シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

インスタント・ファミリー

養子縁組制度をブラックジョークで斬った快作。

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2018年。ショーン・アンダース監督。マーク・ウォールバーグ、ローズ・バーン、イザベラ・モナー、グスタヴォ・キロース、ジュリアナ・ガミッツ。

 

里子を迎え入れることを決めたワグナー夫妻は、1人だけ引き取るつもりで候補の子どもたちと面会するが、成り行きで3兄弟の親になることに。手探りの子育てに悪戦苦闘する2人は、長男フアンや末娘リタとはどうにか打ち解けたものの、反抗期の長女リジーとの距離はなかなか縮まらない。そんな中、服役中の3人の実母が出所することになり…。(映画.comより)

 

どうもおはよう。最近むちゃむちゃ眠いです。春なのかなぁ?

そうそう、最近リアルライフで知り合った人間が筋金入りの映画マニアでした。

そうとは知らず、その人間と初めて会った日に「どんな映画観るんですか?」と質問された私は、内心「うるさいな」と思いながらも「最近観た中だと『アリータ バトル・エンジェル』(19年)が存外よかったです」と上澄み丸出しの回答をしたあと「人間はどんな映画を観るン?」と質問返し。

したところ人間「カザン、コルブッチ、ファスビンダー、アルドリッチ。日本だと黒沢清」と言う。

アリータ発言撤回していいかな?

ちょっと待ってよ人間。まるで僕がバカみたいじゃない。

こっちは軽くキャッチボールするだけだと思ってたのに全力投球してくんなよ。

ド頭に直撃しとんねん。作家列挙という名の剛速球が。ヘルメットしてなかったら陥没してたぞ、僕のかけがえのない頭蓋が。

僕は驚きのあまり「こんなのアリータ…?」って思いました。そのあと人間とは『キッスで殺せ!』(55年)の話題で軽く盛り上がりました。と同時に、「初対面の人間と『キッスで殺せ!』の話題で軽く盛り上がる言論空間って何なんだろう」とも思った。

そんなこって本日は『インスタント・ファミリー』です!

正式な邦題は『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』だけど、シベリア級にサムい副題が癪に障ったので省略しております。まったく、一体どんな情操教育を受けてきたら『本当の家族見つけました』なんて小っ恥ずかしいタイトルを思いつくのだろう。「冷やし中華はじめました」じゃないんだから。

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◆養子縁組コメディ◆

いつしか劇場公開はおろかレンタルビデオ店に行っても縮小傾向にあるコメディ映画。ホラーやミュージカルは次々と息を吹き返しているのにコメディだけが全く盛り上がっていない。なんたるザマだ。

90年代を彩ったエディ・マーフィ、ロビン・ウィリアムズ、ジム・キャリーは消滅し、ゼロ年代を盛り上げたベン・スティラー、アダム・サンドラー、スティーヴ・カレルも老体化。さて10年代はと言うと、あら…? コレっていうコメディアンなんていたか?

明らかにシーンに活気がない。せいぜい某バチェラー野郎ども某下品なクマが当たったぐらいだろ。ゼロ年代から活躍していたサイモン・ペッグ、ウィル・フェレル、セス・ローゲン系列はニッチなコメディファンだけに支持されてるって感じだしなー。

まぁ、もともとコメディとは「ムード」を指す言葉であるからして他のジャンルに吸収されやすい部類ではあるが、それにしてもここ10年の衰退ぶりは目に余るものがある。5年前コテンパンに酷評した『ムービー43』(13年)の有難さが今になってようやく分かったよ!

『ムービー43』…信じられないほどの超豪華キャストで贈る下ネタアンソロジー。主なキャストはリチャード・ギア、ジュリアン・ムーア、ヒュー・ジャックマン、ケイト・ウィンスレット、デニス・クエイド、ユマ・サーマン、ナオミ・ワッツ、ハル・ベリー、エリザベス・バンクス、ジェラルド・バトラー、テレンス・ハワード、エマ・ストーン、クロエ・グレース・モレッツなど。

 

さて、そんな息も絶え絶えのコメディシーンに心肺蘇生を試みるのがショーン・アンダース。本作『インスタント・ファミリー 冷やし中華はじめました』は子を望む夫婦が養子縁組の制度を知って里子を引き取るハートフル・コメディなんだ。

ショーンは『空飛ぶペンギン』(11年)『なんちゃって家族』(13年)など家族をテーマにした作品を数多く手掛けるコメディ畑の脚本家で、本作は彼の里親体験をもとに自ら監督した作品となってございます。

養子縁組の制度をつまびらかにした内容なので「育児放棄」や「児童虐待」といった重いワードもちらちら出てくるが、基本的には笑いどころ満載の陽性ホームドラマなのでバカヅラ引っ提げて痴呆のように画面を眺め、時おり「あはん、あはん」と不思議な笑い声を上げていればよいわけです。こういうところがアメリカ映画の強味だと思うな。日本映画で養子縁組なんて扱うとシャレのひとつも通じない弩シリアス路線にしか行かないもんなぁ。

 

夫婦役にはマーク・ウォールバーグローズ・バーンが起用されている。

ローズ・バーンは近年コメディ映画への出演が目立ち、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年)『ネイバーズ』(14年)でゴリゴリ活躍中。

一方のマー公。大体いつも銃を振り回してるか腕を振り回してるような筋肉ゴリラ俳優だがコメディもお手の物。やはり『テッド』(12年)が有名だが、本当におもしろいのは『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10年)

そして二人をサポートする養子縁組施設のソーシャルワーカー役にオクタヴィア・スペンサー新種のポケモンです。例によって面倒見のいいおばさん役だが、本作では息をするようにブラックジョークを吐きまくるクセモノを演じていた。

なお、里子の3人姉弟を演じたイザベラ・モナーグスタヴォ・キロースジュリアナ・ガミッツらは皆一様にベリーキュートであった。とりわけ蓮っ葉な長女を演じたイザベラ・モナーちゃんのチャームがすげえ。2年に一人の逸材だ!

モナーちゃんは2001年生まれの18歳なのだが、とにかく肩書きがすごくて…女優、歌手、声優、作詞家、ダンサー、ウクレレ演奏家らしい。しかも本作のエンディング曲も彼女が歌っている。

あまりにイカつい。

弱冠18歳で6つの肩書きを持つとは…。百歩譲って女優、歌手、声優、作詞家、ダンサーまでは分かる。

最後の「ウクレレ演奏家」ってなに。

ウクレるの? モナーちゃんが? 大抵の子はピアノやギターに走りがちなのに…モナーちゃんはウクレていくというの? 他を顧みずに?

あまりにイカつい。

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こいつらがインスタント・ファミリーです(ウクレレ演奏家のモナーちゃんは画像下の左側)。

 

チャリティー好きの白人ボランティア

『インスタント・ファミリー 冷やし中華はじめました』は養子縁組の厳しさを抜群のユーモア感覚でサラリと描いた作品でした。

映画序盤の主舞台は養子縁組施設。ここではグループセラピーと8週間の講習を通して里親希望者たちの交流が描かれていく。

それを終えたマー公とローズは幼い里子を一人だけ受け入れるつもりだったが、養子縁組フェアで出会った15歳のモナーから「私のことは気にしなくていいから。小さい子たちを見にいけば?」と嫌味っぽく言われたことに腹を立て、あえて彼女を里子に選んだ。

まず驚いたのは養子縁組フェアという珍妙怪奇なイベントである。里親希望者と児童養護施設の子供たちがコンパみたいなことをして、そこで里親希望者は里子に迎えたいキッズを品定めするのである。ペットショップじゃあるまいし。主催者のO・スペンサーは「まるで買い物よね」と自虐的にこぼす。また、10歳を過ぎたキッズにはなかなか里親がつかないという厳しい現状も。だから自分が売れ残り扱いされることに慣れたモナーは「私のことは気にしなくていいから」と言ったのである。

 

さて、モナーに弟と妹がいることを知らずに里子に選んだ夫婦はいきなり5人家族になり、毎日がてんてこ舞い。モナーは与えられた部屋の壁を真っ黒に塗るようなゴス女で、弟のグスタヴォは何をやっても失敗するウスノロ、妹のジュリアナは気分の浮き沈みが激しいピーキー娘であった。

そのあとは典型的なドタバタホームコメディの激走となるわけだが、随所に里親への風刺的な眼差しが注がれていたのが気に入った。予想外に厳しい里親生活にうんざりした夫婦は、ジョークで「もう無理だ。子供たちを施設に返そう」と言う。このセリフは生半可な気持ちでキッズを受け入れた世界中の里親への強烈な皮肉である。ショッピング感覚で子供を引き取って育児に疲れたらクーリングオフ? ばかな。

ローズ「勿論そんなわけにはいかないわよね」

マー公「腹を括ろう。俺たちはもう家族なんだ」

また、反抗期のモナーはローズに向かって「母親ヅラしないでよ。チャリティー好きの白人ボランティア!」と喝破する。か~、キョーレツ。やたらと養子を持ちたがるハリウッドセレブを一刀両断!(某ジェリーナ・ジョリーとか)

そんな折、服役中の3人の実母が出所したことで事態は急転。モナーは実のママンと一緒に暮らしたいと主張した。もちろんマー公とローズは3人を養子に迎えたいと考えているが、と言ってしかし、モナーを実母と無理に引き離してまで家族になるのは親のエゴ。キッズの幸せを第一に考えて正しい選択をしなければいけません。そしてクライマックスの舞台は家庭裁判所に…。

どうなるんだインスタント・ファミリー!

どうなるってんだ!!

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ついに冷やし中華をはじめるというのか!?

 

◆なぜかグッとくる「カチコミ股間蹴り事件」◆

全編これ洒落のめし。そのセンスに惚れのめし。

ラテン系の3姉弟を白人家庭に迎えることの難しさを『アバター』(09年)の白人救世主論に例えて議論するマー公。そして黒人の男の子を養子にして将来スポーツ選手にしたいと言った里親希望者に「まんま『しあわせの隠れ場所』(09年)じゃん!」とツッコんでむちゃくちゃに嫌われたローズ。

あるいは「私は4~5歳の白人の子どもが欲しいの♡」といった里親希望者に対して「オーケー、在庫があるか確認してくるわね」と返したO・スペンサーは、ともすれば不謹慎の誹りを受けかねないほど際どいブラックジョークを飛ばしまくる。

まじめな題材をまじめに扱うことほど退屈なものはないので、彼らのスパイシーな失言や毒舌には快哉を叫ばずにはいられない。かいさいー!!

実際『インスタント・ファミリー』は養子縁組制度という社会的にやや深刻なテーマをチューインガムみたいに軽やかに描くことで、却ってこの制度への関心や理解をわれわれに促すことに成功している(映画観たあと2時間調べちゃったもんね)

これがコメディの力だな。

「笑いに変える」というのはこういうことですよ。ただ単に「茶化す」のがコメディではない。

 

また、ここまで徹底的に洒落のめしているからこそ、思いがけないタイミングで放たれる里親と里子たちの心温まる交歓がわれわれの胸にクリティカル・ヒットするのだ。

ずっと名前で呼ばれていたマー公とローズが下の子2人から初めて「パパン」、「ママン」と呼ばれるに至ったエピソード、そしてハグを嫌っていたモナーがようやく心を開いて二人の胸に飛び込むクライマックスでは不覚にも鼻をタレてしまいました(挿入歌に使われたウイングス「幸せのノック」やジョージ・ハリスン「美しき人生」がまた泣かせる)。

映画全体が安いメロドラマに陥らないよう細心の注意を払いながらテリングされていて、なにより大人たちのエゴから片時たりとも目を離さないショーン・アンダースの警備体制に拍手を送りたい。家や親を失ったキッズを引き取ることの責任の重さは、その当事者だったショーン自身が誰よりもよく知っているだろうから。

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養子縁組施設ではソーシャルワーカーと里親たちが連携を密にする。O・スペンサーのコロコロとした愛らしさも健在!(画像左)

 

それでは最後に大好評コーナー「好きなシーンを3つ挙げよう!」をします。

ひとつだけ挙げます。

というわけで、いきなり第1位の発表だ!

 

☆好きなシーン第1位☆

未成年のモナーをたぶらかして自分のポコチン画像を送っていたビチグソ野郎が彼女の通う学校の清掃員だと知った夫婦が白昼堂々と学校に乗り込み清掃員の股間を連続蹴りするシーン。

マー公「おら!」

ローズ「おら!」

マー公「ヘイ!」

ローズ「ヘイヘイ!」

マー公「娘に手を出すな!」

ローズ「死ね、性犯罪者!」

二人は大勢の生徒が見ている前で清掃員をしこたま蹴った。赤っ恥をかいたモナーは二人のことを一層嫌い、マー公とローズは清掃員ともどもパトカーで連行されてしまう。しかも自分たちの車に幼いグスタヴォとジュリアナを残したまま…。

二人が起こした「カチコミ股間蹴り事件」はあまりに浅慮な行動で、結果的に3人のキッズを傷つけただけでなく親権調停で不利な材料にもなってしまったが…それでもこの二人はブレイブハートだとおもった。

正しい・正しくないは問題ではない。里子の…それも未成年のモナーが性の毒牙に掛けられた以上、彼らは清掃員の股間を蹴らねばならなかったのだ。法もモラルも超えて。例によってこのシーンも半分ジョークで撮られているが、私はなんだか熱いものを感じてグッときちゃったな。

そんなわけで本作は「インスタント・ファミリー」が「真のファミリー」になるまでの紆余曲折を描いた骨太なホームコメディである。ソウルフルな掘り出し物だった。

なお、マー公はマウンテンゴリラみたいな顔してずっとフガフガ言ってました。

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2年に一人の逸材イザベラ・モナーちゃん。エンディング曲も自分で歌ってえらいね!