シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

われらが背きし者

ユアンのマクレガーがまくれ上がったぞ!!

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2016年。スザンナ・ホワイト監督。ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、ナオミ・ハリス。

 

イギリス人大学教授ペリーと妻のゲイルは、モロッコで休暇中にロシアンマフィアのディマと偶然知り合う。ディマから組織のマネーロンダリングの情報を聞いたペリー夫妻は、1つのUSBメモリをMI6に渡してほしいとディマに懇願され、突然の依頼に困惑するが、ディマと彼の家族の命が狙われていると知り、その依頼を仕方なく引き受けてしまう。それをきっかけに、ペリー夫妻は世界を股にかけた危険な亡命劇に巻き込まれていく。(映画.comより)

 

おはよう、民のみんな。

これまでアホみたいに書いてきた前書きを一冊のエッセイにして出版したら結構いい感じになるのかなあ。

前書きなんてやってられるか。ふざけ倒せ。最近まじで書くことがなくて困ってるというか逆に腹が立ってきたので、今日から俳句を発表していきたいと思います。パッと思いついたことを五七五にするだけなので季語も意味もありません。

では今日の一句をどうぞ。

 

召使い

人は王様というけれども

本当のところは召使い

 

すばらしい句を生み落としたところで本日は『われらが背きし者』です。

※本文に出てくる「まくれ上がる」という概念は僕にもわかりません。

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◆今回はまくれ上がるかも!◆

ようやくこの人の主演作を扱うときがきましたか。皆までユアンで。

「現代女優十選」では8位の座に甘んじたものの、私ふかづめが2019年にニューヨーク・タイムズで発表した「付き合いたい女優TOP10」では第1位、「膝枕されたい女優TOP10」においても第1位、「笑顔の似合う芸能人TOP10」では第3位、「休日をパルケエスパーニャで過ごしたい相手TOP10」第5位、「マリオパーティでチームを組みたい有名人TOP10」第2位…などなど輝かしい経歴を持つプリティ・スター。

ユアン・マクレガー

 

ここ数年は『美女と野獣』(17年)『プーと大人になった僕』(18年)などディズニー大作への出演が目立つが、ユアンのマクレガーがまくれ上がるのは英国製の小ぶりな映画。正味の話『ムーラン・ルージュ』(01年)『ビッグ・フィッシュ』(03年)で綺麗に殺菌されたユアンなど何ひとつ面白くないのです。

しかし今回は4年ぶりのイギリス凱旋作。

唯一の懸念点はオファー選球眼の鈍さ(ユアン作品には失敗作がやたら多い)。マクレガーつってるのになかなかまくれ上がらない困ったユアンだが、今回は大丈夫ですぞ、マクレガリストの皆さん。そりゃあ『ゴーストライター』(10年)のような傑作を想像されても困るが、まずまずの佳作におさまっていたので安堵しております。

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さっそく本題に入ろう。

本作はMI6で働いた経験を基に数々のスパイ小説を手掛けた作家ジョン・ル・カレの原作である。『ナイロビの蜂』(05年)『裏切りのサーカス』(11年)などが映画化されているね。

そして本作。倦怠期に差しかかったユアン・マクレガーとナオミ・ハリスの夫婦がモロッコでの休暇中に謎多き男ステラン・スカルスガルドと親しくなるが、彼の正体はロシアン・マフィアで資金洗浄をしている極道だった。組織のボス・プリンスに目をつけられたステランは、ユアンが帰国するときにUSBメモリを託して「MI6に渡してほしい」と告げる。そのUSBにはマネーロンダリングの証拠となる情報の一部が入っていた。ステランは証拠提供の交換条件として家族とイギリスへ亡命しようとしていたのだ。ユアンからUSBを受け取ったMI6のダミアン・ルイスはプリンスを叩くためにステランと結託する。

この後なにが起きるのか…。ユアンのマクレガーはまくれ上がるのだろうか!?

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ガキに蹴り上げられたユアン。

 

◆教授とマフィアの友情を超えた友情◆

この映画のおもしろさはユアン夫妻の立ち位置である。

図式的にプロットを見る限りではどうやら本作はマフィアとMI6の政治的駆引きを描いた作品だが、その中心人物となるのは内通者のステラン。裏社会から足を洗うためにMI6に協力して亡命を図る人物だ。つまりマフィア組織とMI6を繋げる媒介者である。

ではユアン夫妻はどういう存在かと言うと、彼らはステランから預かったUSBをMI6のダミアンに届けただけのメッセンジャーだ。ユアンは大学教授で、ナオミは弁護士。紛うことなきパンピー。本筋とはまったく無関係の脇役に過ぎない。

だが『われらが背きし者』はこの脇役の視点から事の顛末を見届ける構成になっている。いわばユアンはこの映画の主役でありながら物語上の脇役なのである。これぞイギリス時代の『ブラス!』(96年)『リトル・ヴォイス』(98年)を彷彿させるユアン使いの真骨頂。早くもまくれ上がりそうだ!

 

さらにおもしろいのはステランとユアンを運命的に結びつけるホモソーシャルな友情である。

ファーストシーンでは妻ナオミとのセックスが上手くいかず夫婦間の溝に煩悶としていたユアンだが、そんな彼の前にステランが現れ「一杯付き合えよ」と言って魅惑的なパーティに連れ出す。一目でユアンのことが気に入ったステランは「明日も遊ぼうよーっ!」と言ってテニスや誕生日会に誘う。次第に楽しくなってきたユアンはナオミを放ったらかしにしてステランとつるむようになる…。

かくして分別ある「夫」は悪友とバカをやることに夢中の「男の子」へと退行するのであった。

もはや相思相愛の二人。ユアンはステランが極道だと知ってもまったく動じることなく、むしろ謎の使命感に燃えてステランを救うために一肌脱いじゃうのであった。ただの一般市民なのに。

松任谷由実の「守ってあげたい」のごとき母性に目覚めたユアンは、マフィア組織のパーティに潜り込んでステランと彼の家族を脱出させたり、追手を振りきってアルプスの隠れ家に潜む…といったMI6の危険な計画に首を突っ込むようになるが、その行動原理は「ステランへの友情」だけではない。「冒険心」だ。

大学教授のユアンは知的で慎ましい人生を送ったきたエリート。だが、それゆえに住む世界が違うステランを友人に持ったことで「危険な世界」の香りに魅了されていく。マフィア、政治、MI6。手に汗握る脱出劇、命からがらの逃走劇、騙し騙され陰謀劇!

ステランが組織の追手に殺されそうになった刹那、ユアンはこれまで手にしたこともない拳銃を握ってはじめて殺人を犯し、大好きなステランの命を救った。

You don't have to worry.worry

守ってあげたい あなたを苦しめる全てのことから

私が思うに、ユアンはこの厄介な事件に「巻き込まれた」のではない。ステランと出会ったことで初めて知った裏社会に冒険心が掻き立てられて「自ら巻き込まれにいった」のだ。

恋はスリル、ショック、サスペンス!

色んなJ-POPが渋滞しとる。

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ユアンは大好きなステランを一生懸命逃がします。

 

ステランの方も無償の協力を惜しまないユアンに恩義を感じ、その柔和な人柄に惹かれていく。

また、MI6のダミアンはあまりに怜悧な合理主義者ゆえに双方から嫌われていたが、やがてステランに同情心を示すようになり、献身的なユアン夫妻に敬意を抱くほどになる。ひょっとするとユアンとステランの関係を羨んでいたのかも。

そしてナオミまでもがステラン一家の亡命計画に助勢したのは罪なき奥さんや子供たちへの哀憫の念ゆえである。また、数々の危機を乗り越えるうちに冷めた夫婦関係も少しずつ修復していく。吊り橋効果というやつかな。彼女に至ってはいつもステランと一緒にいるユアンに「妬いちゃう」とハッキリ言った。

そんなわけで、本作は「出来事」だけを追っていく無機的なスパイ映画ではない。このような人間模様が政治的謀略に満ちたメインストーリーの端々から匂い立つ、実にヒューマンな逸品なのである。

まぁ、はっきり言ってユアン・マクレガーが「人柄」だけでどうこうする人柄サスペンスです。

誰も彼もがユアンの虜。ついにまくれ上がったぜ!

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CIAと密な連携を築くユアン夫妻。

 

◆ユアンの私生活が反映された作品◆

即物的な銃撃戦だとか嘘臭いハッキング描写、あるいは劇的なサスペンスシーンといった目を引くハイライトはなく、善悪二元論さえも拒否したキャラクター造形はどこまでも反ハリウッドの姿勢を取る。

実はダミアンはロシアンマフィアと癒着している元MI6の下院議員を摘発するべく民間人のユアン夫妻を巻き込みながら独断でステランと取引したのだ。その下院議員とは過去に一悶着あったらしく、彼への「私怨」を晴らすために(本部に黙って)ステランと組んだイケないMI6、とんだ公私混同野郎なのである。

したがって、ダミアンの独断専行が「報い」という形でどこに皺寄せするか…というのが静謐なサスペンスになっている。個人的な復讐心に民間人を巻き込んだダミアンや組織に狙われたステランはいつ殺されてもおかしくないキャラクターなのだ。

だから全シーンが不安と緊張の連続。イーストウッド的「凶兆のショット」も胸をざわつかせる。

極めつけは二人の貌。まあ見事な殺され顔なのである。

十分な貫禄と色気すら湛えたステラン・スカルスガルドは映画が進むほどに観る者を惹きつけます。「愛する家族を守るために命はステランない!」というギャグをよく言います(言いません)。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)でスティーブ・マックイーンを演じたダミアン・ルイスも素晴らしかった。徐々に憎めない奴に思えてきて「死んだらダミアン!」と願わずにはいれません。

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スウェーデンが生んだネットリ大臣 ステラン・スカルスガルド(左)、近年活躍中の猿顔バイプレーヤー ダミアン・ルイス(右)。

 

スイス、モロッコ、アスプスなどロケーションも充実している。

また、本作はロン毛と革ジャンのユアンがたっぷりお楽しみ頂けるたいへんお得な作品となっています。革ジャンをワイルドに着こなし黄金のサラサラヘアーを風になびかせるさまはとても大学教授には見えません。

そんな本作のユアンは女性にとっても優しく、女をレイプしている全身タトゥーの巨漢ライダーを見るなり「そんなことはやめろー!」と叫びながら殴りかかったり、女を突き飛ばしたロシアンマフィアの下っ端を見るなり「そんなことはやめろー!」と叫びながら殴りかかるなど、とにかく女に手を上げる奴が許せない様子。やはり私が見込んだ男ユアン・マクレガー、紳士の中の紳士である。到底大学教授には見えない。

だが夫婦関係が悪化した原因はユアンの方にあってだな…。

どうやら大学の教え子と寝てしまったらしいの。

そんなことはやめろー!

 

奇しくもこの浮気エピソードはユアン・マクレガーの私生活とも若干リンクしている。2017年に結婚22年目の妻イヴ・マヴラキスとの別居報道が出たあと、ドラマで共演したメアリー・エリザベス・ウィンステッドとのキス写真がパパラッチされてしまったのだ。

その後、長年連れ添ったイヴとは離婚。スキャンダルとは無縁の愛妻家として知られていたユアンは、娘のクララちゃんから「母を悲しませた最低な男」と痛烈に批判された(クララちゃんは結構口が悪いようで、不倫相手のM・E・ウィンステッドにも「この女はクズよ」と猛烈批判)

そんなユアン・マクレガーの私生活が反映された『われらが背きし者』はなかなか良質な作品でした。

なお、現在ハリウッドではユアン・マクレガー主演の『離婚ウォーズ エピソード3/イヴの復讐』が製作中とのこと。

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 再び独身に戻ったユアン。チャンスは今しかねぇ――ッ!