シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班

ひき逃げ野郎VSひき逃げ野郎のひいた者勝ち一本勝負!韓国発のひき逃げアクションサスペンスが我々観客をひいて逃げていく! ~伊藤健太郎と吉澤ひとみに捧ぐSP~

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2019年。ハン・ジュニ監督。コン・ヒョジン、リュ・ジュンヨル、チョ・ジョンソク。

ひき逃げ犯を捕まえる中身だというのに、何をか言わんや、主人公もひき逃げを起こしていたという裏ぎりの中身。


うんうん! ふかづめでーす!
前回の前書きの続きなんだけどさぁ、たしか前回は「年上の人は尊敬せねばなりませんよ」って話をしてたよね?
てなこって、たまに立ち寄るコンビニエンスの深夜営業を司る老店員がなかなか元気で重畳って話を今からするで~。集まり~。
えっ…集まらへんの…?
集まり~。
その老店員は、私が入店するなり「らっさい、らっさい!」と挨拶してくれます。
本人は「いらっしゃい」と言いたいのだろうが、おそらく歯が抜け過ぎてるために「らっさい」になってしまうのだろう。不問に付す。
煙草だけ欲しかった私は、入店早々にレジスターの前に立ち、売場で品出ししていた老店員に向かって「すみませーん」と声を掛けた。したところ老店員、「応っ!」と裂帛の気合いで返事。老体とは思えぬすばしこさでシューッとレジの中に入り、「応?」と要件を訊いてきた。
応ひとつで二つの使い道。
ふむ、経済的だ。
「128番を2箱、余にください」と私が言うと「あいよっ、900円!」と言って煙草2箱を私の前にバシッと叩きつけた老店員!
屋台やねん。
ノリが。
1人だけ夏祭り気分やねん。屋台でヤキソバ売ってるみたいな快活さでコンビニ営んでる…。しかも深夜の。
まあでも、客側としては嬉しいよね。バックヤードに籠りっきりでなかなかレジに来てくれず、やっと来たと思っても不愛想どころか無感動な態度で「〇〇円です」すら言ってくれないアンニュイ・ファッキン・ザコカス店員に比べると格別に嬉しいよ、私は。
そんなわけで会計後、私が「ありがとうございます」と唱えると、またぞろ「応っ」と返事。

ありがとう言えや。

なにこっちの「ありがとう」吸収しとんねん。人にありがとうって言われたらオマエも「ありがとう」ゆうて反射せえ。「応っ」やあるか。ありがとう吸収すな。
だいたい、応ひとつに何通りの使い道を見出しとんねん。さいぜんから。
・客に呼ばれたときの「応っ!」

・要件訊くときの「応?」
・ありがとう吸収したときの「応っ」
この調子やとまだまだありそうやのう。
でも許すよ。俺はこの老店員をゆるしていく。こっちの「ありがとう」は全部吸収されたけど、俺はこの男を憎むつもりはない。歯ぁないけど。
だって、老体とは思えぬすばしこさでシューッとレジに来てくれるんだし。それだけで有難ぇよ。歯ぁないけど。

~今日の一句~
発光ダイオード
始めのうち
イカだと思ってた

そんなわけで本日は『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』です。また韓国映画だけど、よしなに♡

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◆ひき逃げたり、ひき逃げられたり◆

 巨大企業JCモーターズの会長でありながら元F1レーサーでもあるという輝かしい経歴を持つチョ・ジョンソクは警察上層部と癒着している極道者であった。
内部調査課の課長ユン・ジヒョンとその部下コン・ヒョジンはチョの収賄疑惑を調べていたが、長官の圧力により捜査は打ち切り。ヒョジンは交通課のひき逃げ専門捜査班に左遷されてしまい「そんなヒョジンな」と嘆く。世の中には人をひいて平然と逃げるようなシャバ僧が大勢いるのだ。
ところが交通課の若手巡査リュ・ジュンヨルは、3ヶ月前に起きた未解決ひき逃げ事件の容疑者がチョだと知る。
ジュンヨル「諦めろ、このひき逃げ野郎!」
正義に燃えるジュンヨル!
ジュンヨルと手を組んだヒョジンは、チョの収賄現場を記録したドライブレコーダーを手に入れるべく隠密作戦を開始する。ドライブレコーダーの在り処はチョの愛車「バスター」の中! 観る者を圧倒するバスターの馬力! およびエンジンのかかり方!
そして明かされるジュンヨルの過去! じつは警察になる前のジュンヨルは元暴走族にしてドラッグの運び屋にしてひき逃げ経験者だった!

オメーもひき逃げ野郎じゃねえか。

「諦めろ、このひき逃げ野郎!」やあるかぁ。誰が誰に言うとんねん。
いま始まる、ひき逃げ野郎VSひき逃げ野郎のひいた者勝ち一本勝負。
伊藤健太郎&吉澤ひとみ完全監修!
「ひいたら逃げろ」をスローガンにいま走り出す、ひき逃げ映画の金字塔『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』

f:id:hukadume7272:20220110061319j:plainひき逃げ専門捜査班のヒョジン(彼女はひき逃げない)。

◆マリカーやってた方がマシ◆

 惜しくも鈍重。
派手なチェイスシーン、手に汗握るポリスアクション、権謀術数のコンゲームと、あらゆる娯楽要素を搭載したためか、やけにモッチャリした作品だった。デッケェおはぎみたいな。
なんつってもスピードを売りにしてる割には上映時間が133分というね。およそ軽妙とは程遠い仕上がり。どうもご苦労様でした。
近ごろの韓国映画にケンチョなように前口上が長いわ。先に人物やら設定やらを事細かに説明してからじゃないと本題に入らないのよね。ペラペラペラペラと。映画を観てるというよりずっとルール説明聞かされてる気分。おすすめメニューの説明が長い居酒屋の姉ちゃんか?
「ハイハイ。こいつがウ課長で、さっきのがキ検事ね。おっけおっけ」みたいな。
状況と設定をただ理解するだけの大会。

最も嘆くべきはカーチェイスが撮れてないことだ!
否。チェイスどころかカーすら撮れてない。
カメラマンが見つめとるのはカーではなくそれを運転する人気俳優のカーオ(顔)であり、カー自体は爆破エフェクトや背景の建物とほぼ同義に描かれている。
そんなことでいいのカー!!

チェイスシーンも閉口モノだ。“フロントガラス越しのドライバーのカーオ”と“スタッフが運転してるカー”のモンタージュを延々見せられて。この辺は現代韓国映画のカット割りすぎ病の弊害なのかしら。そんなチェイスを見せられてもこちらのエンジンは一向に温まらないのだけど。
「ちゅか、フォードとか観たことあるけ?」というところから問い詰めたい。

 チョが乗り回す愛車「バスター」も実に情けない車だった。
奥の手とばかりにチョが運転席から特製スイッチを押すと、マフラーから火を噴いて一瞬だけブオン!ってスピードが上がるんだけどさ。本当に一瞬なのよ。
「あ、おしまい?」って。
効果しょうもな。
なにそれ。一瞬だけブオンゆうて加速したけど、それだけ…? おわり? 特製スイッチなのに?
マリオカートのキノコの下位じゃん。
恥ずかし。なにそれ。「そのスイッチ押さなあかん場面が人生で幾つありますか?」ってくらい一瞬しか加速せん…。むしろその機能が必要になる場面を逆算的に考えることの方がムズ。
効果う~っすゥ~…。
なんでそんな申し訳程度に加速つけるだけの装置をわざわざ付けたん。申し訳ブーストやん。かっこええ思てつけたん?
しかも、これ見よがしの奥の手顔で使うからね。チョときたら。「こうなったら、こうじゃああああ!」ゆうて。
ほんで、屁ぇこいたみたいに一瞬ブッて加速するけど、ほんと一瞬だから意味なし。
何が「こうなったら、こうじゃ」やねん。
どうなったら、どうやねん。
最終奥義みたいな顔して特製スイッチ押して一瞬ブッてなって。どういう事やねんそれは。恥っずかしい。なにその何も起きない最終奥義。で?っていう奥義。『爆走兄弟 レッツ&ゴー』にも出てこォへんぞ。
大人なのに特製スイッチ押して一瞬ブッてなって…。
見てられへんわ。

f:id:hukadume7272:20220110061249j:plain一瞬ブッてなる奥義を駆使するチョ(過去にひき逃げた経験あり)。

人物造形についても苦言を呈してーなー。
相棒のヒョジンは無味乾燥にして没個性な女性。「はぅあう…!」みたいな顔をしてばかりいる。
主人公のジュンヨルに至っては更にヒドくて、物語前半では“頭の切れる名探偵”だったのに、後半では急に“伝説の殺し屋ばりに強い奴”に覚醒。もうマンガの世界だよ。
しかもコイツ…“元暴走族”“ひき逃げ経験者”という華やかな経歴を持ちながら“父親思いのアットホームな奴”でもあるからね。

脳が処理落ちするわ。

キャラ5人分ぐらいの設定を独り占めしてる! 結局どういう奴なのか全然わからん…。
“元暴走族”だけど“頭の切れる名探偵”でもあって“ひき逃げ経験者”とはいえ“父親思いのアットホームな奴”なのだが実は“伝説の殺し屋ばりに強い奴”で…

きゃああああああああああああ

耳からニューロン出ちゃう。なんで色んな情報いっぺんに交錯さすん!

f:id:hukadume7272:20220110061550j:plainキャラ5人分で1人のジュンヨル(過去にひき逃げた経験あり)。

そして敵役のチョ・ジョンソク。
こいつがなかなかの癖者で、発作的に仲間を殴ったり奇声をあげたり。そしてセリフが吃音症気味…と、まあ絵に描いたような狂った悪役
スコルピオやジョーカーを始めとした様々な狂人キャラを意識して作ったんだろなーって造詣意図がスケスケで。見ててちょっぴり恥ずかしかったです。
凡庸さを回避するための奇の衒い方がすでに凡庸というかね。
最近のJ-ROCKの若手バンドにも変てこりんなバンド名が多いでしょう。「こういうバンド名にすれば目を引く。センス見せつけられる」みたいな。センスがない人ほどそういう事をしたがるんだよね。

◆『ダーティハリー』メチャ好き!◆

 ところがどっこい、この映画。まるで先ほどの特製スイッチを押すかのごとく、終盤で一瞬だけブッて面白くなります。
国外逃亡を図るべく空港に向けてバスターを飛ばすチョを追跡する場面なのだが、普通に追いかけても埒が明かねえというので、二人の上司のチョン・ヘジンが交通課を指揮。警察無線を不法傍受している民間ドライバーに協力を呼びかけてチョの逃走経路を封鎖していくのだ。そしてサーキットに誘導した先でジュンヨルとの一騎打ちの場を作る。
映画的環境を物語内でデザインするという技ありのシーケンスだ。
ヘジンの指示により、右折を望むチョの行く手を数多のトラックやパトカーが遮る。仕方ないから左折する。そうこうするうちにチョは、自らに財と権力をもたらしたサーキットという名の袋小路へと追い詰められるのだ。
ところが二人の決闘に水を差す者が現れる。敵側に寝返った元課長のユンだ。この女は賄賂を受け取った政治家のリストをチョに要求し、その見返りとして逮捕されたチョを釈放させた黒幕である。自らが長官にのし上がるために。
ユンは狙撃手を乗せたヘリコプターをサーキット上空に旋回させながらジュンヨルの命を狙う。
まあ、ヘタな空撮だが、なんと純朴な『ダーティハリー』(71年) オマージュでしょう。
その後、チョを殺す/殺さないの葛藤も含め、にわかにドン・シーゲルの香りが漂い始める終局。依然ショットは拙いが、やりたいことは大体わかりました。

f:id:hukadume7272:20220110062337j:plain『ダーティハリー』における競技場での空撮。

“やりたいこと”が明確にある映画は最高だ。
「作品」と「商品」を分かつものは意思の有無だからである。意思のないものは使い勝手こそよいが、映画という「作品」に利便性など糞の役にも立たん。
とはいえ、まずは“見せるべきものを見せるための技術”が、ハッキリ、必要だ。
技術がなけりゃあ、せめて意思。
その意味で本作は「ギリ映画」と私なりの最大限の賛辞を贈りうるほどには意思が貫徹していた。
『ダーティハリー』メチャ好き!という意思である。
めちゃめちゃアホみたいな意思…!
『ダーティハリー』メチャ好き。
うむ…。
尊重に値しよう。

でも実際、そういうのが大事だったりするのよね~。多少まずくとも不格好でも、ショットに意思があるか。
言っておくけど、これは精神論じゃないんだからね? そもそもショットやモンタージュというもの自体が意思の可視化にほかならないのだし。
ただねぇ…この映画。新たな敵の出現を予期させるエンドロール後のオマケシーンは端的に蛇足。
逮捕されたチョの前に面会人(新たな敵)が現れてニヤッと笑う…みたいな例のやつね。
出来の悪りィアメコミ映画かっつーのよォォォォォォッ!

f:id:hukadume7272:20220110062029j:plain新たな悪役と接触するチョ(続編作る気満々)。

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