バンボロ先生がテコの原理を使って若者たちを殺していくぞ!
1981年。トニー・メイラム監督。ブライアン・バッカー、ブライアン・マシューズ、リア・エアーズ。
全身火傷を負った男が殺人鬼と化し、キャンプ場にやってきたガキどもを植木バサミで血祭りにあげる。
おはようございます。
最近、マンションの右隣りと真上の住人が夜中に騒音を立てるので苦情の手紙をポストに入れる作業に忙殺されています。おそらくどちらも大学生。最近の子ってインターホンを鳴らしても出てくれないのよねぇ。
マンションの騒音トラブルって、相手が良識なき大学生の場合だと管理会社に電話して注意を促してもらってもほとんど効果がないと思うんです。
まぁ、管理会社に相談するのが手続きとしては賢明なのだけど、実際的には直接交渉した方が話が早い。それが功を奏して、右隣りの住人は静かになってくれたけど、最近になって真上の住人が夜中に物音をドンドン立てるようになったのね。なので今は真上と戦っています。騒音を立てられるとレビューが書けない!
こちらとしても厄介事は避けたいので、なるべくぶち切れないようにして静かに解決したいと思います。
というわけで本日は『バーニング』です。昨日とは打って変わって、それはもうあっさりとした文章ですねん。
◆テコ使い殺人鬼◆
スラッシャー映画全盛の時代に作られたカナダ製のB級ホラーである。
キャンプ場の管理人がワルガキどものちょっとした悪戯で火だるまになってしまい、その恨みからキャンプ場にやってきた若者たちをむやみに惨殺するサマーシーズン限定の殺人鬼と化す。ふむふむ、なるほど。キャンプ、殺人鬼、若者殺し。
前年公開の『13日の金曜日』(80年)を真正面からパクった勇気。
その勇気を讃えようではないか。
トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』(74年)やジョン・カーペンターの『ハロウィン』(78年)が生み出したスラッシャー映画(殺人鬼映画)の傍流から雨後の筍のように亜流作品が濫造されたが、まさしく本作もそんな有象無象のひとつ。
ちなみに本作の殺人鬼は「クロプシー」という名前だが、なぜか日本の配給会社が「バンボロ」と勝手に命名したことで日本のホラーファンの間ではバンボロとして親しまれている。
なんだろうな、この勝手に命名イムズ。テレビ放送時に『バタリアン』(85年)に出てくる名もなきゾンビに「オバンバ」と勝手に命名した金曜ロードショーの暴挙が思い出されます。
バンボロさん。
さて、売れっ子殺人鬼たるもの皆それぞれに専用武器がある。装備を欠かさないからこそ正確かつ迅速に人を殺せるのだ。ゆえに武器の話をしなければなりません。
ブギーマンは包丁を、ジェイソンは鉈を、レザーフェイスはチェーンソーを愛用するが、バンボロの基本装備は植木バサミ。
これがなかなか怖い。鉈や包丁のような刃物は「切るための物」だが、植木バサミは「切り落とすための物」。日常の危機について考えた場合でも、包丁やカッターナイフよりハサミの方がよっぽど恐ろしい道具だと私なんかは思うんす。裂傷はだいたい癒えるけど切断されたものは二度と生え変わってこないからだ。欠損の恐怖である。わかりますか。
しかも! ハサミはテコの原理でモノを切るので、植木バサミで人を殺しまくるバンボロはやってることの残酷さに比べて大して労力が掛かっていないのだ!
何人殺っても疲れない! テコ使ってるから!
すなわち植木バサミはコスパに秀でた殺人グッズなのである。そこに目をつけたかバンボロ…という感じである。
私がこんなことを言うと、すぐにジェイソンやレザーフェイスのファンが「鉈や包丁でも目いっぱい振れば人体ぐらい切断できるだろ」と反論してくるが、ジェイソンやレザーフェイスはもともと怪力の持ち主だから容易く切り落とせるだけ。私は道具論について述べているのだ。
バンボロは最小の力で切断できるんだぞ!
なぜなら植木バサミだから!
テコ使ってっから!!!
【気づき】バンボロ賢い。
【まなび】テコはつよい。
◆「死ねばいいのに!」を叶えてくれる殺人鬼たち◆
さて。ワルガキどもに大火傷を負わされたバンボロは病院に担ぎ込まれて一命を取り留め、5年後に退院してストーンウォーター・キャンプ場を訪れる。この時点ではまだテコ使いにはなっていないが、街で娼婦をひとり殺っているので殺人の感覚は掴んだようです。
ストーンウォーター・キャンプ場では多くの高校生がサマーキャンプを楽しんでいた。俳優名がわからないのでもう仮名でいくが、なぜバンボロがこのキャンプ場に出没したかと言うと5年前に彼を焼いた不良グループの一人・ジャスティスたけるがキャンプに参加していたからである。
ジャスティスたけるは学徒たちをまとめるリーダー的存在で、周囲からはジャスタケの渾名で親しまれていた。見た目は爽やかイケメン。責任感が強く、誰に対しても平等で、まさに非の打ち所がない優等生タイプである。ガールフレンドは学園一の美人、ジャスコ育子。
こんなに外見も性格もいいジャスタケが「バンボロ・バーニング事件」に加担していた元不良だなんて俄かには信じがたいが…
い・る・ん・で・す・よ!
こ・う・い・う・奴!
かつては悪行の限りを尽くしていたビチグソ野郎が、進学なり就職なり生活環境の変化に乗じて善人の仮面を装着。社会に適応。どんどん昇進。昔の自分のおこないを「黒歴史」の一言であっさり帳消しにしてのうのうと勝ち組人生を謳歌している奴らがなァ!
いけ、バンボロ!
テコの原理でジャスタケを殺せ!
ジャスティスたける(左)とジャスコ育子(右)。
私は、無軌道な若者を片っ端から惨殺する『13日の金曜日』のジェイソンを風紀委員長と呼んでいるのだが、スラッシャー映画における殺人鬼というのは基本的に正しい奴らだと思っている。もちろん法律的な意味ではなく道義的な意味でな。
スラッシャー映画における殺人鬼とは、普段われわれが「死ねばいいのに!」と思うような非常識な連中や欺瞞に満ちた奴らを屠ってくれる死刑執行人なのだ。
ゆえにスラッシャー映画が保証するものは緊張感と爽快感である。映画の中では何人殺しても罪にならないし誰もなんとも思わない。その意味でスラッシャー映画の殺人鬼は最強なのである。たとえ主人公に成敗されても、観客という応援者の加護のもとに何度でも甦り、何十年経ってもシリーズが作られる。われわれが日常の端々で抱える「死ねばいいのに!」というフラストレーションは殺人鬼への出動要請だ。
逆にいえば、完璧な博愛精神と世界平和が訪れたときがスラッシャー映画の命日だが、安心しな、そんな日は永久に来ないから。
必殺仕事人。
◆突貫工事まるだし映画◆
キャンプでジャスタケを見つけて怒り狂ったバンボロは、ジャスタケだけでなく虐められっ子の伊地目ラレ夫やバカ男と付き合っている美瑠芽ナイ子などさまざまな学生を見境なく襲っていく。全部で10人ぐらい殺したのかな。
だが、ラレ夫を殺そうしたときにジャスタケが助けに駆け付け、二対一で責められたバンボロはサブウェポンの火炎放射器を奪われて逆に自分が焼かれてしまい「デジャブー」と言いながら死んでしまいました。
またバーンされてもうてるやん。
二度燃やされる男、バンボロ先生。
そんなわけで映画は終わっていくのだが、ま~~、映像表現は酷いものである。
空間処理めちゃめちゃ、カットバックだらだら、目線が合ってない、同一ショットの使い回し、レンズフレア、ピンボケetc…。本作は『13日の金曜日』に便乗してわずか1年後に公開された作品なので突貫工事まるだしといった印象である。たぶん一週間ぐらいで撮ってるよねっていう…。
また、緊張感を高めるための「アタックまでのモーション」がクドい。シャワー中の女が人の気配を感じてシャワーカーテンを開けるまでに2分近くかける。その間に俺もう飽きてる。
アタック…霊や殺人鬼が人間に危害を加える瞬間。
その後にようやくアタックが来ても、カメラ振り回しすぎ&変なタイミングでカット割り過ぎで何がどうなってるかまったくわからない…というマイケル・ベイ現象が巻き起こっていて…。散々引っ張っておいて画面すらロクに見えないとはな。
オレの心が怒りでバーニングだよ。
そんなこんなの『バーニング』なのだけど、本作に関わった映画人はなかなかの大物揃いである。
何といっても、ゾンビ映画好きにとっては神様みたいな存在のトム・サヴィーニ御大が特殊メイクを手掛けている。サヴィーニは『13日の金曜日』の特殊メイクも担当しているね。キャラクターが寝転んだ状態で首を切られるシーンで役者を地面に埋めて顔だけ出し、首から下を人形にすり替えるという『13金』のアイデアも本作に流用されていた(ちなみに『13金』でそれを演じたのがケビン・ベーコン)。
次に音楽。
本作では『サスペリア』(77年)のゴブリンよろしく劇伴が流れまくるのだが、その作曲者がイエスのキーボードを担ったリック・ウェイクマン。キーボーディストの第一人者である。プログレ好きにはたまらないね!
リックだけでなく、例えばキース・エマーソンなんかも『インフェルノ』(80年)や『幻魔大戦』(83年)の音楽を手掛けているように、プログレッシブ・ロックのプレイヤーが映画音楽を担当することってままあるんだよな。やっぱり相性がいいのかしらね。
プログレッシブ・ロック…70年代に隆盛した演奏主体の超絶技巧派ロック。一曲20分越えの組曲なんてザラで、歌パートはほとんどない。ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー、イエスがプログレ四天王。
最後は見えざる人々。
鑑賞中は確信が持てなかったのだが…無名時代のホリー・ハンターが役名すらない脇役として出演していた。当時23歳、これがデビュー作(メチャかわいい)。
そして本作のプロデューサーはMeToo運動の果てに性的暴行でとっ捕まったハーヴェイ・ワインスタイン先生。ミラマックス時代の初期作である(のちにワインスタイン・カンパニーという自らの映画会社を設立して『グラインドハウス』や『愛を読むひと』などを製作する)。
あー。それにしてもMeToo運動ってもう2年前になるのかー。
結局バーニング(炎上)したのはこの人だったな。
左がホリー・ハンター。めちゃ若! めちゃカワ!