シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

妖精たちの森

信仰は純粋の母。いま始まる、子供たちによる残酷なりき愛の狩り ~ぴゅんぴゅん! そのとき弓矢がかすめた~

f:id:hukadume7272:20220220013726j:plain

1971年。マイケル・ウィナー監督。マーロン・ブランド、ステファニー・ビーチャム。

両親を事故で亡くした幼い姉弟が暮らす田舎の屋敷。下男のクイントは無学で野卑な男だったが、二人にとっては良き理解者だ。力ずくで犯した家庭教師のジェスルと次第に愛を深めていくクイント。だが屋敷の実権を握る老家政婦が二人の仲を裂こうとした時、姉弟は二人を永遠に結ばせようとする…。(allcinemaより)


はい、どうもふかづめです。
今年6月、U-NEXTを退会した。すると先月、私のコンピューターにメールが届きました。およそ以下のようなことが書かれていた。
「かつてU-NEXTを退会されたふかづめさんへ。以前あなたは私を裏ぎったけど、特別にゆるしてあげる。今なら1ヶ月無料で、もういちど見放題が試せる! このチャンスをきみはモノにするか!?」

なんじゃこいつ。
まあ、戦略としてはわかるよ。つまり一度退会した者に再度無料トライアルをプレゼントすることで再登録させ、あわよくば退会手続きが面倒になった者からズルズルと月額料金を搾り取ろうという腹だ。
まったく、未練がましい。暑中見舞いを装った歯医者の定期検診の誘いじゃあるまいし。見損なうな。そんな手にほいほいと乗っかるオレと思ったか!

すぐ登録した。
「もういちど見放題が試せるーん?」ゆうて、す~~ぐ登録した。
まあ前回退会時にマイリストに入れたまま見れてなかった映画もあったし、U-NEXTでしか見れないアニメもこれで見れるし。
あとは退会のタイミングだけだ。
現代人の営為とは、VODの入退会のタイミングを見定める営為と言い換えてもいい。銭を払いたくなければ無料期間が終わるタイミングでサッと退会すればいいだけの話だが、そうはVODが卸さない。
「退会手続きのボタン」が森の奥に隠されているのだ。
財宝レベルでみっけづらい。
U-NEXTの場合、まずトップ画面から「アカウント契約」を押して、次にアカウント契約画面の下の方にある「契約内容の確認」を押し、そこで光学迷彩ぐらい見えづらい水色で表記された「解約手続き」を押さねばならない。
それを押して解約完了!と思っても「本当に私と別れるん…?」と後ろ髪を引かれる。それでも「別れる」を選択すると、なぜか質問コーナーが始まるわけだ。
「わかった。でも別れる前に教えて。私の何がいけなかった?」
で、選択肢とか出てくんの。

□ほかに好い人ができた
□愛が重すぎた
□ときめきが目減りした
□その他

適当に選んで「やっと退会した~」と思ったのも束の間、数ヶ月にLINEがくんねん。
「かつて私をフッたふかづめさんへ。以前あなたは私を裏ぎったけど、特別にゆるす!」
なんやこいつ…。
まあ、戦略としてはわかるよ。つまり―(以下ループ)

『風と共に去りぬ』かよ。
スカーレット・オハラとレット・バトラーみたいに何度も別れてはくっ付いてを繰り返してばかりして…!
そんなわけで本日は『妖精たちの森』です。非常にブキミな映画ですよ。

f:id:hukadume7272:20220220013904j:plain

◆妖精たちは微笑む◆

 好きなホラー映画を三本挙げよと言われれば、一にヒッチコックの『レベッカ』(40年) 、二に中川信夫の『地獄』(60年) 、三がセス・ホルトの『恐怖』(61年) で 、四はジャック・クレイトンの『回転』(61年) である。

少し『回転』の話でもしよか。
『回転』はヘンリー・ジェイムズの小説『ねじの回転』(1898年)を映画化した作品で、デボラ・カー演じる女家庭教師が屋敷の中でさまざまな怪奇現象に見舞われるブリティッシュ・ゴシックホラーの古典的傑作だ。
デボラが教えているのは幼い兄妹だが、時おり二人は異様な雰囲気を纏いだす。何かがおかしいのだ。
ある日、デボラは屋敷にいるはずのない男を屋上で見かけたが、家政婦と兄妹は「そんなはずない」と言う。さらに翌日、デボラは屋敷の裏にある湖の水面に女が立っているさまを目撃した。「水面にヒト立ってた!」と訴えたが、家政婦と兄妹は「立つわけない」と否定。そのうち兄妹の関係性にどことなく性の匂いが漂いはじめる。わずか7歳ほどの兄は、不意にデボラに接吻をしたのだ。
何がどうなっているのか!
次第に神経症に陥るデボラ。果たしてこの屋敷には幽霊がいるのか、それとも彼女の頭がファンシーになったのか。そして幼い兄妹の正体とは…。
白昼夢のようなショット群と心身症的なテリング、なにより前例のない奇抜なホラー演出によって瞬く間にゴシックホラーの古典的傑作と目された『回転』は、のちにスタンリー・キューブリックの『シャイニング』(80年) や、アレハンドロ・アメナーバルの『アザーズ』(01年) 、ギレルモ・デル・トロの『クリムゾン・ピーク』(15年) などに多大な影響を与えた。

f:id:hukadume7272:20220220015525j:plain『回転』。

 そこで本作『妖精たちの森』
非常に恐ろしい中身であった。
この映画は小説版『ねじの回転』の前日譚である。いわば『回転』が回転する前のハナシ。
監督は『メカニック』(72年) 『狼よさらば』(74年) などで数々のブロンソン主演作を手掛けてきたマイケル・ウィナー。アクション監督の分際でゴシックホラーに手を出した。
そして主演はマーロン・ブランド。ちょうどこの頃は落ち目だった時期だ。この映画の翌年に『ゴッドファーザー』(72年)『ラストタンゴ・イン・パリ』(72年) で第二黄金期を迎えます。

※以下ネタバレ注意※

 屋敷での生活に始まる冒頭では、何気ない日常を通して奇妙な人間関係がやおら露出し始める。
両親を亡くした姉ベロナ・ハーベイ(推定10歳)と弟クリストファー・エリス(推定8歳)は下男のマーロン・ブランド(確定47歳)によく懐いていたが、家政婦のソーラ・ハード(推定75歳)はそんな姉弟の純心をブランドから守ろうとしていた。家政婦はこの下男の中に邪悪な魂を見たのである。
一方、専属教師のステファニー・ビーチャム(推定30歳)は、とにかく乳がデカかった。
屋敷という名のエデンの園で純粋培養された子供たちにとっては、遊び相手のマーロンだけが“世界”を知る鍵だった。次第にマーロンの言葉に感化され、信仰にも似た敬意を抱き始める。

~二人が心に刻んだマーロン語録~

「死後の世界などない」
「愛はくるしみ」
「死ぬことで結ばれる恋もある」

だってさ。

f:id:hukadume7272:20220220015922j:plain遊び相手のマーロンは二人にとってヒーローだった。

だが、この男にも裏の顔がある。
ある夜、マーロンはステファニーの寝室に忍び込み、手足を縛って彼女の身体を貪った。
初めこそ抵抗していたステファニーも、やがて支配される悦びを感じ始める。「あっあっ」と身悶えながら、屈辱と快楽の端境でステファニーは咲き誇った!
その様子を覗き見していたクリストファーは、翌朝ベロナをロープで縛りつけて“セックスごっこ”に興じる。その姿に戦慄した家政婦は姉弟に悪影響を及ぼすマーロンを屋敷から排除しようと試みたが、逆にクリストファーから“排除の対象”にされてしまう。
家政婦の厨房にネズミを放ったり、樹上の隠れ家に家政婦を招いて梯子を外すといったクリストファーのささやかな抵抗心は、やがてマーロンから教わった弓矢で家政婦の首を射抜こうとすらさせたのである(矢を外したことで未遂に終わったが)。

f:id:hukadume7272:20220220014001j:plainSM愛好家のマーロン(S)と咲き誇るステファニー(M)。

また、マーロンはステファニーに惚れているのだと思った姉弟は、歪んだ愛欲で繋がったままの二人を結ばせようと恋のキューピットを演じたが、やはりマーロンたちは倒錯した肉体関係の中でしか互いを愛せない、悲しき獣。すべてに疲れたステファニーは暇を乞い、屋敷を出ていこうとした。
だが彼女がいなくなればマーロンが悲しむ。“世界”の均衡が壊れることを危惧したベロナは、泳げないステファニーを湖に誘いだし、あらかじめ穴を開けたボートに乗せて彼女を溺死させてしまう。
翌朝、湖畔でステファニーの遺体を見つけたマーロンは腰を抜かした。すると茂みの中から飛んできた矢がマーロンの背に刺さる。クリストファーである。
「じっとしててね」
狙いをつけた二発目は脳天に突き刺さり、泥池の中に転がってマーロンは絶命した。
すべては好かれと思ってやったこと。マーロンとステファニーの愛を成就させるための無垢な計らいなのである。
そして翌日、新たに就任した女教師が屋敷の門をくぐった…。

f:id:hukadume7272:20220220014040j:plain
新たな教師を笑顔で迎える姉弟。

◆無邪気こそ究極の邪◆

す…すべてが狂ってるゥーッ!

久しぶりにゾッとする映画を私は観ました。
『蠅の王』(63年) 『小さな悪の華』(70年) のように子供の恐ろしさを描いた映画は数多くあるが、いずれも分別の彼岸で悪に転がった少年少女たちの物語だ。
対して本作は“無垢”を前提とした子供の恐ろしきについての作品であって、分類するなら『禁じられた遊び』(52年) に近い。死んだ愛犬を弔った戦災孤児のポーレットが、一人ぼっちでお墓に入るのは可哀そうだからという理屈で、農家の少年ミシェルを手玉に取り、次々と動物を殺させて墓を増やす…という墓地増築映画の金字塔である。
クリストファーとベロナも然り。
二人はとても澄んだ目をした子供たちで、俗世の穢れなどついぞ知らない。その危ういまでのイノセンスは、ともすればバイオレンスと紙一重で、マーロンの為を思えばこそ家政婦への敵意に目覚め、最後には殺害してまでマーロンとステファニーを結ばせようとした(あの世で)。
だが、いっさいはマーロンの論理に従っただけだ。

「愛は苦しみを伴うものであり、死ぬことで成就する恋もある。そして死後の世界など存在しないのだから悲しむ必要もない」と。

結局のところ無邪気こそ究極の邪というね。

 つくづく思うんだけど「信じる」ことほど怖い行為ってないよな。
何かを信じてる人とは関わり合いになりたくないってオレ思ってる。怖いじゃん。ちなみにオレは、たとえ確度99.9%でも「確信」はしない。むしろ0.1%が起こりうる可能性を常に疑いながら生きてるわ。
物事を疑わない人って単純に怖いよ。生き物として。でも本当に怖いのは疑わない人ではなく疑い方を知らない人である。つまり本作に出てくる姉弟のような子供。及びそれに準ずる清き魂のもちぬし。
一方のマーロンも、奇妙な風体で、かつ怪物的な男なので、映画冒頭こそ“怖い人物”だったが、物語が進むにしたがって姉弟の異常性が露わになり始め、怖さの質が変化してゆく。姉弟の怪物性が増すごとにマーロンが“ただのおっさん”として相対的に無害化され、互いの脅威性が反比例してゆくんだよ。そしてマーロンが完全にただのおっさんになったラストシーンで、怪物化が完了したクリストファーに殺害される…。
子供たちがマーロンの怪物性を引き継いだところで映画は終わるんだよね。
うまい着地しやはるわぁ。ぞくぞくする。

f:id:hukadume7272:20220220020401j:plainマーロンとステファニーに似せた人形を燃やす姉弟。

◆プリクエル商法やめ!◆

 もっとも、映画的には凡庸の極致である。
少なくとも『回転』を観たあとの鑑賞に耐えうるほど頑強には作られてないし、実際わたしも焼酎の麦茶割りを飲みながらでなかったら「耐えがたい」とか何とか言って画面をぶん殴っていたかもしれないのだ。
だがマイケル・ウィナーにしてはよく撮ってる方だと思う。わたしは鑑賞直前にウィナーだと知ったからこそ焼酎の麦茶割りを“ある種の保険”として用意したわけだが、この出来栄えなら、まあ、飲まずともよかった。そう思えるほどには悪くない作品なので安心されたい。安心して鑑賞後に各自ビールなどを開けられたい。

最後は『回転』との関連性について。
同作では兄妹だったのが本作では姉弟になっていたり、二人の年齢設定が本作の方が2~3歳上だったり(性描写に対応するためか)…と様々な変更点もあるが、なんとなーく世界観が繋がるようには出来てます。
おそらくラストシーンで登場した新任教師が『回転』のデボラ・カーという設定なのだろうし、彼女が『回転』で目撃した屋上の男と水面に立つ女の影はマーロンとステファニーの亡霊。そして『回転』ではヤケにおませな兄妹が霊に憑かれる場面があったが、これもマーロンとステファニーの仕業でしょう(子供たちに憑依することで生前叶えられなかった愛の交歓を実現しようという亡霊たちの取り組み!)。

とはいえオレ、こういうプリクエル映画の絵解きという名の辻褄合わせって好きじゃないんだよ。だって後付けだからね。『猿の惑星』『スター・ウォーズ』もよくやってるけどさ。

数十年後に作った前日譚ってなに。

アリか、それ? 前日譚を見たファンは「アレとコレが繋がった!」とか喜んでるけど…そら繋がるわいな。後から作ってるんだから。辻褄なんて合わせ放題だろ。それで繋がって何が嬉しいねん。
どうも私には、後出しジャンケンの前日譚を「シリーズ正史」とみなすことが出来ないのよね。それに前日譚ものって、卑近な言い方すると“ヒットにあやかった新商品”なわけじゃない、結局。

そんな金の臭いが染みついたものをシリーズ正史に組み込んでいいんですか!!

『プロメテウス』(12年) とか…死ねよもう。
本作も本作だよ。『回転』の10年後にこんな逆回転映画作りやがって。お陰で『回転』のこと調べ直すハメになっただろォーッ!
おっさん、もう目が回るわ。回転。

f:id:hukadume7272:20220220020659j:plainマーロン、子どもに仕留められて乙。