シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

マッドライダー

亜流上等のなんちゃってマッドマックス!

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1983年。ジュールス・ハリソン監督。ロバート・イアヌッチ、ルカ・ヴェナンチーニ、アリシア・モロ。

 

核戦争のオゾン層破壊により極度の水不足に襲われた荒廃した地球を舞台に、水源を巡って主人公と悪の一味との戦いを描く。

 

おはようございます。私はいつもダラッとした姿勢で映画を観てしまうので近頃はシャキッと三角座りをしながら観る訓練をしています。そのお陰で居眠りが減りました。皆さんは普段どのような姿勢でテレビや映画を観てますか。ソファに凭れてるんですか。座布団ですか。ベッドですか。それとも立ち見なのかなぁ?

もうひとつ訊ねたいのは映画を観るときに部屋の電気を消すかどうかということです。

あ、やっぱり答えなくて結構です。よく考えたら大して気にならないことに気がついた。

そんなわけで本日は 『マッドライダー』です。今回は筋を追った文章ですよ。

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◆マッドマックスの亜流マックス◆

『マッドマックス2』(81年)が世界的に大ヒットしたことで無数の亜流作品が粗製乱造された。核戦争後の荒廃した近未来で一匹狼の主人公が民を虐殺するモヒカンまたはスキンヘッドのヒャッハー族にお灸を据えていく…といったディストピア・サバイバルものである。

マッドマックスが各方面のサブカルチャーに与えた影響は計り知れず、日本からは『北斗の拳』が登場。私にとって「好きなマンガTOP3」に入る作品です。

ちなみに『北斗の拳』は単なるバイオレンス筋肉マンガではなく、『マッドマックス』的な西洋の退廃芸術に通じるSF感覚と『三国志』に顕著な中国戦乱期の哀愁を帯びたドラマを組み合わせて人間の器とか死の美学をニヒリスティックに描き上げた人間論的な作品なのである。

 

さて。亜流大国イタリアも同時期におびただしい数のなんちゃってマッドマックスを世に送ったが、中でもカルト的な人気を博したのが本作『マッドライダー』

それなりに金は掛かってるし撮影的なテクニックもさほど悪くはないが…徹頭徹尾マッドマックスです。だけど面白いんだ、これが!

本稿では2章、3章と進むにしたがって大はしゃぎの様相を呈してしまうかもしれないが悪しからず。気分よく書けたぜぇぇぇぇ。

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◆主人公の意地汚さマックス◆

西暦3000年。世界は核の炎に包まれた!

核戦争によりオゾン層が破壊され、極度の水不足に襲われた地上には一滴の雨すら降らなかった。海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた。

だが人類は死滅していなかったッ!

荒野ではクレイジー・ブル率いるヒャッハー族が跋扈していた。奴らは民を殺戮して水を奪い尽くすような地上のクズである。地下水のありかを知る生存者コミュニティは危険を承知で給水に向かったが、その道中でヒャッハー族に襲われて皆殺しにされた。ただひとり、こっそり逃げた出した少年を除いて…。

水ッ!

人々は生きるために水を求めた。この世界では紙幣などケツを拭く紙切れでしかなかったのだ。いや、水さえあればウォシュレットでケツを洗えるので紙切れすら必要ない。

水を手に入れた者が世界を制するのだッ!

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ヒャッハー族を束ねる悪党、クレイジー・ブル。

 

砂漠に取り残された少年は名をトミーと言った。クレイジー・ブルに襲われた生存者コミュニティのトラックに乗っていた少年だ。どうやら荒野のどこかに地下水を汲み上げる為の巨大施設、通称「オアシス」があるらしく、その場所を唯一知っているのがトミーだったのである。

荒野をぽてぽて歩いているときに車の下敷きになっている男を発見したトミーは、自分をオアシスまで連れていくことを条件に男の命を救った。トミーが名前を訊ねると、男はブスッとした態度で吐き捨てるようにこう答えた。

「俺は『エイリアン』って名だ。水を求めて大地を旅する一匹狼さ」

エイリアン。

明らかに人間なのにエイリアン。こいつの母親は何を思ってこんな物凄い名前を付けたのだろう。まぁ…ひとまず気にしないでおく。人の名前にあれこれ言うのは失礼に当たるからな。

エイリアンはトミーの手から水筒を奪って貴重な水を飲み干してしまった。私は一瞬でエイリアンのことが嫌いになった。なんでトミーを虐めるの。ヘンな名前の分際で。

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トミーの水筒を奪うエイリアン(主人公です)。

 

エイリアンとトミーは行動を共にするようになったが、しばらく歩いているとまたクレイジー・ブルが現れてエイリアンに因縁をつけた。どうやらかつてエイリアンはヒャッハー族の一員だったが、クレイジー・ブルの愛車「エクスタミネーター」をガメて逃亡した過去があるらしい。

エイリアンは怒り心頭のクレイジー・ブルに「オアシスの場所を知ってるトミーを差し出すからオレのことは逃がしてほしい」と懇願して自分だけさっさと逃げてしまった。どこまでカス野郎なんだ。

エイリアンに裏切られたトミーは「水の在処を言え!」と訊かれても決して喋らず、クレイジー・ブルの拷問を受けて右腕をもぎ取られてしまう。そこへエイリアンが舞い戻ってきてトミーをバイクの後ろに乗せ、大地に転がったトミーの右腕を回収して無事逃亡。クレイジー・ブルは怒りでブルブルに震えた。

追手を振り切ったエイリアンは「さっきは裏切ってごめんな。でもお前を助けるための作戦だったんだ」などと言い訳をしながら、回収したトミーの右腕を切断面にくっつけてやった。

きったないガムテープで。

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ガムテープで応急処置を試みるエイリアン。

 

だがトミーは腕を切断されたのに別段痛がっている風でもない。実はこの少年の右腕は義肢になっていたのだ。それを知ったエイリアンはパピヨンという昔馴染みの老修理工のもとを訪ねて手術を依頼する。

パピヨンは壊れた物を見るとすぐに直そうとする奴だった。しかも独自の改造技術を加えて元の状態から大幅にグレードアップさせないと気が済まない奴だった(おまけに子供思いの好々爺でもあった)。

パピヨン流の改造手術を受けたことでトミーの右腕は驚異的なパワーアップを遂げる。レンチを握り潰し、岩石を砕き、投げたボールは地平線の彼方まで消えていった!

術後のトミーは「なんだこの感覚は…。全身から力が沸いてくるゥ!」と大喜びしてパピヨンのことが大好きになった。パピヨンの方も「そうか、そうか。よォ――し…よしよしよしよし!」とトミーの頭をぐいんぐいんに撫で回して孫のように可愛がった。

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トミーを溺愛する修理工のパピヨン(かわいい)。

 

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驚異的な握力と投擲能力を身につけたトミー(かわいい)。

 

一方、そこらを散歩していたエイリアンはトラッシュという元カノと再会した。

彼女は民のために立ち上がった女戦士である。かつてはエイリアンを深く愛していたが、水不足が深刻化するにしたがって独善的になっていく彼に失望して別れを決意。以降は敵対関係にあったが、クレイジー・ブル打倒のために再び手を組もうとして近づいてきたのだ。

トラッシュは実にイイ女と言えた。利己的なエイリアンとは違い、民のために行動する高潔な戦士だった。おまけにメグ・ライアンを武装させたような美人だった。

この人が主人公だったらよかったのに。

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戦いに身を捧げるトラッシュ(かわいい)。

 

◆強肩マックス◆

その後、改造車エクスタミネーターを手に入れたエイリアンは、トミー、パピヨン、トラッシュと協力してオアシスを目指す。それを妨害するのがクレイジー・ブル率いるヒャッハー族である。

荒野を舞台に情け容赦ないデスゲームが幕を開けるッ!

この映画はすごいぞっ。破格だぞっ!

 

何かというと爆発する車!

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襲い来るトラップ!

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魂を焦がすハードアクション!

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脳筋映画マニアの心をくすぐる脱力必至のスペクタクルごみ映画『マッドライダー』!

エイリアンの初登場シーンを思い出してほしい。なぜ彼は車の下敷きになっていたのか?

実は汚職警官を轢き殺そうとして失敗し、パトカーとカーチェイスを演じた結果自分の車が横転して地面と車体の間に挟まっちゃったのである!

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みじめ。

だが失敗から学んだエイリアンはドライビング・テクニックを大幅に向上させ、何でもありのスーパーマシーン・エクスタミネーターを自在に操った。

エクスタミネーターはあらゆる弱点を克服した地上最強の戦闘車である。防弾仕様なのは言うに及ばず、タイヤを撃たれてもパンクを自動修理するという仕組み不明のチート性能。

ヘッドライトからは機関銃、バンパーには特殊な槍が取り付けられているぞ!

フロントガラスには鉄のブラインドカーテンが設けられており、前方からの攻撃はスラットを閉じて防御。これによって運転席からの視界が遮断されてしまうが、ボンネットに取り付けた監視カメラがドライバーの目となる。運転席に設置したモニターから前方が確認できるのだァ――ッ!

だが後のシーンではチェイス中にカメラを壊されて「前が見えない」と叫ぶ間もなく岸壁にぶつかり横転。

また、これほどすごい性能なのに、普通の車と同じようにタイヤが砂にはまったら抜け出せないというあたりが実に滑稽だった。灯台下暗し。辺り一面砂だらけの荒野なんだからまず最初に対策しなきゃだめだろ、そこ。

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愛車エクスタミネーター。遠目ではタダの小汚い車だが実は超性能! 唯一の弱点は砂にはまったら抜け出せないこと(よくはまる)。

 

クライマックスでは興奮と感動の波状攻撃が観る者を襲う。

やっとの思いで水をゲットしたエイリアンはたった一人でヒャッハー族を食い止めて給水タンクを積んだトラックをトラッシュに運ばせる(パピヨンは族に殺されてしまいました)。

エクスタミネーターで族を蹴散らしていくエイリアンだったが、ちょうど図に乗り始めた頃にタイヤが砂にはまって抜け出せなくなってしまった。

言わんこっちゃない。

族どもは完全停止したエクスタミネーターの周りをぐるぐる旋回しながら「ヒャッハー」と言った。「ホホホー」とも言った。一転して窮地に追い込まれたエイリアンは「これもうむりやん」と嘆いたが、刹那、族の車がいきなり爆発した。なんだ、何が起こったのだッ?

族が周囲を見回すと…なんと1キロ先の崖の頂上にトミーとトラッシュの姿が!

トラッシュ「もっと投げちゃいな」

トミー「うん わかった」

パピヨンの手術によって恐るべきピッチング能力を手にした強肩トミーが1キロ先からダイナマイト投げてきてるゥゥゥゥゥゥゥゥ!

1キロも離れた場所から族の位置を捉え、なおかつエイリアンを爆風に巻き込まないギリギリの範囲を計算しながら、正確に、だが「やってやるぞ」という気高い情熱をもってダイナマイトを投げてきてるぞォォォォォォォォ!

トミーが投擲するたびに「ドシュウゥ――ッ!」と発するロケット音は奴らの葬送曲。それを奏でる悪魔の右手。

覚醒したトミーの投擲攻撃「サーチ&デストロイ」は猛威を振るい、ヒャッハー族は奇妙な断末魔とともに死んでいった。

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族A「ひでぶッ」

族B「タコスッ」

 

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敵車「ヤッダーバァアァァァァアアアア」

 

トミーの潜在能力に感服である。親の仇みたいにダイナマイト投げるからね、この子。1キロ先から。半ば笑顔で。

そして遂にエイリアンとクレイジー・ブルの一騎打ちである!

だがその決着は実に呆気ないもので、銃を手にしたエイリアンが「年貢の納め時だー」とか古臭いことを言いながらドシドシ走ってくるクレイジー・ブルの眉間に弾丸一発ブチ込んだだけで終わってしまった。

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しょっぱ。

 

クレイジー・ブルをやっつけたものの、タンクが破裂して水を失った一行は、もう一度給水するために巨大施設「オアシス」に向かったが、施設内に潜んでいたせむし男が「水を奪われるぐらいならこうしてやるゥー!」と騒いで自爆スイッチをオン、施設爆破!

唯一の水源を失った一行が絶望に打ちひしがれていると、なぜか急に降らないはずの雨が降ってきて「水だ、水だぁ!」と大喜びして映画は終わった。

デウス・エクス・マキナ*1すな。

雨が降らねえって世界観なのに設定無視して降らせてんじゃねえよ!

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雨の恩恵に浴する3人。

 

ヒャッハー列伝

こんなくだらない映画を観ることができて私は幸せだ。

亜流作品にしては十分楽しめる。チェイスシーンにおける車体横転のスローモーション、スタッフの本気度が伝わるガジェットの数々、それに爆破シーンでも火薬をケチることなく大胆に使用していた。えらい。

また『北斗の拳』好きにとってはエイリアン、トミー、トラッシュの3人をケンシロウバットマミヤに置き換えて観るもよし(観ないもよし)。

とにかく愛すべきデタラメさに満ちている。トミーが服の中で飼っているハムスターが途中から登場しなくなったのには笑った。撮影中に死んだのだろうか。あるいは逃げてスタッフが見失ったのか。

クレイジー・ブルに従順なヒャッハー族もみな個性的でおしゃれですよ。最後にメンバーを一部紹介して終わることにする。

 

~ヒャッハー列伝~

 

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機銃使いのステッペンウルフ(仮名)

改造車の機銃を担当する男。『北斗の拳』のジャッカルを彷彿させるワイルドなファッションで周囲と差をつけている。

誰よりも機銃を愛する男で、映画冒頭では生存者コミュニティと激しい撃ち合いを演じた。生死不明。

好きな食べ物は焼肉(推測)。

 

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大砲使いの政男(仮名)

改造車の大砲を受け持つ。おもしろゴーグルと黄色のヘルメットで周囲と差をつけようとしているが単に個性が渋滞してるだけの奴。

映画冒頭のカーチェイスでは積極的に砲弾攻撃を仕掛けていたが一発も当てられなかった。発射時の衝撃になかなか馴染めないらしく、発射のたびに少しびっくりする。生死不明。

好きな食べ物は焼肉(推測)。

 

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鉤爪使いのボンバーガール(仮名)

鉤爪での引っかき攻撃を得意とするヒャッハー族幹部。彼女に引っかかれて「イタ」と言わなかった者はいないという。

トラッシュを人質に取ったりパピヨンを殺害するなど、本作の中で最も戦果をあげた強敵。クライマックスではトラッシュと女同士の決闘を演じた末に絞殺された。だが死ぬ直前にエイリアンたちの給水タンクを開栓して水を抜くという嫌がらせに出て爪痕を残す。

好きな食べ物は焼肉(推測)。

 

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鎖使いのナルシス(仮名)

バイク移動をこよなく愛するヒャッハー族幹部。

逃げるトラッシュの足に鎖を巻きつけて捕獲、その鎖で彼女をしたたか殴打して追い詰めるも一瞬の隙を突いたトラッシュに股間を蹴り上げられて悶絶した。トミーが至近距離から投擲した石が額にめり込んで死亡。

好きな食べ物は焼肉(推測)。

 

*1:デウス・エクス・マキナ…何の脈絡もなく奇跡が起きてハッピーエンドを迎えるご都合主義展開のこと。古代ギリシャの演劇ではストーリーの収拾が付かなくなったときにいきなり神様が現れて強引に大団円に持っていく演出が多かったことから。神を演じる役者がクレーンのような装置で登場するため「機械仕掛けの神」とも呼ばれる。作劇における禁じ手のひとつ。