シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

バード・ボックス

目隠しサンディ右往左往。

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2018年。スサンネ・ビア監督。サンドラ・ブロック、トレヴァンテ・ローズ、ジョン・マルコヴィッチ。

 

思いがけず子どもを身ごもったマロリーは、ある日突然訪れた世界の終焉と人類滅亡の危機に直面する。謎の異変が次々と起こる中、生き残るためにできることは、決して「それ」を見ないということだけ。幼い命を守るため、マロリーは目隠しをして逃避行に出る。(映画.comより)

 

おはようございます。

ユーチューバーになりたいと言うガキをシバいて回る特殊な仕事をしたいと考えているわたくしです。

ていうか、もし僕がユーチューバーになったらどんなコンテンツを提供できるのだろう?

真剣に考えてみました。

 

①映画の有名シーンを一人で再現する動画。

②映画の感想を創作ダンスで表現する動画(史上初となる言葉を使わない映画評論)。

③好きな女優に向かってひたすら求婚し続ける動画。

 

うん…いけるかも。

 

そんなわけで今日は『バード・ボックス』ですね。僕の大好きなサンドラ・ブロックの主演映画ですよ!

※がんがんネタバレしてます。

f:id:hukadume7272:20190326033902j:plainNetflix


◆『ハプニング』+『ブラインドネス』◆

Netflixオリジナル映画はほとんど観ておらず、観たとしても極力レビューしないようにしているのだけど、『バード・ボックス』サンドラ姐さんの最新作なので…もうこれは観ちゃう。レビューもしちゃう。

人類がほぼ根絶やしにされた悲しい世界をサンドラ姐さんがさまよう…といったメランコリーな中身を誇る本作。

サンドラ姐さんといえばロマコメ、サスペンス、ヒューマンドラマの黄金比で知られる女優なのでSFとはあまり縁がないように思うが、ちょっと前に『ゼロ・グラビティ』(13年)太ももSF映画という地平を切り開いたほか、キャリア初期には『デモリションマン』(93年)にも出ている。70年もの冷凍刑から目覚めたシルベスター・スタローンがウンコの仕方が分からなくてサンドラ姐さんに笑われる…といったスペクタクルSF超大作である。

そして通算3度目となるサンドラSFが『バード・ボックス』


人々が「それ」を見てしまうと悲しい過去を思い出して自殺してしまう…という怪現象により人類は絶滅寸前。

「それ」は野外全域に広がっているため、生存者たちは外を歩くときに必ず目隠しをしなければならない。一瞬でも「それ」を見てしまった人は茫然自失になって「悲しいよう、悲しいよう」と言いながら自殺してしまうからだ。だが「それ」は屋内には入ってこれないので、家の中では目隠しを外してもオッケー、好きなものを見放題、ということになっているのだな。

「それ」の正体は最後まで明かされないし、なぜ「それ」を見ると自殺してしまうのかといった理由も一切明示されない。

急に全人類が自殺し始める…という点からは否が応でもシャマランの『ハプニング』(08年)を思い出してしまう。そして視界が奪われる…という点では、全人類が原因不明の失明状態に陥っていく『ブラインドネス』(08年)との類似性が。

実際、本作はこの2本の映画とよく似ていて、わりと早い段階で「あー、またコレやるの?」と思った人も多いのでは。

もう言っちゃいますね。

宗教映画です。

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ヒワの聖母

本作は2つの時間軸が同時進行する。

ひとつは妊娠中のサンドラ姐さんが匿われた家で約10人の生存者と共同生活を送るシーケンス。ここでは室内を舞台にしたサバイバルが描かれている。『鳥』(63年)とか『ゾンビ』(78年)みたいな定型通りのよくある密室劇ね。

もうひとつは、キッズ2名を連れたサンドラ姐さんが目隠しした状態でどこかへ向かおうと右往左往するシーケンス。このシーケンスでは鳥を入れた箱(バード・ボックス)を抱えた三人がボートで川下りをした果てに盲学校という楽園に到達するまでが描かれている。

女ひとり、キッズ二人、そして鳥。

どうやらこれはラファエロが絵筆を振り回してお描きなさった『ヒワの聖母』という絵画をモチーフにした作品のようです。

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ラファエロ作『ヒワの聖母(1505年)

 

この絵に出てくるゴシキヒワという鳥は受難の象徴から転じて救世主の意味も併せ持つワンダホーな鳥。本作における受難とは川下りのこと。川とはキリストがヨハネから洗礼を受けた場所。そして『ヒワの聖母』に描かれた二人のキッズこそがヨハネとキリスト。その中央に描かれた別嬪さんは聖母マリア、つまりサンドラ姐さんの事だろうな。

映画終盤、彼女たちが辿り着いた盲学校には多くの盲人がキャッキャ言いながら楽しそうに暮らしていた。「それ」を見ることができない彼らは、だから謎の自殺現象から唯一解放された最強の人種なのである。なるほどねー。

映画を観たあとに少し調べてみると、新約聖書においては障害者は神に最も近い存在なんだとか。障害者は障害者ゆえに既に罪を許されているんだって。そんなもんかねぇ。
また、見ると自殺してしまう「それ」とはマクガフィン*1のようなもので、それ自体には大した意味がないのだろう。自殺したくなるほど悲しい過去、すなわち人間が本能的に抱く不安、恐怖、怯えといった概念そのものなのかもしれない。

 

余談だが、第一幕で自殺したサンドラ姐さんの姉をサラ・ポールソンが演じている。

サンドラ姐さんとは『オーシャンズ8』(18年)で共演したばかりのサラ・ポールソン。そんなサラ・ポールソンが「ポールソン」と言いながら自殺してしまうのだ。とても悲しい話だよねえ。

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姉妹役のサンドラ姐さんとポールソン女史。


◆ひとまずサンドラ・ブロッカーは観ておくとよい◆

本作を手掛けたのはスサンネ・ビア『アフター・ウェディング』(06年)『未来を生きる君たちへ』(10年)で知られるデンマークの女流作家で、当クソブログでは『悲しみが乾くまで』(07年)を過去に取り上げたことがある。

ビアの全作を観ているわけではないし作家性を研究したこともないので当てずっぽうでモノを言うが、この人は接写に並々ならぬ関心がある作家と見た。

ビアの精髄はクローズアップにあり。

目隠しした状態でウロウロするサンドラ姐さんをアップショットとロングショットで代わりばんこに捉えていて、アップショットでは「見えない恐怖」を疑似体験させつつ、ロングショットでは「見えない人が手探りで歩く危なっかしさ」を客観視させるなど、ビアの旨味がよく出た撮影になっているのではないでしょうか。


ただ、何をクローズアップするのか? という選択肢が極端に狭くて、そこが本作のネックでもある。

だって 眼でしょ?

「それ」を見てしまった人の瞳のクローズアップ、それを見まいとする人の閉じた瞼のクローズアップ。

ビアお得意の接写はことごとく瞳へと向けられ、その演出の単調さが物語を弛緩させてしまう。ただでさえこの手の映画にしては上映時間が124分とやや長めなのに演出まで単調なので尚のこと体感時間が延びてしまう。一言でいえばかったりィ。

生まれくるキッズに愛着が持てないサンドラ姐さんが目隠しサバイバルを通して母性に目覚めていく…といった心的変化も2つの時間軸をカットバックするたびに寸断されてしまい、まるで帳尻が合わない。

よくはぐれたり溺れたりするキッズを見つける度に「抱きしめる」といった身体性や、道しるべの紐を「手繰る」という主題性のなかにも親子の繋がりみたいなものが特に感じられないのが残念だ。


いかなサンドラ・ブロッカーの私でも擁護するのが少々苦しい映画である。

生存者の拠点となる家の持ち主をジョン・マルコヴィッチが演じているのでとりあえず映画ファンは喜んでおけ、というのが精一杯のアピールポイントで、基本的には『ハプニング』と『ブラインドネス』を『鳥』で割ってみました…ということ以外のサムシングはナシ!

マルコヴィッチの妻はサンドラ姐さんを助けようとして「それ」を見たために死んだというのに、ことさらサンドラ姐さんが罪悪感にまみれることもなければマルコヴィッチが怨恨をコネることもないので、生存者サイドのドラマもまぁ平坦なものである。

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生存者たち。マルコヴィッチにピントが合っておりません(右のハゲ)。

 

しかァーしッ!

サンドラ姐さんの撮り方は良ォーしッ!

目隠しサンドラ猟銃サンドラ泥まみれサンドラ…といった具合に、色とりどりのサンドラがブロックブロックしたショットが充実しているので、私のようなサンドラ・ブロッカーはただ黙して虹色サンディに恍惚の眼差しを向け「おっほ」などと言って時おり気色の悪い笑みをこぼしていればよい。

 

映画配信後、この映画のマネをした人民が目隠しをしながら何かをする動画をTwitterやYouTubeに次々と投稿する「バード・ボックス・チャレンジ」なるものが流行した。くだらないので見ていないが、どうせ目隠し状態で料理とかして「あっつー」とか「やっばー」などとバカ騒ぎする様子を映しただけのゴミ動画なのだろう。

「デモリションマン・チャレンジ*2」もやったらどうですか?

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これは猟銃サンドラですね。

*1:マクガフィン…映画や小説において登場人物への動機付けや話を進める為だけに用いられる道具のこと。例えばアタッシュケース。主人公と敵が奪い合うアタッシュケースは登場人物を動かすために便宜上用意された道具に過ぎず、ケースの中身が何なのかについては全く重要ではない。つまりマクガフィンとはそれ自体では何の意味もなさないが物語を進める上では必要不可欠な道具のこと。マンガ『ワンピース』で言えば「ひとつなぎの大秘宝」がマクガフィンに当たる。

*2:デモリションマン・チャレンジ…用途不明の貝殻を使ってウンコを成し遂げるという挑戦。映画『デモリションマン』において、近未来で目覚めたシルベスター・スタローンがウンコをしに行ったところトイレットペーパーの代わりになぜか貝殻が三枚置いてあって「どうやって使うんだ?」と訊ねると仲間がクスクス笑う…という謎シーンがある。貝殻の使用法は未だに不明。