲間のイェーガーを助けるためにチョロチョロチョロ~っと走っていく。「お義母さん、私がやりますから座ってて下さい!」とばかりに。
巨大ロボなのにやたら甲斐甲斐しい。だったらもう人間でいいじゃん。ロボである必要ねえじゃん。『嫁フィック・リム』でいいじゃん。
ビル破壊描写も全然ダメだし、カイジューが富士山に辿り着くまでにどうにかしなきゃいけないという切羽詰まった展開にも関わらずワンミニッツ・レスキュー(タイムリミットサスペンス)すらない。そもそもカイジューと富士山の距離が一度も示されない。
それより何より!
思わず「でっけェー」と面食らうようなアオリの構図がただの一回もないことが信じられません。あまりに信じられないので「あ、この監督はロボや怪獣描写に拘りがないだけじゃなく、そもそも映画への拘りがない人なんだな」と理解した。
スティーブン・S・デナイトのことはまったく知らんが、確実によその畑の人間なのだろう。アオリがないなんてあり得ない。絶対に映画など撮ったことのない人間だ。賭けてもいい。間違ってたら『シネ刀』を閉鎖してやるよ!
…と思いながらこいつのキャリアを調べたところ、これまでに手掛けた作品はテレビドラマばかり。
ハイぼくの勝ちー『シネ刀』継続決定ありがとうございまぁぁぁぁぁぁぁぁ
アァァァァップライジング!!
おととい来やがれ!
水平または俯瞰の構図が多い(デカさが伝わらない)。いやいや…アオリは?
◆カイジューの正体は〇〇だった◆
人間ドラマもからきしダメ。
主人公のボイエガは英雄となった父へのコンプレックスからパイロットを辞めて道を踏み外したアウトローだが、倅ウッドから「もう一度パイロットになってくりント」と言われただけで「ボイエガ、オーケー」なんつって何の迷いもなく戦線復帰する。
「ボイエガ、オーケー」じゃないんだよ。コンプレックスは?
一方の倅ウッドは、父クリントに似てさすがに良い面構えだが「主人公の友達」という図式以上のキャラクターを持たない。整備技師の女とロマンスめいた関係を匂わせるが結局はウヤムヤにされたまま。
ヒロインのカイリー・スパイニーや新田真剣佑を含む訓練生たちはロクに訓練もしなければ交友を深めるでもなく、にも関わらずクライマックスではいとも容易くイェーガーに乗って戦う。イェーガーって誰でも乗れたっけ?
こんな奴らがクライマックスの東京大決戦に臨むわけで、チームプレイを見せたり自己犠牲で涙を誘ってみたりもするのだが、顔も性格も描けてないモブキャラがどれだけ勇敢に戦おうが殺されようがこちらの心はビタイチ動かないわけで。
またぞろ前作との比較論になってしまうが、デルトロはドラマパートと戦闘パートを交互に配置することで映画のテンションを維持し続けた。ちょうどドラマが盛り上がったところでアクシデントが起きて、その都度イェーガーが出動するわけだ。
翻って本作は両パートが前後半にはっきり分かれている。つまり映画前半は人間たちがワチャワチャやってるだけで、後半はカイジューとイェーガーが大暴れするという二幕構成。『シン・ゴジラ』(16年)ほどドラマパートが面白ければ何の問題もないのだが、その無残な出来栄えは上記の通り。したがって前半1時間が死に時間というか…、はっきり言って東京大決戦までの待ち時間です。
ついでに言わせてもらうと菊地凛子とジン・ティエン嬢のヘアメイクも最低。ドラマパートも戦闘パートも散々手を抜いたのだからせめてキャストのヘアメイクぐらいはまともなモノを見せて頂きたいのだが…それすら叶わないのか?
あちゃー。
唯一の美点は前作にも登場した生物学者バーン・ゴーマンが主役級の活躍をすることぐらい。単なる脇役が二作目にして本意気に入る…という意味では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(17年)のマイケル・ルーカー(ヨンドゥ役)にも似た躍進ぶりで、ゴーマン周りだけは楽しめた。
どうやら三作目に続くようだが、カイジューの侵略を阻止する前にスティーブン・S・デナイトの監督続投を阻止して頂きたい。
ていうかカイジューはオメェだよ!
映画界をダメにする人型カイジュー、スティーブン・S・デナイトをどうぞよろしく。