シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

アリータ:バトル・エンジェル

アリータが可愛すぎて正気を保てない。

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2019年。ロバート・ロドリゲス監督。ローサ・サラザール、クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリ。

 

数百年後の未来。サイバー・ドクターのイドは、アイアン・シティのスクラップ置き場でアリータという意識不明のサイボーグを見つける。目を覚ましたアリータは、一切の記憶をなくしていた。だが、ふとしたことから並外れた戦闘能力を秘めていることを知り、なぜ自分が生み出されたのかを探ろうと決意する。やがて、世界を腐敗させている悪しき存在に気付いた彼女は、立ち向かおうとするが…。(シネマトゥデイより)

 

どうもおはよう。

最近、髪の毛が伸びてきたのでくるくる巻いて遊んでいます。こないだは巻きすぎてイングランドの貴族みたいになってしまいました。イングランドの貴族がどういう髪型なのか知らないけど。

ていうか、もう10月25日ですか。あと2ヶ月ちょっとで今年も終わり? 冗談じゃないですよ。私は惑わされません。私の2019年は始まったばかりだ。幻影を見せて丸め込もうなんて考えないことだな。皆さんも早く目を覚ました方がいいですよ。今日は10月25日なんかじゃありません。たぶんまだ5月です。みんな、正気を取り戻して!

そんなわけで本日は『アリータ:バトル・エンジェル』。アリータはバトルするエンジェルです。

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◆ほぼほぼキャメロン映画◆

20年前にギレルモ・デル・トロから「『銃夢』って日本のマンガ超おもしろいで。映画にしたら?」と勧められて『銃夢』にドハマりしたジェームズ・キャメロンジョン・ランドー『アバター』(09年)コンビが下っ端のロバート・ロドリゲスをパシらせて実写化させた作品。

これはもう実質的なジェームズ・キャメロン作品である。

キャメ公の名前は製作と脚本にクレジットされているが、それ以外の部門にもバッツバツに干渉しているのは明らか。イメージボードからキャラクター&ガジェットデザイン。衣装、小道具、セット。『アバター』で独自開発したフュージョン・カメラ・システムほか多数のデジタル技術も注ぎ込まれているし、極力ブルーバックを使わないという『タイタニック』(97年)メソッドも健在。

ロドリゲスはただ撮影現場で役者たちの技斗をチェックしながら「いいですね」とか「次は本当に骨を折ってみましょう」とか「おまえはクビです」と意見を述べただけ(※想像です)。『シン・シティ』(05年)でも原作者フランク・ミラーの指示通りにコミックスの絵柄・色彩・構図・コマ割りを完コピしたように、何かと便利使いされがちな監督である(ゆえに『シン・シティ』はアニメ。実写アニメだ)

 

ロバート・ロドリゲスは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(96年)『パラサイト』(98年)を除いてほぼ全作酷評してきた。遊び心のある奴だが、遊ぶための技量が明らかに足りない。この人の遊び心それ自体は大好きなんだけどなぁ。『プラネット・テラー in グラインドハウス』(07年)の冒頭で流れるニセ予告編を本当に映画化したり、映画完成から100年後(2115年)に公開予定の『100イヤーズ』(15年)なんて映画を撮ったり(我々の孫の世代が観ることでしょう)。

そして本作『アリータ:バトル・エンジェル』

クールに良し悪しだけを評価するならロドリゲスの最高傑作である。まぁそうなるよね。キャメロンの映画法を丸ごと移植してるんだから。

したがって自作の『パラサイト』みたいにキャメロンに操られた今回のロドリゲスはある種の失語症に陥っており、あの素行の悪いロドリーなゲス節は見る影もない。いかなロドリゲスファンでも前情報なしではこれが彼の作品とは気づかないだろう。

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キャメロン的記号があちこちに。

 

バトル・エンジェルとリアル・エンジェル

記憶喪失のサイボーグ少女・アリータが、自分を直してくれた医師クリストフ・ヴァルツや街の青年キーアン・ジョンソンと心温まる交流を重ねるうちに記憶を取り戻し「そういえばアタシ宇宙戦士だったわ」と気付いて巨悪に立ち向かう…といった激烈におもしろい内容である。

物語の背景をザッと説明しておくと、アリータたちは貧困層の多いクズ鉄街「アイアンシティ」に暮らしており、住人は300年前の戦争によって地上から分断してしまった空中都市「ザレム」に行きたがっている。一方、アイアンシティを牛耳るマハーシャラ・アリはザレムの黒幕からアリータのボディを回収するよう命じられて物騒なサイボーグ軍団を差し向けるのだった。

 

筋だけ読むとSFアクションのように思えるが、『アリータ:バトル・エンジェル』はサイボーグ少女のフレッシュな青春譚である。嘘じゃないぞ。

C・ヴァルツとの疑似親子関係!

やさしさに溢れたキーアン坊との甘い初恋!

街一番の人気スポーツ「モーターボール」への出場!

ワルの賞金稼ぎ「ハンター・ウォリアー」との乱闘ォ!

恋とスポーツとケンカと親子愛。それはもう「80年代青春映画かよ」って感じの仕上がりなのである。ほかにも細々としたノスタルジアが観る者の童心を刺激してやまない。

チョコレートの買い食い!

街を離れて日帰り小旅行!

野良犬の頭を「かしこいな、かしこいな」と撫で回すゥ!

気持ちが和むわー。アリータの日常を通して幼少期の原風景を思い出してしまいました。もちろんアクションシーンは満載だが、そうでないシーンが実によい。キーアン坊とのピュアな恋なんて「守ってあげたい」とか「やさしさに包まれたなら」が聴こえてきそうなほどユーミンワールド全開。

で、そんな豊かな情感をCGで表現したのが凄いよねって話で。

 

おそらく私だけではないと思うが、映画を観る前はバカに目の大きいCGIキャラクターのヒロインに「わぁ薄気味悪い」と思っていた。

だがスクリーンで活発に動くアリータはえげつないほど可愛らしく、映画が進むごとに彼女のチャームに引き寄せられてしまうのだ。かすかに口角を上げたときの表情のニュアンスや、技斗で見せるしなやかな身のこなし。大事そうにチョコレートをかじる仕草のなんと愛おしいこと。

アリータが可愛すぎて正気を保てない。

また、サイボーグとはいえ脳は人間。のちに彼女は宇宙最強の兵士だったことが明かされるわけだが、とはいえ年頃の女の子なのでそれ相応の感情や言動というものがあります。その可愛らしさはかつてのジブリヒロイン達へと照射されている気もして。ナウシカ、シータ、キキ、サン、千尋…。この5人を合体させたような総合的ジブリ力を持ったキャラクターがアリータだと思うのです。

うーん、さすがに褒めすぎか。でもアリータほど魅力的な女性ヒロインがここ10年のハリウッドにいたか?って言うとすぐには思い浮かばないんだよね。あ、『キック・アス』(10年)のヒットガールか。思い浮かんでもうた。

CGIで作られたアリータを演じたのは新人女優のローサ・サラザールだが、モーション・キャプチャーで芝居してる様子を見たところ原型ほぼなし。

良くも悪くもコンピューターが生んだアイドルである。

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『ひとりアカデミー賞』の主演女優賞も夢やないで!

 

彼女に襲いかかるサイボーグ軍団も個性豊かで『リアル・スティール』(11年)『パシフィック・リム』(13年)が好きなら是非どうぞって感じだが、やはり錦上花を添えるのはサイボーグではなく生身の役者、クリストフ・ヴァルツとジェニファー・コネリーである。

クリストフ・ヴァルツは原作漫画の同キャラクターがシャクレだったために見た目の相似性から起用された。さすがヴァルツ、アゴで仕事を取ってくる男。

ヴァルツは本作のようなポップコーンムービー(しかも善人役)ではまったく活きない曲者俳優だが、必死こいてロケットハンマーを振り回す姿は一見の価値あり。血の気の多いアリータを制止する非暴力主義者だったのに次のシーンでは暴力的な解決策を取る…という一貫性むちゃむちゃのキャラクターを演じておられます。

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遅咲きアゴ俳優クリストフ・ヴァルツ。

 

そんなヴァルツの元妻役がジェニファー・コネリー

あ、大好き…。

私が世界有数のコネリストだということは『春のジェニファー・コネリー特集』で証明済みだよな。コネってるよな?

ザレムに行くために悪のマハーシャラ・アリの元で働く科学者で、一概に敵とも味方とも言えない複雑なキャラクターを演じておられる。ていうか大好き。黒髪のキューティクルは健在、しっかり生えた眉毛とアイシャドウで縁取られた猫目も依然衰えを知らず。しかも額にチョボなんか付けちゃってぇ~。

はっきり言って可憐なアリータと艶麗なジェニファーの一騎打ちです、この映画。個性豊かなサイボーグ軍団とかハンマー振り回すシャクレなんてどうでもいいんだよ。

バトル・エンジェルとリアル・エンジェルの天界頂上決戦だ!

そんなジェニファー、近ごろは本作以外にも『スパイダーマン:ホームカミング』(17年)『トップガン マーヴェリック』(20年)などメジャー大作での脇役が目立つが、そろそろ『砂と霧の家』(03年)『帰らない日々』(07年)のような低予算主演作が観たいところである。

だけどわたくし、本作のジェニファー・コネリーには大変満足しております。

なんたってガーターベルト付けてベッドでウッフンするシーンに私の中の全細胞がコネられていくのだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

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アリータごめん。僕やっぱりジェニファー。

 

◆またアリータとジェニファーに会いたい◆

第2章は評として成立してましたか? 多分してないよね。全部わかってるんだよ俺には。愛をまき散らし過ぎたってこと。

お詫びにこの最終章では映画評じみた真面目なことを書きます。

 

映画は原作マンガを順撮りしたように進んでいくので物語後半がダイジェストのように簡略化され、さらには続編に繋げる気満々のクリフハンガー形式で終わってしまう。尤もキャメロンのシナリオライティングが巧妙なので物語構成のイビツさはそれほど感じないが。

問題はやはりロドリゲスの側にあって。

過去のロドリゲス作品に比べれば全体的にソツなく撮影・演出しているし、全編クライマックス化も『アベンジャーズ』シリーズよりも遥かにうまいが(キャメロン指導の賜物)、この「全編クライマックス化」が映画の核にまで養分が行き届かずに枝葉末節として孤立している印象を受けた。分かりやすく音楽に喩えるなら最初から最後までずっとサビなのになぜか盛り上がらない。

かなり感覚的な話になってくるのでハッキリしたことは言えないが、おそらく原因はタメの不足ではないかと思う。アクションシーンに入る前のフリがひとつ足りない。アリータのモーションが一瞬早い。そういう次元の話だ。シーンに情感が生まれる前にさっさと次のショットに移ってしまうので、いつまで経っても場面が息づかない。これまた音楽に喩えるならリードギターの不在である。ギタリストが2人いるのになぜか両方リズムギター。よって聴かせ所のギターソロが無い!みたいな状態で。

音楽に喩えたことで却って分かりづらくなってしまいました。

 

だが、裏を返せば「がさつ」なロドリゲスの「丁寧さ」を証明した作品でもあり。

『デスペラード』(95年)『シン・シティ 復讐の女神』(14年)などで何度も露呈した「編集感覚の悪さ」はかなり是正され、唯一の取り柄である「空間設計の勘」は過去最高のハイスピードアクションにも振り回されることなく、ガチャガチャした画面を整然とトリートメントしておられます。その為に使われるスローモーションもザック・スナイダーの5倍は上手い。

その上、かなり激しいアクションシーンの中でアリータの表情…つまり感情まで正確に捉えている。「ヤバい!」とか「今だっ」といった戦闘中のアリータの瞬間的な感情のスパークが画面のエモーションとして昇華されていて、これはCG映画でしか表現できないモノだよなぁーって感心しちゃったわ。

世界観の作り込み、物語の焦点の合わせ方、キャラ相関図の分かりやすさ。それにSFものに付き物の専門用語が少ないのも個人的には有難かったし、毎日変わるアリータのシャツを見ているだけでも楽しいという有様。そんな有様。

キャメロンとロドリゲスの唯一の共通点は「オレが見せたいもの」と「皆が見たがってるもの」の最大公約数を抽出する能力だろうか。

とにかく最小の手数で最大のエンターテイメントを提供するお手本のような作品だった。そりゃ 『レディ・プレイヤー1』(18年)のスピルバーグと比べるのはあまりに酷というものだが、じゃあ『レディプレ』のオアシスと『アリータ』のアイアンシティではどっちの世界に行ってみたい?といえば…私はアイアンシティだなぁ。アリータとジェニファーがいるから。

 

回想シーンで出てくるCGIキャラクターとして『アバター』『マチェーテ』(10年)ミシェル・ロドリゲス、そして黒幕らしき人物としてエドワート・ノートンがノンクレジットで出演している点も見逃せない。

早く続編を作って頂きたいと思います。今すぐアリータとジェニファーに会いてえ!

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あなたはどっち派。

 

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