シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ジョン・ウィック:パラベラム

ガンフー丼メガ盛り1280円。

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2019年。チャド・スタエルスキ監督。キアヌ・リーヴス、イアン・マクシェーン、ハル・ベリー。

 

前作で怒りのあまりに、一流殺し屋が集うコンチネンタルホテルの掟である「ホテル内で殺しはおこなってはいけない」を破ってしまったジョン。聖域から追放された彼を待っていたのは、組織による粛清の包囲網だった。刺客たちがさまざまな殺しのスキルを駆使し、賞金首となったジョンに襲いかかる。傷だらけとなったジョンは、かつて「血の契約」を交わしたソフィアに協力を求め、カサブランカへと飛ぶが…。(映画.comより)

 

はい、フイーン。

はっきりいって無思想な人間と付き合うよりも危険思想とか差別偏見に満ちた人間の方がはるかに興味深いし話す価値があると思うわ。無思想な人間が一番やばい。主体性がないというのか意志薄弱というのか、何を訊かれても「フイーン」としか返事せず、人の意見に付和雷同、小雨が降っても皆が傘をささないうちは自分もささないてな具合。

で、思うことは、無思想であることが良しとされる職業、たとえばアイドルや俳優やニュースキャスターなどである。その国の文化に多少なりと貢献してるにも関わらず文化人然と振舞った途端に批判される人たち。人気商売に政治発言はリスキーね、つってみんな口をつぐんでるけど、アメリカ国の有名人って結構ずけずけモノを言うよね。マドンナとか。だからマドンナはマドンナなのかなあ。

というわけで、ここでマドンナを一曲流そうと思うんだけど、まあ「Like a Virgin」「Material Girl」はさすがにもういいかって感じなので、ここはひとつ2005年の大ヒットナンバー「Hung Up」を皆さんと一緒に聴いていきたいと思います。不滅のレオタード魂。メチャかっこいいって思ってる。


Madonna「Hung Up」 (youtube)

 

映画のこと忘れてたわ。はいはい映画ね、映画。

そんなわけで本日の映画は『ジョン・ウィック:パラベラム』です。はい、うれしいね、うれしいね。

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◆シリーズを復習するで◆

『ジョン・ウィック』シリーズとはキアヌ・リーヴス演じる元暗殺者が裏社会に戻って色々問題を起こすというシリーズである。

ギュってしたら4コマ漫画で済むレベル。たったそれだけの内容なのに、なぜ5年もかけて3作品も作られているのか。それはキアヌが自慢のハードアクションを披露したいが為である。ただそれだけの自己顕示に俺たちは毎回付き合ってる。

銃とカンフーを融合させたガンフーなる暗殺術を駆使し、ひたすらに…本当にただひたすらに敵を殺しまくり、また自身も手足を刺されたり車にぼんぼん撥ねられながらも満身創痍で戦い続けるマゾヒスティック筋肉映画もいよいよ3作目。

1作目『ジョン・ウィック』(14年)では愛車を盗まれたうえに犬まで殺されたことに激怒して敵84人の尊い人命を奪う。無事に愛車を取り返して満足したが、その5日後を描いたシリーズ2作目『ジョン・ウィック:チャプター2』(17年)では亡き妻との思い出が残る家をロケットランチャーで木っ端微塵にされたことに怒り128人の尊い人命を奪う。しかし、暗殺者専用のカスタマーサービス「コンチネンタル」の掟を破ったことで1400万ドルの賞金が掛けられ、世界中の暗殺者から命を狙われるはめになった。

そして前作の直後から物語が始まるシリーズ3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』では、尊い人命を奪い尽くすこと175人。これはすごい。1作ごとにキルカウントが1.5倍ずつ増えている。頭おかしいのか、このシリーズ。

ちなみに108人の尊い人命が奪われ「最も暴力的な映画」としてギネス認定された『ランボー3/怒りのアフガン』(88年)は、爆発に巻き込まれたり銃の乱射でまとめて殺された敵もカウントしての108人だが、それを大きく上回る本作は一人ずつ二度撃ちして確実に殺した上での175人である。もはや筋肉映画というより大量殺戮映画といった方が早い。

f:id:hukadume7272:20200607094732j:plainガンフーで確殺するジョン・ウィック。

 

このシリーズがおもしろいのは、すべての事の発端が飼い犬の死というスケールのセコさ。

妻や子どもが殺されて…ではなく、ペットが殺されたのでマフィア組織を壊滅させましたというワンちゃん映画の金字塔たる『ジョン・ウィック』は動物虐待反対をテーマに掲げたピースフルな作品なのである。

1作目でビーグルを失い、カッとなってロシアンマフィアを壊滅させたキアヌは新たな相棒のピットブルを従え2作目で絆を育んだ。本作では犬を戦いに巻き込まないよう「コンチネンタル・ホテル」に預けっ放しにしているので犬の出番は少ないが、その代わりシェパードを多頭飼いする新キャラクターが登場する。なんぼほど犬ありきなのか。

ちなみに「コンチネンタル・ホテル」というのは世界中の暗殺者を支援する宿泊施設で、キアヌの旧友イアン・マクシェーンがニューヨーク支部の支配人を務めている。ホテル内では殺しは厳禁とされており破れば粛清を受けるが、ルールさえ守っていれば武器支給、衣装提供、死体処理、銃火器コーディネート、ペット保護といった魅力的なサービスを随意に受けられる。ホテルの外にもさまざまな組織や極秘機関があり、殺し屋専用通貨を使うことで各種サポートが受けられます。

この楽しい世界観が人気の秘密なんだろうね。「どれだけピンチでもホテルの中に逃げ込めば誰も手出しできませんよ」とか「専用通貨さえ払えばヤミ医者がどんな傷でも治してくれますよ」といった具合に、きわめてビデオゲームに近い設定優位と、ギミック溢れる裏社会をガイドしていくようなツアー要素。これをネオ・ノワールの世界観でやったのが『ジョン・ウィック』シリーズ。

まあ、男の子がだいたい好きなやつである。

f:id:hukadume7272:20200607094549j:plainコンチネンタルのサービスをうまく活用するのが生き残る鍵。

 

◆ワンフー祭りinカサブランカ◆

1作目は世界観重視、2作目はキャラ重視で、その隙間をガンフーで埋め尽くしていたが、いよいよ3作目の『パラベラム』は徹頭徹尾ガンフーだけを描いている。

ついにガンフーだけを見つめてきた。

キアヌがガンフーを操っているのではなくガンフーがキアヌを操っていると言っても過言ではないほど、意思を持ち、自律し、主体化したガンフーが息づいております。

ちなみに副題の『パラベラム』とは「戦争に備えよ」という意味らしいが、すでにファーストシーンからガンフー丸出しでメチャメチャ戦争していて「ちょっと一息つかせてよ…」と思っても一向に一息つけそうな気配もなくガンフーガンフー!

途中キアヌが砂漠にほっぽり出されてハイキングするシーンがあって「ようやく一息つけそうだな」なんて思ってると、急にもんじゃ焼き食べるヘラみたいなやつで自分の指を詰めちゃったりなんかして「ようやく一息つけると思ったのに。どうしてそんなことするの」とあまりに痛々しいシーンに戦慄、そしてまたガンフーガンフー!が始まる。

『ザ・レイド』(11年)ばりにひたすら戦ってるだけの全編ガンフー化が凄まじいが、すごいのはガンフーだけではない。前作ではカンフーとカーアクションを組み合わせたカーフーが観る者に驚きと笑いを提供してくれたが、本作でも「ガン」の代わりに何らかの道具を「フー」に組み合わせた珍奇戦闘術が炸裂する。

バイクで敵を迎え撃つバイフー、分厚い書籍でしばき倒す本フー、ベルトで引っぱたくベルフー、ポン刀を使用したポンフー、ナイフをやみくもに投げつけるナイフー、馬の後ろ蹴りを利用した馬フー、犬と共闘するワンフー

ガンフーの応用がすごい。

f:id:hukadume7272:20200607092444j:plainこれは馬フーですね。

 

物語などあってないようなものだが一応義務感に駆られて書いておきます。

世界中の殺し屋に狙われたキアヌは這う這うの体でニューヨークを脱出、モロッコの知己を頼って助けを乞うがフツーに断られてしまい、ならばと主席連合に直談判。砂漠のド真ん中に君臨する主席連合の王さまから暗殺指令撤回と引き換えにニューヨーク支部を運営する旧友イアンの殺害を命じられたキアヌは「死にたくないのでやります」と再度忠誠を誓い、けじめをつけるべく指を詰める。帰国後イアンが待つコンチネンタル・ホテルで「俺のこと殺すん?」と訊かれたので「そのつもりだったけど、やっぱでけへんわ」と言って誓いを反故にした。これにはさすがの主席連合も「おまえ態度変えすぎなんじゃ」と怒り、ホテルに大量の刺客を送り込む。

なんだろうこのストーリー。全面的にキアヌが悪いんだけど。

前作で「ホテル内での殺人厳禁」という掟を破ったばかりに暗殺指令が下されたのに、また約束破って嘘ついて!

しかも地下情報組織を束ねるホームレスキングのローレンス・フィッシュバーンや、キアヌの育ての親アンジェリカ・ヒューストンなど、かつてキアヌに手を貸した者たちが次々と粛清されてしまうのである。キアヌの疫病神がすごい。

f:id:hukadume7272:20200607093937j:plain『アダムス・ファミリー』のお母さん、アンジェリカ・ヒューストンが登場。

 

だからカサブランカの旧友は手を貸さなかったのだが、それでもしつこく食い下がるキアヌ、昔の貸しを引き合いに出して「キミには俺を助ける義務がある」などとのたまってみせる。どの立場から物を頼んでいるのだろう。結局、キアヌのゴリ押し懇願をイヤイヤ承諾して、主席連合の一員ジェローム・フリンに面会させた旧友こそが猛犬使いのハル・ベリーだ。超かっこいいんだけど!

結局のところ『ジョン・ウィック:パラベラム』で私がいちばん驚いたのはハル・ベリーが撮影当時51歳だったという衝撃の事実である(今年54歳)。さまざまなメディアで「マイナス20歳ボディ」と言われているが、まさかここまで若々しい身体性をフィルムに刻みつけるとはなー。

加えて髪型評論家としても一言いいですか。

『キングスマン: ゴールデン・サークル』(17年)では椎茸みたいな頭をしててハル・ベリーどころかラズベリー級に最悪だったが、今回のハル・ベリーはベリークールといえる。シェパードカラーの若干バサついたロングパーマとエスニックファッションの取り合わせがまさにカサブランカ・レディなのであるっ。君の瞳に乾杯!

f:id:hukadume7272:20200607092814j:plainさすがは『X-MEN』のストーム役。こういうコミック的なキャラクターによくハマります。

 

シェパードを多頭飼いするハル・ベリーは「そのワンちゃん可愛いから一匹ちょうだい」と言ってきた元上司のジェロームに「いや、むり」と断ったところ「ならこうじゃあ」とキレたジェロームに愛犬を撃たれ、キアヌの制止を振り切って怒りのままにワンフーを炸裂させた。一作目のキアヌと同じことしてる…。

撃たれたシェパードは犬用の防弾チョッキを着ていたお陰でケロッとしていたが、犬の安否が問題なんじゃない、“犬を虐めた”という許しがたい事実が問題なのだと言わんばかりにキアヌ&ハル・ベリー&犬二匹によるワンフー祭りinカサブランカが開催されました。もしここに出川がいたら即行であの世の果てまで逝ッテQしてるぐらいの壮絶なドンパチが繰り広げられます。

このワンシーンだけで相当のキル数を稼いでおり、ワンちゃんが敵の股間に噛みついたあとにハル・ベリーが銃弾をガンガン浴びせ、倒れたところをもう一匹のワンちゃんが頭を噛み砕いたりしているのでもはや誰の手柄なのかよく分からない状態であります。

 

その後、ニューヨークに戻ったキアヌに襲い掛かるのがシラットニンジャを率いるマーク・ダカスコス

昼は寿司屋、夜は忍者としての顔を持つ熟練の暗殺者だが、こいつが意外とお茶目な奴で、自分の寿司屋ではきゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」を好んで流し、また伝説の殺し屋であるキアヌの隠れファンでもある。殺す気満々で襲い掛かってくるのに、殺し御法度のホテル内では急にデレてきて「あの、ぼく、実はファンなんですよ~」とすり寄ってくるのが妙に腹立つ。ハゲてるから一層腹立つ。

クライマックスの決闘場は前作と同じく鏡張りの大部屋(なんぼほど『燃えよドラゴン』が好きなのか)

シラット使いとの激戦はスポーツマンシップもといヒットマンシップに溢れたもので、敵なのに目をキラキラさせながら「伝説のキアヌさんと戦えるなんて光栄です」、「あとでサインください」と言わんばかりのリスペクトを一身に浴びながらの戦闘。キアヌもちょっと照れちゃって。ひどく体力を消耗していまいち調子が出ないキアヌに、敵が拳を寸止めしてブレークタイムを与える…など非常にハートウォーミングな一幕が観る者を和ませる(やっと一息つける)。そしてキアヌの方もトドメを刺さないという。この辺は『スパルタンX』(84年)ね。非常にジャッキー的な映画でもあります。

f:id:hukadume7272:20200607094415j:plain寿司忍者マーク・ダカスコス(キアヌのビッグファン)。

 

絶えず無内容であらんとする筋肉映画

アイデアに満ちた技斗にシリアスな笑いを塗しながら131分を走破した『ジョン・ウィック:パラベラム』はガンフー爆盛りのどんぶり映画だ。

よもや本膳料理を期待する者はいまいが、たとえば『イコライザー』(14年)における娼婦との交流や『キングスマン』(14年)での試練や任務といった作劇要素が「漬物」だとして、本作にはそれすらない。あるのはガンフーだけ。

巨大などんぶりだけがそこにはある。

余談だが、私は幼少期にカンフー映画ばかり見ていた馬鹿ガキだったのだが、見ていて一番楽しいのはやはり技斗なので「戦ってる場面だけでいいのに」とよく思っていた。全編アクションシーンだけで構成すれば宇宙一最強の映画になるのに、どうして大人たちは大して面白くもないストーリーを盛り込むのだろう…と不思議で仕方なかったのだ。ストーリーなんてどうでもいいから戦ってるところだけ見せてくれ。第一ストーリーテリングなんて技斗を見せるための建前に過ぎないじゃないか、と。

そうです、これがどんぶり思考です。

カンフー映画に一汁三菜など必要ない。どんぶり一品で十分っていう。

いかにも子供らしい馬鹿げた考えだが、いやいや、今思えば案外バカにもできないなと思うに至れり。現に全編クライマックス化を図った一点豪華主義みたいな娯楽大作がここ10年のトレンドになっているではないか。某消耗品軍団とか、某スーパーヒーローたちとか、某ワイルドなスピードとか、某キングなコングとか…。

ようやく時代が幼少期の私に追いつきました。

『ジョン・ウィック』シリーズが痛快なのは、単にこじつけでしかない復讐の動機だとか、それらしい行動原理といった一汁三菜を窓から放り投げてガンフー丼だけを提供し続けたことである。

普通シリーズを重ねるごとに一品足してみたり丼に手を加えたりするものだが、店主チャド・スタエルスキは何かに取り憑かれたようにガンフー丼だけを作り続ける。もう病気だろうな。絶えず無内容であらんとする筋肉映画の鑑といえます。

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これは本フーですね。

 

フルショットにぴたりとおさまるキアヌのガンフーシーンは映画というより3人称視点のアクションゲームか何かに見えてくるし、LEDライティングに輝くネオ・ノワールの人工造形なんてまさに丼の器そのもので『ジョン・ウィック』という箱庭世界=容器として都市化された広大なゲームエリア。その意味ではネオ・ノワールの正統性を踏襲しながらも「大量殺戮がおこなわれる」という明らかな矛盾の上に成り立っているのが『ジョン・ウィック』というバーチャルリアリティ・ゲームなのだ。

シリーズはまだ続く。アーノルド・シュワルツェネッガーの生涯キルカウント記録を追い抜くつもりでいるキアヌ・リーブス(55歳)は次回作でもヘンな走り方を見せてくれるのだろうか。

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