シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

TSUNAMI -ツナミ-

津波のような侘しさに、I know、怯えてるHoo...なのだ。

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2009年。ユン・ジェギュン監督。ソル・ギョング、ハ・ジウォン、パク・チュンフン、オム・ジョンファ。

 

2004年、歴史上類を見ない死傷者を出したインドネシアの大津波。インド洋で遠洋漁船に乗っていたマンシクは津波に巻き込まれ、密かに想いを寄せていたヨニの父親を失う。この事故をきっかけにヨニへの気持ちを隠してきたマンシクが、ついにプロポーズを決意する。しかしそのころ、高さ100メートル、時速800キロの超大型津波が迫っていた。(映画.comより)

 

おはよう、民のみんな。

それにしても結局あれだよ、1パック10個入りの卵なら偶数個で使わないと1個余る可能性があるってことだよ。私なんかは、どの卵料理でも、大体は4個、3個、3個で使いきっているよね。

あ…。奇数で使ってるゥー!

言ってることとやってることが矛盾してしまったので、この話はもう終わりです。

…とこのように、とかく私は持論の展開過程で矛盾を生成してしまい、がために自分が生み出した矛盾でハナシの筋道を自ら阻害、トークの頓挫、白けた相手をよそに自縄自縛の自爆芸を演じるさまは、あたかも唯一の退路に自ら爆弾を設置してしまったボンバーマンの如し。「うっぎゃー!」と独り相撲を演じては、人から蔑視の眼差しを向けられているのであるるでぱるる。

それでも私は、矛盾が好きだ。

どうせ俺たちバカな人間風情が「矛盾してはいけない」という前提で一丁前にモノを話してること自体が既にどこかで矛盾している気もするし、退屈な正論をいう人よりは、多少乱暴でも熱い持論で矛盾を焼き切ろうとする奴の方が、俺は好きだね。

だけど、ダブルスタンダードとか二枚舌とか、ああいう類の矛盾はよくないな。矛盾とは罪なき他者への振舞いではなく、内へと向けられた自己処罰の遊戯でなければならない。誰もケガしない無法地帯でなければならんのだ。ユーモアとはそういうことだ。

かつて宮本浩次が豪語した「オレは日本語オンリーの男である」という言はケチの付けようがない黄金の矛盾だ。まったく、わけがわからない。

そんなわけで本日は『TSUNAMI -ツナミ-』です。あの名曲とともにお送りしてしまったことを一応お詫びしておくわ。

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◆見つめ合うと素直にお喋りできない3組の男女◆

火災映画の次は津波映画を観ていこうという物騒なとりくみ。

本作『TSUNAMI -ツナミ-』は1150万人の観客を動員したメガヒット作らしく、公開時の韓国興行収入では『グエムル-漢江の怪物-』(06年)『王の男』(05年)『ブラザーフッド』(04年)に次いで歴代4位を記録。日本では公開後に発生した東日本大震災によりテレビ放送が見送られた。

主演は前回取り上げた『ザ・タワー 超高層ビル大火災』(12年)に続いてソル・ギョング。共演には『ファン・ジニ』(06年)『シークレット・ガーデン』(10年)など映画よりも韓流ドラマで知られるハ・ジウォンや、おもしろそうなタイトルなのに全然おもしろくない『どこかで誰かに何かあれば間違いなく現れるMr.ホン』(04年)で知られる韓国歌謡界の歌姫オム・ジョンファ、秘孔突かれてあべし5秒前みたいな顔のパク・チュンフンなど。

 

どういう中身かって言ったら100万人の観光客が集う海雲台(ヘウンデ)にメガ津波が直撃して猫も杓子も押し流されるという悲しい中身だ。

原題にも使われた「해운대(海雲台・ヘウンデ)」という地は、釜山国際映画祭の会場としても有名な韓国屈指のリゾート地なんだって。映画は、そこに暮らす人々を群像劇風に活写していく!!

一人息子を育成するバツイチのソル・ギョングは、海雲台の港で飲み屋を営むハ・ジウォンとシャイな両想い関係にあった。見つめ合うと素直にお喋りできないのだ。津波のような侘しさに、I know、怯えてるHoo...なのだ。

ハの父親は元漁師だったソルのお師匠様だったが、ソルは10年前の嵐の漁業で自らの判断ミスによってお師匠様を死なせており、そのことを未だに悔やむあまりハへのプロポーズを躊躇っていた。泣き出しそうな空眺めて、波に漂うカモメ、きっと世は情け、Oh, Sweet memory...なのだ。

f:id:hukadume7272:20201115075153j:plainソル(左)とハ(右)。シャイな二人。

 

一方、ソルの弟であり海難救助隊のイ・ミンギは、海で溺れていた男勝りな美少女カン・イェウォンに人工呼吸を試みたところ、キスされたと勘違いされて韓流ドラマのごときロマンスが始まってしまう。カンは人工呼吸を受けたときにイの唇を思いきり噛んでしまい、それからというもの唇を噛むことがキスの代わり…というわけさ!

二人のロマンスは順調に思えたが、ある日、イはカンを狙うスケコマシ野郎(以下)からリンチを受け、「オレとあの娘は結婚を誓った仲なんだ!」というスのウソ(以下)を真に受け、カンをビッチ扱い(以下)してしまいました。

一方的にイに振られたカンは涙に濡れた。人は涙見せずに大人になれない、ガラスのような恋だとは、I know、気づいてるHoo...なのだ。

f:id:hukadume7272:20201115080107j:plainイ(左)とカン(右)。ワイルドな恋愛。

 

その頃、心優しき地質学者のパク・チュンフンは、リゾート再開に執念を燃やす元嫁オム・ジョンファとの関係をギスギスに悪化させていた。

頑是ない娘に対して、最近できたボーイフレンドを「この人があなたの父親よゥ!」と言って聞かせるオムにとって、もはやパクは一日でも早く忘れたい元夫でしかなかった。研究一筋のパクは寝ても覚めても地震観測のことしか頭にないマグニチュードおじさんだったのだ。だが娘を思う気持ちはホンモノ。人は誰も愛求めて闇に彷徨う運命、そして風まかせ、Oh, My destiny...なのだ。

そんな折、日本でマグニチュード6.5の大地震が発生。

パクは「10分でメガ津波がくるから避難してぇ!」と主張したが、周囲は海雲台リゾートタワーのセレモニーに夢中で「津波なんかこぉへんよ」と取りつく島もなし。オムに至っては「私のセレモニーを邪魔するつもりなんでしょ!」と逆上した。パクは口をパクパクさせた。

f:id:hukadume7272:20201115073503j:plainオム(左)とパク(右)。元には戻れない元夫婦。

 

◆おまえが死ぬ可能性も50パーあるんかい◆

メガ津波が釜山を襲うのは映画後半の40分で、そこに至るまでの前半50分は上記3組のエピソードが横断的に描かれていくのだが、これがいかにも韓流メロドラマという感じで、泣きの布石死亡フラグのオンパレードなのである。

まずはソルとハが織りなす、シャイな大人のラブロマンス。これはなかなか好いです。ソルからのプロポーズを秘かに待ち続けているハは、煮え切らないソルに痺れを切らして父の墓参りに彼を誘い、その墓前で“父に語りかける”という体で間接的にソルに告白する。厳密には告白というより「告白を受け入れることを告白する」わけだ。

「天国のパパン! ソルさんは頼りになるし、私もそろそろ嫁入り時だし…。ねえ? つって」

そこでようやくソルは、自分の恋路がすでに当確であることを知るわけ。

ソル(そうか、コレ…。いってええんか)

意を決したソルは「のるかソルか!」とばかりに花火大会の夜に漁船の上でプロポーズしたが、ハは「明日返事するね!」と言ってソルのソウルを焦らします。すでに当確なのに今更その駆け引き…いるかね? なんて思ってると、その夜ソルと別れたハは、父親の死因がソルの過失によるものだったことを初めて知り、「今まで黙ってたなんて。ソルさんひどい」なんつって翌日プロポーズを断ってしまうの。

そんなわけで、二人の仲に亀裂が入ったタイミングでメガ津波が襲ってくるわけです。その後のサバイバルを通じて結局結ばれる未来まで見えた。

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イとカンのエピソードに関してはストレスフルとしか言いようがありませんでした。

ス(スケコマシ)のウソに騙されたイは一方的にカンに別れを突き付けるわけだが、この“一方的な別れの突き付け方”というのが…映画やドラマによくある聞く耳持たない系なのね。これ大嫌いなんですよ、僕。

  イ  「きみって女はひどい女だよ。僕の心を弄ばないでくれ!」

カン「え、どういう意味…?」

  イ 「これ以上の議論は無用だ。二度と顔も見たくない! さらばだ!」

まず話聞けよ。

「さらばだ」じゃないんだよ。イのウソ鵜呑みからの剛腕既成事実化からの誇大妄想切り捨て御免がすごいよ。

ひょっとすると自分がなにか誤解/誤認してるだけかもしれない…という可能性を小さじ1杯たりとも考慮することなく第三者が言ったウソを鵜呑みにして問答無用でカンを切り捨てるイを私は愚かだと思う。話し合いができない人間はバカです。

このようなシチュエーションで男女がすれ違う映画は実に多いが、私はそういうシーンを見るたびに、誤解された側…つまりカンちゃんに対して「いいよいいよ、もう。嘘に踊らされて聞く耳を持たず情報精査もできない非論理的なバカ男と結ばれたところでどの道いいことなんて一つもないからこのまま別れるのがトゥルーエンドなんじゃない?」と思ってしまうのよねぇ。

そう、いわばこんなバカと結ばれたとて論である。

仮にイと結ばれてハッピーエンドを迎えたとしても、この程度のことで修羅場になるようなら先が思いやられるっていうか、どの道なりと茨の道、遅かれ早かれ破局は免れまい…とするリロンなわけだ。

 

また、これとは別件で、私がもうひとつ気になったのは、カンに片思いしたスが恋敵のイをボコったあとに吐き捨てたセリフ。

「二度とオレの前に現れるな。次現れたらオレとオマエのどちらかが死ぬことになるぞ!」

おまえが死ぬ可能性も50パーあるんかい。

そしてそのことを伝えてまうんかい。そこは強気に「次現れたら死ぬことになるぜ(100%おまえがな)」でいいだろうに。何故わざわざ“自分が死ぬ可能性も50パーしっかりあること”を正直に伝えようとするのか。なんて公平な奴なんだ。というか、なんて確率にうるさい奴なんだ。

で、この直後にメガ津波がばっこーん来るので、そこでイがカンを救助して結局結ばれる未来まで見えた。

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離婚したパクとオムのエピソードに関しては、もう「ほーん」って感じで特になんの感情も湧かんかったわ。強いて言うなら、愛する娘の前で“知らないおじさん”を演じねばならないパクの魂を慰撫したい…って。ま、そんなもんだな。

ちゅか、よく考えるとパクって悲しい奴なんだよな。研究熱心が祟って女房には逃げられるわ、娘からは知らないおじさん扱いされるわ。職場ではマグニチュードおじさんとして部下から信頼されちゃあいるが、メガ津波を予知できても「考えすぎ」とあしらわれてオオカミおじさん扱いされてしまうのだ!

地質学者が「考えすぎ」であしらわれたら堪ったもんやあらへんで。

ほな、次の章いこか。

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◆バッサァーなくして津波たりえない。バッサァーなくして津波たりえないよ!◆

いよいよ映画は後半。

メガ津波がザッサァーきて街ガッサァーいかれる圧巻のスペクタクル…と言いたいところだが、この津波シーンが妙にしょぼい。2009年のCG技術という点を加味しても、津波やビル倒壊のVFXがプレステ3のそない売れてないタイトルのそれで、見応えを欠くことおびただしい。

具体的には波の揺れ方が均等すぎ同じグラフィックの使い回し瓦礫の飛び方が速すぎ/遅すぎ水流が意思持っとるそもそも水に質感がない…などなど、枚挙に暇がナイアガラ。

まあ、VFXのしょぼ味に関しては日本映画も大概なのでこれ以上の苦言は控えるが、それにしてもこのメガ津波である。

一番いかつい高度100メートルの大波がいつまで経ってもバッサァーと来ず、ずっと最大到達高度を維持したままモモモモモ…ってしてるだけなの。

いつバッサァーが来るのかと思いきや、その場でモモモモモ…ってずっとしてる。言うてること分かるけ。かめはめ波でいうなら「波ァーッ!」が来ないのよ。ずっと溜めてんの。モモモモモ…って。

f:id:hukadume7272:20201115074515j:plainこんな感じでモモモモモ…ってずっとしてる。

 

この波…念力か何かで固定されてんの?

魔導士が頑張って食い止めてくれてるわけ? バッサーストップ魔法で?

はっきり言ってね、バッサァーが無いならそれはもう津波じゃないよ。

モモモウェーブだよ。

津波というのはモモモモモ…とバッサァーがセットになった海水の波動現象であるからして、モモモとバッサーは2つで1つ。わかるね? バッサァーが無い以上、それはもう単品のモモモウェーブに過ぎないんだよ。例えりゃあ、ハッピーセットにオモチャが付いてないのと同じで、メンバー半減の現KAT-TUN、かつみの欠けたさゆり、林家ペーと別行動時のパー子、握手券が入ってないAKBのCDと同じくらい無価値と言わざるをえないんだよ。

しかもである。そのあと何度かシーンが変わると、えらいもんで先ほどのモモモウェーブ自体が消えてなくなってるのよ。すっきり、丸ごと、綺麗に。さっきまでモモモモモ…のまま待機してた大波がパッて消えちゃうの。

バッサァーはぁぁあぁぁああぁ?って。

バッサァーの立場はぁぁあぁぁああぁ?って。

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その後、主役であるはずのディザスター要素は各キャラのメロドラマに吸収されてしまいます。つまりお涙頂戴の道具立てと化す。

電柱にしがみついたハは、津波に流されるソルの腕を掴んで「死んじゃらめー。死んだら私と結婚できないれしょ!」と泣き叫び、ソルもソルで危急存亡の秋だというのに「もう一度プロポーズさせてくれ。アナタガ、チュキダカラー!」なんてグダグダ喋って観る者の涙を誘います。誰が泣くか。

結局、ソルはハを巻き込むまいと自分から手を放して激流に呑まれたが、その手を再び掴んだのがハの叔父だった。叔父とは不仲だったソルは「おじさん!」と大いに感動をするが、その直後にデカい看板が流れてきて叔父の後頭部にパッツーン直撃。「ナムル!」と小さく鳴いた叔父はそのままスーンと波に運ばれていった。

ソル「おじさぁぁぁん!(大号泣)」

「おじさぁ~~ん!(大号泣)」

「ファー!(大爆笑)」

笑うべきじゃないのは重々承知だが、どう見てもコントやんっておもった。

f:id:hukadume7272:20201115074333j:plainナムルおじさんの死を悼む二人。

 

その頃、嫌がるカンを無理やりクルーザーに乗せてデートしていたスは、大波でカンともども海に投げ出されてしまう。そこへ現れたのが海難救助隊のヘリコプタァ。

ワイヤーを付け、果敢に海に飛び込んだイ。カンを抱いてヘリに引き上げ、続いてスを引き上げようとしたが、ワイヤーがプチプチプチッ…と千切れかかっていく。

もうええてー、こういうの。

後輩「ワイヤーが限界です! 2人は支えられません!」

「1人ならイケるか!?」

後輩「1人ならイケますが…。先輩か救助者か、どちらかが落ちねばなりません!」

「ほなワイヤー!」

そんなわけで、カンに愛を叫んだあと、イは自ら海に落ちていく。当然というべきか、イの落下ショットはスローモーションで美しく演出され、そこにルールルーみたいな情緒揺さぶる音楽を被せることで観る者の涙を誘います。泣くかあ!

思わず「そんなアルマゲドンな…」と口にしてしまうほどの予定調和的自己犠牲。「1人ならイケるか?」→「1人ならイケます! どちらかが落ちねばなりません!」のやり取りがあまりに露骨すぎて。

いやいや、それ以前に装備のしょぼさね。2人で千切れるようなワイヤーでよく海難救助が務まるよな。だって救助隊員と遭難者を同時に引っ張り上げるアイテムなのに2人で千切れるって…。

逆に千切れちゃいけない最低ラインが2人なんだよ。

あと「どちらかが落ちねばなりません!」と言ってた後輩…、大勢乗せられる救助用ゴンドラみたいなやつをイに求められたとき「あっ、持ってくんの忘れました」って言ってたからな。

もう落ちてしまえ、おまえが海に。

f:id:hukadume7272:20201115074057p:plainさだめを全うして海に落ちていくイ。

 

最後はパクとオムの元夫婦シーケンスである。

オムのマンションで留守番していた娘を助け出したパクはオムと合流。キッズ優先の救助ヘリに娘だけ乗せて「僕が本当の父親だよ!」と告白し、キッズ専用ヘリを見送ります。

メガ津波を臨むマンションの屋上でしっぽりと抱き合う元夫婦。どうやら仲直りしたようだ。

オム「あなた、相変わらずだらしないわね。ネクタイが歪んでるわよ…」

パク「そうかい?」

そして津波にバッカァーいかれてまうのです。

一番マシ。

この3組の中で一番マシ。娘を救えた安堵と、眼前に迫る大波への諦念から、ようやく夫婦の絆がほんの少し修復する。だが10秒後には波にのまれる運命…という今際のきわの皮肉と哀愁がジワッと利いた、なかなかよい場面だったですね。泣いてやらないでもない。

f:id:hukadume7272:20201115074224j:plain屋上全滅組。肩を寄せ合って波を見つめる二人のせつな味。

 

そんなわけで、基本的に『TSUNAMI -ツナミ-』は目先の安い感動を拾いにいった大味極まるディザスター・ムービーだが、時おりフッと香る韓国映画ならではの辣腕テリングがほどほどの楽しさを約束してくれる…ぐらいには色んな意味で丁度いいエンタメ・オリエンテッドな大作でした。『海猿 -ウミザル-』(04年)といい勝負。

もっとも、ディザスター・ムービーに対して「大味」は誉め言葉な気もするが。

 

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