シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

宇宙人東京に現わる

パイラ人から宇宙道徳を学べる教育的映画です。

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1956年。島耕二監督。見明凡太朗、川崎敬三、苅田とよみ。

 

城北天文台の磯部助手は、或る夜雲の切れ間に不思議な形をした謎の発光体を発見。そして、世界各地でUFOが目撃され、ヒトデ型の宇宙人が東京を襲った! 恐怖におののく住民たち!パイラ人と名乗る宇宙人は、何の目的でやってきたのか? 折も折、死の惑星“R”が地球に接近。人類最大のピンチを救うカギは松田博士の発見した方程式にあったが…。(Amazonより)

 

おはようございます。ちょっとグッタリしているふかづめです。

昨日までの3日間、京都では祇園祭の宵山がおこなわれていました。四条に住む者にとっては地獄の3日間です。通りという通りが歩行者天国になり、リア充ならびにDQN約30万人がごった返す前夜祭。

家から一歩外に出ると自転車にも乗れないほど道が混雑していて、人、人、人で犇めく、肉、肉、肉の塊。浴衣を着た多くの人民が浮かれ騒ぎます。

戦車一台あればずいぶんサッパリするだろうなと思います。

そんな中、人混みを掻きわけてスーパーマーケットに行ったんですけど、梅雨の蒸し暑さと祭り囃子のやかましさも相まってブッ倒れそうでした。本当に熱気がすごいんですョ。

でもまぁ、道行く人民はとても幸せそうでしたよ。フランクフルトを食べさせ合いっこしている浴衣の高校生カップルとかね。とっとと家帰ってアイボンして寝ろ。

夜11時になっても祭りは続き、窓から外を見ると若人たちが「うけるー」と騒いで喜んでいました。楽しそうで何よりです。そして町全体の幸福度と反比例するように下がっていく京都の民度。祇園祭は最高です。

そんなわけで本日は『宇宙人東京に現わる』をやっていくよー。どうせなら東京より京都に現れてほしい。そして祇園祭をめty

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◆パイラ人が来たぞ◆

特撮といえば東宝のお家芸だが、この映画は大映作品。総天然色としては日本初の特撮映画なんだってさ。「へえ」って感じだよね。

特撮勃興期の1950年代は東宝と大映が鍔迫り合いを演じており、ゴジラやラドンを擁した東宝が怪獣でくるなら大映はSFだということで『宇宙人東京に現わる』が制作された。まぁ、東宝もこのあとすぐSFに手を出して『地球防衛軍』(57年)『美女と液体人間』(58年)などでマウントを取り返すわけだが、それにしても当時の大映は気合の入れようが凄かったようで。

ジブリと同じ原作の『風立ちぬ』(54年)や文部省選定映画『幻の馬』(55年)でバリバリ活躍していた島耕二を監督に抜擢し、大映社長・永田雅一が製作、シナリオは黒澤明の忠臣・小国英雄。キャストはベテランの見明凡太朗山形勲に加え、駆け出しの川崎敬三もちゃっかり出演(『青空娘』(57年)では若尾に惚れたくせに『氾濫』(59年)では同氏の首を絞めた男)。

なんといっても色彩指導とキャラクターデザインが岡本太郎

太郎ったら、「太陽の塔」をぶっ建てる前にはこんな事をしていたんだなぁ。

そんなわけで大映渾身のSF大作なのだが、蓋を開けてみればちょっぴりヘンテコなカルト映画でした。

とんだ珍作掴まされた。


世界中で空飛ぶ円盤が目撃され、天文台長の見明凡太朗とその助手KAWASAKIらが「あれは何なんでしょうね」「わからん。何なんだろう」などと時間の無駄でしかない議論をしていると、ある日、自らをパイラ人と名乗る宇宙人が東京某所に現れた!

パイラ人…。

パイラ人はヒトデのような五芒星形をした宇宙人でした。胴にあたる中心部にパッチリとしたお目めを持っており、たまに思い出したようにピカピカと光らせる(きれい)。

また、パイラ人同士ではテレパシーを使って会話できるほか、瞬間移動や変身能力を持つなどヤケにエキセントリックな宇宙生命体なのである。

こちらがパイラ人のお姿↓

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あ、かわいい。

 

だけど…ヒト入ってるやん。

モロやん。中に入ってるスーツアクターが両手両足をめいっぱい広げてるさまが容易に想像できてしまうやん。これ絶対…撮影が終わると「パイラしんどいわー!」って言いながらパイラスーツ脱いで水飲んどんで。そこまで想像がつくほど衣装がショボい。

スーツっていうか…シーツですからね。生地的に。

 

地球に入れば地球に従え

そんなパイラ人が日本各地を行脚したことで、ほうぼうから「宇宙人を見た!」という報告が相次ぎ、瞬く間に日本中がパニックに陥る。真相究明に乗りだす見明博士とKAWASAKIは「宇宙人なんて本当にいるんでしょうかね」「わからん。いるのかな」などと話が一個も進まない議論で時間をむだにしていた。

人類の未来や、いかに!?

…と言いたいところだが、実はパイラ人の目的は地球侵略ではない。人類に原水爆の危険性を訴えて核を廃絶させるためにパイラ星からやってきたのだ!

えらくやさしい。

パイラ人の話によると、かつてパイラ星でも原子力がもとで絶滅しかけたことがあったらしいのだが、賢い彼らは平和的に原子力を利用することでパイラ星の科学を飛躍的に進歩させることに成功した。だから自分たちと同じ轍を踏んではいけないと地球人を諭しにきたのである。

動機が老婆心。

なぜパイラ人は見ず知らずの地球人をこれほど気にかけてくれるのか。それは彼らが宇宙道徳を重んじる種族だからである。

パイラ人「地球の危機を見捨てては宇宙道徳に背くというものだ」

宇宙道徳。

なんだかよくわからないが、とてつもなく崇高な道徳観念だということだけはビシビシ伝わる。パイラ人は誇り高き奴らなのである。まるでご近所さんのような近しさで人類の世話を焼いてくれるパイラ人のあたたかみ。

『宇宙人東京に現わる』は昭和の近所付き合いを思わせるハートウォーミングなSF映画だったのです。ほっこりする。


しかし、いちど人間の前に姿を現して不気味がられてしまったパイラ人たちは宇宙船の中で作戦を練り直す。

部下パイラ「一案があります。人間の姿に変身して地球に潜りこむんです」

上司パイラ「地球に入れば地球に従えという説もあるからな。しかし、誰がその役目を務めるかが問題だ」

部下パイラ「誰というより、言い出した私が」

上司パイラ「君の犠牲的精神はパイラの歴史に残るだろう」

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彼らはパイラ語で会話するので日本語字幕がつきます。


そんなわけで、部下パイラは「青空ひかり」という人気歌手そっくりに変身して再び地球へ。そこでKAWASAKIと知り合って天文台に赴き核廃絶を唱える。

だがパイラ人が地球に来たのは核廃絶スピーチのためだけではなかった。なんと「新天体R」が30日後に地球に衝突するというのだ。えらいことである。これを回避するには世界中の核兵器を天体Rに撃ち込むほかはないが、パイラ人の姿を確認していない諸外国は日本側からの核提供の申し入れを一笑に付してしまう。

しかし15日が経過すると天体Rが肉眼でも見えるほど迫り、これに焦った諸外国は一斉に核兵器を撃ち込むもまったく効き目なし。

さぁ、どうする人類!?

 

もっとも、見明博士の従弟である物理学者・山形勲が原爆以上の破壊力をもつ元素「ウリウム101」を発見していたことが早い段階で示されるのでこの後の展開は推して知るべしなのだが、この中盤以降はもっぱら科学者たちの東奔西走に当てられており、パイラ人がまったく出てこない。

したがってめちゃくちゃつまらないです。

予算浮かせやがったな、コノヤロー!(パイラ人の登場シーンはVFXをふんだんに使います)。ジジイが天文台でお喋りしてるシーンなんていらないんだよ。パイラを出せよ!

だってこの映画のセールスポイントって完全にパイラ人なんですよ。パイラに全体重を乗せたパイラ頼み映画なんです。それなのに中盤以降出てこないって…。パイラをケチってる場合か!

まぁ、その代わりに『紳士は金髪がお好き』(53年)のマリリン・モンローをパクったような「青空ひかりのミュージカルシーン」が用意されているのだが…いらねえよ! チャチなミュージカルでお茶濁すな!

一方、天体Rを破壊しうる「ウリウム101」の方程式を知る山形博士は闇ブローカーに誘拐されてしまい、「方程式を教えるまで帰さないからな!」と言われ倉庫に監禁されてしまうが、そうしてる間にも天体Rは刻一刻と地球に近づき地上は灼熱地獄と化していく…。

この危機を回避するには山形博士の「ウリウム101」が必要だと知りながら、なおも闇ブローカーが「その方程式を他国に売れば大儲けできる!」との理由から山形博士を拉致監禁する理由がまったくわからない。

地球が滅亡してしまっては元も子もないではないか。

しかも、地上の灼熱っぷりに恐れをなした闇ブローカーは博士を倉庫に残したまま「タスケテー」と言ってどこかへ逃げ出してしまう。博士を解放すれば助かるのに。どこまでバカなんだ。

ここら辺にシナリオ小国英雄の手抜きを見ます。

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天文台でひたすらグダグダやってる映画中盤。

 

◆太郎爆発◆

さて。クライマックスをさらったのは監督・島耕二の映画術でも博士たちの努力でもなく…岡本太郎だった。

天体Rの接近による天変地異が視覚化されたラスト20分は画面全体が真っ赤に染まるのだ。20分間、ずーっと真っ赤っか。

鳥が地面に落ちて干からびるおぞましさ、ジリジリとした暑さに体力を奪われる絶望感。三色法の総天然色ならではの生々しい赤が使われた「暴力シーン」である。

しかしそこへ風が吹く。ゴーストタウンと化した東京を吹き抜ける烈風、それが引き寄せた波や潮…。風の表現が見事であります。そして日照り津波が同時に押し寄せる。

赤と青の反対色を使った天変地異のダイナミズムは、まさに芸術家・岡本太郎の色彩指導あっての賜物。岡本太郎の作品といえば「太陽の塔」や「午後の日」のような立体造形が有名だが、その絵画作品を見ると「赤と青」に主題を置いていたのは一目瞭然。そしてこの映画のポスターに描かれたパイラ人は赤い胴体青い目を持つ宇宙人。

天体Rの接近による干ばつと二次災害としての津波は、きわめて岡本的な赤と青によってフィルムに還元されています。

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赤いシーンと青いシーンのハーフアンドハーフ。

 

そしてついに山形博士の「ウリウム101」が天体Rを破壊するラストシーン!

芸術は爆発だあ!

惑星も爆発だあ!!!

この発想である。

ラストシーンではシェルターに避難していた人類がようやく地上に顔を出すが、島耕二はここで一工夫を加える。

「シェルターから出てくる人類」の代わりに「巣穴から出てくる動物たち」を次々に映していくのだ。

たぬき! 鳥! カメ! カニ! そして人間!

ハッピーエンドといえばハッピーエンドだが…皮肉といえば皮肉なラストである。しょせん科学を手にした人間も動物。死の危機に瀕すれば家畜にも劣る浅ましさで助かろうとする。あるいは山形博士を拉致した闇ブローカーのように、死の危機に瀕してさえ富を欲望する。宇宙道徳の欠片もない。パイラが聞いて呆れる。

だから人類を差し置いて、続々と巣穴から出てくる動物たちにカメラを向けるのだ。真っ先に幸福な陽射しを浴びる権利は動物たちにある。人間は一番最後。

 

『宇宙人東京に現わる』はピリッと風刺の効いたポンコツ映画であった。今やほとんど忘れ去られた作品だが、パイラ人だけは未だに根強い人気を誇りグッズ化もされている。

我ら人類はパイラ人の宇宙道徳に倣わねばなるまい。あいつらは地球上から差別や戦争をなくすためのヒントを与えてくれた。ありがとう、パイラ人。どうか遥か彼方のパイラ星から見守っていてくれ。

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助かって大喜びする人類。

 

(C)KADOKAWA