シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

カサンドラ・クロス

列車内で殺し合ったりSASUKEしたり、ムチャ&クチャの地獄絵図。

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1976年。ジョルジュ・パン・コスマトス監督。バート・ランカスター、リチャード・ハリス、ソフィア・ローレン。

 

ジュネーブにある国際保健機構に侵入した過激派ゲリラが研究中の伝染性病原菌を浴びたまま逃亡。追跡調査を開始したアメリカ陸軍情報部のマッケンジー大佐はゲリラが大陸横断列車に乗り込んだことを掴む。客を乗せたまま密閉された列車はコース変更し、カサンドラ・クロスと呼ばれる鉄橋へ向かうことに。大佐は細菌の処理と事件の隠蔽をたくらんでいたのだ。チェンバレン博士を始めとする乗客たちは抵抗を試みるが…。(映画.comより)

 

いらいらするわ~。

あ、おはようございますっ!

ついこないだ読者登録者数が500人を超えたことを祝福したばかりだと言うのに『SEX発電』(75年)をアップした直後に読者が2人去って400人台に滑り落ちたふかづめです。

しばく!!!

解除したらしばくって言ったよな!?

なんで解除すんの。しばかれてまで解除するというハイリスクな賭けに出なければならないほど切羽詰まった人生でも送ってるん!?

実際、当ブログは登録と解除の乱高下がスゲエんである。登録してくれた奴が即行解除したり、3人増えたかと思えば2人やめていく…みたいな。3歩進んで2歩下がるってか。水前寺清子ブログかよ。

そんな辛酸をなめている私が本日発表する評は 『カサンドラ・クロス』です。

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◆オールスターのパンデミック映画!◆

念願叶って初鑑賞! (イェイ)

渡瀬恒彦×吉永小百合で映画化された『皇帝のいない八月』(78年)がパクり散らかした元ネタにしてパンデミック列車映画の金字塔である。なんとまあタイムリーな。

ずうっと観たかった映画なのだが、あえてDVDを購入したりはしなかった。本当に観たい映画というのはこちらからアクションを起こさずとも機が熟せば向こうから勝手にやって来るし、私の意思とは関係なく遅かれ早かれ観ることになるからである。私の金科玉条でもある「観る映画を選ばない」とはそういうことでもある。われわれは観るべくして観る(観ずべきして観ぬ)のだ。流れに逆らっても苦しいだぜ、旦那。

それでは元気に行ってみよう。『カサンドラ・クロス』

 

ジュネーヴの国際保健機構に侵入したゲリラが研究中の病原菌に感染してストックホルム行きの大陸横断鉄道に乗ってしまう。保健機構の主任医師は今すぐ列車を止めてゲリラを隔離するよう求めたが、アメリカ陸軍情報部の大佐はすでに乗客1000人に感染が拡大したかもしれないと考え停車を禁じた。

一方、列車内では医師、神父、セースルマン、麻薬売人、ヒッピー、ヤッピー、のりピーなど多くの乗客が次々と体調を崩していく…といった内容なのだが、やはり最大の見所はオールスター映画という点だ。マンモスうれピー。

 

バート・ランカスター

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国際保健機構の指令室から鉄道員に指示を出す陸軍情報部大佐を立派に演じた。

バート・ランカスターといえば『地上より永遠に』53年)で注目を集めた元祖筋肉スターだ。

オードリー・ヘップバーンと共演した大コケ西部劇『許されざる者』(60年)、新興宗教の伝道師に扮した『エルマー・ガントリー/魅せられた男』(60年)、パルム・ドールを受賞したルキノ・ヴィスコンティ作『山猫』(63年)、ニューシネマの隠れた逸品『泳ぐひと』(68年)、エアポートシリーズ第一作目『大空港』(70年)、JFK暗殺をドキュメントタッチで描いた『ダラスの熱い日』(73年)など、商業メジャーからはやや外れた渋い映画に多数出演した。

ふかづめが発表する「お父さんにしたい俳優ランキング」では第65位に輝いてもいる。

 

リチャード・ハリス

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別れた妻に暴露本を書かれた神経外科医。リーダーシップを発揮して乗客の混乱を立派に鎮めた。

リチャード・ハリスは60~70年代にかけて『戦艦バウンティ』(62年)『ワイルド・ギース』(78年)などでアクション映画を中心に活躍した金髪河童である。この人の主演作には個人的に大好きな映画が多く、『死の追跡』(73年)『ジャガーノート』(74年)『オルカ』(77年)など忘れがたい佳作・凡作が盛り沢山だ!

あ、そうそう。『ハリー・ポッターと賢者の石』(01年)『秘密の部屋』(02年)におけるダンブルドア役でもあります。

 

ソフィア・ローレン

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R・ハリスの別れた女房。未だに元夫を愛しながらも暴露本をなぜか立派に書いた。

言わずと知れたイタリアのセックスシンボルである。

昔、mixiでソフィア・ローレンを「おっぱいオバケ」と呼んだところ、ローレン好きのマイミクさんから「謹んでください」と叱られてしまいました。マンモス悲ピー。

ネオレアリズモ=イタリア映画の大重鎮ヴィットリオ・デ・シーカの作品に多く起用され、日本でも大ヒットした『ひまわり』(70年)は今なお多くの人民に愛されているロマンス映画の金字塔。

チャップリン最後の監督作『伯爵夫人』(67年)でマーロン・ブランドと共演したほか、近年でもフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(63年)に出てくる女たちにスポットを当てたミュージカル映画『NINE』(09年)ではニコール・キッドマン、ペネロペ・クルス、マリオン・コティヤール、ケイト・ハドソンら“小娘たち”を従えて健在ぶりをアピールした(当時75歳)。

85歳になった今も達者に生命活動を続けておられます。

 

イングリッド・チューリン

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ランカスター大佐と共に事態の収拾にあたる国際保健機構の主任医師。細菌マスターであり医学的観点から立派に大佐をサポートするも次第に意見が食い違いバチバチの仲になる。

…なんか全員顔色悪いな。ヤケに白い。

イングマール・ベルイマンを観ている者だけが知る女優、それがイングリッド・チューリン。『野いちご』(57年)『冬の光』(62年)『沈黙』(63年)などでベルイマン中期を支えた紛うことなきベルイマン女優である。

当ブログでは一度もベルイマンを扱っていないので機会があればぜひ取り上げたいが、パワーを失った今の私にベルイマンを語れるのかと疑問視する声も上がっている。

 

マーティン・シーン

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指名手配中の麻薬売人。逃亡に役立つという理由で成金ババアの性奴隷を立派に務めた。

マーティン・シーンである。言わずと知れた『地獄の黙示録』(79年)で地獄に行く奴。『ウォール街』(87年)ではプッツン俳優として知られる愚息チャーリー・シーンと共演。またデビュー作の『ある戦慄』(67年)では列車の乗客を襲ったプッツンDQNを演じ、『白い家の少女』(76年)では当時幼女だったジョディ・フォスターを襲ったプッツン小児性愛者を演じて「演技に見えないぞー」と高く評価された。

また、海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』(1996-2006年)では得意のプッツン演技を封印し合衆国大統領を演じてずいぶん気をよくした。大統領ってタマかよ。

 

エヴァ・ガードナー

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成金の有閑マダム。M・シーンを隷従させて立派に性欲を満たした。

当時54歳にしてはやや老けているエヴァ・ガードナーだが、この人はアメリカ映画協会が1999年に発表した「最も偉大な女優50人」という怪しげなリストでは第25位にランクインした往年の美人女優である。20世紀最大の億万長者ハワード・ヒューズや米芸能界の裏の首領フランク・シナトラと浮名を流してみたり結婚してみたり…とスキャンダルに事欠かない激モテ女優だった。かの女王エリザベス・テイラーをして「あの娘にだけは敵わない。世界一の美女よ!」と言わしめたほどイイ女なんだって。

その反面、『ショウ・ボート』(51年)『モガンボ』(53年)『渚にて』59年)などいまいちパッとしない代表作を持つ。

 

O・J・シンプソン

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神父に変装してM・シーンを追っている麻薬捜査官。感染した子どもを立派に抱っこした。

で、出た~。キング・オブ・スキャンダルのO・J・シンプソンである。

言わずと知れたアメリカンフットボールのスーパースターであり、人気があり余って俳優としても『タワーリング・インフェルノ』(74年)『カプリコン・1』(78年)などで活躍。

1994年には元妻殺しの被疑者となりさらに知名度を上げ、出頭を拒んでロサンゼルスのフリーウェイでパトカーと白熱のカーチェイスを繰り広げてお茶の間を沸かせた(この様子は全米で生中継された)。

逮捕されたO・Jには証拠が出揃っていたが、ドリームチームなる超一流の弁護士たちを雇い、裁判の争点を人種問題にすり替えたことで無罪判決をもぎ取り「タッチダウンだぜ」と叫びました。うるさ。だがその後の民事裁判では「あうあうあうあう…」としどろもどろな受け答えをしたために誰もがO・Jのギルティを確信したのである。

社会現象にまでなった「O・J・シンプソン事件」はこうして幕を下ろしたが、2007年には5人の仲間と拳銃で武装してラスベガスのホテルに押し入りスポーツ用具を盗んだ(茶の間も沸かせた)。なんぼほどスポーツが好きなのか。

 

すごいキャストだろ?

マッチョ、河童、おっぱいオバケ、チューリン、プッツン、25位の美人、妻殺しにカーチェイスに武装強盗なんでもアリ野郎。

そんなユニークなオールキャストでお送りする『カサンドラ・クロス』

監督はギリシャ人のジョルジュ・パン・コスマトスである。コスマトスの覚えにくさが異常。コストマス、コマトコス、マトスコス…。

むり。

この記銘無理野郎は、シルヴェスター・スタローンの『ランボー/怒りの脱出』(85年)『コブラ』(86年)をヒットさせたあと、海洋パニックSF『リバイアサン』(89年)、 カート・ラッセル×ヴァル・キルマー共演の西部劇『トゥームストーン』(93年)といったアクション映画を撮り散らかしたが、これといって才能には恵まれなかったのですぐ消えた。

ていうかキャスト紹介に字数を割きすぎた。

もう5000字だとよ。普段のレビューならとっくに終わっとるで。

 

◆敵意がないのに殺し合うンドラ!◆

風刺と恐怖を織り込んだ力強いドラマだった。

予備知識ゼロで観たので、てっきりゲリラが細菌を撒き散らしながら列車を占拠する内容だとばかり思っていたが、感染源となるゲリラは早々に死亡。物語は感染症状に苦しむ乗客1000人と国際保健機構の司令部を真っすぐに結んだトニー・スコット的遠隔通信に集約されていくのがいい。

「なにが面白いのかよく分からんがとにかく滅法おもしろい」というタイプの映画である。目を見張るような演出はなく、終盤のスペクタクルも弱い。かと言って多種多様な乗客を眺めてるだけで楽しめる群像劇というわけでもなし。それなのに、なぜ私は食い入るように画面を見ながら元気闊達に129分を走破したのだろう!

 

思うに、この映画の力点になっているのは列車サイドのエピソードではなく指令室サイドのエピソードなのだろう。

冒頭ではランカスター大佐とチューリン医師が二人三脚でゲリラ追跡に乗り出すが、感染者の隔離問題をめぐって意見が割れたあたりから徐々に雲行きが怪しくなってくる。チューリン医師は今すぐ列車を止めて全乗客に感染症検査をするべきと主張するが、ランカスター大佐はもし一人でも逃げ出せば乗客以外の人間にも感染が広がる恐れがあるとして隔離施設に到着するまで一人も降ろさないと言い張るのだ。

「ま、大佐の言うことにも一理あるよなー」なんて鼻ほじりながら思っていると、ランカスター大佐はニュルンベルクで警備隊と医療班を乗車させ、走行中に乗客が逃げ出さないよう列車の窓に鉄板を打ち付けてドアも開けられないように溶接した。なんでそんな事すん!?

そして列車は再び隔離施設のあるポーランドに向かって走り出すのだが、その道中には30年前に廃線になったオンボロ鉄橋「カサンドラ・クロス」が崩壊の契機を求めるかのように列車を待ち構えていたのであーる。

つまァーりッ!

大佐は病原菌がばら撒かれたことを世間に知られる前に乗客もろとも闇に葬るつもりでいるのだああああああああ。

上層部の命令を受け、断腸の思いで乗客全員を見捨てたランカスター大佐と、その意図に気付き戦慄するチューリン医師。つまり指令室サイドのエピソードがドス黒い陰謀に覆われるほど、何も知らずに警備隊と医療班の言いなりになっている列車サイドのエピソードがある種の悲愴感を纏い始めるのだ。この指令者の対応によって乗客たちの映り方がその都度変わるというのが本作の面白さなのだろう。

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さらなる面白さは、いち早く病原菌の政治的隠蔽に気付いたR・ハリスがカサンドラ・クロスを渡ってはならぬと乗客たちに呼びかけ、ならず者のM・シーンや麻薬捜査官のO・J・シンプソンと徒党を組んで警備隊を制圧し列車を止めようとするクライマックスで最高潮に達する。

元妻のS・ローレンは弱った乗客を献身的にサポートし、ハリスたちは警備隊から機関銃を奪って「列車を止めないと全員死ぬんだぞ」と説明する。だが警備隊は「止めるなという命令ですので」の一点張りで埒が明かぬ。業を煮やしたハリスが「おまえはロボットか!」と突っ込むセリフが可笑しかったが、これに怒った警備隊は「全員下がれ。下がらないと撃っちゃうかもよ!」と言って銃を向けた。なんでそんな怖い事すん!?

その後はムチャ&クチャの地獄絵図である。

「危害を加えるつもりないんだー」と言いながらも機関銃をばりばり撃ってくる警備隊に「言ってる事とやってる事の乖離がすげー」と言いながらハリスたちもばりばり応戦。互いに敵意などないが、警備隊は「立場」のために、ハリスたちは「安全」のために殺戮に身を投じるのである。そして流れ弾に被弾するレディーやキッズ…。

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かなりショッキングな場面である。皮肉がスパイシーすぎて脂汗滲む。

さらに皮肉なことに、この細菌が高濃度酸素によって死滅することが撃ち合いの直前に判明し、列車内の感染患者たちが「気分スッキリだぜ」と全快してゆくシーンである。感染問題は綺麗さっぱり解決したのだ。だが列車は止まらない。崩落事故の運命に向かって走り続ける…。

ネタバレは避けるが、すべてが終わったあと、ランカスター大佐は神妙な面持ちで指令室を後にする。すると補佐役の少佐がランカスター大佐の判断を上層部に報告した。

少佐は軍司令部から密命を受けてランカスター大佐の仕事ぶりを見張っていたのである。

このラストシーンに至って、憎まれ役だったランカスター大佐が傀儡に過ぎなかったことを知ったわれわれは、怒りの捌け口を見失うことになる。すばらしく不愉快な結末。大好物です。

 

◆列車でSASUKE◆

映画冒頭ではリチャード・ハリスとソフィア・ローレンの元夫婦に見えてたまるか感が強烈な違和を生んでいた。何しろR・ハリスはマジックマッシュルームのような奇妙な外見だし、対するS・ローレンは42歳にしてますます艶めかしく、ハリスのような河童キノコに惚れるような女には見えない。

だがS・ローレンが上手かった。気丈に振舞うでも魔性の神秘を纏うでもなく、河童キノコとの結婚生活とその破綻ぶりを想像させるような極めて庶民的=非ヒロイン的な立ち居振る舞いに徹し、パンデミック下においても淡々と状況に対応していく一般人ぶりがすばらしい。

カサンドラ・クロスを蛇蝎のごとく嫌うユダヤ系の老人がかつてポーランドで妻子を虐殺されたと知ったローレンは思わず涙をこぼす。愛する元夫のためではなく、見知らぬ老人のために流された涙はとっても綺麗だったぜ!

これは特別なヒロインを演じなかったからこそ名作たりえた『ひまわり』の演技設計と軌を一にするローレン・メソッドで、やはり単なるセクシー女優ではないと思わされます。「おっぱいオバケ」って言ってすみませんでした。

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脇役で印象的だったのは指名手配犯のマーティン・シーンである。

ヤクが切れたM・シーンは機関銃を振り回して「列車を止めろ。おれは逃げるんじゃあー」と癇癪を起すが、河童キノコから「撃てるもんなら撃ってみい、シャバ憎がぁ!」とバッチバチに怒られビビって泣いてしまう。泣くんかい。

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ところが、河童キノコが列車停車計画を提案すると「よし来た、キノコの旦那!」とばかりに彼を慕ってノコノコ助力。

列車を止めるには通路にいる大勢の警備隊を突破して先頭車両まで行かねばならないが、「裏技思いついたっ」と子供みたいに叫んだM・シーンは、板を張りつけられた窓をマーティンパンチでぶち破り、走行中の列車から身を乗り出して窓伝いに先頭車両まで行くと言い出した。河童キノコたちは「SASUKEやん」とか「指力(ゆびりょく)がモノを言う世界やん」と心配したが、どうやら本人は余裕のよっちゃんらしい。

おれの本業は登山家なんだ

出来すぎた話!!!

しかし、自慢の指力で窓から窓へスイスイ移動していたM・シーンだったが、SASUKE中に列車内の少女と目が合ったことで警備隊に気付かれパキューンと射殺されてしまった。

SASUKEEEEEEEEEEEE。

警備隊が少女の視線の先を追ったことで列車外のM・シーンに気付く…というサスペンスがなかなかいいよね。単に見つかって殺されたのではなく、罪なき少女が図らずも死を招いてしまったという皮肉。

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登山家マーティン・シーンがSASUKEに挑戦!

 

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「るるおー」と叫びながらの無念のリタイア!

 

そして最後はランカスター大佐である。

四捨五入すれば悪役だが、必ずしもそうは見えないだけに本作はやるせない。感染事件を揉み消したい政府によって非人道的な任務を押し付けられ、列車を止めるべきというチューリン医師の主張が正しいことを重々承知しながらも命令に従わねばならない軍人のジレンマが苦々しく描かれていた。

バート・ランカスターが偽伝道師を演じた『エルマー・ガントリー』を思い出したが、この役者は葛藤するのが上手い。まるで自分の中の天使と悪魔を戦わせているような葛藤顔によってドラマに深みを与えるのだ。

『カサンドラ・クロス』はペンタゴン・ペーパーズ暴露事件やウォーターゲート事件が相次いだ70年代アメリカの暗部を抉っている。列車パートは娯楽色が強いが、機構パートではランカスター大佐が「絵空事じゃないぞ」という眼差しをこちらに向けていた。

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「絵空事じゃないぞ」という眼差し。