シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

百花

間違えて見た!キミは元気先生の「クイズ!げんき満点」を解き明かせるか!? 本当は『ビースト』いう映画みたかったけど間違えて見た! おのれ百花!


2022年。川村元気監督。菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ、永瀬正敏。

 

レコード会社に勤める青年・葛西泉と、ピアノ教室を営む母・百合子。過去に百合子が起こしたある事件により、親子の間には埋まらない溝があった。ある日、百合子が認知症を発症する。記憶が失われていくスピードは徐々に加速し、泉の妻・香織の名前さえも分からなくなってしまう。それでも泉は、これまでの親子の時間を取り戻すかのように献身的に母を支え続ける。そんなある日、泉は百合子の部屋で1冊のノートを発見する。そこには、泉が決して忘れることのできない事件の真相がつづられていた。(映画.comより)


おにょにょん。
先日、我が母マチャミから「特別な手紙」が届いた。
「マチャミから特別な手紙届いてる」と思って読んでみたところ、字が微妙に汚くて何書いてんのかぜんぜんわからへん。
何度読み返しても文章の趣旨がわからなかったので、結局電話で「あの手紙、がんばって読んでみたけど、あかんかったわ。何書いてあったん」と答え合わせする始末。

マチャミ「ああ、アレな~。実は〇〇でな」

最初から電話でよかったな?

せっかく手紙書いてくれたけど一個も意味あらへん。最初から電話でよかったなぁ、マチャミ。
なんで筆とったんや、マチャミ。
マチャミの文章は昔からようわからん。言葉がヘン。句読点は無視、誤変換も無視。解読の手掛かりは絵文字だけ。古代エジプトやん。
ゆえにEメールやLINEが届いても言ってることの意味がわからず、結局こっちから電話して「なんて意味?」って答え合わせばっかりしてきた。
世界一難しいドリル。
絶対答えがわからんマチャミドリル。


辛うじて読めた末文。インフルエンサーみたいに「インフルエンザー」ゆうてる。


そんなわけで本日は『百花』です。



◆山田洋次は「ハート」って言葉使ってた◆

 やってもた。
『ビースト』(22年) と間違えて『百花』見てもうた。
『ビースト』見たかったのに予定の立て方ミスって全然興味ない『百花』みた。
券売機で『ビースト』のチケット買われへんかったから、お姉さんに「ビーストみして」いうたら「申し訳ございません。本日の『ビースト』の上映は終了しましたわ」言われて。そんなバーストな。
「ほな、なんやったら見れるん」ゆうて。「そうですねえ、『百花』ならこのあと上映なので、まだ間に合いますよ…」言わはったから「なんですのん、それ」ゆうて。ちょっと考えて。「まあ、それでええか。ほなその百花いうやつ見して」ゆうたら「券買え」言われて。黙って買うて…。
『百花』ってなんですのん。
1から99を知らんのに百花ぁいわれても…。
わけわからんままシアター行って。チケット見して。「見てええよ」言われて。中央列・端寄りの「頻尿」の席すわって…。
ビースト…。

そんなわけで川村元気ちゃんの『百花』
おのれ百花。
パッと見は「良質で静謐な日本映画」という印象を受けもする本作だが、著名人のコメントが怪し過ぎてだな…。
公式サイトでは、海外配給もされた本作にポン・ジュノやニコール・キッドマンが絶賛コメントを寄せてるが、国内では山田洋次岩井俊二LiLiCoら、ちょっとアレ系の人たちがイタいコメントで本作を絶賛。映画の公式サイトに掲載されてる著名人の絶賛コメントって「逆効果なんじゃない?」ってくらい薄ら寒いモノばかりだけど…『百花』もすごかったぁ~。
LiLiCoは「伏線回収」って言葉で褒めてたし、山田洋次は「ハート」って言葉使ってた。興味あったら見にいってみ。
岩井俊二に至っては、たった一行のコメントなのに何いってるかぜんぜんわからなかった。


川村元気ちゃん。何を説明してるときの手の動きや。

寡聞にして今回、川村元気ちゃんのことを初めてちゃんと知りました。
敏腕映画プロデューサーとして『電車男』(05年)『告白』(10年)『モテキ』(11年) 『寄生獣』(14年)『来る』(18年) などを世に送り出した稀代のヒットメーカーなんだって。コンピューターでしらべた。アニメ映画では『おおかみこどもの雨と雪』(12年) 『君の名は。』(16年) など、細田守や新海誠とよくつるんでる。
おそらく私も名前くらいは見聞きしてるのだろうが、どうでもよすぎて大脳新皮質に定着する前に溶けちゃったんだとおもう!
そんな元気Pが、我がで書いた小説を我がで撮ったのが『百花』なんだって。長編処女作らしい。主要キャストに菅田将暉原田美枝子長澤まさみ永瀬正敏など、なんとなーく格の高い役者陣。コンピューターでしらべた。
物語に関しては映画.comから失敬してきた筋紹介を読んでくれ。


山田洋次は「ハート」って言葉使ってた。なんやこいつ。映画を語るうえで一番使ったらあかん言葉つこてる。

◆元気先生の「クイズ!げんき満点」◆

部分的におもしろくはあったのだがなー。
若年性アルツハイマーで過去を忘れゆく母・原田美枝子と、そんな母を支えながら少しずつ過去を思い出していく息子・菅田将暉の、優しくもどこかぎこちない親子関係。映画は現在時制を描きながら、幼少期の将暉ボーイを置き去りにして美枝子ママが家を飛びだした空白の1年間を回想していく。
つまり“1年にも及ぶママの家出(育児放棄)”が親子間の溝となっていて、その間にママはどこで何をしていたのか…というのがミステリのフックになってるわけだが、これに関しては物語中盤、永瀬正敏が登場した瞬間に氷解します。「ああ、そゆこと」って。されど映画は、なお「なんでしょねえ。みんなには分かるかなぁ?」と勿体つけて謎を引っぱり続けるの。
先生。もうみんな解いてますよ、そのクイズ。
早く次いこや。

元気先生の「クイズ!げんき満点」第2問。
しきりに美枝子ママが息子に要求する「半分の花火が見たいのぉー」というキメ台詞。
半分の花火。どういうことやろ?
頭を抱えた将暉は「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか…みたいなことぉ?」などと懊悩。臨月を迎えた妻・長澤まさみと一緒にクイズに取り組みます。臨月迎えてるのに。それこそ花火の上半分だけが見える夏祭りに連れていったりするのだが、美枝子ママは不満げにぷりぷりして。
「違うのぉーん!」ゆうて。
「半分の花火が見たいのぉーん!」ゆうて。
なに言うてますのん…。
将暉も「どういう意味やのん」ゆうて。まさみも。臨月迎えてるのに。
ちなみに、このクイズの答えが明かされるラストシーンはなかなかドラマチックで有終の美を飾っちゃいるんだけど、“半分の花火”の意味については…結構そのまんまっていうか。もっと頓智の利いた答えなのかと思いきや…結~構そのまんま。
「じゃあ夏祭りのやつ、惜しかったやん」みたいな。
ネタバレになるから言えないけどさ。花火の上半分だけが見える夏祭り…、当たらずといえども遠からずやん。
だもんで、とうとうラストシーンで“半分の花火”の意味が明かされても「うわ~、そゆことか~!」とはならない。むしろ「将暉とまさみ、ある意味当たってたやないか」ゆうて。

「半分の花火が見たいのぉーん!」の真意とは?

そんなわけで…クイズはおもろいけど答えが雑っていうね。
元気先生なのよ~。
いかにも謎めかして「半分の花火とはなんでしょう…?」なんてクイズを出題してるけど、将暉とまさみが半分正解しちゃってるように「意外と目先にあった…!」みたいな。
意外としょうもない答えっ。
いみじくも元気先生が「最近の映画は観客に考えさせない。だからこそ『百花』は観客に想像させたい」と挑戦的なことをインタビューで語っていたが、かといって考えすぎると答えを通り過ぎちゃうの。
わかる?
対局相手がやけに自信満々でラスボスオーラ放ってるから、裏の裏まで読んで「あえての奇手」を指してみたけど、意外と大した棋力じゃなくて拍子抜け、なまじこっちに裏の裏まで読める棋力があったために逆に詰まされちゃった~、みたいな将棋ね。
でもクイズの作り方はうまいなと感じたよ。
これまで流行映画をせんどプロデュースしてきた(言い方は悪いけど)チャラい業界人とは思えないようなそれっぽい画面作りや、TVドラマではなく映画的なテリング、それに主要キャストの芝居の厚みも相俟って「この映画、どこに辿り着くのだろう?」という期待や関心を大いに煽るチカラというかさ。
ちなみに元気ちゃん、インタビューでは映画の話そっちのけで影響を受けたコマーシャルの話とか延々してたけど、根が広告マンなんだろうね。宣伝能力というか、大衆の気を引く術に長けた人。だからプロデューサーですよ。元気Pは今日もげんき。
そりゃあクイズだって作りたくもなる。


おでこ狭。不思議な生え際してる。

◆『涼宮ハナビの憂鬱』のエンドレススーパー◆

 さて。原作がミステリ小説とのことで前章はシナリオと戯れたが、この章では映画について語っちゃうね。
まずこの作品、原則ワンシーンワンカットで撮られてるの。
それを知らず鑑賞した私、冒頭こそ「なかなかカット割らんな~。あほなんかな~? 日本映画の悪いとこ惜しみなく出てるぞ~。死ぬか~?」なんて思ってたけど、しばらくして「あ、そもそも割る気ないんだ。ごめんごめん。もしかして全編この調子? おっほ」と、そこでギアが一気に2個あがりました。「みよ」「見よ」へと変わり「観よ」までぶち上がったンである。
何を隠そう、私こそがロングテイクを愛し!なめたワンシーンワンカットには容赦なく発砲する!! 長回し警察なのですよ!!?


で、もう一発おもしろいのは、現在時制のワンシーンワンカットとは対照的に、“空白の1年間”を紐解く回想シーケンスでは普通にカット割ってるの。
ありがたいことに、元気Pはインタビューでべらべら喋るタイプの人間らしく、この撮り方についても積極的に言及なさっていた。

「われわれの実人生はカットが割られることなく、いわば長回しのように進んでいくけど、ふとしたときに今朝食べたバナナのことを思い出したりするでしょ。
人の脳って、でたらめというか、いろいろな記憶が飛び込んできてる。そんな人間の脳の働き方を、ワンシーン・ワンカットとインサートという映画的な手法で表現できるんじゃないかって思ったの」

なるほど。

…今朝食べたバナナ?

元気P、朝食にバナナ食べるん?
ほんで、ふとしたときにバナナのこと思い出すん…?
べつにオレは、今朝食べたものをふと思い出すことなんてないけどな。あんま思い出したことない。でも元気Pは、ふとしたときに今朝食べたバナナのことを思い出すんや。
なんやこの子…。
朝からバナナもりもり食べて。それだけでは飽き足らず、午後にバナナのこと思い出して。モデルみたいな1日送ってる。


回想シーケンスの若き美枝子ママン(CG処理)。

 現在時制は長回し主体で、過去時制はカット割る。
試みとしてはおもしろいと思うよ。
…違うな。おもしろいというか珍しい。「珍しい」がゆえに「おもしろい」って順序ね。
現に、美枝子ママンがスーパーマーケットで記憶を失うシーケンスはすばらしくて、画面手前に向かってスーパーの主通路を歩いてくる美枝子ママンが左側の商品棚へと向かい、卵や肉を買い物カゴに入れ出すと、背後から走ってきたキッズ2名が美枝子ママンを追い越し、咄嗟に「走ったら怪我するよぉ!」と注意喚起。そのあと主通路に戻ってきた美枝子ママンは、再び左側の商品棚へと向かい卵と肉を買い物カゴに入れると、またぞろ背後から走ってきたキッズ2名が美枝子ママンを追い越し、咄嗟に「走ったら怪我するよぉ!」と注意喚起。そのあと主通路に戻ってきた美枝子ママンが(以下略)
この同一現象が3~4回繰り返される。
カゴのなかは卵と肉でいっぱい。アルツハイマーの症状を追体験させる、なんとも不思議なシーンです。
『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンドレスエイトならぬ『涼宮ハナビの憂鬱』のエンドレススーパーかな?って。思ったよ。

『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンドレスエイト…社会現象を起こしたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』において、8月の夏休みが延々と繰り返される現象に主人公たちが巻き込まれるというエピソード。ハルヒたちが囚われたループ地獄を疑似体験させるように、TVシリーズでは8週に渡って同じ内容が放送されるという前代未聞の演出がなされ「手抜き?」、「気が狂う」、「いつ終わるん」、「放送事故?」など物議を醸したが、その前衛的…というより非常識きわまる手法は後年「エンドレスエイト」と評されアニメ史の伝説となった。

『COUNT DOWN TV』を毎週見てた学生時代、「ハレ晴レユカイ」が1年ぐらいチャートインし続けていたせいですっかり曲を覚えたと同時に「これなにいいいいいい」と錯乱していた私。

◆ナメられるわけにはいかねー!◆

 事程左様に、“珍しいがゆえにおもしろい撮り方”ではあるんだけど、ここで全リソースを使い切ったのか、その後の映画は凡庸きわまりなく。ただ単に現在時制はモッサリしてて、過去時制はサクサク進む…ってだけの当たり前の印象に導かれてしまって、それ以上の意味を感じない演出に着地してしまってたわ。
先のインタビューで、元気Pは「人間の脳の働きを映像化する」とか大層なこと言ってたけど、人間の脳の働きを映像化したところでそもそも映画自体に「人間の脳の働きを映像化した情報を伝達する機能」がないんだから人間の脳の働きを映像化したところで必ずしもそれが伝わるわけではないのよ…ってことをいちいち説明しなきゃいけないくらいのレヴェルに元気Pがいることに気付いて「だとしたら、しんどいなぁ」って思っちゃった。
なるほど、そこからか~って。既にそこから映画というものを勘違いしてらっしゃるのねアナタ…って。
だとしたら一寸しんどいぞ。

あっ、余談タイム。前々から気がかりだったんだが、当ブログで表記してる「一寸」は皆ちゃんと読めてますか。
「ちょっと」と読むからね。
普段は平仮名で書いてるけど、今みたいに「だとしたらちょっとしんどいぞ」って平仮名が続いちゃうようなときは、読みやすさや見栄えを気にして漢字表記にしてるの。ごめんな。内容のバカ度と漢字のムズ度が釣り合ってないよな、このブログ。
「畢竟(ひっきょう)」とかな。
イヤな漢字いっぱい使ってごめん。まさにイヤな感じやな。
でも、いつも読んでくれてありがとぉ~。

ってくらいの素直さが欲しい映画ではある。
どうしても感じてしまうのは、肩肘張ってる感というか、映画マニアを唸らせる作品を撮らねばというシャッチョコバリズム。
要はカッコつけてるのね。
それが「長回し主体」とかいう通好みの撮影プランにも繋がってるんだろうし。永瀬正敏の起用も然り(映画マニアがよく見るような映画によく出てる通ウケ抜群の役者)。
当然、長編処女作という気負いもあろうが、本職はプロデューサーであって“撮る側”ではない…というある種のコンプレックスが「ナメられるわけにはいかねーッ!」というムダな発奮を誘ったのかしら。
卵や花瓶のメタファーも素朴でいいんだけど、あえて「奇を衒うと見抜かれるから素朴でいこう」と計算されたもののように思えて。その選択自体は味がよく、うまく活きているのだけど、全編通して作り手の自意識がミエミエというか、苦悩の痕がそこかしこに刻まれた作品にはなってると思います。
「ここは定石通りに撮りたいけど、同業者や批評家、目の肥えた観客を驚かせたいなぁ。でも衒ったら衒ったで『珍しいことすな』って言われるしなぁ。どないしょ。頭アッツなってきた…」みたいな。
なので、あまり映画を観慣れてない人にとっては「ワンシーン・ワンショットの緊張感すごごー!」とか「花のメタファーがあーでこーで……すごごー!」と真っすぐ楽しめる作品、それこそパッと見は「良質で静謐な日本映画」に映るだろうし、それはそれで正しいのよ。
阪神淡路大震災のシーンとか、けっこう衝撃的だったし。

芝居に関しては、こりゃ完全に“原田美枝子の映画”だったな。大人げないくらい原田美枝子の名演ショー。寡黙な物語を芝居の力だけで語っていくの。
役柄的にも菅田将暉と長澤まさみは“打ち返す”ことしか出来ないんだけど、ほぼ原田のサーブポイントだけでゲームセットした感じね。もうちょい将暉とまさみにも芝居させたってよ。
惜しむらくは「芝居で語る物語」という着眼点と「ワンシーン・ワンショット」というプランがうまく噛み合ってないことね。ワンシーン・ワンショットってことは必然的にロングショット主体になるわけだけど、そしたら表情とか細かい仕草とか、あんま見えないじゃん。あまつさえナイトシーンや背中越しのショットが多いうえ、回想シーケンスでは美枝子ママンをCGでツルツルに若返らせるなど…なぜか貌を殺しにかかってて。
わけがわからん。我がでやりたいことを我がで出来ないようにさせてる…。
自縄自縛という四字熟語以外に思い浮かばない特殊な状況作り上げてるぅーっ!
まあ、この演出設計だけは、『百花』だけに却下ということで。

★お得なPS★
『ビースト』はいつか見ます。

(C)2022「百花」製作委員会