シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

高齢俳優十選

 はい、久しぶりの十選シリーズです。

今回は『高齢俳優十選』ですね。じじいとばばあを特集するといった、にんきが出ること間違いなしの鉄板企画です。

私の好きな高齢俳優10人を粛々と挙げていく…といった内容でお送りする予定なんだけど、正味の話、好きな高齢俳優なんていくらでもいるわけです。アル・パチーノとかイザベル・ユペールとかね。

むしろ古い映画もたしなむ者にとっては好きな俳優=だいたい高齢者になってくるわけですよ。アラン・ドロンとかね。

だけど今回は、そんなビッグスター勢はあえて外しております。これをアリにしたらただの『好きな俳優十選』になってしまうから。それは過去にやったから(4回に分けて)。

そんなわけで、一足先に敬老の日を迎えさせて頂くことにして『高齢俳優十選』を組んで参ります。僕はじじいとばばあが大好きなんだ。

※すでに命を落とした方々も対象とする。

 


左卜全(ひだり ぼくぜん)

1894年―1971年(77歳没)。

初っ端はこの人。ゴリゴリの高齢者ですね。

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黒澤作品の常連俳優であり、『七人の侍』(54年)『生きる』(52年)など多数出演。

業界きっての変人としても知られており、いつも首から提げている水筒の中身を「不老長寿の霊薬」と豪語してやまなかった。ある日、その話を聞いた俳優仲間の土屋嘉男が水筒の中身をこっそり飲んだところただのマズいコーヒーだったことが発覚。

また「若返り回転機」なる謎のマシーンの独自開発・自宅設置に成功している(効果のほどは不明)。

また、妻は新興宗教の教祖だが信者は左だけである。教祖と信者のマンツーマン宗教。

そんな左は1970年に劇団ひまわりの子役たちと歌手グループ・左卜全とひまわりキティーズを結成、「史上最高齢の新人歌手」として華々しくデビューを飾り、日本音楽史に燦然と輝く名曲「老人と子供のポルカ」を世に送った。左の歌唱力が壊滅的に低く、それが逆に味のある楽曲として高い評価を得る(リズム感も壊滅的)。

ちなみにこの曲、「やめてケーレ」の後に続く「ゲバゲバ」、「ジコジコ」、「ストスト」という歌詞は当時社会問題化していた内ゲバ、交通事故、ストライキを指す。左なりに社会に対して警鐘を鳴らしているようだ。

左卜全とひまわりキティーズ「老人と子供のポルカ」

 

 

ブレンダ・フリッカー

1945年生まれ(74歳)、アイルランド出身。

若い頃からすでに高齢者でした。

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懐かしいでしょう。『ホーム・アローン2』(92年)の鳩おばさんだよ。

劇中のマコーレー・カルキンくんは、当初この全身ハトまみれ、全身フンまみれの怪しげなホームレスを怖がっていたが、少しずつ打ち解けて無二のフレンズとなる。ラストシーンでカルキン坊を包み込むように抱きしめる別れのシーンが胸を打つ。だけどフンついちゃう。

この『ホーム・アローン』シリーズには「見た目が怖い人やホームレスに偏見を持つな」という裏メッセージがあり、それを体現したのが鳩おばさんなのである!

そんなブレンダ・フリッカーは2012年に破産。大胆にも破産。皮肉にも自分が演じたホームレスの鳩おばさんを再び演じる形となった。テレビ番組に出演した際、「でも屋根があって、犬とわたしが食べていけるならそれで満足だわ!」とポジティブ発言をした。屋根があるからホームレスではないことと、自分は犬好きであって鳩好きではないことをアピールしたのだ。

 

 

笠智衆(りゅう ちしゅう)

1904年―1993年(88歳没)、ジャポン出身。

「高齢」を辞書で引くと「笠智衆」と出てきます。

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『サザエさん』の波平よりも早くに「日本の父親像」を確立した俳優である。

黒澤明や木下惠介、それに山田洋次の『男はつらいよ』シリーズで頻繁に目にする老け役だが、やはり笠智衆のフィールドは小津作品。なんといっても『東京物語』(53年)であろう。この映画で笠は70歳の老人を演じているが、なんと撮影当時は49歳。背中に布団を入れて腰が曲がった感じを出していたという。

普段は温厚な役者だが、たったひとつだけ…「泣く芝居は絶対にしない」という拘りを持っている。どうやら明治生まれの笠は明治の男は泣かないという謎の固定観念に囚われており、『晩春』(49年)のラストシーンの撮影では小津に泣くよう要請されたが、にべもなくこれを断っている。

小津「笠さん、泣いてください」

 笠  「むり」

小津「そこをなんとか…」

 笠  「いや、むりっしょ」

小津「ぼくが泣きそう」

結局、泣く代わりにうなだれる芝居に変更されたが、このシーンで深くうなだれる笠を見て居眠りをしていると勘違いした映画評論家に笠がガチギレしたという逸話がある。たぶんその評論家は泣きました。

 


岩下志麻

1941年生まれ(78歳)、ジャポン出身。

私の目には20代に見えますが高齢者です。

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「スターは外す」と言っておきながら高齢スターの大本命を入れてしまいました。

もはやウチのブログを読んでいて岩下志麻を知らないとは言わせない。デビュー作は小津安二郎の晩年作『秋日和』(60年)。小津の遺作となった『秋刀魚の味』(62年)では笠智衆の娘役(ヒロイン)を射止め、ここから一気にブレークした。夫は映画監督の篠田正浩であります。

折に触れて志麻ラーを公言して憚らない私であるが、当ブログのコメント欄においても志麻ラーをカミングアウトする読者が後を絶たない。広がれ、志麻の輪、『内海の輪』(71年)

映画のイメージからよくクールと思われる志麻ちゃんだが、実際の人柄は「駆けずのお志麻」と渾名されるほどマイペース。かと思えば気分が昂ぶるとすぐダンスを踊り始めるという茶目っ気も隠し持つ。エルヴィス・プレスリーの大ファンを自称しており、毎晩、夫が寝たあとにプレスリーの曲でツイストを踊り狂うことに魂の安らぎを見出している。

また、映画の打ち上げ会場でマンボを踊り狂いながら篠田正浩にプロポーズしたという不思議な伝説を持っている。

代表作は『秋刀魚の味』(62年)『古都』(63年)『はなれ瞽女おりん』(77年)『極道の妻たち』シリーズ(86-98年)ほか多数。まぁ…「ほか多数」って言っちゃうと「代表作」と言った意味がないんだけど。

 


ユエン・シャオティエン

1912年―1980年(68歳没)、チャイナ出身。

顔の赤い高齢者です。

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300本以上の映画に出演した武侠映画の達人。

代表作はやはり『ドランクモンキー 酔拳』(78年)。ジャッキー・チェンに酔拳を伝授した酔っ払いのお師匠様である。

『水滸伝』をはじめ、映画・マンガ・格闘ゲームなどフィクションの中でも度々登場する酔拳は『ドランクモンキー 酔拳』によって広く一般に浸透した。「酔えば酔うほど強くなる」という有名なフレーズがあるよね。

まぁ、酔拳の原型ともいえる中国武術「酔八仙拳」は実際に酒を飲むわけではないのだが。むしろ飲酒時の激しい運動は命に関わるほど危険である。実際に酔拳をしても死ぬだけ。

なお、ユエンの出演作に『秘法 睡拳』(78年)という映画があって、こちらは寝たふりをしながら闘うという、もはや意味すらわからない拳法である。

あと、最近すっかり忘れ去られているようだが…私は髪型評論家でもあり、『ドランクモンキー 酔拳』におけるユエンの髪型を高く評価するものです。白髪ストレートの外ハネ。これはハル・ベリーが『X-MEN ファイナル ディシジョン』(06年)で演じたストームの元ネタだ!(違うよ)

 


ダイアン・キートン

1946年生まれ(73歳)、アメリカ出身。

高齢者という言葉があまり似合わない高齢者です。

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カリスマお洒落ばばあ、と言えば話が早いか。

『ゴッドファーザー』(72年)で世に出たあと、ウディ・アレンとは公私に渡るパートナーとなり『アニー・ホール』(77年)では主演女優賞をゲット。

中年期から現在にかけては『ファースト・ワイフ・クラブ』(96年)のような女3人モノ、『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』14年)に見られる熟年夫婦モノ、『グリフィン家のウエディングノート』(13年)に顕著な大家族モノを得意とする。

また、ニューヨーカーのパブリックイメージを築いた女優でもあります。「アニー・ホール・ルック」が大流行したキャリア初期からNYのファッションリーダー的存在で、友人のメリル・ストリープとともにニューヨーカーの生きざまを世界に向けて発信し続けている。

普段は性格温厚だが、ニューヨークが絡んだ途端に異常な執念を燃やします。テキトーなノリで「I♡NY」のシャツを着て街を歩いていると金属バットで後頭部を叩かれる危険性があるので注意してください。

 

 

ウォルター・ブレナン

1894年―1974年(80歳没)、アメリカ出身。

歯のない高齢者です。

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生涯に出演した映画本数は230本を超える。そしてアカデミー助演男優賞を3回受賞した記録は未だに破られていない名脇役である。

ジョン・フォードの『荒野の決闘』(46年)や、フリッツ・ラングの『死刑執行人もまた死す』(43年)など錚々たる名匠たちに重宝された俳優だが、とりわけ蜜月関係にあったのはコメディリリーフとしての才能を引き出したハワード・ホークス。数々のホークス作品に出演しているが、やはり『リオ・ブラボー』(59年)だろう。笑いと狂気を担当する癇癪ジジイを好演しています。

ブレークの転機は1932年。西部劇を撮影していたブレナンは馬に顔面を蹴られて歯のほとんどを失ってしまう。

だがこの大事故によって歯抜け俳優としての地位を確立。歯抜け独特のモチャモチャした喋り方やブラックホールのような口元に妙な可笑しさが漂い、一躍歯抜けシーンをリードする存在に。

「芸能人は歯が命」なんて誰が言ったんだ?

 


ゴールディ・ホーン

1945年生まれ(73歳)、アメリカ出身。

高齢者であることをごまかしている高齢者です。

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70~80年代に数多くの喜劇映画で人気を得たコメディエンヌである。

夫はカート・ラッセル。『あの頃ペニー・レインと』(00年)のケイト・ハドソンは娘。

『プライベート・ベンジャミン』(80年)『潮風のいたずら』(87年)ではロリっぽい魅力を醸していたが、年をとってもあまり衰える気配がない。年々みたらし団子みたいになっていく点を除けば、非常にエネルギッシュで若々しい高齢者だと思います。

メリル・ストリープやブルース・ウィリスとの共演作『永遠に美しく…』(92年)は美を求めた女二人が不老不死の秘薬を飲む…という内容だが、彼女はこの映画の役とほとんど同じ人生を辿っている。整形手術に次ぐ整形手術。アンチエイジングに次ぐアンチエイジング。

ちなみに「コメディエンヌ」とか「ラブコメの女王」というのは大体がキャリア中期で演技派転向しがちだが、ゴールディは初志貫徹。彼女ほどコメディエンヌを徹底した女優はジェニファー・アニストンぐらいでしょう。

 


バージェス・メレディス

1907年―1997年(89歳没)、アメリカ出身。

ひとり老人ホームの名を欲しいままにするハイパー高齢者です。

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『ロッキー』(76年)におけるミッキーである。

ミッキーにおける『ロッキー』と言ってもいいかもしれない。なんにせよ、ロッキーにラッキーをもたらしハッピーに導いたミッキーである。

ミッキーのイメージばかり先行するが、テレビドラマシリーズと66年劇場版の『バットマン』においてペンギンを演じたことも忘れてはなりません。ミッキーとペンギンを演じた俳優なのである。人間でありながらネズミとペンギンを演じるというエンターテイナーのたしなみ。

ちなみに3番目の妻はポーレット・ゴダード。チャップリンにとっても3番目の妻であり『モダン・タイムス』(36年)『独裁者』(40年)でヒロインを飾った別嬪さんである。というか生涯で結婚した嫁はん4人は全員が絶世の美女!

ミッキーのくせにイイ思いをするなんて、明らかにずるい。

 


ダイアン・ウィースト

1948年生まれ(71歳)、アメリカ出身。

なかなか可愛い高齢者です。

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『フットルース』(84年)『シザーハンズ』(90年)『ブロードウェイと銃弾』(94年)『モンタナの風に抱かれて』(98年)『アイ・アム・サム』(01年)など…われわれが親しんできたアメリカ映画にはいつもダイアン・ウィーストがいました。つい最近もクリント・イーストウッドの『運び屋』(19年)で元気なお姿を拝見したばかりです(死に役だけど)。

ダイアン・ウィーストはいつもおっとりしている微笑み婆さんで、そのカフェオレみたいな甘ぁーい笑い方がとってもチャーミングで大好きなんです。

片や、欧米映画のばばあ市場には少々キツめの女優が多い。エレン・バースティン、マギー・スミス、ヴァネッサ・レッドグレイヴとかね。その中にあってウィーストほどおっとりしたばばあは非常に珍しいのである。

だって「ウィースト」って、名前からしておっとりしているでしょう?

ウィースト…スウィート…スウィースト。

あかん、うまいことギャグになりません。

 

あ、もう10人か。ほんまか。

本当はまだまだ挙げたいけど、これ以上挙げると「十選」ではなくなってしまうから自ら決めた掟のなかに欲望を封じ込めることにします。ちなみに今回挙げた10人の年齢を合計すると771歳でした。今日イチ役に立たない情報を提供してみたよ。

みなさんの好きな高齢俳優も教えてもらえると嬉しいです!

いや、嬉しくはないかなぁ…。