シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

バーバラと心の巨人

種明かしが楽しい映画なのに…邦題でその種をブチ割っていく配給会社の乱暴狼藉ぶりがすごい。

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2017年。アンダース・ウォルター監督。マディソン・ウルフ、イモージェン・プーツ、ゾーイ・サルダナ。

 

風変わりな少女バーバラには、やがて襲来する「巨人」を倒すという使命があった。ところが姉カレンやモル先生、初めての友人である転校生ソフィアですら、巨人の存在を全く信じようとしない。そしてついにバーバラの前に巨人が現われ、ある試練をもたらす。(映画.comより)

 

どうもおはようございます、口から心ゆくまでモノを食べてお尻から気まぐれで排泄する種族のみんな。金に目の色を変えて他人を蹴落とす種族のみんな。

食っちゃ寝、食っちゃ寝…恥ずかしい種族め! 色んなものを天秤にかけて媚びへつらう種族め! 自然を汚染して互いに殺し合う種族め! だけど愛を知っている種族め! 他人を思いやれる種族め!

燃ゆる心で今日という日を力強く生きる種族め!!

凱歌挙ぐべく明日なき世界に立ち向かう種族め!!!

泣けてきたあああああああああああああああああああああああああああああああああ年末です!!!

 

すごいでしょコレ。どうよ。過去最大にスペクタキュラーな挨拶だよ。酔っ払っているとこういう文章が書けるんだよ。

そんなわけで本日は『バーバラと心の巨人』だけど、先に断っておきます。

7割ぐらい雑談こいてます。

びっくりするぐらい映画と関係ない話をしてるので、もはや随筆の領域といえます。こないだの『恋は雨上がりのように』評なんて比じゃないですよ。

※この映画は予備知識なしで観た方が楽しめるので読むな。

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◆ノアくんのドラゴンキラー◆

美大時代、邪気眼系の中二病に罹った友人がいた。SNSではノアという名前を使っていたのでノアと呼ぶ。元気してるだろうか、ノアくん。

ちなみに邪気眼系とは魔法や異能に並々ならぬ憧れを持つあまり、あたかも自分がファンタジー世界の住人であるかのように振舞うタイプの中二病である。以下はその特徴。

 

・いつも黒い格好をしている(闇の住人らしい)

・眼帯を装着している(魔力を封じ込めてるらしい)

・謎の紋章を自分でデザインする(だいたい十字架ベース)

・怪我してないのに包帯を巻いている(聖戦で負傷したと言い張る)

・ホムペやSNSでよくわからない詩を書く(恥ずかしげもなく全公開している)

・「爆ぜろ」とか「即滅せよ」とか言う(やけに物騒)

・「サンクチュアリ」や「プレリュード」といった面倒臭い言葉を好む(哲学をかじっているため「永劫回帰」とかも言う)

・使用頻度の高い漢字は、紅、罪、邪、聖、冥、焉、など(日常的に使っているためか漢字にはめっぽう強い)

・いつも「我は漆黒の堕天使」などと御託を並べている。

 

ノアくんの場合、眼帯を装着することはなかったが他は一通りやっていた。

いつも黒いコートの中にハサミを隠し持っていたノアくんは、私が怒らせるようなことを言うたびにハサミを喉元に突き付けてきた。「ハサミ危ないからやめれ」と言うと「これはドラゴンキラーだ」とか言い張ってたな。はいはい、ドラゴンキラーは危ないから仕舞ってね。

また、ノアくんがエアーガンにハマっていた時期は、Amazonで買った全長1メートルぐらいのボルトアクション・スナイパーを校内に持ち込んで教員にしこたま怒られていた。

教員から「何しに学校に来ているのか」とバチバチに折檻され、その様子をとなりで聞いていた私は「まったくその通りだ」と思ったが、かくいう私も授業をサボタージュして学校近辺の山から盗んできた竹で流しそうめん装置を組み立てたり、教室で鍋料理を作って炊き出しをおこなったり…とずいぶん好き勝手なことをしていた。グラフィティ・アートという犯罪行為を繰り返していた友人に至っては、どこかで入手した弓矢をぴゅんぴゅん放ち、そのうちの一本が私の右目に直撃するという「ロビンフッド事件」を引き起こした(眼鏡のレンズがクッションになってくれたお陰で失明は免れた)。

私がこんなことを言えた義理じゃないけれど、弓矢とボルトアクション・スナイパーは頭がおかしすぎると思う。何と戦っているの?

ボルトアクション・スナイパーの所持を糾弾されたノアくんは、それでも銃を手放さず、ついには友人を誤射してしまった。たしかお尻を撃ったんだと思う。尻に強力なBB弾を撃ち込まれた友人は「あっ」と言ってその場に倒れ、やがて動かなくなった。とても残念なことだと思う。

ある日、そんなノアくんが「いずれ消え去る心の刃の切っ先を、この腑抜けた世界に向けて切り込もうじゃないか」とSNSに書いてて「おもしろいな、この子」と思ったことをよく覚えている。

さて。今回取り上げる『バーバラと心の巨人』は、まさにそんな中二病の少女がヒロインの物語である。

 

クラスで孤立しているマディソン・ウルフは「ジャイアントキラー」を自称する空想好きのメルヘン少女。襲い来る巨人から民を守る使命をもった彼女は、街中に罠や結界を張り巡らせては姉のイモージェン・プーツから呆れられている。周囲の人々は巨人の存在などまるで信じてなかったのだ。

そんな折、イギリスから引っ越してきた転校生シドニー・ウェイドと仲良くなったマディソンは、シドニーを巨人対策基地に招き入れて世界の危機を力説する。シドニーは彼女のファンタスティックな世界観をいたく気に入ったが、当のマディソンは真剣そのものだ。

一方、母親代わりにマディソンの面倒をみているプーツ姐は仕事が立ち行かなくなり憔悴、学校で問題ばかり起こすマディソンとも険悪な関係になってしまう。学校ではスクールカウンセラーのゾーイ・サルダナだけがマディソンを理解しようとしたが、これを突っ撥ねたマディソンは「凡人に構ってる暇はないの。世界を救わなきゃ」と言い残して罠を張りに行ってしまった。

果たして巨人は実在するのか、それともマディソンの空想なのか。そんな不思議なお話がゆるゆると展開していく小品です。

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巨人と戦うマディソンちゃん。

 

『心の巨人』言うてもうてるやん◆

劇中では巨人や精霊がフツーに出てくるが、あくまでそれらはマディソン視点から描かれているので一切は彼女の空想かもしれないという可能性を残したままストーリーは進行する。

もっとも、ストーリーといっても明確な目的や道標は示されない。マディソンを取り巻くさまざまなキャラクターの関係性が緩やかに描かれていくだけなので、映画終盤まで物語の輪郭がちくとも見えてこないのだ。観客にあっては「これ…何についての映画なの?」という宙ぶらりん状態がずーっと続きます。換言すれば、このあと何が起きるのかまったく分からない。

それゆえに、巨人云々というハナシが一概に空想とも言い切れないんだよね。

人はジャイアントキラーを自称するこの少女をどこまで信じていいやら分からず「これってファンタジーに喩えた現実の話でしょ? それともガチのファンタジーなの?」と疑心暗鬼に陥る。それが興味の持続装置になってるわけ。

しかし、我がネタバレ大国日本においては『バーバラと心の巨人』という邦題が思いきり種を割っちゃってて。すでにお気づきだろうが、邦題に『心の巨人』とあるように…まぁ、そういうことなんですよ(お察し)。

そこを巧みにボカした作劇こそが見所なのに邦題でその種をブチ割っていく配給会社の乱暴狼藉ぶりがすごい。『心の巨人』言うてもうてるやん。全部パーだよ!

 

だが安心されたい。種が割れたところでおもしろさが減じるわけではない…というあたりがこの物語の強度です(ネタバレ一発で台無しになるような映画などしょせん俄仕込みの三流脚本に過ぎんのだ)。

やがてマディソンが心に深い傷を抱えていることが少しずつ明らかになり、映画終盤では「なぜ彼女は巨人と戦っているのか?」という核心に肉薄するが…なかなかどうして心を揺さぶる真実が隠されていたのでござる。両親がいない不思議、対巨人用ハンマー「コヴェルスキー」の名前の由来、それにマディソンが自宅2階に上がれない理由などなど…すべてを知った後はちょっぴり悲しい気持ちになって「つ~~…」と謎の感嘆詞を漏らすこと請け合いだ。

ここで私がぺちゃくちゃ喋ると台無しになってしまうので多くは語らないが、ある苛烈な境遇に身を置いた少女が現実を受け入れるまでのイニシエーションが繊細に描かれておりました。関連作品は『パンズ・ラビリンス』(06年)『怪物はささやく』(16年)かしらね。

そも、ファンタジーとは現実逃避のためではなく現状認識のために存在する「たとえ話」なので、好むと好まざるとに関わらず現実に還元される物語なのだ。それはもう『指輪物語』からディズニー映画に至るまで。

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伝家の宝刀「コヴェルスキー」で巨人に立ち向かうマディソンちゃん。しかしその巨人とは…?

 

◆凡人が世界を破壊する◆

情感豊かなロングアイランドの港町を舞台に、新人女優マディソン・ウルフが吼えまくる野心作『バーバラと心の巨人』は好評レンタル中であります。日本版ポスターを見てファンタジー・アクションという先入観を抱きがちだが、どちらかといえば静謐なヒューマンドラマなのでお気をつけあそばせね!

…ハイっ、というわけで映画の話はここまで。

これより先は再び随筆めいた文章を自由気儘に綴っていく。

 

あのな。言うとくぞ。マディソンにせよノアくんにせよ、中二病と呼ばれる人たちは「世間一般のまともな感覚を持った常識人ども」から変人の烙印を押され冷ややかな目で見られがちだが、そんな下らないことを気に病む必要はない。

「変人」つうのは凡人が使う言葉なんだから。

凡人が「凡庸な自分」を守るために自分の理解を超えた存在に対して張るレッテル、それが変人なのである。凡人というのは世間一般の平均値から外れた人間を「変人」と規定することで自分がなんの取り柄もない平均的な人間であることに安心感を覚えるのだ。「やっぱり普通が一番だ」とか言いながらサッポロビールを飲んだりして。

だが私は自分の世界を持ってる人間をリスペクトしている。

中二病とオタクは混同されがちだが、両者の間には決定的な違いがある。オタクとはひとつの価値概念を共有する人種であり、一方の中二病は独自の価値概念を構築する人種。一口に中二病と言っても、嗜好、美学、設定、こだわりはまるで違うし、ルーツひとつ取っても、アニメ、マンガ、ゲーム、神話、宗教、文学、音楽など多種多様。

大袈裟に言うなら、オタクは「世界の住人」で、中二病は「世界の創造主」なのだ。

マディソンがさり気なく発した「巨人とは“憎しみ”そのものよ」という言葉が彼女の世界を表わしていたが、親友のシドニーはこの言葉を聞き逃したことで「巨人なんて存在しないよ!」とチグハグな返答をしてしまい、マディソンと訣別してしまう。マディソンの巨人説を一蹴したとき、シドニーは凡人の側に滑り落ち、かねてよりマディソンを敵視していた苛めっ子グループに秘密基地の場所を教えて襲撃の契機を作ってしまうのである。

世界の破壊者は巨人ではない。凡人なのだ。

 

小学生の時分、わたしは夏休みの自由研究で友人2名と合作小説を書いた。それぞれが幾つかの短編小説を持ち寄った珠玉のアンソロジーである。とても小学生とは思えぬイマジネーションを発揮したわれわれは、風刺、不条理、暴力に彩られた摩訶不思議な物語世界を紡いでいった。

当時の私は自作の暴力マンガを同級生に読ませては校内の風紀を乱していたので、合作小説でも暴力担当になり「カルピスの少女ハイジ」という詩情豊かな一篇を生み出した。カルピスが流れる川にやってきたハイジが、どういう訳かいろんな大人たちにど突き回されて血まみれになり暴力社会に絶望する…といった格調高い文学作品である。グロテスクな挿絵も描いた。

だが、夏休み明けに合作小説を提出したわれわれは担任教師にしこたま怒られ、あまつさえ小説は職員会議にかけられ発禁処分を受けた。いわく「不健全だから」とのこと。

こりゃあ納得いかんよなあああああああああ。

というのも、なるほどその小説は風刺や暴力にまみれていたので教師たちが眉を顰めるのも当然だが、その一方でクラスメイトからは大絶賛を受けたのである。普段活字なんて読まないアホの同級生が一心不乱でページをめくってくれたときは嬉しかったものだぜ。

たしかにわれわれの小説は過激な内容だったかもしれないが、多くの人を楽しませたという点では誰よりも有意義な自由研究だったと自負しています。イェイ。

それに独創性も評価してほしいわなあああああ。

言っちゃあ悪いが、ほかの生徒なんてデパートで買ってきた貯金箱とか本棚のくだらない工作キットを(親に手伝ってもらいながら)組み立てただけである。据え膳も据え膳。だがわれわれは無から何かを生み出したのだ(『アルプスの少女ハイジ』を真正面からパクった件については見逃したってくれ。どうか頼む)

それをば「不健全」の一言で発禁処分にするとはなんたる禍事。われわれの小説はデパートの工作キットに負けたのか? まじ? 完成度を加味することもせず? 不健全だからという理由だけで?

想像力が弾圧されてしまいました(ざんねん)

そも、想像力を育むのが教師の仕事だろうに、奴らときたら圧力鍋みたいに上からギュンギュン押さえつけるばかりさ。臭い物に蓋をするようにな。

その後、同じ中等部に上がったわれわれは文芸部に所属し、文化祭で発表する部誌に『機動戦士コンニャク』*1という暴力小説を掲載して再び公序良俗に反していくのであった(顧問にしこたま怒られた)。

 

この話からも分かるように、誰かが作った世界観を破壊するのはいつだって凡人なのですねえ。人の世界観にごちゃごちゃ言ってくるんじゃねえ。やめろ。圧力鍋でぎゅんぎゅんするな。

わたしは母校に対して合作小説の再評価を求めるものであるっ。

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巨人対策本部はマディソンちゃんの「世界」だ。誰に世界を否定できよう。

 

(C)I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

*1:『機動戦士コンニャク』…文芸部による伝説のリレー小説。一人目に書いた友人が『機動戦士ガンダム』の筋をそのまま書き始めるという奇行に出たため、二人目の私が慌てて軌道修正を試みてガンダムの設定をこそぎ落としたが、その結果混沌としか言いようのないストーリーに仕上がり読者を大いに困惑させた(これが原因で一人目の友人とは衝突。後日和解に成功している)。