シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

三匹荒野を行く

ニャンとワンダフルな冒険譚。それにしても映画は残酷ね。

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1963年。フレッチャー・マークル監督。ラブラドール犬、ブルテリア犬、シャム猫。

 

飼い主の家から320キロも離れた家に預けられた2匹の犬と1匹のネコの3匹が、主人の家に戻るために数々の困難に遭遇しながら、カナダの大自然の中を前進していく姿を描いた感動のアドベンチャーストーリー。(映画.comより)

 

はい、おはようござりござられ。

朝が嫌いなのにこれほど多くのパターンで手を変え品を変え「おはよう」と言い続ける人間も珍しいのではないか。なんでもいいから一度正式に表彰してほしいわ。

髪がしゃらくさいほど伸びてきてモヘアになってしまったので散髪に行く運びとなった。結果は追って報告するが、すてきな散髪になればいい。

モヘア…もっさりヘアー。

最後に切ってもらったのは3ヶ月前だろうか。私は美容院という所があまり好きではないので、なかなか散髪に行かない。それでも数年前までは行きつけの店に仲のいいカリスマがいたので、その人に切ってもらってる内はまだ散髪に対して前向きな気持ちも留めていられたのだが、数年前にそのカリスマが突如蒸発したことで私の髪を理解している人間が地球上から一人もいなくなってしまったのだ。

ちなみにそのカリスマは、やけに細くてヒゲを生やしており、とても不気味な髪型をしていた。まるで温和なイスラム過激派みたいな風体だったので、秘かにイスラムと命名、mixi日記で「イスラム散髪記」みたいな記事を定期的に書いていたのだが、今となってはイスラムも店を辞めてしまい、散髪に行くモチベーションを見つけられず、ただいたずらに髪だけが伸びてゆくのです(続く)。

そんなわけで本日はディズニ―映画の金字塔 『三匹荒野を行く』を終始穏やかな態度で取り上げていくよー。

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◆めざせ320キロ、帰郷の旅◆

初期のウォルト・ディズニー・スタジオが腕によりをかけて製作した実写映画ですよ。

飼い主の家族が長期出張に出掛けてしまい、遠く離れた友人の家に預けられたラブラドール犬のルーア、ブルテリア犬のボジャー、猫のテーオが、我が家恋しさに320キロも走りまくって飼い主の家に戻るという爆裂帰郷映画の金字塔といえるでしょう。

彼らの行く手には危険な野獣や大自然が立ちはだかりますが、固い絆で結ばれた三匹は心をひとつにして故郷をめざします。

元気真っ盛りのルーアはチームを束ねるリーター的存在。この子がいないと話にならないというぐらい他の二匹が頼りないのです。

老犬のボジャーはいつもニヒルな顔をしていて、あまりガッツがありません。少し歩いただけですぐバテてしまい、その都度みんなが休憩を取らざるを得ないのでチームのお荷物です。

猫のテーオは道草が大好きで、リスを掴まえてはすぐに殺します。その都度みんなが休憩を取らざるを得ないのでチームのお荷物です。

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三匹はとっても仲良しさ!

 

三匹が旅に出た数時間後、早くもボジャーがバテてしまいました。どういう了見なのでしょう。その場に座り込んでしまったボジャーに呆れ返ったルーアは、今夜のご飯を確保するためにウサギを掴まえてすぐ殺しました。テーオはリスを掴まえてすぐに殺します。

ボジャーだけが何ひとつチームに貢献することなくのうのうと地面に座り込んでいると、茂みの中から2匹の子熊が現れてボジャーにちょっかいをかけてきました。背中に乗られて顔をむぎゅむぎゅされるボジャーはとても嫌なきもちがしましたが、抵抗するエネルギーがありません。

一方的にむぎゅむぎゅされたボジャーがひどく悔しい思いをしていると、リスを殺し終えたテーオが子熊を追い払ってくれました。さすがテーオですね。すると茂みの中からママンクマが「くまー」と吠えながら現れます。ママンクマは子供たちがテーオにいじめられたと勘違いしたのか、ぶちきれていました。

このシーンではテーオVSママンクマのハードアクションが描かれますが、決して熊のぬいぐるみを使ったりモンタージュでそれっぽく見せているのではなく本物の猫と熊に戦わせています。作り手のみなさんは頭がおかしいのでしょうか。

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子熊にちょっかいをかけられたボジャー(悔しい思いをしている)。

 

ママンクマを追い返した一行は旅を続けます。

次に立ちはだかったのは巨大な河。ルーアとボジャーは自慢の泳ぎで難なく向こう岸に辿り着きましたが、水が大嫌いなテーオは水面をくんくんするばかりで飛び込む度胸がありません。テーオが詰んでしまいました。

しかし、ただでは終わらないのが猫の意地。勇気を胸にかき集めたテーオは一か八かでビーバーが作った橋に飛び移ろうとしましたが、足を滑らせドボン! そのまま激流に呑まれてしまい、「にゃー」と言いながら姿を消してしまったのです。これを残念に思ったルーアとボジャーは、その場に留まってテーオが戻ってくることを期待しましたが、しばらく待ったあとに「だめだこりゃ」とすっぱり諦めて二人だけで旅を続けることにしました。この割り切り。

ところが、下流まで流されたテーオは山奥に住む少女に拾われて元気を取り戻します。少女が眠っている間にこっそり家を抜け出したテーオは、自分を見捨てて先々進む非情な二匹のあとを追うのでした。ところが獰猛なオオヤマネコがテーオの行く手を阻みます!

このシーンではテーオVSオオヤマネコのハードアクションが描かれますが、決してオオヤマネコのぬいぐるみを使ったりモンタージュでそれっぽく見せているのではなく、本物の猫とオオヤマネコに戦わせています。作り手のみなさんは頭がおかしいのでしょうか。

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木の上に追い詰められたテーオ(生きるか死ぬかという感じです)。

 

どうにかオオヤマネコから逃げきったテーオは二匹と合流し、喜びをシェアーします。

しかし今度の敵は猛烈な飢えでした。チームに何も貢献していないボジャーは、なんとか手柄を立てようと民家のゴミ箱を漁りに行きましたが、家主に猟銃をぶっ放されて命からがら逃げ帰ってきました。勝手なことをしてチームに迷惑をかけたボジャーは、ルーアから非難の目を向けられて決まりが悪そうにしています。そしてそのことをとても残念に思ったのです。

空腹はチームの絆まで引き裂きます。この辺りには彼らが主食にしていたリスやウサギはおらず、やけを起こしたルーアはヤマアラシに挑みかかり、ものの見事に敗れてしまいました。噛みつこうとしたときに顔にトゲが刺さってしまうのです。ルーアは自慢の顔がトゲだらけになったことを心底残念に思いました。その痛々しい姿を見たテーオとボジャーもひどく残念に思ったことでしょう。

幸運にも気のいい釣り人に手当てしてもらい、ルーアは元気を取り戻します。水も与えてもらいましたが、三匹は「水より食べ物がほしいのに」と思って、すこし残念な気持ちになってしまいました。

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顔にトゲが刺さってしまったルーア(残念に思っている)。

 

その後、険しい山を越えた三匹は、ついに我が家に帰ってきました!

家族はすでに出張から帰っており、坊やと三匹は激しくじゃれ合って喜びをシェアーします。身ひとつで320キロを走破した三匹を表彰したいと思います。

~代表取締役ふかづめによる表彰式~

ルーアくん!

よくぞリーダーシップを発揮しました。川に流されたテーオを見捨てたり、ドジをこいたボジャーに非難がましい視線を送るなど冷たい一面もありましたが、それもひとえにチームの為なればこそ。最後はヤマアラシに敗れて格好悪いところも見せてしまいましたね。でも、そのギャップが愛嬌となるのです。今度いっしょに食事しましょう。

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テーオくん!

あなたはよくぞ戦いました。小さい身体でクマやオオヤマネコを相手取る、その向こう見ずな生き様がすてき過ぎるのです。水嫌いだというのに河にすら立ち向かう雄姿まで見せつけて観る者の心に勇気を配りましたね。 今度撫でさせてください。

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ボジャー

あなたは皆の足を引っ張ってばかりでしたね。早々にバテて、子熊にちょっかい出され、ゴミ漁りに失敗しただけでした。エサ取りも他力本願という体たらく。

老犬だからという言い訳は通用しません。そもそも老犬なら320キロもの長旅を辞退すべきなのです。仲間に迷惑をかけるであろう事ぐらいハナから分かり切っていたのですからね。年寄りの冷や水、出すぎた真似です。身の程をわきまえて頂ければと思います。 

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◆寸評◆

この映画は犬猫たちのかわいさ、けなげさ、たくましさを余すところなく撮り切っている。さすがディズニー、こういうことをさせたら天下一だ。動物たちの表情もよく捉えているし(と言ってもクレショフ効果の賜物に過ぎないのだが)。

また、自然なじゃれ合いの中に三匹の関係性が見て取れるあたりがいいと思った。とりわけボジャーとテーオは無二の親友らしく、さすがのルーアも二匹の親密さには割って入れない様子。クマを追い払ったテーオは、恐怖にわななくボジャーを「大丈夫やったけ」と気遣うように体を擦りつける。はぐれたテーオが帰ってきたときもボジャーは露骨に喜んでいた。そんな二匹を3~4歩離れたところから「善い哉」と静かに見守るルーア。この黄金比。ニャンとワンダフルな! と快哉を叫ばずにはおれません。

 

前章では割愛したが、カラス飼いのハイパージジイが飢餓に苦しむ三匹を家に招いてシチューを振舞うシーンも印象的だった。

シチューを皿に盛ったジジイは「どうぞ」と言ったが、三匹は「お食べ」と言われるまで手を付けないよう飼い主にしつけられているので懸命に我慢を続ける。このいじらしさ!

結局、お行儀のよさが仇となり「お腹が空いてないのか…」と勘違いされ、食事にありつけぬままジジイに見送られた三匹はとても残念そうな顔でしょぼしょぼと歩きはじめます。ずいぶん切ない。

ワードチョイスひとつでこんな憂き目に遭うのかー。ジジイのボキャブラリーがもっと豊かで、色んな言葉をかけてやっていれば…と思うとジジイに対する憎しみすら湧いてきます。

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 「お食べ」待ちの三匹(かしこい)。

 

◆映画、その生殺与奪の権◆

この章ではちょっとダークなことを書きます。

まず動物たちの躍動感に驚かされる。何しろ本物の猫をオオヤマネコに襲わせたり河に突き落としているので、いわば生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた猫の必死の抵抗をスクリーンに焼き付けた作品となっております。

もちろん現在の動物愛護精神から見れば完全にアウトなことをしているし、現にYahoo!映画では「動物虐待」といった言葉で激しく批判されているが、本稿では動物虐待をめぐる倫理的な要素は加味せずにおきたい。ここは倫理を語る場ではなく映画を論じる場だからだ。

昔から何かとエクストリームな表現が多いディズニーだが、本作ほどサディスティックな映画も珍しいのではないか。とりわけルーアが全力疾走でウサギを追い回すシーンではドーパミンが分泌されてしまったわ。私。じゃれ合いとは思えぬ気迫でウサギを追いまくるルーアは確かな殺意をまとっており、追われる方のウサギも「これはまずい」とばかりに本気で逃げている。

二者はカメラのパンが追いつかないほどの速度で野を駆けるが、決着がつく前にカットが入り、獲物をくわえたルーアのショットへと繋げられる。だが口にくわえたそのウサギは明らかにぬいぐるみなので、観客は先ほどのウサギが無事だったのだと安堵する。

だが本当にそうかな?

カットが入ったあと、ウサギはスタッフに救出されることなくルーアに噛み殺された可能性だってあるのだ(むしろその可能性の方が高い)。これに対して「残酷」と言ってのけるほど幸福な観客でない私は、目を剥きながらドーパミンを分泌して映画の残酷に緊張しておったのでした。「動物虐待の残酷さ」にではなく「映画の残酷さ」にです。

 

映画の残酷とは生殺与奪の権利のことである。

映画は生殺与奪の権を握っている。たとえば登場人物のうち誰を生かして誰を殺すか…ということの意思決定の権利を持っているし、たとえば活きた都市や豊かな風景を意図的に殺すこともできる。デジタル技術を使えば既に亡くなった役者をスクリーンに蘇らせることすら容易となった。モンド映画や一部の実験映画では撮影のために動物を殺す。

本作の場合、オオヤマネコとのチェイスや激流に呑まれるシーンではテーオの替え玉が使われている。だから替え玉が撮影中に死んでしまっても上手く撮れるまで何度でも替え玉を投入するし、仮にテーオ自身が撮影中に死んだり失踪しても、やはり替え玉を使ってテーオの「生」を偽装するだろう。完成したフィルムの傍らには死屍累々です。

事程左様に「残酷」という語を使うまでもなく映画とは本来的に残酷なメカニズムによってしか成立し得ないこの上なくスリリングな背徳の装置なのですよ。恐ろしい話だけどね。

 

それはそれとして、動物が全力疾走するさまって何でこんなに気持ちいいのだろう。私はカーチェイスより動物がチェイスしてる方がり映画に近いと思います。馬も走らぬ現代でこんなことを言うのはおセンチかしら?

『三匹荒野を行く』はレンタル店でうまく探せば見つかるかもしれません。動物たちの芝居が本当にすごくて感動するのだけど、実はこの感動って「動物が芝居してる」と錯覚させるモンタージュ理論体系への最敬礼なのよ。動物映画を撮るという行為は、取りも直さず編集マジックのカラクリを露出することにほかならないのです。

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ルーアが飛び込むシーンです(だいぶムチャした)。