シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

陽のあたる場所

でもないさ…コツンやあらへん。

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1949年。ジョージ・スティーヴンス監督。モンゴメリー・クリフト、エリザベス・テイラー、シェリー・ウィンタース。

 

貧しい家に育った青年ジョージは、富豪令嬢のアンジェラに心ひかれ、彼女との結婚の約束をとりつけるに至る。しかし、彼はアリスという身寄りのない娘とも深い仲にあり、彼女から妊娠を告げられたジョージは彼女を殺そうとするが…。(Amazonより)

 

おはよう、米を主食とする民族のみんな。

数の子を塩抜きする毎日です。数の子は定期的に水を換えながら塩抜きしないといけないので、そのあいだに映画評を書いていても「まだ2時間かぁ」とか「ぼくの数の子」などと雑念に囚われて、まったく執筆に集中できません。数の子ごときに翻弄される、愚かな男です。

そして執筆のお供は麦焼酎。寒い季節ですから、ホットで頂きます。でも気づいたら、焼酎のみのみ、数の子をぷちぷちと食べながら将棋の対局動画を閲覧している自分がここに居ました。愚かな男です。

 そんなわけで本日は『陽のあたる場所』。「もっと新しい映画やれ!」と思う俗世の民もいるかもしれませんがすぐ黙れ。じっくり語りたい作品なので9000字オーバーです。

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◆リズとモンティはソウルメイト!の巻◆

うーん…。ジョージ・スティーヴンス『有頂天時代』(36年)『女性No.1』(42年)の頃はよかったのだけど、第二次世界大戦中に陸軍の特別映画斑で主任を務め、そこで凄惨な記録映像を撮り続けた経験から戦後はヒューマニズムの内奥に切り込んだ叙事詩的映画を手掛けるようになり、次第にコッテリした作風に変わっていったのがなぁ~~…。

200分超えの『ジャイアンツ』(56年)にうんざりしながら付き合ったあと、260分超えの『偉大な生涯の物語』(65年)でぶち切れた私。プレーヤーから取り出したDVDを「ヒューマニズムの脂身がすごいっ」と叫びながらぶん投げた記憶があるわ。

そんなジョージが西部劇の名作『シェーン』(53年)のひとつ前に撮ったのが本作『陽のあたる場所』モンゴメリー・クリフトエリザベス・テイラーシェリー・ウィンタースの豪華トリプル主演です。

伯父の伝手を頼って水着製造工場に就職した貧乏青年がそこで働く女工と恋に落ちるが、伯父に招待された華やかな社交界でセレブ娘に一目惚れしてアッという間に結ばれた。だが間の悪いことに女工の妊娠が発覚。浮気も疑われた。やがて女工が邪魔になった青年は、セレブ娘と一緒になるために今カノ殺害計画を思いつく…といったひでえ中身である。

 

二重生活に苦しむ主人公を演じたモンゴメリー・クリフトは、アポロンのごとき美青年でありながらメソッド演技を極めた天才俳優でもあり、デビュー作でいきなりハワード・ホークスの『赤い河』(48年)に抜擢。天下のジョン・ウェインと壮絶なしばき合いを演じた。

以降「モンティ」の愛称で親しまれ、ヒッチコックの『私は告白する』(53年)や、アカデミー賞を総なめした『地上より永遠に』(53年)などでバカ売れしていくが、悲劇が起きたのは1956年。自動車事故によって顔面骨折の大怪我を負い、何度も整形手術をしたが麻痺の後遺症が残っちまったんだ。さらに私生活ではさまざまな病魔に襲われた挙句、アルコールとドラッグにも溺れ始める。極めつけはメソッド演技を追求しすぎたあまり情緒不安定になり狂人扱いされ仕事が激減。

そんな窮地を救ったのが親友のエリザベス・テイラーだった。自身の主演作『去年の夏 突然に』(59年)にモンティを出演させてどうにか立ち直らせたが、それでも過去の栄光は戻ってこず1966年に心臓発作で死去した。享年45歳。

モンティの出演作で特に印象深いのはジョン・ヒューストンの『荒馬と女』(61年)だなぁ。この映画は馬に魅せられた男二人と気立てのいい女の三角関係を描いたノスタルジックなヒューマンドラマで、主要キャストはモンティのほかにマリリン・モンローとクラーク・ゲーブル。カウボーイ時代に終焉を告げた『荒馬と女』は奇しくもハリウッドの終焉をも予期しており、映画の公開年にゲーブルが亡くなり、翌年にマリリンが他界。その4年後にモンティもこの世を去るなど、まさに劇中に香り立つ“夢の終わり”が皮肉にも現実となった奇妙な作品なのである。

ちなみに、ハリウッド屈指のオファー熟考者としても知られるモンティが出演オファーを蹴った作品は『サンセット大通り』(50年)『真昼の決闘』(52年)『シェーン』(53年)『波止場』(54年)『エデンの東』(55年)など…ギョッとするようなラインナップ。もしモンティがこれら全てを引き受けていたら、ジェームズ・ディーンもマーロン・ブランドも世に出ていなかったかもしれんのだ!

こういうタラレバ話って楽しいよねぇ~。

f:id:hukadume7272:20201015042544j:plain悲劇の天才俳優、モンゴメリー・クリフト。

 

そんなモンティと生涯親友であり熱愛関係まで囁かれたのがエリザベス・テイラーだ。銀幕の女王陛下にして銀河系最強のセクスィの異名をとる!

AFIが発表した「映画スターベスト100」ではジュディ・ガーランドやマレーネ・ディートリヒをねじ伏せての第7位に選ばれており、私が発表する『古典女優十選』でも栄えある第7位にチャートインした実績を持つ。「7」という数字は見ようによっては「1」にも見えるので事実上の1位と解釈することも可能。

「リズ」の愛称で親しまれた彼女は、わずか10歳でデビューし『名犬ラッシー/家路』(43年)『緑園の天使』(44年)でスターダムにのし上がり、子役時代過ぎし後も『若草物語』(49年)『花嫁の父』(50年)『可愛い配当』(51年)と順調にキャリアを重ね、とんとん拍子で風格を増していく。

私生活では8回結婚して7回離婚したことから“結婚式のプロ”として名を馳せ、離婚調停では名司会者ばりの場回しを見せた。離婚のプロでもあったのだ。

20代半ばで早くもスーパー凄艶期に突入しており、『ジャイアンツ』(56年)ではジェームズ・ディーン、『熱いトタン屋根の猫』(58年)ではポール・ニューマンといった新世代スターの誕生に立ち会っている。

そんなリズだが、大女優化するほどにオファー選定眼は鈍り、話題作には出れど後世まで残る傑作にはあまり恵まれていない。その最たる逸話が、不幸にもリズの代表作となってしまった『クレオパトラ』(63年)。この大作史劇はリズが244分にわたってファッションショーをやってるだけの恐ろしく退屈な内容だが、それより恐ろしいのはグダグダの極みともいえる製作過程である。

~『クレオパトラ』グダグダ製作裏話~

撮影中に病に倒れるリズ。病に倒れながらも共演者リチャード・バートンとの不倫発覚。脚本が白紙であることが発覚。ロケ地の選び間違いが発覚。ロケ地変更による超巨大セットの建て直し。配役変更による撮り直し。撮影日数の超過。それに伴いエキストラ22万3000人のケータリング代の爆増etc…。

そんなこんなで3億ドルという空前の巨額にまで製作費は膨れあがり、20世紀フォックスを倒産寸前まで追い込んだ挙句、映画史上最大の大赤字を叩き出した『クレオパトラ』。名監督ジョーゼフ・L・マンキーウィッツと敏腕製作者ウォルター・ウェンジャーの輝かしいキャリアは一撃でぶっ潰れた。

なお『クレオパトラ』公開後、リズは共演者のリチャード・バートンと5度目の結婚を果たした。

さすがリズ。自身の主演作が大コケしてもどこ吹く風で自分だけちゃっかり幸せを手にしていく(女王の身振り)。

ちなみにバートンとは10年後に離婚したが、離婚後1年もしないうちに再びバートンと結婚し、そしてまた1年も経たぬうちに離婚なさってます。目が回ってきた。

f:id:hukadume7272:20201015042527j:plain目まぐるしい婚姻歴を持つエリザベス・テイラー。

 

そんなモンティとリズに肩を並べたのがシェリー・ウィンタースである。この人は下積み時代にマリリン・モンローとルームシェアしていた親友だ。

映画ファンから人気の高い『狩人の夜』(55年)や、アカデミー助演女優賞をかっさらった『アンネの日記』(59年)が全盛期にあたるが、中年期以降もキューブリックの『ロリータ』(62年)で母親役を演じたほか、ゲテモノ監督ロジャー・コーマンの『血まみれギャングママ』(70年)では機関銃を撃ちまくる殺戮ママを、『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)では泳げるデブを爆演するなど、老いてますます盛んなロック女優であった。

f:id:hukadume7272:20201015043351j:plain体張りまくりのシェリー・ウィンタース。 

 

◆モンティ、殺害計画をモクロンティ!の巻◆

ここからは映画の内容に触れていくが、私はロマンスが絡みだした途端に映画評を放棄して感情論をまくし立てるという生態があるので、今回もそのパターンでお送りします。

モンティとシェリーはお似合いのカップルだった。二人とも控えめな性格で、映画館デートの帰りに小鳥のようなキスをして別れるのだ。二人が勤める水着製造工場は社内恋愛を禁じていたので工場内では他人のように振舞っていたが、たまに一か八かでウインクしてみたりもした。なかなか素敵なことをするじゃないか。

それにしてもなんだな。水着製造工場のくせに社内恋愛禁止とは、えらくセコい話である。そんなつまらない制度にこだわってる工場なんて遅かれ早かれ潰れるだろう。俺は知ってる。

しかも二人が従事してるのはベルトコンベアから流れてくる変なビキニを箱詰めしたり、目でチェックして「よし」と言うなどする末端業務だ。何が「よし」なのか。そこで作られてるビキニはひどく滑稽な見た目で、ビキニというよりはマスク2枚を紐で繋げたなにかだったのである(ことによると本当にマスクだったのかもしれない)。

それでもモンティとシェリーは単調な仕事を黙々とこなしたし、愛があればこそ貧乏な生活にも耐えられた。二人きりになれる夜にささやかな喜びを見出していたというのか!?

転がり続ける俺の生きざまを

時にはぶざまな格好で支えてくれる

シェリー 優しく俺をしかってくれ

そして強く抱きしめておくれ

おまえの愛が すべてを包むから

尾崎豊「シェリー」

f:id:hukadume7272:20201015052901j:plainモンティとシェリーはお似合いのカップルだった!

 

ところが、モンティが伯父の口利きで一気に部長職まで上り詰めるというチート昇進の恩恵に浴すると、なぜかシェリーの心に寂しさが瀰漫した。瀰漫は「びまん」と読むよ。一面に広がり満ちることを言うんだ。貧乏暮らしの二人は日陰に生きるカップルだったので、シェリーは今度のチート昇進を機にモンティだけが日向の世界に行ってしまうのでは…と恐れたのである。

その予感はガリッと的中した。伯父に誘われて上流階級が集うパーティに参加したモンティは、そこで社交界のマドンナ・リズと知り合ったのだ。互いの視線に恋の火花が散った!

だが、感情を悟られまいとするモンティは無言を貫き、「きみはシャイなの?」とリズに言われて「でもないさ…」とニヒルに答え、ビリヤードボールをキューで突いた。コツン…。

でもないさ…コツンやあらへん。

それがハイソサエティのたしなみなのか? キザでむかつくわぁ。

普通に「でもないさ」と言えばいいものを、いちいちビリヤードが上手いところを見せつけることで、あわよくばウットリポイントを獲得しようとするモテ願望。しらこい仕草。むかつくわぁ~。

それに「でもないさ…」というセリフ自体がすでにウットリポイントを取りにいってるからね。

なにが「でもないさ…」やねん。舐め腐っとんのか。普通に「違うよ」と否定すればいいものを、相手が言った「シャイ」という形容詞に凭れかかる形で「…でもないさ」。で、コツン…。

コツン…やあらへん。

「でもないさ」でポイントを取るだけでは飽き足らず、なに「コツン…」でWポイントチャンスに応募しとんねん。

ビリヤードとモテ仕草を組み合わせて恋のシナジー狙おうとすな。しらこいのう。

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「でもないさ…」からのコツン…でWポイントチャンスに応募するモンティ。

 

だがリズには効果覿面であった。モンティに一目惚れしちゃったのである!

リズとの時間があまりに楽しくて今日がシェリーの誕生日だということをすっかり忘れていたモンティは、パーティを終えたあとに慌ててシェリーの家に駆けつけたが、シェリーは溶けた蝋燭でめちゃめちゃになったケーキの前でひとり悲憤の塊と化していた。

「あなた、ほかに女がいるのね…? よほどの美人なのね…? もう私のこと愛してないのね…? 本当は別れたいのね? どうせ私がお荷物なのねっ? 別れるきっかけを探すエブリデイなのね!? こんな田舎町で私みたいな冴えない女と一生添い遂げるよりもハイソな令嬢とスリルに満ちた愛を育みたいという人生設計が頭をもたげ始めているというのね!!?」

シェリーはシェリーでうっぜぇええええええええけどそれはそれとしてハッピーバースディィィィイイっふう。

 

ウジウジとしたシェリーのちくちくとした攻撃はすべて図星だった。

百姓息子のモンティは、リズと出会って新しい世界を知り、彼女と結ばれれば自分まで高級な男になって上流階級の仲間入りができる…と夢見ていたのである。だが勿論そんなものは幻想。気のせい。蜃気楼。伯父のコネで運よくのし上がっただけのコネクションBOYの思い上がりだ。

そのあと、シェリーの妊娠が発覚してからはムチャムチャの修羅場である。

すでにモンティはリズを選んでいたのでシェリーには堕胎をすすめたが、シェリーにも女の意地がある。本当は浮気男のベイビーなど欲しくなかったが、なまじモンティとリズの関係を知っていただけに反発心が頭をもたげ、いっそお腹の中のベイビーを脅迫材料に使ってやろうと企んだのだ。

シェリー「ちくしょー! 堕胎するぐらいなら私たちの関係を会社にバラしてやる!」

これが露見すると、モンティが会社の恋愛禁止令を破っただけでなく、リズとの背徳の逢瀬まで伯父の知るところとなってしまう。そうなると全てがあじゃぱー。伯父とのコネクションは潰え、再び貧乏生活に身をやつす職あぶれBOYとして辛酸をぺろぺろしなくてはならないのだ!

だが、あくまで抵抗するモンティ。

モンティ「そんなことはいやだ!!」

シェリー「そんなことはいやだ、つってもしょうがないでしょ。ちくしょー! こうなったら結婚しろ!」

もはやシェリーの望みは自分を裏切ったモンティから幸せを奪うことだけだった。モンティのクズっぷりを身をもって痛感したシェリー。今さらこんな奴と結婚しても幸せになれるわけはないが、少なくともリズとの幸福な未来だけはぶっ潰せる!

であるならばッ!

結婚という名の自爆によってモンティともども絶望の淵にダイブすることでしかシェリーの魂は救われないィィィィイイイイイイイイっふう!

f:id:hukadume7272:20201015045611j:plain心優しいシェリーが怨念の化身に。

 

この物語でいちばん可哀そうなのは誰だと思いますか。

シェリー? ノン。

リズ? ノン。

モンティ? 無論ノン。

自爆結婚の切り札に使われたシェリーのベイビーである。執念深い母(シェリー)にとっての脅迫材料であり、身勝手な父(モンティ)にとっての責任でしかない、罪なきベイビー…。なんてふざけた話だ!

では、次に可哀そうなのは誰だと思いますか。

シェリー? ノン。

モンティ? 無論ノン。

これはリズだと思うのです。キミも同じこと思った? ああそう。思わなかった? ああそう。

リズことエリザベス・テイラーは嫌味なほど完璧な美人で色気もすごいので、ともすると観客は「この女さえいなければ二人は上手くいってたのに…!」となぜか勝手に妬んで歯ぎしりなどしてみるが、待たれよ待たれよ。リズは純粋にモンティを愛しただけであって、シェリーの存在すら知らないのである。むしろ上流階級の花でありながら下層階級のモンティに惚れただけ、よっぽど勇敢な恋愛者とはいえまいか。

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水上スキーを楽しむリズ。

 

そんなリズの不憫はこのあとの展開によって決定づけられます。

どうにかシェリーの怒りを鎮めようとしたモンティが一時休戦という名目でピクニックに誘い、湖に浮かべたボートからシェリーを突き落として殺害しようと目論むのである!

だが目論むだけ目論んだモンティ…もといモクロンティ。いざ突き落とそうとしても一度は本気で愛した女。「はいドーン!」といって簡単に突き落とせようはずもなく、殺害計画は妄想に終わった。

たぷたぷとボートに揺られながら、久しぶりに穏やかな時間を過ごすモンティとシェリー。鳥のさえずりがチュンチュン聴こえて、いい気持ち。しかも波はたぷたぷしているし。

モンティ「こんな俺で…モクロンティでごめん」

シェリー「私こそごめん。自爆結婚とか言ってごめん」

モンティ「ふかづめさんにも感謝を捧げなくてはね。ちゃんと僕を叱ってくれて、サンキュ」

シェリー「私の誕生日に『うぜぇけどそれはそれとしてハッピーバースデイイイイっふう』って祝ってくれて、サンキュ」

モンティ「なんだかんだでいい人だよね、ふかづめさんって。知的だし」

シェリー「いつもブログ面白いし。いぶし銀だよね」

モンティ「うんうん。かつお節だよね」

このような談笑を楽しみ、ようやく二人は和解しかけたが、シェリーがきらきらした目で未来の結婚生活を語り始めたことで、よく考えたら事態が何ひとつ解決していないことに気づいたモンティ。やおら「もう沢山だ!」と怒鳴れば、戸惑ったシェリーが「急にどしたん!?」と心配してモンティに近づいた。刹那! ぐらり揺れたるボートが転覆し、二人は湖に投げ出されてしまう。

シェリー「ぎゃあー!」

モンティ「ちべたーい!」

モンティは這う這うの体で湖岸まで辿り着いたが、シェリーの姿が見当たらない。

湖の藻屑と化したのである!

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もうハチャメチャである。

怖くなったモンティは「ぼく知らないもんティ!」とかなんとか叫んでリズのもとに逃げたが、程なくして刑事さんが現れ、様々な証拠からモンティがシェリーを殺害したとして逮捕されてしまった。あーらら…。

裁判にかけられたモンティは「たしかにシェリーとは不仲だったが、殺しちゃいない。ボートが転覆したのは事故なんだ!」と主張したが、検事は「でも溺れた彼女を見捨てたでしょう?」と厳しく追求した。殺意の有無が争点になったのである。

そして遂に判決が下された…。

裁判長「それでは陪審員の皆さん。評決を発表してください」

陪審員「死刑っ」

裁判長「ほな死刑でいっとこか」

あーあ…。

死刑執行当日、モンティは古い知合いの神父から「ことによると、あなたの言うようにシェリーは事故死だったのかもしれない。しかしですよ。あなたは心の中で彼女を殺したのです!」とむちゃくちゃな観念論を振りかざされ、そのあと面会したリズと永遠の愛を誓い、刑務所長に連れていかれたのでした。鬱エンド!

f:id:hukadume7272:20201015051524j:plain「それでもボクはやってない」

 

会う前から好きだった…の巻!◆

『陽のあたる場所』は、物語の表面だけに目を滑らせれば二股男がコテンパンに裁かれる話…という大マヌケもいいとこの因果応報ムービーである。

ところが、下層階級の青年が陽のあたる場所=上流階級に憧れるあまり虚飾で身を固めて破滅する…という大筋からはセオドア・ドライサーの原作小説が『アメリカの悲劇』と題されているワケがおおよそ推察できるように、その薄皮一枚隔てた下には米国格差社会の闇が渦巻いている。

モンティがリズに向かって口にする「会った時から好きだった。もしかしたら会う前から好きだった」は非常に人気のある名セリフだが、この「会う前から好きだった」という部分は決してロマンチシズムに基づいた愛の囁きなどではない。おそらくモンティはリズと出会う前から新聞やラジオを通してその存在を知っており、彼女のいる社交界に憧れを抱いていたのだろう。

また、モンティはリズと浮気したためにシェリーとの仲をこじらせるが、その根本原因は浮気ではなくチート昇進である。それも伯父コネクションによる実績なき昇進だ。したがってモンティ自身は「これで上流階級の仲間入りを果たした」と思い込んでいたのだろうが、本当のところは上流階級の仲間入りを果たしたのではなく、上流階級に迷い込んでしまったのである。

ゆえに三者は自由恋愛の名のもとに恣意的に立ち回っているかのように見えて、実は身分制度のもとに厳しく拘束されており、それに気づかなかったばかりにリズとモンティの愛は粉微塵に爆砕したのだ!

そうそう。モンティがリズの友達(全員セレブ)とうまくつるめず気まずそうにしているシーンが印象的だったが、そうしたショットの端々に階級意識が織り込まれていて。本作が愛で身分差を乗り越えるような甘い映画群と一線を画すのは「愛で乗り越えられないのが身分差なのだ」と反駁するような現状認識の強度を持つためである。

f:id:hukadume7272:20201015050336j:plain「そう容易く愛で身分差は埋められない」と本作は説く。

 

撮影はウィリアム・C・メラー御大。

メラーはやたら重厚な画作りに固執するカ・メラーマンで、こいつが撮ると事の深刻度が20%増す。

特に本作のようなストーリーは画が軽いと笑い話になってしまうので徹底的に主人公を内面化した撮影が求められるわけだが、その点ならメラーは安心。メラーのカメラーは安心。遠近を駆使した裁判シーケンスではモンティの焦りや不安をメラーのカメラーに炙り出していて「メラーうまいじゃん」とギャルみたいに感心した。

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裁判シーケンスの遠近モンティ。

 

そんなメラーのカメラーに応えるのがモンティ。

翳りのある美男子ぶりが実に際立つが、それにしてもモンティの超絶技巧は“うまい”を通り越して“やりすぎ”ね。多くの人が誤用している「役になりきる」を自壊寸前まで実践していて、役になりきるのは芝居じゃないと持論する私なんかは「息が詰まるから、もうちょっと演技の解像度落として…」と画面に向かって切にお願いしてしまったなぁ。

度を越してうまい芝居は逆に迷惑っていう。

リズとシェリーの好対照な女性像もすてきだったね。

特にスーパー凄艶期を迎える前のリズ。エリザベス・テイラーは非常に困った女優で、どの映画を観てもおっぱいにしか目がいかないという錯視トリックを仕掛けてくるのだが、本作では色気で攻めるでも気品を押し出すでもなく、その中間色のような魅力で美のストライクゾーンに球ほりこんどったわ。

とはいえ撮影時17歳でこの色気は…やっぱ困るなぁ。

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海辺でイチャこく二人。

 

さてと。モンゴメリー・クリフトの人気は本作で決定づけられ、彼が体現した悩める孤独な青年像はマーロン・ブランドを始めとするアクターズ・スタジオの役者や、ヌーヴェルヴァーグ作品のロールモデルとなりました。

もちろん、同時代を並走したもう一人の孤独な青年…ジェームズ・ディーンを忘れてはならんのだが。奇しくも自動車事故が原因でキャリアを閉ざされたという共通点を持つモンティとジミー。だがその名は永遠に。