シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

MIRACLE デビクロくんの恋と魔法

本命への恋破れし主人公が告白すれば100%成功する幼馴染みと結ばれただけの話。

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2014年。犬童一心監督。相葉雅紀、榮倉奈々、ハン・ヒョジュ、生田斗真。

 

漫画家になる夢を抱きながら書店員として働く光は、世界的な照明アーティストのソヨンに恋をし、幼なじみの杏奈に相談するが、偶然にもソヨンは杏奈の仕事仲間だった。杏奈は光の恋を応援するが、彼女は幼いころから密かに光に思いを寄せている。一方の光は、大学の同級生で売れっ子漫画家の北山が、かつてソヨンと付き合っていたことを知り…。(映画.comより)

 

おはよゥ。皮膚に特殊なクリームを塗りながら『METAL GALAXY』を楽しんでいるふかづめです。みんなは皮膚に特殊なクリームを塗りながら何を楽しんでいる?

今日から2~3日は更新をサボる予定だったけど、いざ評を書き始めたらピャッと書けちゃったのでサッと載せます。

そんなわけで本日はハン・ヒョジュも出演している日本映画の不朽の名作『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』

この映画は、以前書いたヒョジュ出演作『ゴールデンスランバー』(18年)評の中で「『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』は未見なのでいずれレビューしたいと思っております(ダメ映画の臭いがプンプンするのだが)」と宣言していたので、それを有言実行すべくAmazonプライムビデオで鑑賞しました。

画面越しとは言えハン・ヒョジュに会えたんだよ! それってかなり素敵なことじゃない? 素敵なことなんだよ! 聞き分けろ!!

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◆軽犯罪者相葉の片想いは叶うのか(棒読み)◆

嵐の相葉雅紀が映画単独初主演を務め、山下達郎の大ヒット自己憐憫ソング「クリスマス・イブ」をモチーフにした恋愛群像である。

寡聞にして嵐のことをほとんど知らないのだが、相葉くんってあれでしょう、動物園でお仕事してる人でしょう? そして共演者の生田斗真もジャニーズだっけ。あれ、どうだっけ。その辺の知識が曖昧模糊のもこみちなのでちょっと勘弁してほしいです。

そしてWヒロインを務めたのが榮倉奈々ハン・ヒョジュ

榮倉奈々は限りなく一般人に見える女優だけど、ごく稀に映画の神に愛される瞬間がある。『娚の一生』(15年)のことだ。

それに、実はわたくしの名前にも「榮」という漢字が含まれていて、数年前、ある会社の人に電話で名前を伝えたときに「漢字がわかんない」と言うので「榮倉奈々の榮です」と説明しても「エイ、エイクラ…?」と戸惑うばかりでぜんぜん埒が明かず「なんで榮倉奈々知らんねん」とむかついた記憶がある。『余命1ヶ月の花嫁』(09年)でも観て勉強してこい、バカタレがぁ~。

 

そしてお待ちかね。誰にとってお待ちかね? 僕にとってお待ちかね!

韓国が生んだナチュラル・ボーン・エンジェル、ハン・ヒョジュ。

私はヒョジュという言葉の響きだけで1週間ぐらいの飢餓なら軽く乗り越えられる自信があるし、腕や足にヒョジュという字の刺青を入れても向こう6年は後悔しない自信もある。もちろん将来ビーグルを飼ったらヒョジュと名付けるつもりでいる。

私は中型犬ならビーグルが一番かわいいと思っているのだ。ビーグルは最高だよな。やんちゃ好きのシャバ僧だし。「小さいけれども、やる時はやるんだぞ」という気概に満ちている。要するにガッツがあるということだ。ガッツのある犬は最高だ。

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元気印のシャバ僧、ビーグル!

 

監督は犬童一心。犬…! おまえもビーグルか?

犬童一心の『ジョゼと虎と魚たち』(03年)は私のお気に入り映画リスト1000に入るほどの良作だが、過去に扱った『眉山-びざん-』(07年)悲惨-ひさん-な出来。さて今回はどうなのでしょうか。

 

書店員をしながら漫画家をめざす相葉雅紀と造形作家の卵・榮倉奈々はいつも一緒の幼馴染み。榮倉は人知れず相葉に片想いしていたが、鈍感な相葉くんは彼女の気持ちにまったく気づかず、一流照明アーティストのハン・ヒョジュに片想いする。

だがヒョジュには未練を残したまま疎遠になった恋人・生田斗真がいた。有名漫画家の生田先生と相葉くんはたまたま友達同士で、学生時代はよく漫画の腕を競い合った竹馬の友であった。

そのうえ、ヒョジュと榮倉もたまたま仕事仲間で、クリスマスの日にどこぞの建物をライトアップするという不思議なプロジェクトに携わっていた。この世界にはおまえら4人しかいないのか?と思うほど世間が狭すぎる。

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キッズから懐かれる相葉くん。

 

そしてもうひとつ、本作には少しややこしい設定がある。それが「デビクロくん」だ。

物語は相葉少年と榮倉少女の幼少期から始まります。物静かな相葉少年は、決して表には出さない不満や鬱憤を吐き出すために「デビクロくん」というオリジナルキャラクターを生みだし、そいつを絵にした「デビクロ通信」なるビラを自主制作している。このビラはデビクロくんの絵の横にその時々の相葉少年の心境をポエムにして書き添えたもの。自己満足の産物である。

そして大人になった現在、相葉くんの傍にはいつもイタズラ好きのデビクロくんがいて、毎日しょぼい漫才みたいな掛け合いをしていた。

デビクロくんの姿は相葉くんにしか見えておらず、またデビクロくんがアニメーションで描かれていることからも分かるように、いわゆるところのイマジナリーフレンド(空想上の友達)というやつだな。

ちなみに相葉くんは「デビクロ通信」を大量に刷って街中に撒くことで漫画家になれない鬱憤を晴らしているが、この行為は屋外広告物条例に違反するため軽犯罪に当たります。それでも軽犯罪者相葉はビラ撒きをやめない。「ここにビラを貼るな!」というビラの上からビラを貼っていく闇夜のビラテロリストだったのだ。

そんなビラリスト相葉がヒョジュに片想いして、漫画も描かず恋にうつつを抜かすというロマンチックな恋愛巨編『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』。クリスマスに恋の奇跡は起きるのか(棒読み)。

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デビクロ通信。

 

◆デビクロくんの存在意義がまるっきり分からない◆

設定の分かりづらさというのがまずあるわけです。

もともと相葉くんが幼少期に生み出したデビクロくんの正式名称は「デビルクロース」というもので、このキャラクターは人々に夢と希望を与えるサンタクロースのアンチテーゼになっている。いわば相葉くんの負の感情が擬人化されたものだな。

だが肝心の相葉くんは謙虚を絵に描いたような温厚な性格で、キッズやお年寄りにも優しい好青年だ。負の感情とは無縁の「イイ人」なのである(この柔和な人柄が相葉くん本人から溢れ出ているようで俄然好きになりました)。

であるならば、当然デビクロくんの出る幕などないわけです。現にほとんど出てこないし。

じゃあ何の為のデビクロくん!!!

相葉くんの邪心の象徴なのに、そもそも相葉くんに邪心がないから存在意義を根こそぎ奪われてるというか…キャラとして機能停止してるのね、こいつ。

デビクロくん関連の設定が丸ごと要らねえんだよなー、この映画…。

相葉くんとデビクロくんの関係性もよく分からないし、相葉くんが撒き散らしてやまない「デビクロ通信」も説話・演出にまったく活かされないので純粋行為としての軽犯罪にしか見えないという。相葉雅紀は純粋悪なのか…?

さらに言うならデビルクロースという名前がサンタクロースのもじりである必然性にも乏しい。ただ単にこの物語の季節がクリスマス直前だからサンタクロースをもじっただけであって、何かクリスマスにちなんだ相葉少年のエピソードがあるかと言うと…NAI。

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デビクロくん。

 

さらに細かい所をつつくようで申し訳ないが、ファーストシーンで相葉少年と榮倉少女が商店街のケーキ屋までクリスマスケーキを買いに行った際、この幼少期シーケンスの時代設定が1994年にも関わらず榮倉少女は支払い時に野口英世の千円紙幣を渡すのだ。

んんんんんん! 94年なら漱石現役!!

英世が千円札の巻頭グラビアを飾ったのは2004年からだぞ。なぜ榮倉少女は10年後に発行される紙幣を持っていたのか。榮倉奈々は未来人なのか…?

事程左様に小道具ひとつ取っても脇が甘いわけです。「設定の分かりづらさ」に加えて「世界観の嘘臭さ」というものにまみれているんだ。

相葉くんがたまたま街で出会って一目惚れしたヒョジュが幼馴染みの榮倉の仕事仲間だったり、たまたまコミケで再会した生田がヒョジュのボーイフレンドだったりなど作り手にとって都合のいい「たまたま」が満載で、そんなご都合主義だらけの世界を信じろと言われましても…ねえ、奥さん?

いわんや、その「たまたま」を「奇跡」であるかのように映画の側が称揚=勘違いしちゃってるのがつまらなさの原因ではないかしら。だから『MIRACLE』ってタイトルなのかな。ご都合主義を正当化していこう!っていう邪心がこのタイトルから感じられますっ。

だいたい生田斗真が漫画家役て。見えてたまるかよ!

こういうのは瑛多あたりが丁度いいんだよ!

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週刊連載を持つ人気漫画家・生田斗真先生。見えるかあ!!

 

◆ノーロジックで妥協◆

そしてハン・ヒョジュである。

ヒョジュは始めこそ綺麗な発音で日本語を話していたがセリフ量が急増する中盤以降は思いっきり韓国語にシフトしてた。「諦めよった」と思った。

そんなヒョジュは漫画家業で忙しい生田先生と心がすれ違ったことで次第に相葉くんと仲良くなっていくが、あくまで二人の関係は「お友達」という名の恋の並行線。ヒョジュは今でも生田先生を想っており、それに気づかぬ相葉くんは榮倉の協力を得ながら彼女にアプローチし続けます。

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本作でもその透明感を遺憾なく発揮してやまないハン・ヒョジュ。

 

おやおや、ここで「榮倉の協力」という言葉が出てきたよ!

そう、なんと榮倉は相葉くんの片想いを全力で応援してあげるのでした!!

昔から秘かに彼を想っていたが、男勝りの榮倉は、相葉くんが清楚女子のヒョジュに片想いしたことで「きっと自分みたいなオッサン女子はタイプじゃない」と卑下、長年の想いを諦めてしまい、せめて相葉くんとヒョジュが結ばれることを祈って恋のキューピットを演じるのである。せつねええええ。

幸いにもヒョジュとは職場で毎日顔を会わせる間柄。「次に彼女に会ったらコレ渡しな!」とぶっきらぼうに吐き捨ててヒョジュが以前から欲していた本を相葉くんに譲る…という粋な計らいを見せ、その直後にフッと寂しそうに笑うのであった。榮倉のかなしみ!!!

後日、たまたま街でヒョジュを見かけた相葉くんはその本を贈呈して「コレ欲シカッタデス。アリス!」と言われ、ヒョジュから好感ポイントを大量にゲットする。しかもその夜、相葉くんのケータイにヒョジュから電話が掛かってきた!

なんと策士・榮倉は本の隙間に相葉くんの電話番号を書いたメモまで挟んでいたのであるるるるるるるうrるる!!!

これぞヒョジュ攻略に欠くべからざる二段構えの計らい。愛した男の片想いを叶えてやるためにここまでやるのか、榮倉…。

ああ、いじらしい女!!

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今にも崩れそうな笑顔がたまらなく切ない…。

 

って、これ『恋しくて』やないか。


ボーイッシュなヒロインがよその女に恋した主人公への片想いを諦めて恋のキューピットを転じる…って、モロに『恋しくて』(87年)のメアリー・スチュアート・マスターソンやないか。

しかも榮倉は「デートの練習」と称して相葉くんとの疑似デートを楽しんじゃう。されど胸は切なさで一杯。なぜなら相葉くんの笑顔は「ヒョジュとの本番デート」への期待で溢れていたのだからああああああああ。

これも『恋しくて』やないか。

「いずれあの娘とキスするだろうからその前に私が練習相手になってやるよ」といって半ば強引に主人公にファーストキスを捧げる『恋しくて』のマスターソンなのよ。

なんやこれ、一から十まで『恋しくて』やないか。

しかもラストシーンでは榮倉と相葉くんが結ばれて「本当のヒロインはヒョジュじゃなく榮倉だったのです」みたいなオチがつく。

ほな『恋しくて』やないか。

それをマスターニズムて言うんやないか。 どうなっとんねん犬童こら。ビーグルとは程遠い顔しやがって。

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まぁ、よく考えたら『恋しくて』『MIRACLE』もヒドい話なんだけどね。

恋破れた主人公が「ほなこいつでいいか」みたいなノリで手近な幼馴染みと結ばれるんだから。

もっとも、その手前で相葉くんが榮倉に一瞬でもドキッとした素振りを見せていたなら「ああ、無意識下では榮倉に恋してたんだな」という解釈もできただろうに、悲しいかな相葉くんが榮倉に心惹かれそうになったことは一度もない。にも関わらず、ヒョジュと生田先生が仲直りしちゃったことで失恋が確定した相葉くんは「ほなあいつでええか!」とばかりに榮倉のもとまで走って行って強く抱きしめたのである(この描写も『恋しくて』と一緒。ほな『恋しくて』やないか)。

つまり榮倉を選んだ相葉くんはノーロジックで妥協しただけ。

二人が結ばれたことにロジックがないのだ。ただ本命に失恋したから妥協しただけザッツオール。こんなものをクリスマスの奇跡って呼ぶのか。大したもんだな。

 

役者陣では相葉雅紀と榮倉奈々のチャームが高かったです。笑顔がかわいくて柔和な雰囲気をまとった二人なのでシナジー満載。この二人で別の映画も観たいかも。

ヒョジュは典型的なマドンナを演じていて、芝居といい撮影といい誰もが想定する範囲内に収まっていたので特に面白味はなく。生田先生はそもそもミスキャスト。瑛多呼んでこい。

そんなわけで犬童一心って「名前の只者ではない感」がすごいけど実は只者論を補強しただけの映画でした。

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この二人が癒し効果抜群だったのでキレることなく鑑賞できた。

 

(C)2014「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」製作委員会 (C)2013 中村航/小学館