シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

めくらのお市物語 真赤な流れ鳥

ボンと現れてはカレーな剣捌きで悪党を料理するボンカレー時代劇!

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1969年。松田定次監督。松山容子、長門勇、荒井千津子。

 

シリーズ第1作。 お市が、雷の閃光を受けたのは7歳の時、母親が彼女を捨て去った雨の日だった。以来10年、お市は弥助に拾われ、幸福な日々を送っていた。だが、弥助も伝蔵一味に殺されてしまった。お市は、母探索と弥助のかたき追討の旅に出た。

 

おっはよーう。

今日から4日間ぐらい連続更新を頑張ったあとに少しサボろって思ってる『シネマ一刀両断』の主、ふかづめです。

昨日はパソコンのカメラを起動して一人でリモート飲みをしてました。パソコンに映った自分の顔を見ながら飲むわけなので、あまり面白くなく、5分足らずでやめてしまったけど、少しは収穫がありましたよ。髪が伸びていることに気付けた。

ていうか広告が2連続でくるYouTube動画って激烈にうざいよね。そういうのは大嫌いなので、僕は2回目が始まった瞬間に「ハイもういいです。僕に見てもらえなくて残念でした」と言って「戻る」のボタンを押してるけどね。

そんなわけで本日は28時間眠ってない状態で書き上げた『めくらのお市物語 真赤な流れ鳥』です。何書いたか覚えてないけど読み返すのが怖いのでそのままアップするね。

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◆ボンカレー女優、見参◆

松山容子を「ボンカレーのおばさん」と認識したまま死にたくない、と思ったので『めくらのお市物語 真赤な流れ鳥』をボボンと鑑賞。

かつて大阪にあった私の祖父母の家の近所は高度経済成長の残骸みたいな昭和まる残り地域で、そこにはオロナミンC(大村崑)やオロナイン軟膏(浪花千栄子)といったホーロー看板が街の至る所に点在。当然その中には大塚食品のパワー商品・ボンカレーの看板もあったのであった。

そんなわけで1968年にボンカレーの初代イメージキャラクターを務めた松山容子が、TVドラマ『琴姫七変化』(60-62年)を代表作に持ちながらも天下万民から「ボンカレーのおばさん」として認識されたのは半ば必然だったのである(※当時31歳だったので「おばさん」ではないのだぞ!)。

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未だ残存する昭和のホーロー看板。

 

大塚食品にとって最大のヒット商品となったボンカレーは、初めて産声をあげた1968年から現在に至るまで広く人民に愛されており、世界中でおよそ20億食が消費されてきたという。

また、ボンカレーは時代に合わせてパワーアップしてきた衰え知らずの商品なので、ここでは映画評を一旦無視してボンカレーへの理解を深めるべくその歴史を駆け足で辿りたいと思う。

これがボンカレーの歴史だ!

 

1968年…「ボンカレー」爆誕。松山容子がイメージキャラクターを務め、CMでは「牛肉100%、新鮮野菜もたっぷり入って80円。ボンカレーは新婚の味!」とうそぶいた。

1978年…食材を替えることで従来のボンカレーから大きな飛躍を遂げた「ボンカレーゴールド」を発表。

1989年…内容量を180gから200gにグレードアップすることで食いしん坊にも訴求した「ボンカレーゴールド200」を発表。

1993年…別添の香味スパイスを随意に振りかけることで味変の自由度を提供した「ボンデラックスカレー」を発表。

2001年…従来のボンカレーゴールドから名称を変えただけの詐欺まがいの新商品「ボンカレーゴールド21」を発表。

2003年…前回のボンカレーゴールド21事件を反省してか、電子レンジに入れて調理する際にわざわざ容器に移し替えずとも袋のままチンできるように改良、名称はそのままにバージョンアップを遂げる。

2005年…味とパッケージを大きく変えたのにそのことが非常に伝わりづらいどころか真逆の意味に聞こえてしまう新商品「ボンカレークラシック」を発表。

2009年…もはや箱ごと電子レンジに突っ込めるという利便性不明の性質を手にした「ボンカレーネオ」を発表。ついにネオとか言い出した。

2015年…じっくり時間をかけて下ごしらえした牛スネ肉と国産野菜を贅沢に使った割にはひたすら名前が地味なプレミアム商品「Theボンカレー」を発表。

2018年…生誕50周年を記念し、野菜やお肉をさらにボリュームアップした完全究極態の「ボンカレー50」が爆誕。その発売を祝い、すでに女優業を引退していた松山容子(当時80歳)がスペシャルビデオメッセージを大塚食品に送りつけた。

f:id:hukadume7272:20200512025603j:plain元祖ボンカレー女優・松山容子

 

これまでに松坂慶子、阿部寛、鈴木京香など多くの著名人がCMやパッケージキャラクターを務めてきたが、やはりボンカレーといえば松山容子。まさに松山あってのボンカレー、ボンカレーあっての松山なのである。

ただひとつ不幸というか皮肉なのは、松山自身よりもボンカレーの方が長期に渡って活躍・進化し続けていることであろう。松山が名実ともにボンカレー女優になった翌年(1969年)に始まった映画シリーズ『めくらのお市』は4作品公開され、シリーズ終了後の1971年には同タイトルでTVドラマ化もされたが、わずか5ヶ月で打ち切りを遂げた。そして同年の結婚を機に日本映画史に軌跡を残すことなく引退なされたのである。

ある意味、松山容子はボンカレーという怪物を生んでしまったことで女優としてのキャリアをカレーまみれにされたと言えなくもないが、その特異なキャリアが忘れ難くもある女優であった。なにしろ彼女の代表作は『琴姫七変化』『めくらのお市』『ボンカレー』。言い換えるならドラマ映画食品という並びになるわけだ。女優でありながら食品を代表作に持つとは実にすごい。マロニーちゃんを代表作に持った中村玉緒を彷彿せずにいられない。

 

そんな松山容子が女優的にもカレー的にも人気絶頂だった頃に製作されたシリーズ第一作『めくらのお市物語 真赤な流れ鳥』盲目の女剣士が義理人情に立ち上がる股旅モノである。

モロに勝新太郎の『座頭市』だということ。

そして思いっきり差別用語がタイトルになってるあたり。

まあ、現代人の感覚からすればムチャムチャな映画だが、いま観ると却って味わい深いところもあり。

『金田一耕助』シリーズや『新吾十番勝負』シリーズを代表作に持つ監督・松田定次は異母弟のマキノ雅弘とともに日本映画黄金時代を築いた大巨匠だが、キャリア最後期に撮られた本作ではすっかり情熱を使い果たしたのか、けっこう噴飯モノっていうか……微笑みながら観るべき出来映えにおさまっていた。

だが、あくまで見所は松山容子の剣劇。困ってる人の前にボンと現れてはカレーな剣捌きで悪党を料理する美しき姿なのだ。 美味いね~。

ただし厚化粧が過ぎる。

f:id:hukadume7272:20200512025117j:plainアイラインばち決めのくっきりお目めと浄瑠璃人形を思わせる白塗りはまさに人工美。スッとした面長、それに愛想のいいおちょぼ口にはチャームがたっぷり!

 

◆お市…おまえ見えてんちゃうんか?◆

アバンタイトルでは幼少期のお市が母に捨てられたうえ雷に打たれて失明するという最悪としか言いようのないエピソードが描かれる。母に捨てられたうえ雷に打たれるなんて最悪だろ。

本編が始まると、娘を捜して旅する老乞食・多々良純をやくざ者から救ったお市(松山容子)が多々を連れて娘捜しを手伝う…という人情股旅が展開するが、お市は尋常ならざる人情家なので多々に感情移入しすぎて我が身を回顧。その都度回想シーンを挟んでお市の過去が紐解かれるのであった。

数年前に育ての親を忍者に斬られたお市は(母に捨てられ雷に打たれた挙句育ての親を忍者に斬られるなんて最悪だろ)、さすらいのソードマスター・長門勇に見出され居合術を学ぶ。厳しい修行に耐えたご褒美に朱塗りの仕込み杖をプレゼントされたお市は「一生お傍に置いてください!」とマスター長門への愛を告白するが「いや重い重い」と引いたマスター、お市の外出時を狙って行方をくらました。

とことん悲惨な目に遭うなぁ…。

爾来、愛も家族も失ったお市は人斬りの道を歩み出したのである…。

 

こうした回想シーンがあっちゃこっちゃで挟まれ、そのたびに本筋が寸断されてしまうので肩が凝ることおびただしいのだ。わずか88分の上映時間の中で「そもそも本筋なんだっけ?」と何度も首をひねるほど回想、回想、また回想、現在と思わせまた回想…なのである。

たまらんわあ!!

現在パートと過去パートが行ったり来たりする系の作劇きらいってこないだ言ったばかりなのになんでまたすんのおおおおおおおおおおおおおおおお。

でもそれ以上に「はぁ?」と思ったのは松山容子の盲目芝居なのだよね。

大きな目をぱっちり開けて「見えてない芝居」に打ち込む松山だが……どうも私の目には「見えてる」ようにしか見えんのだ。

盲目芝居といえば『暗くなるまで待って』(67年)のオードリー・ヘップバーンや『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(92年)のアル・パチーノが優秀だが、当然ながら黒目を動かさないことが原則である。ところがどっこい、スットコドッコイ。お市を見てると「あっ、いま目で追わなかった…?」みたいな瞬間が何度もあり、しまいには実は見えてるんじゃないか説なんて雑念に心が乱されてしまうのである。

それにしても大きなお目めであるよなぁー。

f:id:hukadume7272:20200512031103j:plainお市の黒目は動くものをよく捉える。ほな見えてるやんけ。

 

アクション女優の先駆けとして知られる松山容子は殺陣の美しさに定評があるらしく、なるほど、多々を助けてやくざを斬りまくるファーストシーンの太刀捌きは見事であった。迫力が、というよりも華があらぁな。

ちなみに剣戟シーンは黒目がすごくキョロキョロしてた(それをやるな、と言ってるのに)。

そんなお市を追うのが分銅鎖を使う荒井千津子なのだが、こいつがまたおかしなキャラクターで、髪型といいメイクといい現代っ子まるだし、言葉遣いも今風、「時代劇にお前みたいな奴がいるか」と思わずにはいられない時代考証ドン無視ギャルなのである。

しかもよく見ると分銅鎖ではなくただ釣糸を結んだコマを武器にしていた(糸を振り回してコマでしばくスタイル)。お市に3戦3敗したのち「チッキショー。おぼえといで!」と捨て台詞を吐いて逃亡したザコキャラでした(次作で出てくるのかしら)

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時代考証ドン無視ギャル。

 

さて。多々の娘・北口千春が女郎屋に売り飛ばされたと知ったお市は、賭場で時代考証ドン無視ギャルから巻き上げた金を積んで千春を身請けしようとしたが、女郎屋の女将・富永美沙子がなかなか交渉に応じないので自分の不幸話をして情に訴える…という意図不明の作戦に出た。お市が母に捨てられたように、千春もまた親の顔を知らぬ不幸な子なのだと。すると、お市の不幸話を聞いていた女将の顔が見る見るうちに青ざめていく…。

女将「あんた、名前は…?」

お市「世間ではめくらのお市で通ってる流れ者ですのさ」

女将「はうっ、お市…? お国は…?」

お市「信州諏訪」

女将「はうあう…!」

なんとこの女将がお市を捨てた母親だったのだ。

その世界には20人ぐらいしか人間がいないの? 狭すぎるにも程があるだろ、世間が。

だが盲目のお市はそのことに気づいてない。そこへ番頭がやってきて「土蔵で乞食と女が死んでますだ!」と叫んだ。多々は千春を救出しようと忍び込んだ土蔵で娘ともども殺害されたのである。犯人はお市の育ての親を斬った忍者。『緋牡丹博徒 一宿一飯』(68年)でも悪役を演じた天津敏が演じている。この忍者は昔、多々とお市の親の3人で盗賊をやっていたが、旧悪の露見を恐れて今さら2人を殺害したらしい。世間が狭いィィィィィィ。全員が全員の知り合いかよ。

かくして怒りに燃えたお市は女将の正体を知ることなく忍者との決闘に臨む…!

ウン。まあ、話が雑すぎてもはやどうでもいいとすら思える精神領域に突入した私であるが、野原での決闘がとても印象的だったのでそこは楽しんじゃいました。

f:id:hukadume7272:20200512030254j:plainお市「あいー!」。ざしゅ。忍者「痛いーっ!」

 

殺陣もさることながら緑の色味、何より松山容子の快活な声がいい。裂帛の気合いで「てやぁーっ!」とか「たぁー!」と斬り合うさまに「あはん、これぞ松山剣戟の醍醐味」などと知りもしないことを知ったつもりで得心してると早々に決着のときが訪れた。

ベイブレードみたいに身体をくりくり回転させたるお市。回りざまに何度も斬りつけられた忍者は堪ったものじゃなく「痛いし最悪だーっ!」とか「この傷は治りそうもないーっ!」と何度も叫んだ。叫んだところでどうなるわけでもないのに。

瞬間、後ろ跳びで逃げようとした忍者に追い討ちを浴びせたところ、忍者は空中で斬られる形となり、事切れた身体がそのままウンと後方に吹き飛んだのである。

そして松の木に引っかかった。

f:id:hukadume7272:20200512030316j:plain最悪だ。

 

◆マスター長門のバカ修行◆

ぜひボンカレーでも食べながらご覧頂きたい作品である。

『座頭市』の傍流にこんなセコい時代劇があったのかというフレッシュな発見と、好みは分かれそうだが松山容子の特徴的な貌立ちがいい。明らかに見えてるのに「見えてない。私は盲目さ」と言い張るような芝居の憎たらしさ。白塗りの怖さ。

まさにボンカレーのようにレトルト食品的な簡便性こそがB級映画の魅力である。主要キャストの70%はブスだし、オープニングで流れるムード歌謡に至っては時代劇を自己破壊してるとしか思えないセンス。天然か、はたまた計算か、そこを掴みあぐねる感じが傍流モノの楽しさなり。

ソードマスターを演じた長門勇も妙にセコい風体で、このぐらいの映画なら師匠役も務まるだろうが大作映画なら酒場の端役が関の山といったカリスマゼロの餅男。盲目のお市に居合を教える修行シーンでは「心の眼で見ろ」なんて考えうる限り一番ダサいアドバイスを送ったりもする。

さらに、竹林での修行では敵に見立てた竹をお市に斬らせようとして「敵の動きを読むことは風の動きを読むことなり」なんてことを言う。

竹は動かないんだから風も動かねえだろ。

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マスター長門。

 

剣の達人になったお市に「もう教えることは何もないっ!」と免許皆伝を言い渡したマスター長門は、記念品に仕込み杖をプレゼントしておきながら「決して抜くなよ」と殺生を固く禁じた。さんざん人殺しの術を教えておいてそれはないだろうと思うのだが、「わかりました。決して抜かず、めくらの杖として使います!」と元気よく返事したお市、なんだかうれしい気持ちがしてマスターのために酒を買いに行ったが、その5分後にはスケベの酔っ払いに絡まれて…

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すぐ抜くぅー

 

こうして悲しき剣士となった孤独のお市は、仕込み杖で道をコツコツ、暗闇の中で浮世を渡り歩くのであった。

盲の芝居ゆえ、カッと見開いた目は決して瞬きをせず、バカ殿さながらの白塗り状態で町を練り歩くお市にはどこか浄瑠璃人形を思わせるグロテスクな美しさがあったが、はっきり言ってアレだ、見方によってはけっこう怖い。

だが性格は快活そのもの。別嬪なんて言われると「おだてるのはおよしよ~」と言いながらも人並みに照れてみせ、虚勢を張る悪党には「あはははははははは」と爆笑(目を見開いたままなので相当怖い)。実に気っ風のいい女傑なのである。

 

シリーズはこの後『めくらのお市 地獄肌』(69年)『〃 みだれ笠』(69年)『〃 命貰います』(70年)と続くわけだが、ここで続きを観るか観ないか問題というのが持ち上がるわけだね。おそらく大方の読者は「もう観んでええ。ていうか昭和キネマ特集はよ終われ」と思っていることだろう。そうだね、たしかに皆の言う通りだ。

というわけでこうなったら続きも観てやろうと思うのだ。

たしかに本作、妙な映画には違いないが、私はあの忍者が松の木に引っかかったショットに惚れてしまったのだ。これを観るなというのは、例えるなら家にボンカレーがあるのに母が子に食べるなと禁じる行為に等しい。あれば食べるんだよ。ボンカレーを。子供は。

まぁ、制作陣が同じなので2作目以降も大した違いはなかろうが、観れば何かあるだろう。収穫みたいなものが。少なくとも「ボンカレーのおばさん」という松山容子へのイメージは払拭できたので、これで私はまた少し前に進めそうだ。

 

PS

私はカレー自体あまり食べません。

f:id:hukadume7272:20200512030652j:plain松山容子と荒井千津子(時代考証ドン無視ギャル)。