シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

サイコキネシス 念力

ブス芸は韓国の専売特許じゃ!!

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2018年。ヨン・サンホ監督。リュ・スンリョン、シム・ウンギョン、チョン・ユミ。

 

念力に目覚めたおっさんが舞い上がる中身。

 

ハイ、うぃーん。

皆さん、自宅にいる時間が増えて映画やドラマをたくさん観るようになりましたね。こういう時に動画配信サービスって有難いなーと感じるんだけど、私は普段利用してるくせにちょくちょく腐してるので非常に決まりが悪いです。

「Netflixオリジナル映画はあまり好きじゃない」とか言ってた奴がここぞとばかりにNetflixを利用する身振り。それはまるでママンに反抗しながらもママンの作ったご飯をペロッと平らげる思春期の身振り!

そんなわけで、ネトフリ映画特集第4弾は『サイコキネシス 念力』です(次で終わり)。これも勢いに任せてシューッて書いたわ。読み応え?知らねえよ。

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◆おっさん念力映画の決定版◆

あらすじ紹介に書いた通り念力に目覚めたおっさんが舞い上がるという中身である。

ここで言う「舞い上がる」はダブルミーニングになっていて、念力に目覚めたおっさんが喜んで舞い上がってると本当に空中に舞い上がっちゃうわけだ。

ここのところネトフリ映画特集と銘打っておいて実態は筋肉映画特集と化していたが、どうか安心されたい。今回は筋肉とは正反対の概念、超能力ですよ。脱筋肉!

 

で、身も心も舞い上がるのが『7番房の奇跡』(13年)リュ・スンリョンなんだよね。

『7番房の奇跡』は日本でも人気の高い韓国映画だ(酷評したけど)。娘を溺愛する知的年齢6歳のパパンが冤罪で死刑囚になるというハートフルドラマで、韓国では1300万人から涙をむしり取った大ヒット感動作である。だが私はリュのコミカルな顔と芝居がおかしくて終始笑い通し。そりゃあに比べれば遥かにマシなルックスだが、それでもやっぱりオモシロが漂ってるんだよね。リュ・スンリョン。好きだな。

…オ・ダルスの意。韓国奇面俳優という一派を作った奇面俳優の走り。ブス。

…ユ・ヘジンの意。奇面道を極めし者。愛嬌あるモンスターフェイスでスクリーンをさらう。ブス。

f:id:hukadume7272:20200401022700j:plain韓国が誇るオモシロ俳優、リュ・スンリョン。

 

本作は、そんなリュが魔法の井戸水を飲んだことで念力に目覚めるという話なのだが、ファーストシーンでは寂れた商店街でチキン料理屋を営むリュの娘が地上げ屋から立ち退きを要求され、暴動の中で母を殺されるというスーパー不幸に見舞われる。娘を演じているのは『怪しい彼女』(14年)『新聞記者』(19年)でめきめきと頭角を現しているシム・ウンギョンだ。

シムが幼いころにリュと妻は離婚しており、それきり一度も会うことなく父を憎み続けてきたが、皮肉にも母の通夜で数十年振りに再会を果たした彼女はリュなど眼中になく、お焼香にきた地上げ屋に殴りかかって「人殺し!」と叫ぶのだった。

一方のリュは勤務先の警備会社で毎日少しずつドリップコーヒーをパクっているセコいオヤジで、ゴミだらけのアパートに住みカップ麺と焼酎で腹を満たして満足してるような愚民の端くれであった。

過日、寝転がったまま遠くのライターを取ろうと横着したリュは、必死で伸ばした手に向かってライターがビュンと飛んできたことに驚き「ヤッ? ん…? ヤッ!?と動揺する。ヤッて何やねん。

どうやら念力が使えるようだ。そうと知ったリュは早速マジシャンとして華々しくデビューを飾り、シムのいる商店街を訪ねて「もうこんな店売っちまえ。これからは父さんが楽させてやるぞ!」と爆笑しながらネクタイを念力で動かし「どうよ!」などと悦に入ったが、商店の人々とバリケードを築いて亡き母と繁盛させたチキン屋を守ろうとしているシムからは余計に嫌われただけだった。「リュ!?」

そこへ地上げ屋が襲い掛かってくる。指揮を取るのは建設会社の社長キム・ミンジェだが、彼のバックには大手ゼネコンの常務がいて…。

f:id:hukadume7272:20200401023504j:plain「リュー」と言いながら念力でネクタイを動かすリュ。顔よ。

 

このように、物語の核となるのは再開発のために力ずくで住民を立ち退かせようとする建設会社VSバリケードを築いて応戦する住民たちの血で血を洗う領土争奪戦!

バブル期かよと思うほど地上げ屋のやり方が過激で、何十人と商店街に詰めかけ角材や鉄パイプで住人をぶん殴ってシムたちを追い詰めていくが、そこでリュが念力を使って地上げ屋たちを一掃するわけだ。「リュー」言いながら。そしてシムから信頼を勝ち取ってよき父親になっていく…という流れなので、まぁ、ダメオヤジ版スーパーマンみたいな感じかな。

監督は『新感染 ファイナル・エクスプレス』(17年)で一世風靡したヨン・サンホ。数字的にはサン・ヨンホとなるのが筋だが、まあ、ヨン・サンホだ。元々は『新感染』の前日譚を描いたアニメ作品『ソウル・ステーション/パンデミック』(16年)を手掛けたアニメーション作家なので、リュの念力表現もかなりアニメ的というか…はっきり言って『AKIRA』(88年)です。

より正確には『AKIRA』の影響を受けた『クロニクル』(12年)から影響を受けた…という感じ。奇しくも最近『ブライトバーン 恐怖の拡散者』(19年。未見ですというアメリカ映画が作られて、こちらは超能力に目覚めた思春期の少年が闇堕ちするという内容だという。ちょうどアレだよ、日本映画で言えば『いぬやしき』(18年)よね。正義のサイキックおじさんが立ち上がる本作とは好対照をなす超能力映画なのでぜひ併せてどうぞ。超能力は美青年だけのモノじゃないぞ!

f:id:hukadume7272:20200401022804j:plain地上げ屋と戦う商店の人々。

 

◆ヒーロー映画なのにやたら世知辛い◆

シリアスな場面はあれど基本的にはコミカルに突き進んでいく本作。浮かせた物をうまく制御できないリュが「ヤッ! ヤッ!」とか言いながら念力操作に慣れていき、慣れたら慣れたでものすごい顔芸…いや…全身芸で念力を駆使するさまが馬鹿馬鹿しく描かれる。この辺はもうジム・キャリーとかベン・スティラーのコメディ映画ね。

で、そういうノリを日本映画でやってもビタイチ面白くないんだけど、韓国映画だと割とサマになるし、ちゃんと面白いのだ。なぜか?

韓国はブスに寛容だからです。

韓国映画を観てると「わっ、ブッサイクやなー…」と思うようなスゴい顔した役者が平気で出てくるじゃない。韓流ドラマには美男美女しか出てこないけど、こと映画に関してはブスが紛れ込む余地が大いにあるわけだ。

これが日本映画になると、阿部サダヲとか大泉洋みたいな動物的愛嬌のある喜劇役者、もしくは阿部寛、山田孝之、山崎賢人のような二枚目役者もコメディをやるし、アメリカ映画のコメディアンに至っては(それこそジム・キャリーやベン・スティラーのように)実はハンサムだったりするわけよね。 ジャック・ブラックもスティーブ・カレルもフツーに二枚目ですよ。これはヨーロッパ映画もインド映画も台湾映画も同じ。道化を演じるのは結局二枚目。ローワン・アトキンソン? 誰それ?

そう考えると韓国映画ぐらいなんだよ。ブスにスポット当てるのって。

美人女優にドン引きするようなブス顔をさせるラブコメ映画も韓国は多いしね。リュのブス芸もさることながら、地上げ屋をけしかけるミンジェ社長の絶妙なブスルックも大変よろしい!

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血だらけのミンジェ社長。

 

だからこそ黒幕チョン・ユミの可愛さが引き立つのじゃあ!!!

急に大声出してびっくりした?

大手ゼネコンのユミ常務は、シムたちを商店街から立ち退かせることに失敗したミンジェ社長を会食の席でボッコボコにして、血だらけで床に蹲ってるところに高級料理の皿を出し「召し上がれっ」なんつって犬の格好で食べさせるようなSっ気たっぷりの黒幕女王様だ。

チョン・ユミといえば『トガニ 幼き瞳の告発』(11年)『新感染』で知られる清純派女優だが、本作ではハーレイ・クインのごときエキセントリックな悪役を演じている。

しかし、そんな彼女も国家の奴隷に過ぎないということが明らかになっていく。結局はミンジェ社長もユミ常務も「ボスキャラ」のようでいて実は体制側に利用された「ザコキャラ」の一人だった…ということが見えてくるのね。だから最終的に裁かれもしない。悪者が成敗されるカタルシスというのがナイんだよ、この映画。

じゃあ本当に悪い奴は誰なの? それは分からない。このモヤモヤする感じが韓国映画ですねー。

f:id:hukadume7272:20200401022616j:plainユミ常務ゥゥゥゥゥゥ。ヤッ!?

 

つまるところ、DCやマーベルのようなヒーロー映画を韓国でやったらこうなってもうたわ、みたいな試作的映画が『サイコキネシス 念力』なんである。

主人公は異星人でも高校生でもなくおっさん。ドリップコーヒーをよく盗む中肉中背のおっさん。スーパーパワーの用途は世界を救うためではなく娘との関係を修復するため。敵は世界征服を目論む組織ではなくタダの建設会社。決戦の舞台は寂れた商店街。会社経営に苦心するミンジェ社長は愚痴を吐きながら領収書を精査し、ユミ常務はリュに高級車を潰されて溜息をつく。泣いたり怒ったりするのではなく溜息をつく

世知辛い。

敵も味方も、生き辛き濁世で常に誰かに搾取され、それでもどっこい生きてんだい!…という悲哀に満ち満ちた、勧善懲悪のしみったれヒーロー映画『サイコキネシス 念力』。タイトルのセコさがまた味わい深いんだこれが。『サイコキネシス 念力』て。なんやそれは。

 

親子関係、念力関係、建設関係…どうだろう?

全体的にはぬるい映画です。

「念力オヤジって面白いよね」という着想点から「こんなスゲー映画になっちゃいました」までの飛距離が意外と短くて、観る者は「あれ、楽しくなりそうでならないな…」みたいな宙吊り状態に晒されます。

まずもって物語の骨子ともいえる親子関係がぐしゃぐしゃなんだよ。

何十年もシムを放ったらかしにしてたリュが突然父性に目覚め、それまでは駄目オヤジだったのが別人みたいに釈迦力オヤジと化す不自然さ。こういうのって駄目オヤジが駄目オヤジのまま頑張るからアツいんじゃないの?

シムの方も、けっこう早い段階で父を許して「存外ナイスなオヤジじゃん」などとリュを評価する。何十年も疎遠だったわりには随分アッサリしたもんねえ。

f:id:hukadume7272:20200401024125j:plain渾身のネズミ顔で念力を使うオヤジをドン引き顔で見つめるシム。

 

親子関係だけでなく念力関係もぐにゃぐにゃです。

シムはマジシャンデビューした父がネクタイを宙に浮かせても「どうせマジックでしょ?」と一笑に付して超能力の存在を信じなかった。これは分かる。よーく分かる。なまじ父のマジシャンデビューを知った直後だし、そりゃあホンモノの超能力を見てもマジックと思い込むだろうさ。

でもさ、そのあとリュが地上げ屋を念力でビュンビュン吹き飛ばす光景を目の当たりにしたことでようやく超能力の存在を信じるんだけど、なんか…すげえあっさり信じるのよ。

普通だったら「え…。は? 人が浮いてる…。どういうこと? あり得ない!」なんつって目をこすりながらバグバグに戸惑うのが正常な反応だと思うんだけど、シムときたら「うわ、すご」とか言って軽く感心してるだけなんだよ。

「すご」で済ませるの?

「人が浮いてる」という現象には驚けど「超能力が存在する」という事実に対しては特に驚かないという謎のメンタル。そのメカニズム。みたいな。

しかもシムだけじゃなく全員そういう反応なのよねー。

「人浮いてるスゲェ!」とは言えど「なんで浮いてるの…?」と疑問を呈す人間が一人もいない謎の商店空間。そのシュルレアリスム。みたいな。

f:id:hukadume7272:20200401022459j:plain浮くリュ。

 

親子関係と念力関係だけでなく建設関係もぐらぐらですぞ。

妙なところで人間味を出す建設会社の敵役(ミンジェ社長とユミ常務)がとにかく曖昧な立ち位置で、コミックリリーフとヴィランの間でずっと逡巡してる感じ。

作り手側が「韓国社会の闇に切り込んだるでェーッ!」と息巻いてる状態なので、敵役は敵役でも利権政治の末端にいる人間ならではの苦悩がちょこちょこと描かれるんだけど、どうも念力映画としての本筋にアタッチできてないばかりか、却って話のテンポを削ぐ要因にもなってて。これはもうシナリオ耐震強度の偽装だよ。

なんというか、映画空間が妙にせせこましく、ドラマが発生してる領域がすごく狭かった。警察署で留置されてたリュが空を飛んで商店街に向かうラスト・ミニッツ・レスキューも全然上手くないし。

あー、見所ですか? 見所はユミ常務の可愛さとリュの四点着地だよ、そんなもんは、おまえ。三点着地じゃなくて四点着地という惜しさ。しかも短足だから全然格好よくない。これにはユミ常務もしかめっ面です。

f:id:hukadume7272:20200401025101j:plainベターン!と四点着地したリュに「どうだろう…?」って顔するユミ常務。

 

そんなわけで『サイコキネシス 念力』という邦題から大方予想はついたであろうほどほどに面白くてほどほどにつまらない映画でした。

リュの変顔とユミ常務のしかめっ面を見たい方だけにそれとなく勧めてみたい作品だけど、うーん…どうだろう?

 

Netflixオリジナル映画『サイコキネシス 念力』