シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

食べる女

食ってダベって恋せよ乙女。

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2018年。生野慈朗監督。小泉今日子、鈴木京香、沢尻エリカ、前田敦子、シャーロット・ケイト・フォックス。

 

雑文筆家のトン子こと餅月敦子は、古びた日本家屋の古書店「モチの家」の女主人。料理をこよなく愛する彼女の家には、恋や人生に迷える女たちが夜な夜な集まってくる。トン子を担当する編集者で男を寄せつけないドドこと小麦田圭子、ドドの飲み仲間であるドラマ制作会社の白子多実子、求められると断れない古着屋店員の本津あかり、いけない魅力を振りまくごはんやの女将・鴨舌美冬ら、年齢も職業も価値観もバラバラな彼女たちを、おいしい料理を作って迎え入れるトン子だったが…。(映画.comより)

 

やっほほ。みんなどう。

あてくし、最近はもっぱら近ごろの日本映画を観るように心がけてます。本当のことを言うと2000年以降の日本映画にはビタイチ興味ないのだけど、興味ないからこそ観てるわけです。

「日本映画はやっぱ第二次黄金期っしょ!」なんつって50年代の映画をワァワァと称揚するのは容易いけど、そんなことばかりしていると感覚が鈍ったりアンテナが折れるなどしてたちまち精神ロートルと化してしまう。頭コリコリの映画好きになってしまう。ただでさえコリコリなのだから、若い映画でも観て解きほぐしていかにゃなるめえ、といった寸法である。

そんなわけで「イマドキの女子高生が好む俳優BEST5」を真剣に予想してみました。オレだってまだまだ時代について行けてるんだ、というところを皆さまに見せつけてやりますわ。

 

5位 竹内涼真

 

4位 菅田将暉

 

3位 福士蒼汰

 

2位 山崎賢人

 

1位 ジーン・ハックマン

 

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僕に1位を予想してもらったジーン・ハックマンさん(89歳)。

 

完全にハックマンでしょ、こんなもん。

竹内涼真はOL層、菅田将暉は女子大生(特に美大の)から支持されてるイメージがあって、福士蒼汰と山崎賢人は自分でもかなりいい線いってると思うんだけど、「さぁ1位は?」ってなると、これはもう完全にハックマンなわけです。考えるまでもなかったですね。楽勝すぎました。

イマドキのJKが好む俳優はジーン・ハックマン。もうこれは私の予想とかじゃなくて…完全に事実ですよね。いわば。

そんな本日は 『食べる女』をお送りしていきます。ジーン・ハックマンの『錆びた黄金』(81年)はオススメよ!

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◆食欲と性欲は表裏一体◆

食と性をテーマにした女性群像劇といったところか。

文筆家の小泉今日子が経営する古書店「モチの家」には連日のように迷える女たちがやってくる。小泉が振舞うおいしい料理に舌鼓を打って恋や人生の悩みを吐きだした女たちは、たちどころに元気を取り戻し、明日に向かって羽ばたくのである。

輝け、女ども! といった映画であるよなぁ。

年齢も職業も価値観も異なる女たちの和気あいあいとした女子会を眺めているような114分。一本筋の通ったストーリーラインは存在せず、映画は一人ひとりのエピソードをひたすらカットバックする群像劇スタイルで女たちを定点観測していく。

主要人物がバカみたいに多いので一度整理しておく必要があろう。


鈴木京香…和食屋の女将。

小泉に引けを取らない料理の腕を持ち、女子会ではいつもこの二人が料理担当。気品ある出で立ちからは想像もできないほど性欲旺盛であり、年下男を食い散らかして若さを吸い取ることを何よりも得意とする妖怪熟女。

【特技】精気吸収

 

沢尻エリカ…小泉の担当編集。

曰く「恋はお休み中☆」とのことだが、教習所で出会ったユースケ・サンタマリアと魚を食ったあとすぐ性交をおこなった。「新しい男できた?」と訊かれて「べつに…」と言ってのけた。

【特技】チグハグ


前田敦子…ドラマ制作会社社員。

彼氏からプロポーズを受けたが乗り気になれないため返事を保留している。「なんで? いいカレシじゃん」と言われた際に「うーん、なんだろう…。服着たまま風呂に浸かってるような気持ちっていうか…」とまったくわけのわからない例えで一同を困惑させた。友達の勝地涼はなぜかクィアという設定。

【特技】ピンとこない比喩


シャーロット・ケイト・フォックス…外国人主婦。

冷凍食品信奉者。毎日出される冷凍食品にうんざりした夫・池内博之から三下り半を突きつけられ、小泉の家を間借りして和食修業に励む。皿を一枚割った。

【特技】日本語


広瀬アリス…古着屋店員。

誰とでも寝てしまう酒好き女子。「安くて早くて簡単」な挽肉に自身を重ね合わせる挽肉女としての顔もあり、一度寝た男には挽肉料理を振る舞うといった自虐的な行動パターンを持つ。のちに小池徹平とプラトニックな関係を育み、真実の愛(笑)を手にする。

【特技】だらしない


山田優…バーの店長。

別れた旦那の子供をなぜか妊娠している。すぐ泥酔する広瀬アリスを心配するあまり彼女が酒を注文してもよく無視をする。

【特技】オーダー拒否


壇蜜…耳のパーツモデル。

二人のキッズを育てるシングルマザー。三人でピクニックに行こうと言い出し、元旦那の家に押し掛けて「迎えにきたわ。みんなでピクニックに行きましょう」と言って元旦那から正気を疑われる。結局キッズと三人で行くことになったピクニック先では小学生の娘にむりやりワインを飲ませた。

【特技】狂気

 

どうですか。すてきな女性ばかりでしょう?

恋愛や性生活に悩む彼女たちが、まるで引き寄せられるように「モチの家」に集い、そこで小泉&鈴木が作ったご飯をもりもり食べて笑顔を取り戻すのである。文筆家の小泉は、そんな彼女たちを(勝手に)モデルにした小説を執筆しており、そのタイトルこそが『食べる女』

「セックス」という単語がやたらに出てきたりあちこちに性描写がぶっ込まれているように「食欲」と不可分の「性欲」にも斬り込んだ内容となっているため、キッズ諸君におかれては保護者の指導のもと部屋を明るくしてテレビから離れて鑑賞されたい。

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食べる女たちであります。


◆恋愛だけが女の人生ですか?◆

これといって向かうべきところのないダラっとした映画はわりと好みでもあるので、新旧さまざまな女優陣が画面を賑やかして食ったり飲んだりダベったりする映像空間はなかなかに心地よい。

わけても最年長の主演・小泉今日子の求心力たるや天才の一言に尽きよう。

今現在、これほど芝居が楽しい女優など世界中どこを見渡してもなかなか見つからないことこそに日本映画の慎ましい矜持を見る。

執筆中は布団たたきをピザパーラーのように使って近くの本やティッシュを取ったり、柄の先端で背中をゴリゴリ掻く。沢尻が原稿を取りにくると猛ダッシュで玄関のカギをかけに行き、その努力もむなしく家に入ってきた沢尻に「泥棒かと思ってつい…」と言い訳する。沢尻も沢尻で、締め切りを急かしながらも結局は小泉の愛嬌に折れ、共同生活を始めたシャーロットも瞬く間に小泉の人柄に惹かれていく。

華やかな女優陣がたのしく団欒する本作だが、つい目で追ってしまうのはやはり小泉で、次いで鈴木京香の落ち着いた味わい。二人のセッションにどうにか加わろうとして弾き返される沢尻、前田、シャーロットら若手勢のシャカリキ芝居も微笑ましい。

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全編スッピンで挑んだ小泉今日子。


反面、それぞれの人生の悩みが恋愛に集約されてしまうことには毎度怒りを覚えるあたりで。

恋愛願望を内に秘めながらも執筆業と料理に明け暮れる小泉だけが我が道を見出しているキャラクターで、あとは漏れなく男絡みの悩みを抱えている。映画自体が極端なほど男を排除して「女同士の友情」を食で結びながらも、結局のところ彼女たちを繋げているのは恋愛(男との関係)にほかならないという裏切り。仕事とか家族とか自己実現とか…悩み事なんていくらでもあるだろうに、口を開けば男、男と…。

まるで「食事と恋愛がすべて」と言うかのような女性への眼差し。

イライラするわぁー。以前『キューティ・ブロンド』(01年)評でも似たようなことを言ってコメント欄で宥められたけど、やはり辛抱たまらんわー。

つい私なんかは「女性を描くどころか…むしろナメてません? 単純化してるよね?」などと思ってしまうンである。これはフェミニズム云々ではなく物事を単純化するなという私からの怒りのメッセージだと思って頂きたい。

良いメシ食って、良い恋して…といった本作のメッセージ自体はとても素敵だと思うが、あたかもそれを「女の人生かくあるべし」みたいな…「世の中の女性の最大公約数って大体こんな感じでっせ」みたいな描き方をされると虫唾が走る。

 

百歩譲って女性監督がコレを撮るならまだしも、監督の生野慈朗ってゴリゴリの野郎じゃねえか、この野郎! 結局は男性から見た「単純化した女性像」が描き出されているだけで、こんなもんは女性映画というより本質的には男性映画なのである。

しかもこのオッサンの画像を見てみたら…ハゲとるやないか!

あ、なんだ生野。盾突いてくるのか、この野郎。「身体的特徴を悪く言うのはアンフェア」だって? でも身体的事実ですよね。他方「女は恋愛こそすべて」というのは事実じゃないですよね。どっちがアンフェアなんだよコノヤロー!

知った風な映画を撮るな。思考の振り子をニュートラルに戻せ。さっさと歯ぁ磨いて眠れ!

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「恋はお休み中☆」とか言ってた沢尻がすぐ恋する映画。


◆料理がしょぼい◆

前章ではちょっと荒れてしまいました。生野、ごめんな? もう寝た?

生野も寝たことだし、ようやく映画評です。

キャストアンサンブルがとにかく楽しい映画なので、「キョンキョンが見てえよー」とか「エリカ様ぁー。エリカ様ぁー」と繰り言をぬかす人民はとりあえず観ておけ、という作品でござる。

実際わたくしもキョンキョンキョンキョン言いながら114分を元気いっぱいに走破したのであるが、残念、反面、映画としては少しく具合の悪い出来でございまして。


なんといっても女たちが「モチの家」で和気あいあいと団欒するシーンが異常に少ない。かつ短い。延べ5分ぐらいだろうか?

え~~~~~~~~…。

それはナイですやーん。ダマしですやーん。それが一番観たかったのに。謎のお預けを喰らってしまって。頼むわ、生野ー。悲しさと悔しさが入り混じった顔しちゃう。誰が? 俺が。

まぁ、とはいえ群像劇なので各エピソードのカットバックが団欒シーンを圧殺してしまうのも止む無し。ゆるす。オレは生野をゆるしていく。

と~~ころがですねぇ、この群像劇とやらがまるっきりダメでして。

キャラが多すぎて渋滞起こしてらっしゃるわ。

上記に挙げたキャラ以外にも、壇蜜の娘とその友達が「モチの家」に迷い込んで小泉&シャーロットと交流するくだりや男優陣のサブエピソードもあるので、キャラは鮨詰め状態、シナリオはキャパオーバーではち切れそう。ていうか既にはち切れている。何かがハミ出した作品である。具が多すぎて海苔が巻けない巻き寿司みたいに、キャラやエピソードがぼろぼろハミ出して全くまとまっていない作品だったな。


直截的な原因はキャラが多すぎることではなく、それを上手く交通整理できなかったプロットの側にある。

それぞれのエピソードは散漫にして消化不良。シャーロットが和食修業に励むのは三下り半を突きつけた夫とやり直すためなのか、それとも己自身が成長するためなのか…という動機が不明瞭でモチベーションがどこにあるのか分からない。しかも上達する過程もいっさい描かれず、気がついた頃には和食マスターに。ブリタニー・マーフィが西田敏行から料理を習う『ラーメンガール』(08年)を思い出した(地獄みたいな駄作です)

プロポーズの返事を保留したままの前田はその後どうなったのか描かれないし、沢尻とユースケ・サンタマリアの奇妙な関係性も彼が転勤したことで自然消滅してしまい、ただの肉体関係だったのか本気の恋だったのか…という自身の気持ちにもケリをつけないまま。鈴木に至ってはエピソード自体が存在しない。

事程左様に、着地点を見失ったキャラクターとそもそも飛んですらいないキャラクターが織り成す女性群像。なにをどう楽しめと言うのでしょう?

ちなみに原作小説を手掛けた作家・筒井ともみが自ら脚本を手掛けたという。何度でも言うが…よその畑の人間が映画に関わるとロクなことになりゃしまへんえ。

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鈴木京香から日本食を学ぶシャーロット。


そして一番の致命傷…。

料理が美味しそうに撮れてない。

ホント勘弁してね。これね。料理映画なのに料理が美味しそうに見えないって…NANI?

画面上では女たちが「ぎゃあ美味しい!」と騒ぎはするもののそこに何の説得力もなく。味覚を視覚で伝えるのが映画でしょうに。

飛びぬけてヒドいのは、鈴木の和食屋で料理修業を終えたシャーロットのもとに夫が現れるシーン。夫の目の前で料理をつくって腕が上達したことをまざまざと見せつけるのだが、ここでシャーロットが作った料理というのがこちら。

 

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わりとタダのブロッコリー。

 

その発想はなかった。なんたるうらぎり。

ちなみにこれを見たときの私の反応がこちら。

 

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からの……

 

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もっとええもん作ったれよ。

お通しで使うような小さい小鉢に茹でただけのブロッコリーを三切れだけ入れ(セコッ!)、その上から鰹節を振りかけて不思議なソースを垂らすシャーロット。

「食ベテ、ミテ、下サイ」

「チッ!」と舌打ちしたあとにブロッコリーを一切れ口に入れた夫は、途端、あまりの美味しさに目をカッと見開き、貪るように残りの二切れをポリポリ平らげる(咀嚼音がショボい)。そのあとガタガタッと椅子から落ちそうになりながら席を立って一言も言葉を発さぬまま後ずさりしながら店を出ていった…。

 

なんやそれ。

 

あまりの美味しさに目をカッてさせる。

あまりの美味しさに椅子から落ちかける。

あまりの美味しさに言葉も発せない。

あまりの美味しさに後ずさりする。

あまりの美味しさに黙って退却する。

 

なんやそれ。

 

どれだけ美味いのか知らんが…ブロッコリー食っただけでそんな事になる?

尤も、私は自他ともに認めるブロッコリストなので「いーなー、僕も食いてえなー」とは思ったものの…料理映画なんだからもう少し凝ったものを出すべきではないかしら。それこそ夫婦なんだから肉じゃがなんていかがかしらね。もう一度夫の胃袋を掴むという意味で。すてきじゃん。ロマンチシズムじゃん。

なんしか…ブロッコリーはあまりにセコい。見た目的にも世知辛い。大して美味しそうでもなかったし。そもそも「和のおもてなし」でブロッコリー出すなよ。 言うほど和を感じる食材でもないよ!

まぁいいんだけどさ。面白かったから。

 

ちなみに本作と同じ轍を踏んでいるのが『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(14年)。おもしろい映画ではあるのだが出てくる料理がいちいち不味そうなのである。

そんな彼女たちが真夜中に卵かけご飯をむさぼるシーンを繋いで映画は終わっていく。食べっぷりはすばらしい。特に和服姿の鈴木京香が白身の糸を引きながら上品に咀嚼するローポジションからのショット! 卵かけエロス!

だが肝心の「卵かけご飯」そのものにカメラが向けられることはない。

鑑賞後、幾分がっかりしながらインターネッツを開き、そこで生野慈朗がドラマ畑の人間だと知って「…でしょうねぇ」と力なく呟いた。

ドラマ監督は「卵かけご飯」ではなく「それを食べる女優の顔」を撮る。

映画監督は「卵かけご飯」をまず先に撮る。

これが映画とドラマの違いです。お粗末さまでした。

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女優陣はみんなよかった。よく食べた。

 

(C)2018「食べる女」倶楽部、週刊女性PRIME。