シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

マイ・エンジェル

滝藤賢一の勝ち。

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2018年。バネッサ・フィロ監督。マリオン・コティヤール、エイリーヌ・アクソイ=エテックス、アルバン・ルノワール。

 

コート・ダジュールで暮らすシングルマザーのマルレーヌは、愛する8歳の娘エリーと2人でその日暮らしの気ままな生活を送っていた。貧しくも幸せな日々を過ごす母娘だったが、再婚相手との関係が破綻したマルレーヌは厳しい現実から逃れるようにエリーの前から姿を消してしまう。(映画.comより)

 

おはようみんな。上沼恵美子の「時のしおり」聴いてる?

それはそうと、昨日はめかぶを食べた。今日は子持ちめかぶを食べるつもりだ。きっと明日は孫に囲まれめかぶを食べることになるだろう。

夏は食欲減退が著しい。私なんかはスルッと食べられるものだけをスルッと食べていくスタイルで生きているので、最近ハマってるめかぶの存在には形だけでも感謝しておきたいって考えてる。

なので、誰か、めかぶの美味しい食べ方を教えてください。できれば簡単にできるレシピを求ム。

そんなわけで本日は、心の片隅にめかぶを留めながらの『マイ・エンジェル』です。

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◆育児放棄だめ◆

子供を放ったらかして夜遊びに繰り出すふしだらなシングルマザーを描いたバキバキの毒親映画がフランスから届いております。

児童虐待を扱った映画といえば、若き日のディカプリオが義父のデ・ニーロから暴力を受ける『ボーイズ・ライフ』(93年)なんて懐かしい映画があったが、児童虐待は児童虐待でも“育児放棄”を扱った映画はゼロ年代以降に多く作られている。

参考までに挙げると『ホワイト・オランダー』(02年)『誰も知らない』(04年)『サラ、いつわりの祈り』(04年)『ある子供』(05年)『ヴィオレッタ』(11年)『メイジーの瞳』(12年)、そしてその決定版たる『フロリダ・プロジェクト』(17年)など、色とりどりの毒親たちが我々観客をドン引きさせてきたよねぇ。

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育児放棄映画のかずかず。

 

彼らに比べれば本作のネグレクトぶりは幾らかマシというか…まだ見てられる

ピンク色の下品なミニスカートと崩れた化粧、地毛で少し黒くなったパサパサのブロンドヘアーという娼婦のような出で立ちで、昼夜問わず酒を煽るママン。そんな彼女も念願叶って彼氏と結婚することになったが、大事な式では酔っ払いの鼻歌を披露したうえ、厨房でよその男とセックスしているところを彼氏に目撃され婚約破棄。

だが、かつて行きずりの男との間にできた11歳の娘はそんな母に優しく、夜遊びから帰ってきたママンに「ねんねんころりよ、おころりよ」と子守唄を歌ってやる(母子逆転現象に卒倒!)。たとえママンの帰りが遅くても、ご飯を作ってくれなくても文句ひとつ言わず、保護観察員が家に来れば「ママンは最高。私は元気です」とママンに強いられたセリフをさらりと言ってのけるのだ。

 

ママンはそんな娘を“エンジェル・フェイス”と呼んで愛しているが、この愛し方は手間のかからないペットに「かしこいな、かしこいな」と言っておやつをあげるがごとき飼主のエゴにほかならない。そう。この娘は、自分が手間のかかる子になるとママンから愛してもらえないことを知ってるからこそ不平不満のひとつもこぼさず、ママンのお気に召すままに振舞うのである。

本当はワガママ盛りの女の子なのに! ママンに甘えられないばかりか!! むしろ自分に甘えてくるママンの世話をせねばならないのだ!!!

だが、ママンが男とデートに行ったきり数日間も家をあけたことを機に、とうとう堪忍娘の緒が切れる。近所の悪童から「ビッチの子はビッチ!」と侮辱され、学校では酒臭いと虐められた娘は、唯一の友達に「今日、ママンが死んだ」とカミュみたいに吹聴し、とうとう、ああ! とうとう弱冠11歳にして酒に手を出してしまいママンと同じアルコホリック・ロードを歩んでしまうのだ…!

み…、見ていられない。

さっき「まだ見てられる」と言ったが、ありゃウソだ。

なかなかの胸糞ムービーにしてやるせなムービーとしての顔も持つ『マイ・エンジェル』。タイトルとポスターだけ見る分には温かい親子愛を描いたハートウォーミンな中身…と早合点しがちだが、それはダマしだから気をつけた方がいいと注意喚起しておく。

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◆マリオンいい◆

育児放棄のママンを演じたのは『現代女優十選』で第10位にすべり込んだマリオン・コティヤール。堪忍娘になりきったのはエイリーヌ・アクソイ=エテックスというかなり強そうな名前の子役である。

監督は、これまで写真家としてガシャガシャとシャッターばかり切ってきたバネッサ・フィロ。彼女の長編デビュー作を助けたギョーム・シフマンは8年前のアカデミー賞作品賞に輝き散らしたモノクロ・サイレント映画『アーティスト』(11年)の撮影監督である。ちなみにこのギョームとかいう奴は『グッバイ・ゴダール!』(17年)も手掛けているように、サイレント映画やヌーヴェルヴァーグのような大昔の映画文化の復権を目論んでいるようだ。俺はぜんぶ知ってる。

 

やはり注目すべきはフランスが生んだ錦鯉、マリオン・コティヤールだ(美しい女優を鯉に喩えるのもどうかと思うが)。

リュック・ベッソン製作の馬鹿タクシー映画『TAXi』シリーズで注目を集め、『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』(07年)でアカデミー賞ほか世界中の映画賞を総ナメ。その後は活動拠点をアメリカに移し、当時やけに話題になっていたクリストファー・ノーランの『インセプション』(10年)や、40点監督のウディ・アレンが珍しく80点を叩き出した大ヒット作『ミッドナイト・イン・パリ』(11年)などで女優としてのステータスを確固たるものとした。

すごいのはここからで、ジェームズ・グレイの素質を見抜き『エヴァの告白』(13年)に出演して再び各賞を総ナメしたあと、ダルデンヌ兄弟の『サンドラの週末』(14年)でも各賞総ナメ。驚いた人民が「なんぼほど総ナメをするんだ」とざわついているのを尻目に『ミニオンズ』(15年)での声優業や、ブラッド・ピットと共演したロバート・ゼメキス監督作『マリアンヌ』(16年)などで話題をブッさらう。フランス凱旋作が目立つ近年は『愛を綴る女』(16年)『たかが世界の終わり』(16年)で再びヨーロッパ回帰しており、本作に至る。

一体これの何がすごいか、分かるでしょうか。要するにフランスで芽が出たあとアメリカで地位を確立し、ついでにイギリスやベルギーあたりにも目配せしながら名女優になってフランスに帰ってくる…という見事なまでの世界一周キャリア構築。足掛け10年足らずでここまでの成功を収めた女優もそういまい。マリオン・コティヤールであります。

また、よほど慧眼の持ち主なのか、彼女の出演作には芸術性と商業性を兼ね備えた上質な作品が多いうえ、どの作品でも一貫性のある芝居を見せているので画面のおさまりがとてもいい(演技派ぶらない)。

近年ようやく“レベル上げ”を終え、出たい映画にフラッと出る余裕が生まれたのか、ついに『マイ・エンジェル』では無名、低予算、ヒットポテンシャル0という三拍子揃ったインディーズ映画すれすれ作品で心ゆくまま最低の毒親を演じております。

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◆アナザースカイいい◆

本作は典型的な10年代フランス映画の様式に倣っている。

もっともフランス映画だけでなくインディーズ映画やアート映画にも言えることだが、とにかく勘で撮られた感性重視のイメージショットがひたすら続く…という感じ。

そこで起こってる出来事を叙述的に撮るというより、その瞬間の空気をパッと切り取って真空パックしたような抒情的なショットというか…積極的に語の誤用をするなら“映像詩”(笑)とやらにピタリとおさまる、そんな映像群のことである。

喩えとして合ってるかわからんがミュージックビデオみたいなね。

MVって脈絡のないイメージの数珠繋ぎから構成されてるでしょう。スタジオで演奏してるバンドメンバーの映像以外にも、なんか知んねえけどすげえ憂鬱そうな顔してるネエちゃんが急にカットバックされたり。歌詞とぜんぜん関係ないのにアメリカの美少年が出てきたり。

あとテンガロンハットかぶったジジイの険しい眼差しをクローズアップで抜いてみたり。

仮面つけた人たちが珍妙踊りをしてみたり。

意味もなく水を両手ですくってみたり。

「あー」みたいな顔で天を仰いでみたり。

「総論として何が言いてえのよ、このビデオ」みたいな。

そういうワケわかんねえイメージショットがアート系映画には多いんだよね。例えばテレンス・マリックなんかを想像してもらえればいいのだけど、ほかにもいるぜ。『GERRY ジェリー』(02年)から『パラノイドパーク』(07年)までのガス・ヴァン・サント、それにソフィア・コッポラ、ハーモニー・コリン、ニコラス・ウィンディング・レフン…。

あの辺な。わざとショットを繋げないことに美学を見出してる一派というか。

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クラブで遊びまくるママン。

 

で、そういう一派は、映像や演出や物語よりも画面の空気感を大事にしている空気系レジスタンスで、そもそも映画文法の頭で撮られてないから個々のショットがそこで完結してるの。まさに発想が映画じゃなく写真的なんだよ。写真はそれ一枚で完結してますから。

したがって“シーン”とか“シーケンス”という概念自体が映画に備わっておらず、ただブツ切れのショットやエピソードが「なんか雰囲気ありげでしょ?」と言わんばかりの気だるさでサビのないポップソングのごとき午睡感覚をスクリーンに織り込んでいくだけザッツオールと言え過ぎるのである。

そんなわけでこの映画…わたくしは鑑賞中に約10分間の居眠りを遂げただけでなく途中で集中力が切れてしまい半分虚脱して「あー」とか「うー」とか細く唸りながら弱った虫みたいな姿勢で見守っていたわ。

だってMVを集中して見る人っていないよね。あんまりね。

たしかに地中海の陽光をたっぷり吸い込んだコート・ダジュールの海辺は美景だけど美景でしかないの。そこに映画が息づいてない。ただの背景。「あー綺麗ですね」で終わっちゃうんだけど、これなら別に映画で観る必要ないよね。

『アナザースカイ』の方がよっぽど物語性があっていいよね。

海外ロケも頑張ってるし。いい番組だと思いますよ、『アナザースカイ』は。2~3回しか見たことないけど。滝藤賢一がイタリアに行って「ゴッドファーザーに憧れてるんすよ」つってたわ。「へえ」つって。俺。感心したな。憧れの地に滝藤賢一が行く。こっちの方がよっぽどドラマティックだよ。

つまり『マイ・エンジェル』は滝藤賢一に負けてる。

 

滝藤賢一の勝ち。

 

追記

マリオンの不健康な顔、およびエイリーヌちゃんのフラワー・ムーヴメントを思わせる'60sヘアースタイル、ならびに大人の顔になっていくお芝居はすばらしかった。それ以外は滝藤賢一の勝ち。

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『シネマ一刀両断』ではめかぶの美味しい食べ方を募集しています。奮ってご応募ください。

 

(C)PHOTO JULIE TRANNOY