シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

『エアマスター』の言力ランキング発表するから集まり

 どうも、時間稼ぎ男です。
まことに相すみません。あいあい。近ごろ、映画鑑賞も執筆活動も滞り倒してて、まったくブログが稼働してないことは、みんなバッチリ気づいているよね。あい。気づき倒してるよね。
だから本日は、映画と関係ない記事で時間稼いでお茶濁す。湯飲みの底からマドラーでぶぅわ~撹拌して全身全霊でお茶濁す。吉岡里帆がドン引きするぐらい。「これ綾鷹より濁ってるう」言うぐらい、お茶濁してゴー!
あ、挨拶が遅れたな。
おいすー。やろけ~。
「やろけ~」やあるかぁ。映画評やらへんのに「やろけ~」やあらへんがな。そんなにもあけっぴろげに…、おれと来たら…!
そんなわけで今回は、2年前に書きあげた時間稼ぎ用の記事「『エアマスター』の言力ランキング発表するから集まり」です。べつに読まなくていいよ。ただ「3月もサボらず、記事は投稿した」という既成事実を作るための“自分への言い訳”にほかならないのだから。
アナタガ、好キダカラ。

 

~『エアマスター』の言力ランキング発表するから集まり~


聞いてくれよ。なあ。
よく「漫画の名セリフ」を集めたサイトとかあるけど、今までひとつもピンときた試しがないんだよ。
往々にして漫画やアニメの「名セリフ」なんてもんは文脈ありきであって、前後の物語なり何なりの文脈を知らなければビタイチ胸に刺さらんもんだ。
たとえば『北斗の拳』の名言のひとつに「俺の名を言ってみろ!」というジャギのセリフがあるが、こんなもん…『北斗の拳』を知らない奴が「俺の名を言ってみろ!」なんて言われたって「…君の名は?」としか思わない前前前世沙汰なのであって、ゆえにこんなセリフは名言でもなんでもない、と断ずるのがおれの理屈なのちゅん。
安西先生の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」も然り。『SLAM DUNK』を読んでないおれからしたら「そらせやろ」と。「至極普通のこと言ってる…」としか思わないわけ。そのセリフへと至るドラマを知らないから。
それは名セリフじゃなくて名シーンだろ、と思ってしまうのね。名シーンだからこそ感動できたセリフに過ぎないだろう、と。
オレにとっての名セリフとは、前後の文脈など知らずとも言葉そのものだけで読み手を刺し殺すような、そんな“剥き出しの言葉”なのだ。

さて。ヤングアニマルで96年~06年まで連載された柴田ヨクサルの代表作『エアマスター』(全28巻)
この作品は、エアマスターの異名を持つ元体操選手の女子高生・相川摩季がストリートファイトの世界にのめり込んでいく格闘漫画であり、不肖ふかづめが発表する「生涯漫画ランキング」できらきらの1位に輝いた作品だというのだ!

ただ、おもしろいから1位に選んだわけじゃない。

むしろおもしろいかと言われればさほどおもしろくはないし、いわんや天下万民ピープルに対して積極的に薦められる類の「名作漫画」などでは断じてない。たぶん『呪術廻戦』とか『SPY×FAMILY』の方が4~5倍はおもしろいだろうな。おもしろいだろうよ。
でもおれは、抗しがたく『エアマスター』に惹かれるんだよ。それはごめん。どうもありがとう。不可抗力としての「ごめん」と「ありがとう」フォーユーだよ。
物語前半は、主人公のマキが“異様にハイテンションな連中”としばき合う話。後半はマキを含む主要キャラクターたちが深道という謎の男が主催した「深道ランキング」に参加してしばき合う話。

ま、要するに一生ぐるぐる「天下一武会」みいなコトやってる漫画だ。

おもしろいワケないだろう。

アニメ化もされたん。

 それでもなお私が『エアマスター』を推す理由。
言葉の力だ。
セリフだな。
柴田ヨクサルという漫画家は、幸か不幸か…漫画家としちゃあ不幸なんだろうが、漫画ではなく「言葉」に対する感覚だけがやたら鋭敏な奴だった!
どんな奴やねん。
漫画に対する感覚が鋭敏たれよ。

この男の言語感覚におれは焚きつけられた。ハリケーンのように衝撃的な口語文。未だにおれの言語感覚の中には『エマアスター』の風が吹いてる。
ちゅーのもね、『エアマスター』の登場人物は揃いも揃って異常なテンションで言葉を発してるが、そのどれもが「紙面の向こうの読者様を見据えたお行儀のいいセリフ」でもなければ「読み手の共感を誘う感情表現としてのセリフ」でもなくオレの哲学なのである。
オレ哲学。
『エアマスター』のキャラクターは読者など無視して自分自身の哲学をまくし立てる。
つまりコイツらは、情報伝達の極めて有効な手段としてセリフを発する“説話装置”ではなく“自分の言葉を持った意思そのもの”として自律し、ストリートファイトというテーマの中で拳ではなく言葉を使って暴れ回ってるぅうう!
うー!!
ゆえに絵よりフキダシの方が大きい。
フォントがデケぇ。
とにかくうるさい。
言力(ごんりき)よ、言力。
もはや暴力と修辞学のマリアージュってな。
実際、物書きとしての私も多大な影響を受けた『エアマスター』。人の言葉に「理性」と「激情」があるとして、激情極振りがこのマンガ。ふだん、セリフをただ「意味や情報の伝達手段」として読み流してるような人には何ひとつ刺さらんだろうが、まぁいいだろ。
今から紹介するのは名言ではなく言力だ。
各キャラクターごとの「言力」を発表していく。
只々うるせえし、おまえの静かな日常をつんざくだろうが、まぁ諦めてくれ。

 

●武 月雄
工事現場の日雇いバイトをしてる男。毎回かませ犬になってしまう雑魚ファイター。深道ランキング圏外。
物語序盤で主人公・マキに惨敗を喫して以降、次々と現れる強敵のパワーインフレについて行けずモブ同然と化していたが、物語終盤でラスボスキャラの「渺茫」に対して一方的に相撲勝負を仕掛け、“自分で勝手に作ったイマジナリー土俵”の外に押し出し「寄り切った! 勝ったぞー!」と勝利宣言(そのあと渺茫の一撃で再起不能に)。
そんな愛すべきザコ、月雄の言力がこちら。



「俺の中に“弱虫”って虫は一匹もいねぇ…。
だから『クソったれ!』
だから『まったくチクショー!』
文句は言っても足は前に進む!」


「勝ったぞ――――っ!!!」

 


このあと柱に叩きつけられ再起不能に。

「じゃあやっぱり俺は正面から行く」

「頑丈だけが…お母さん!
取り柄です!!
ありがとう!!!」

「俺をなめんじゃ―」

 

ヘルメットごと頭を叩き割られ再起不能に。


【ここスゴポインツ】
いやー。味のあるパワー言力キャラだわ。
なんといっても「頑丈だけが…お母さん! 取り柄です! ありがとう!」の変な倒置法だよな。
「頑丈だけが、取り柄です」というセンテンスの中に「お母さん」をほりこむ言葉の勘。
文法的には「頑丈だけが取り柄です、お母さん、ありがとう」だよね。でもそれは“文章”なのよ。月雄のセリフは“言葉”。
「だからクソったれ」「だからまったくチクショー」は背骨に雷が落ちた。

 

●ルチャマスター
メキシカンプロレスを極めた覆面ストリートファイター。
マキに初めてダメージを与えたファイターだが、のちに人間離れした強キャラが続々と現れるインフレ環境下で静かに埋もれていった、いわゆる「1巻の強敵」。深道ランキングでは36位と渋い結果に。
日々の鍛錬に裏打ちされたファイター論を持ち、街で絡んできた不良相手にも懇々と力説する熱血戦士だ。



「オレはガンダムの最終回のガンダム並みに強いぞ。
お前らは雑魚のザクだ」

「おまえら勉強全然ダメだろ。バカだろ。でも気にすんな。俺はお前ら好きだぞ。バカがどうした。仕方ないさ。社会に歯向かえ、胸を張れ!」

「俺の言ってる意味がわかるか? ある種の後悔は取り戻すことができるんだ」

 


ルチャ哲学。

【ここスゴポインツ】
「俺の言ってる意味がわかるか? ある種の後悔は取り戻すことができるんだ」なんてモロに村上春樹で(作者の柴田ヨクサルは生粋のハルキスト)
それを熱血キャラの台詞にリビルドするあたりがヨクサル節。
「オレはガンダムの最終回のガンダム並みに強いぞ」という台詞回しもさりげなく良い。たったワンセンテンスの中で「ガンダム」を反復する、一見ヘタにも思える国語を心地よいバランスで成立せしむる、野生の言葉。

 

●崎山香織
下積み芸能生活をおくる自称・未来のスーパーモデル。
目立ちたがり屋でタカビーな性格ゆえに、偶然通りがかったマキに話題を奪われたことでエアマスターを目の敵にする。太極拳の使い手。
ストリートファイトの実力はザコ以下。ほぼ全戦全敗の噛ませ犬だが、あまりに強烈な個性とアクの強さだけで物語に喰らいつき、主人公を凌ぐ存在感を発揮。まさにこの漫画の本質を体現したキャラクターといえる。
深道ランキングでは堂々の圏外だが、おれは崎山のこと好きだぞ!

 

「ちょーっといいですかーッ!!!
崎山香織 “様”!!!
一介の女子高生の前にわざわざ登場!
こんばんは
っと!!!!」



「美容のために始めた太極拳だけど、つまんないから改良を加えて今じゃ殺人拳よ!」

「あんたは飛べない! そう羽を折られた…羽を折られた…うーん何にしようかな

「いいかぁガキ共ぉ!! 人生は弱肉強食だ! 神様もヒーローもいない!
やられたら必ず自分でやりかえせ!!
以上っ!!!」

「蛾だぁ? 上等だよ! 火に飛び込んだって死なない蛾がいるってことを教えてやるよ!!
そしてテメェは“蛾恐怖症”になるんだ! 症状は毎晩大量のいろんな蛾に埋もれる夢を見る! など盛りだくさん!」

「出る杭だって杭がアタシならも打てやしないんだよ!!!」



「一体何があった? とかバカな事聞かないわよ。誰だってなんかあるからさ」

「主役はアタシなんだよ!」

「枝を張り合えばぶつかるもんだろ。
アタシみたいなカッコイイ性格の人間がしゃあしゃあと生きてこられるほど世の中甘くないんだよ

「ラッキーなんじゃねーか。
さすがアタシの人生だ。面白ェ」

 


これは“突然の贈り物”だ。運命がときどきアタシに“突然の贈り物”をくれるんだ!
そして届いたねぇ~、デッケェのが。
思い出すほどにお前への怒りが…。
た、たまらんわ、もう…。
あ゛~~~怒りでなんか…
デビルマンに変身しそう」


「悪いが1秒だぁ? それを言うなら『1秒だ』って言えよ!
『悪いが』はいらねぇ!!!
キョトンとすんな! かるく言ってみたか? 『悪いが』って! ここまで来て…アタシを哀…。まだアタシをっ!
下に見てんじゃねぇ!!!!」


 

 

 


【ここスゴポインツ】
まあよく喋る。圧巻の演説キャラ。
「悪いが1秒だ」と言ったマキに対して「『悪いが』は哀れみだ!」と啖呵を切り「…1秒だ」と言い直したマキに文字通り1秒で負けたが、“マンガ”としては崎山の勝ち。完全に主人公を喰った裏主人公として読者の喝采を浴びた。弱いけど。
「アタシもおまえの中に居させろよ!!!」という叫びは、すべての二番手キャラの魂を代弁した言力。
崎山の言葉に、生きる力をえましたっ。
だいすき!!!

 

●佐伯みおり
マキの幼い異母妹。自称・美少女格闘家。
マキの寝込みを襲ってカンチョー攻撃を仕掛けたり、マキの顔めがけて嬉々として果物を投げつけるなど、隙あらばマキにダメージを与えようとする危険の子。
52位のランカーに負けそうになって、ちょっぴりだけ泣いた。



「よく喋るヤツは大体弱ェーもんよ」

「私も相川摩季の妹なら、お姉ちゃんの居所わかれ!」



【ここスゴポインツ】
「よく喋るヤツは大体弱ェーもんよ」と言ったみおり自身も大して強くない…というあたりがエアマス語の妙。本来これは強キャラ専用のセリフであって、敵と自分の力量の差をわかりやすく読者に示すバロメーターとしての役割を持ったメタ台詞だが、『エアマスター』ではたとえ弱キャラでも「強キャラ専用セリフ」を言ってのける。
口だけ達者。
これは物語論における御法度だ。読者が混乱するからな。だが柴田ヨクサルのキャラクターは“物語の理論”ではなく“そのキャラの持論”に基づいて言葉を発してるので、こうした漫画的破綻が往々にして起こりうるわけだ。
上等だろ?

 

●佐伯四郎
「軟派な精密機械」の異名を持つプロ総合格闘家で、マキとみおりの父親。女好き。マキの母・相川智とは死別しており、現在の妻はみおりの母・佐伯深加だったが、上位ランカーの北枝金次郎との勝負のさなかに携帯が鳴り、現妻から離婚を言い渡された。
でハチャメチャに強くなった。
離婚の悲しみを拳に乗せ、深道バトルロイヤルでは「佐伯四郎・独身バージョン」として多くの上位ランカーを圧倒。



「面倒な生き物だよな、ヒトって。
俺は“浅ましい俺”を死ぬ間際まで一番近くで見物してやる。このまま逝くさ」

「俺の攻撃は、もう…速いぞ。
とんでもなく恐ろしい目にあうぞ、エ。たぶん」

携帯なんて持つもんじゃないな。
“携帯”っていう賢しい鎖は外された…。“家族”っていう重っもい太っとい鎖も外された。
自由か…今。
俺の鎖は外れた」



「俺は世界一チャラチャラ生きてきた…“軟派な精密機械”だ! 誰のパンチだろうが……ヘラヘラッ…かわす!!」


「俺はガキの頃、テレビのヒーローが延々勝ち続けるのにウンザリしてたガキだった。ワル共はなんでいつも負ける? なんでだ? バカか? 世界征服しようって輩がバカでどうする。
子供だって単純なガキばかりじゃないんだ。いつまで勝てば気が済むんだ。最近もずっと勝ってんだろ? ヒーローは。今日も。
…そんなことを思い出したよ。
おまえがヒーローの類なら…
今、憂さを晴らさせてもらうかな」

「離婚エルボー!!!」

「つまらん! 

不良ってなんでこんな弱ェんだ。
弱いから群れる。
あ、なるほど」


【ここスゴポインツ】
佐伯四郎といえば「俺の鎖は外れた」や「今、憂さを晴らさせてもらうかな」へと至る前口上の天才だが、私の魂ぷるるんポインツは「誰のパンチだろうが…ヘラヘラッ…かわす!」の「ヘラヘラ」の用法。
こんな発想…。バケモンか?
擬音など入れ込む余地のないセンテンスの中に無理やり擬音を落とし込む剛力。しかも女好きというキャラクターを活かして「ヘラヘラ」などという、およそ「かわす」という述語には到底繋がらないような擬音を、だ。
言葉の暴力って本来こういうことかもな。こういうことかもよ。繋がらない言葉をぶっ繋げる力というか。

 

●坂本ジュリエッタ
片手にピストル、心に花束、唇に火の酒、背中に人生を。
ポケットに両手を突っ込んだまま、ただ相手を蹴っ飛ばすというだけの無茶苦茶なファイトスタイルから「爆殺シューター」の異名を持つ謎多き男。
街で偶然出会ったマキに一目惚れしてからというもの、清純も犯罪も関係なく、ひたすら狂気的なまでの愛を貫き続けた。マキ以外の森羅万象に一切興味がない。ただマキに向かう。その過程で邪魔な石コロがいれば蹴り飛ばすだけ。愛の戦士だ。
深道バトルロイヤルではバトルロイヤルそっちのけでマキに告白した。



「沢田研二好きか?」



「きっかけは忘れた。なんで今夜マキを抱くと決めたか。お前(敵)がなんで目の前にいるかも知らん。
どけよ」

「とてもとても愛してるときは何て言えばいいんだ?

やっぱり愛してるの一言だよな」


「俺は好きなコの前で張り切る小学生だ。
さっきの倍の力は出るぞ


「マキ…。
例えば
“地球全体絶対破壊ミサイル”が地球に向かって飛んできたとして…
マキを守るためなら…
受け止めてやる」



そんなジュリエッタ、唯一の友達は佐伯四郎。
焼肉屋で「自慢していいか?」と藪から棒に切り出した四郎に対して醤油差しを渡し「自慢なら“醤油差し”にしろ」と返したジュリエッタもジュリエッタだが、それを受けとった四郎も四郎で醤油差しに向かって自慢話を始めちゃうのね。ハイコンテクストすぎる。

そして坂本ジュリエッタとっておきの名言といえば…やはり伝説の登場回。援コー目的で声をかけてきたギャル3人を30m蹴り飛ばす場面です。

「たとえばお前らがその昔、幼き頃…捨てられて凍えてる仔犬を助けたことがあるとしよう…。
でも死ね」




その後、失神したギャルに向かって吐き捨てる。

「脂たっぷりのオヤジ相手にするぶんには鼠の脳ミソ同士オーケーだ。でも声かける相手によっては30mも蹴り飛ばされるんだ」

直後、一部始終を見ていたリーマン連中から「何やってんだオマエ! 通報するぞツーホー!」と咎められ、これもサッと蹴り殺したあとに吐き捨てます。

「オメェらはウルトラマンにでも守られてんのか?
それとも…
楽園にでも住んでんのか」

「おまえは小学生からコツコツやりなおせ」

 

【ここスゴポインツ】
一切の理屈や常識が通用しないキャラクターなので、こいつが発するセリフもこいつの中だけで完結してる。
何をか言わんやだ…。
クソォォーッ!!

 

●サンパギータ・カイ
ルチャマスターの妹で「スカイスター」のリングネームを持つ女子プロレスラー。隠れアイドルオタクで「藪沢くん」のビッグファン。深道ランキング10位の実績を持つド根性娘。
エアマスターとのプロレス勝負に惜敗してからは深道ランキングで上位ランカーたちと死闘を繰り広げるも、またしてもマキに敗北。ランキング1位の渺茫を倒す特別企画「深道クエスト」に満身創痍で参加した際、深道の正体が「藪沢くん」だと知り奮起。渺茫に立ち向かい晴れがましく玉砕した。



「アタシは…何をわざわざ落ち込もうとしてたんだ

「お前の拳とアタシの掌底…どっちが強いかな…。ていうか…なっ? 次にデカいのもらった方が負けだな…。
ガクガク…だな!?」

「さぁて、ガンガン無理していくぞー♡
無理のしすぎの前のめりの全開の一番先っぽまで出し惜しみしないぞ!!!」



「プロレスなめんなよ」
「そんな言葉に力があるとでも思ってるの」
「あるね」

「クライマックスでビビるほどヤワじゃないんだよ」

「居酒屋ボンバァ!!!」

 



【ここスゴポインツ】
バトル漫画には必ずいる根性キャラだが、その“根性”を表現するために「無理のしすぎの前のめりの全開の一番先っぽまで出し惜しみしないぞ」なんてセリフ…。無理のし過ぎの? 前のめりの全開? の…一番先っぽ。
なんちゅう種類の日本語だ?
 日本語ってこんな事まで出来るんだ。「ガクガク…だな!?」とか、なんだよこれ。あんま聞いたことない…。

 

●北枝金次郎
唯一マキと互角の勝負をした熱血喧嘩番長。北海道から上京。
深道ランキングではサンパギータ・カイと車道の真ん中で壮絶な死闘を繰り広げ、車に轢かれたりアスファルトに頭を叩きつけられたりしながらも全身骨折の辛勝。カイを10位の座に引きずり下ろして9位に輝いた。
その後、謎の女・久坂静菜の改造を受け全身装甲の「シズナマン」となりパワーアップするも、深道バトルロイヤルでは佐伯四郎(独身バージョン)の前に惜敗。



「お前の回す歯車にはならんぞ。全部思い通りになると思ってる、そのニヤつき…。我慢ならねェ!
テメェは…地球ごとくたばれ」

「勝てるとは思ってない。戦うだけだ」

お医者「キミ、折れてるよ…。痛みは?」
金次郎「痛いです…。すぐ繋がりますか?」
お医者「繋がらないよ。繋がるわけないだろう」
金次郎「じゃあパンチを撃てるようにして下さいっ」
お医者「…それは折れてない方で撃って。とりあえず入院してもらうから」
金次郎「か…片腕で勝てる相手じゃないんです!」
お医者「今回は棄権しなさい。誰も責めないから。折れてるんだから。ボクサーかなんかだね?」
金次郎「ケンカです」
お医者「…うん。ま、そーでもこーでも…。入院してね…。それから…ね。なんでもすれば…」
金次郎「じゃあ5発だけ撃てるようにして下さい」
お医者「ナイよ 1発も」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 


【ここスゴポインツ】

うるさい。
“うるさい”っていう名言ね。「地球ごとくたばれ」の言力もさることながら、「おおおおおおおお」というタダの咆哮に宿る言力。もうぶっ壊れてるわ。
北枝金次郎は本作屈指の熱血漢なので、レトリックを操るような名言は吐かせにくいキャラクター(作者の都合的に“気の利いたセリフを言わせにくいキャラ”)なのよ。ゆえにクライマックスでは言葉を捨てて「おおおおおおおお」だけで駆け抜けようとしたわけだが、なまじ“言葉の天才”である作者にとってこの決断は相当の覚悟。吐かせようと思えば名セリフなどいくらでも浮かんだだろうに、あえて全部捨てての「おおおおおおおお」を金ちゃんは僕たちの心に届けました!
今から言うこと、よく聞けよ。
言葉を突き詰めた人間の行き着く先“欠語”。

 

●ジョンス・リー
八極拳の使い手。深道ランキングでは2位の実力者でありながら、渺茫に敗北寸前からの逆転勝利をおさめ1位に輝いた。
この大番狂わせは読者を熱狂させた。なにしろバトル漫画の理論で「ラスボスの本気の怖さを読者に示すためのNo2的キャラクター」がラスボスを倒しちゃうンだからね。いわばトキがラオウに勝つようなもの。リゾットがドッピオに勝つようなもの。王道展開としての“負けどころ”で逆に勝っちゃう。
「逆に勝っちゃうん!?」って。
それだけのキャラクター性がジョンス・リーにはありました。



「適当なら俺も適当だが、お前の適当にはユーモアが足りない」

「無粋な今日も明日も、まだ面白れぇ。
ホント生きててよかったよ」

「おまえに欠けている足りないものだ。
何か分かるか?
“安いプライド”だ。
俺はコイツにしがみついてる」

「言いたいことはいくつかあるんだよ。
ま、一言でいうなら…
本気にさせたな」



【ここスゴポインツ】

ここスゴもどこスゴもあるかあっ!
解説を必要とするほど鈍感なヤツはここまで読んでねえよ。なんじゃ【ここスゴポインツ】って。こんな補足解説いるかあ!
当時、立ち読みで初めて『エアマスター』を知ったのがジョンス・リー登場回で、「適当なら俺も適当だが、お前の適当にはユーモアが足りない」を喰らって世界がひらけた。おれの退屈な言葉と窮屈な思想にヒビを入れてくれた。そして渺茫相手に逆転勝利をおさめた伝説の1コマ。

最強キャラの渺茫を一撃で撃破。

「これは早急に全巻集めねば」
失神しそうになりながらも力強くレジへと進み、全財産の2000円はたいて1~5巻を購入したおれ。店を出たら目の前に伝説の虹がかかってた。
たぶん幻覚だろう。

 

●小西
関節技を得意とするサブミッションハンター。佐伯四郎を下して渺茫を圧倒した3位ランカー。
“今”に生き、“今”だけに強さを求める刹那主義。マキの取り巻き連中らと焼肉論争を繰り広げ全員論破するほどの焼肉好き。



「焼肉ってエライよ。
美味いからエライよ」


「あと10年もしたら、もう俺はここまでの強さは保てないだろう。さらに50年後には死んでいないだろう。お前が不運なのは、この瞬間、俺は完璧に強い。人は平等って言っても強いヤツは強ぇ」

「今の俺なら仮面ライダーの関節だってぶっ壊せる」

「超美人100人だって、いずれババァ100人
だ。旬は逃すな。
もう長生きなんていらん」

「あとは知らんぞ。クールに人間やめるから」

「思ってるだろ。『まさかこのオレ様が』なって。『ミョーなタイミングが重なって重なればオレ様も意外と弱いなー』って思いながら、死ね」

「オマエに合わせたんだ」




【ここスゴポインツ】
フツーに考えれば「超美人100人だって、いずれババァ100人だ。もう長生きなんていらん」あたりがメジャー言力だが、おれのアンテナに引っかかったのは「『ミョーなタイミングが重なって重なればオレ様も意外と弱いなー』って思いながら死ね」の「重なって重なれば」。
この日本語のイビツさ
そろそろ理解してきたか?

 

●屋敷
浸透勁を操る関西人。
坂本ジュリエッタとの戦いでは半泣きになりながらも坂本の蹴りをすべて浸透勁で受け流したが、気を使い果たして立ったまま気絶。傍で観戦していた佐伯四郎はジュリエッタに対し「蹴んなよ。勝ったのはオマエだが“駆け抜けた”のはコイツだな」と制し、気を失ったまま敗北した屋敷を讃えた。
どっこい、深道ランキングでは8位の実力派ランカーで、バトルロイヤルでは1位の渺茫に深手を負わせたうえ、なんと逃げ切りにより優勝(渺茫とマキが相討ちした際に生き残っていたため)。
他方、幼少期に虐められていたトラウマから足がすくんでしまい、はるか格下のザコ、武 月雄にゲンコツ一発で惨敗してもいる。良くも悪くもピーキーなファイター。



「それがパンチか? 冗談やろ。お前らがまるで画用紙で出来てるように見えるわ…。
ワイがなぁ~、戦った相手に比べたらなぁ! 
おっ…おっ…恐っそろしかったわ!!
お前らなんて…赤ちゃんや!!!」

「そのセリフ、言うと負けるぞ~。ザコのセリフや」

「ワイは天才の気があるやもな! 
間に合ってしまったな! “天才”が! 
ワイのことは『間に合った天才』と呼びやぁ!!」



【ここスゴポインツ】
「間に合った天才」も十分パワーワードだが、対戦相手の駒田シゲオに「間に合ったのは“増長”、“慢心”、“私は調子に乗ってます”じゃないのか?」とカウンターワードでやり込められるあたりが見物。虚を突かれた屋敷が「はぁ? ハハ…。おまえの方やろ…」と欠語に陥る感じがすごく生々しい。
あと、どうしても心惹かれてしまうのは「画用紙」という例え。このセリフが発されたのは物語終盤だが、それまでは作者自身の「全部こっちでスゴイと思わせる名言」だったが、この辺からは「そっちの想像力に委ねた名言」が飛び交い始める。いかに「画用紙」という単語を読み飛ばさずにいられるかどうかの大会が始まってるわけです…!

 

●尾形小路
尾張忍者の末裔。とっておきの忍術を操る。
「深道バトルロイヤル」の主催者たる深道自身が、あまりに渺茫が強すぎるもんだから、生き残った下級~中級ファイターの寄せ集めだけでパーティーを組んでどうにかして渺茫を倒す企画へと急遽趣旨を変更した「深道クエスト」では、屋敷、月雄、カイが次々と渺茫に倒される中、“勇者”たる深道にバトンを託し、尾張忍者の末裔としてのプライドすらかなぐり捨て「たのむぞー! ブガびヂー!」とぶざまを晒しながら玉砕した。
渺茫を弱体化させるために“除霊”も試みたが失敗しました。



「消えな悪霊っ!!!」

「冗談言うな。おまえはあのバケモノと戦った者
達を見てきたんだろう。思い出せ。
大真面目なんだよ。
おまえも…オレ達も」

「アンカーはおまえだ深道。ぶっちぎれよ。
俺もおまえのために散ってやる」

 



「たのむぞ――――っ!!
だのぶぞ――――っ!!!
ブガびヂ――――っ!!!」

【ここスゴポインツ】
尾形が言った「大真面目なんだよ」は柴田ヨクサル作品の大いなる主題です。
傍から…つまり読者から見れば滑稽に映ったりキザに思える場面でもキャラクターたちは至って真面目。そのギャップが時に笑いを誘おうがドン引きを誘おうが、本人たちは至って大真面目。だからクールキャラでも「ブガびヂ――っ!!」なんてぶざまに絶叫する。俗にいうキャラ崩壊。でも関係ない。
『俗』が何だって?
とっくに俗世間とは一線引いてるんだよ。奴らは“あっち”で勝手にやってる。だから理解されない人気出ない。それが『エアマスター』だ。
…アホなのか?

 

●深道
真打ち登場。
深道ランキングの主催者、および深道バトルロイヤルの発起人、ならびに深道クエストの勇者兼アンカー。真の正体はトップアイドルの「藪沢くん」。
幼少期から世界の成り立ちを哲学するあまり、たとえばその始まりを地上最強のファイター・渺茫と仮定し「誰でもいいから渺茫を倒せる者はいないのか」という好奇心から「深道ランキング」を創設。その実験はジョンス・リーの逆転勝利により成功したかに見えたが、“実は渺茫が本気じゃなかった”というドラゴンボールみたいなハシゴ外しにより暗礁へ。
ならばと、全ランカーを混戦させる「深道バトルロイヤル」を開催。ここでも楽勝し続ける渺茫に対し、自身をリーダーに余力のある敗戦者を募って総当たりで渺茫を倒す企画「深道クエスト」を緊急立案。クライマックスでは深道自身もボロ雑巾になりながら渺茫に立ち向かった。勝つためではない。勝って世界の成り立ちを識るためだ。



「いいか…。急戦、奇襲、奇策、ときには凡策、駄策。とにかく智力を尽くせ。勝つならそれだ。己の中のあらゆる妖刀を抜いて戦うんだ」

「渺茫ほどの男でも“我らあまりのザコ”油断があったおかげで…
ネジの先が刺さった」



「俺は…コイツは…深道は……ユルイ時代にユルイ場所に生まれた“鬱憤の塊”だ。
ところがだ。
“そんなもの”が、今日は、おまえを倒す

「ハッタリをナメるなよ。知らないのか?

俺も今…知ったけどな。
それしかないなら、人間は…最後は…“ハッタリ”で動く」

「弱いからな、俺は。弱者の処世術だ…。
弱いから用心深い。
弱いから想像力を働かせる。
弱いから深く読む」

「世界中の人々が幸せに暮らせますように。
くだらん」

「この世界は基本的にはくだらないさ。そしておまえの人生がもし最悪になったとしても、おまえの場合は『エアマスターだ!』という誇りを持って生きていけばいい。
そしたらな…。
楽しいぞ」


マキ「うぉっチニーっ! うぉっチニーっ!
うぉっさっニィーっ!
うぉっちニィーっ!
うぉっさヒ――――っ!」


●24時間TVに出演した昔の藪沢くん(深道)

「自然破壊だ何だと言っても、地球の“実”の部分は超巨大で分厚いマントルです。その超巨大な分厚いマントルの上のほんのほ~んの薄皮の上にぞろぞろと暮らしてるのが私たち人間さん達です。
散々自然を破壊して、戦争だ平和だ…勝手に人間が絶滅したとしても、薄皮の部分の出来事です。ほんの1ミリの出来事です。人がいなくなろうと何がいなくなろうと、地球は相変わらず元気に50億年も生きていくことでしょう。
言ってることは当たり前のことだけど…たまにデカい声で誰かが言ってもいいだろう。
心配ばっかすんな。
人間ってそうじゃないだろう」


●幼少期の深道

「僕はなぜ…生まれてきたんだ。なぜ命に限りがある!? なぜさ!? なぜ人間は絶対死ぬっ!?
人は人が死ぬことによって感動する。人は殺しあって物語をつくる。映画をつくる。芸術をつくりだす。イイ人間も悪党も全部ひっくるめて一個の動物なら…平和になりようがない。
命に限りがあるのは人間がだらけないためか…。死ななきゃ生きる意味がない…。
まったくさ…
なんてシステムだ…」

 

【ここスゴポインツ】
これなに~~~~~~~~。
タダの格闘漫画を読んでるはずだよな、俺。
…にしては、なんだこれ。
まあ、わかってるよ。たまたま『エアマスター』が格闘マンガだっただけで、べつに何マンガでもよかったんだろうさ。次作の『ハチワンダイバー』という将棋漫画にも通じるテーマだが、とどのつまりは“神とシステム”についての話なんだろな、これ。
世界の成り立ちは人が決めた。
が、人の尺度で勝手に決めたモノだからこそ、“本来の世界”を人は識ろうとする。これが哲学だ。将棋の哲学でもある。
将棋とは、ただ盤上の駒をガチガチし合って勝ち負けを決めるだけのゲームではない。宇宙の真理を解き明かすためのマスターキーを探す人類の挑戦が、たまたま偶然、ホントたまたま、ぴったりルールと符合したから将棋を通じて神に近づこうとする途方もない歩みなのだ。その歩みをたまたま“格闘技”に見たのが深道というキャラであり『エアマスター』という漫画だった…ってだけの話だろ。
『エアマスター』は人間の限界を自己検証する格闘マンガだ。人間があがくマンガ。発する言葉も、テンションも限界。ただ世界の扉を開けうるマスターキーを血管ぶち切れそうになりながら血眼で探すだけのマンガなのである。ゆえに多くのバトルマンガが至上命令とする「誰が一番強いか?」とか「どっちが勝つか?」なんてことは一番どうだっていい。そんなお子様ランチみたいな次元の話はそもそもしちゃいない。
だから主人公(結局いちばん強いキャラ)のマキには名言がない。
マキが“このレベル”の名言を吐きだすと、そりゃもう格闘マンガじゃなくてタダの哲学書だからな。わかるけ。ピンとこなかったら諦めるか、この記事イチから読み直せ!


ジャパハリネット懐かしい! ゲロアツ! 東映作画!(このあとプリキュアシリーズが始まります)

~うれしい追記~
『ハチワンダイバー』も格言の宝庫なのでチャンスがあったら第二弾やりたい。
ていうか今回の記事…結局なんなんだろうな、これ。
お母さんこれなに。

©ヤングアニマル 柴田ヨクサル