シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

理想の恋人.com

めったやたらに出会い系サイトにアクセスしてはやみくもに相手を探して手当たり次第にデートするという節操もあきれる節操のなさ! ナンパ師も腰を抜かす軟派ぶり! 貴重な中年期のいたずらなる浪費としか言いようのないバツイチ中年男女の並行線的堕落生活を描いたユーガッティズム準犬映画の結末とは!? ~その時、犬が吠える~

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2005年。ゲイリー・デイヴィッド・ゴールドバーグ監督。ダイアン・レイン、ジョン・キューザック、クリストファー・プラマー。

 

幼稚園の先生をしているサラは30代のバツイチ女性。度重なる失恋が原因で、恋に臆病になっている日々から足を洗うことを決意する。(Yahoo!映画より)

 

はーい、おはようございますねえ。

ひっさしぶりにいい映画を観たので気持ちよく前置きを書けてる私が朝の挨拶をみんなにしていますよ。ちなみに、いい映画というのは今回取り上げる映画ではないので注意をされたい。

それはそうと、前回から4日ぶりの更新になるのか。体感的には2日ぶりなのだけど。最近サボりがちでごめんなさいね。ここ1ヶ月はほとんど映画を観ておらず、たとえ観ても絶賛筆バテ中で指と頭がまったく動かない…という有様なんだ。死に体なんだ。やなぎやさんにはめかぶの件でまた叱られちゃうし。ていうか「めかぶの件で叱られる」って何なんだよ。どうやったら人はめかぶの件で叱られることができるんだよ。

そんなこって、いよいよレビューストックの底が見え始めてきたので、いっちょこの辺でシャキッと戦闘態勢を整えねばなりません。

あーでもあと1ヶ月サボらせてェーッ!

そんなわけで本日は『理想の恋人.com』です。雑に書きました。

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◆大人が楽しむド軽薄ロマコメ◆

ダイアン・レインジョン・キューザックが好き。

と言っても、別にこの2人のためなら死すら厭わないというほどのビッグファンではなく、まぁそうだな、すべての俳優を対象とした「好きな俳優ランキング」を作るとすれば200~250位あたりに入ってくる程度なのだが、この2人は当時シネマキッズだった私の青春期によく目にしていたので人一倍の思い入れがあるのだ。

とはいえ純粋なランキングでは200~250位。しかしまあ、ランキングなどというものは恣意的な順位付けが錯覚させるマヤカシの有名無実に過ぎない数字のゲームでしかなく、そんなもので個人の好みやモノの優劣が決まってたまるかド畜生、といった逆上精神の上にしか成り立たない脆弱なシステムなのである。

つまりはランキングなどという無意味で窮屈な制度から解き放たれたダイアン・レインとジョン・キューザックを200~250位に位置づけること自体が愚の骨頂にしてバカの極みなのであり、私と同じようにこの2人を「好きな俳優ランキング」の200~250位にねじ込んだ世界中のすべての人間は今すぐにでも己を恥じて押入れの中で反省すべき、というやや過激な結論に達さざるをえないのである!!

…どういうことだろう?

ちょっと自分でもなにをいってるのかぜんぜんわからない境地に早くも達してしまったので主演2人に話題を変えよう。

 

ダイアン・レインは13歳のときに『リトル・ロマンス』(79年)で鮮烈なデビューを飾った。同作は『小さな恋のメロディ』71年)に次ぐボーイ・ミーツ・ガールの金字塔として高く評価されました!

しかし18歳のときに巨匠フランシス・フォード・コッポラに見出され、ロブ・ロウ、トム・クルーズ、マット・ディロンといったヤングアダルトスターを擁したブラット・パック映画に連続起用されるもいまいちパッとせず。私生活では当時セックスシンボルとして絶大な人気を誇っていたボン・ジョヴィにおけるボン・ジョヴィ、つまりジョン・ボン・ジョヴィと交際。ジョンとリヴィン・オン・ア・プレイヤーをして世界中の女性からやっかみを受けるはめに。

その後、今なおカルト的人気を誇るロック映画『ストリート・オブ・ファイヤー』84年)を最後に約15年間もグッズグズに低迷したが、2000年代に『運命の女』02年)という傑作不倫映画で見事カムバック。

爾来、中年の色気と愛嬌をまき散らしながらさまざまな映画で活躍。わけても『トスカーナの休日』(03年)『ボンジュール・アン』(16年)のような“独身アラフィフ一人旅ヒーリングムービー”で食い繋いでおり、近年ではDCEUに拾われてスーパーマンの母親役を担当した(夫役のケビン・こなすーは竜巻に持っていかれ死亡)。

f:id:hukadume7272:20200809042153j:plainカフェオレがよく似合うダイアン・レイン。

 

一方のジョンキューちゃん。

後に『スタンド・バイ・ミー』(86年)を撮ることになるロブ・ライナーの初期作『シュア・シング』(85年)で注目され、キャメロン・クロウの青春映画『セイ・エニシング』(89年)では好きな娘の家の前でラジカセを掲げる姿が近年スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』(18年)でパロディにされた。

90年代に入るとウディ・アレンの数少ない佳作のひとつ『ブロードウェイと銃弾』(94年)や、クリント・イーストウッドの数少ない駄作のひとつ『真夜中のサバナ』(97年)で主演。また、忘れてはならないのが航空パニックぬいぐるみハゲ映画『コン・エアー』(97年)だ。全編にわたって不気味なロン毛を振り乱すハゲチラス・ケイジ…ニコラス・ケイジほか、ウサギのぬいぐるみを人質に取るハイジャック犯ジョン・マルコヴィッチや、幼女とオママゴトしながら「すべっては~主~の~御手~に~」と歌いまくる病気野郎スティーヴ・ブシェミなどたいへん癖の強いキャラクターに囲まれる中、唯一の常識人を演じたジョンキューちゃんをわれわれは忘れてはいけないと思います。

しかし、隙あらば地球を滅亡させることで有名なローランド・エメリッヒの地球滅亡映画『2012』(09年)以降はDVDスルー同然のダメ映画に活路を見出した。

すべっては~主~の~!

f:id:hukadume7272:20200809042214j:plainどことなく黒豆を思わせるジョン・キューザック。

 

そんな2人がインターネッツの出会い系サイツで知り合う…というロマンティック・コメディが本作、『理想の恋人.com』

いい歳した男女が出会い系で恋人を探す…なんて聞くといかにもド軽薄な内容を想像するが、まあ“大人が楽しむ軽薄なロマコメ”と呼べるほどには品を残していて、丁寧に観ればなかなか味わい深いんである。ダイアンの『最後の初恋』(08年)や、ジョンキューちゃんの『セレンディピティ』(01年)を思わせるまったり系中年ロマンスが咲き誇っているし、実際2人もこの手の映画はお手の物。

やはり何といっても疲労困憊した世の中年たちに束の間の休息を与えてホッと和ませる中年慰労大使の最有力候補ダイアン・レインが輝き散らしております。

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脇役みんな色情狂.com

ダイアンとジョンキューちゃんは共にバツイチで、もう恋愛や結婚はこりごりだと考えていたけれども、そうは考えない奴らが身近にいたのである。

大家族のダイアンは父や兄妹から恋のお節介を受けており、「私は独りで生きて独りで死にたいの!」と言っても「そうは考えない」と反論され、恋多き姉は勝手にダイアンの名前を使って出会い系サイトに登録してしまう。一方、ボート職人のキューちゃんも「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対、なんて言わないよ絶対」と漏らしていたが「そうは考えない」と反論した男友達は出会い系サイトでダイアンを見つけて無理やりデートさせようとする。

そして2人が知り合い、交流を深め、やがて結ばれるわけだが、その間にべつの異性と出会ってデートを重ねまくるので2人が知り合うまでがヤケに長い。なぜなら双方ともに出会い系ユーザーだからだ。

 

端役だけは一丁前に豪華で、ダイアンの父親役をクリストファー・プラマーが演じている。『サウンド・オブ・ミュージック』(65年)から『ゲティ家の身代金』(17年)まで半世紀を超えて第一線で活躍する大家である。

そんなプラマー父ちゃんは、妻が亡くなってからというもの夜な夜な出会い系サイトにアクセスする色情狂。出会い系でデートの予定を取り付けた相手がたまたま娘のダイアンで「まさか出会い系で父と娘が出会うなんてね!」と皮肉を吐かれても「そろそろ失礼するよ。このあと別の女性との予定が入ってるんだ」と言ってのける筋金入りの女好き。

プラマーがゲットした新たな恋人は『グリース』(78年)ストッカード・チャニングだ。彼女もまた出会い系に取り憑かれし色情狂で、プラマーとの気軽な恋愛を楽しむ一方で50歳も年下の中坊を引っ掛けるような筋金入りの変態老婆。

ダイアンに出会い系をすすめた姉は『ビッグ』(88年)エリザベス・パーキンス。彼女自身は出会い系を利用していないが、派手な男性遍歴を誇る色情狂ではある。過去にダイアンの恋人を寝取ったことを未だに責められている筋金入りのネトラー。

そして保育士のダイアンに好意を寄せる園児の父親が『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97年)ダーモット・マローニー。通称マロニーちゃん。当初は理想の男性と思われたが、のちに色情狂と発覚する。

脇役みんな色情狂.com

f:id:hukadume7272:20200809035511j:plainクリストファー・プラマー。

 

主演のダイアンとキューちゃんが巡り合いそうで巡り合わない…というのが本作のポイントなのよね。

二人はサイトを通してそれぞれ別の異性と知り合い「いまいちウマ合わねー」とボヤいては別の候補者とデートの繰り返す。一度だけ二人がマッチングしてデートに発展したが、軽く口論になって気まずいまま別れてしまったので、互いに相手のことをすぐに忘れて、また別の候補者とデートしちゃうのだ。

まあ、こちらとしては最終的に二人が結ばれることなんてハナから分かりきっているので「じれったいなあ。さっさとくっ付けや」などと凶暴なことを思ってしまうのだが、しかしですよ、ダイアンサイドとしてはキューちゃんこそが理想の恋人だということを知らず、キューサイドにとってもダイアンはワン・オブ・ゼムに過ぎないのであるっるるる。るるん。

なぜなら、互いが互いにとって“数いる候補者の一人”に過ぎないから。つまり本作は運命の相手と出会う物語ではなくすでに出会っていた人が運命の相手だったと気付くまでの物語。 

だもんで一向にハナシが進展しねえのよ。

だってさぁ、観る者はたださぁ、めったやたらにサイトにアクセスしてはやみくもに相手を探して手当たり次第にデートする…という節操もあきれる節操のなさ、ナンパ師も腰を抜かす軟派ぶり、貴重な中年期のいたずらなる浪費としか言いようのないバツイチ中年男女の並行線的堕落生活を見せつけられることになるんだよ?

とはいえ個人的には、ようやく二人が恋人になったところで終わる『恋人たちの予感』(89年)とか、そもそも二人が出会ったところで映画が終わる『ワンダーランド駅で』(98年)のような俺たちの恋はこれからだエンドは嫌いじゃないけどね。“結ばれてからの物語”よりも“結ばれるまでの物語”の方がロマンチックじゃん。何か間違ったこと言ってますか。

まあ、二度目のデートで盛り上がったダイアンとキューが真夜中にコンドームを求めて車を暴走させる…なんていう救いがたいシーンには失笑するほかないのだが。

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◆恋のバイアスとユーガッティズム

中盤以降は、心にキューを決めたダイアンがマロニーから強引にキスされ、その現場にたまたまキューが居合わせて「キュ…キュウ~」と鳴いて二人の関係が崩れかかる…みたいな恋の茶番が繰り広げられる。

まあ、くだらん内容といえばくだらん内容だが、この手のロマコメに必要なのはくだる物語ではなく、くだらないことをやってのける主演俳優のチャーミンなのだ!

眺めてるだけで魂が安らぐダイアンのヒーリングパワーを見よ。いつもエサを求める稚魚のように口をすぼめるキューのチャームパワーを見よ。なんとも愛らしい中年二人が愛を求めて戯れているではないか! あなたはこの事実をどう考えるか!?

 

むしろ私が気に入らないのは、妻を失ったことで出会い系中毒になったプラマー父ちゃんが心中吐露するシーンだ。

プラマーの新恋人であるストッカードはろくでもない色惚けババアとはいえ、何食わぬ顔で複数の女性と交際する彼を本気で愛してしまったのだとダイアンに打ち明ける。

にも関わらずプラマーは「確かにワシはプレイボーイだ。だが、どれだけ大勢の女と付き合っても寂しさは埋まらん。死んだ母さんには誰も敵わんのだ!」とダイアンに向かって涙ながらにペチャペチャ話すのである。

これ…ストッカード並びに大勢の恋人たちに対して失礼じゃない。

なんという身勝手ロジックだぁ…。ストッカードは本気でプラマーのことを愛してるのに、当のプラマーは“亡き妻の代用品”ぐらいにしかストッカードのことを思ってないというのか。なんて不誠実なんだ。さすが出会い系ユーザー。

百歩譲って「まあ、元々プラマーはこういう人なんだ」と。「プラマーはプラマーなんだ」と自分に言い聞かせたとしよう!

それでも尚モヤモヤするのは、このシーンがまるでプラマーの寂しさに寄り添う感動の愁嘆場として撮られているからなんだ!

プラマーの寂しさに寄り添うなら、それと同じくらいストッカードたちにも寄り添わねばフェアじゃないのに、映画はプラマーの言い分を全面擁護して“男やもめの傷ついた心”をやたら繊細に描いてばかりいるんだ!!

恋のバイアスかけるのやめろ!!!

大体なぁ~、この手の映画は同情を誘ったモン勝ちなんだよ。くだらねぇ。いくらプラマーみたいに最低で不誠実な男でも、カメラがプラマーの主観に立てばアラ不思議、途端に“気の毒な男やもめ”として映り、見る者の共感を誘えるのであるるるっるるん。

『タイタニック』(97年)もそうだよなぁ、ちきしょ~。本当に気の毒なのはジャックじゃなくてローズを寝取られた婚約者だからね。でも映画はジャックとローズに寄り添っている。これぞ恋のバイアス。皆よく言う「ひどい男」とか「やさしい女」なんてものはしょせん片方の主観から下された判断だということを、みんな、忘れないでいような!

 

あとこの映画は『Must Love Dogs』という原題のとおり、犬がキーマンになる作品でもあるのよね。まさにキーマンならぬキーワンと言っていけるこの事実。あなたはどう考える。

サイトで知り合った二人が初めて会うときの目印が“飼犬を連れてること”だし、色々あって心がすれ違った二人をクライマックスで再会させたのも犬。もはや『理想の恋人.com』から『理想の飼犬.com』へと邦題を改めねば失礼にあたるくらいワンパワーがすごい準犬映画の金字塔とも言えちゃうこの事実。俺はそう考える。

まあ『ユー・ガット・メール』を真正面からパクってんだがな。

ネットで知り合って、犬を目印にするって…。もう鼻のあたまから尻尾の先まで『ユー・ガット・メール』(98年)だよ。

トム・ハンクスとメグ・ライアンに対して失礼にあたるくらいユーガッティズムがすごい・ガット・メール映画の金字塔とも言えちゃうこの事実をキューとダイアンはどう考えるのかなあ!!!

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