シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

初恋

三池・エクス・マキナが狂い咲く駐車場映画が堂々誕生。予算問題に直面した三池が秘伝の資金繰りを発揮する!

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2019年。三池崇史監督。窪田正孝、小西桜子、大森南朋、染谷将太、ベッキー。

 

新宿の歌舞伎町。身寄りのない葛城レオは才能あるプロボクサーだったが、格下の相手に負け、試合後の診察で自身の余命がわずかだと知る。希望を失い街をうろついていたレオは、ヤクザと関わりのある少女のモニカを追っていた悪徳刑事の大伴を殴り倒し、ヤクザと大伴から追われることになる。(Yahoo!映画より)

 

どうもご機嫌さま。

昨日から絵ばかり描いてて、映画鑑賞も記事執筆も全くできておりません。久しぶりに絵を描いたらとてつもなく楽しい気持ちがして、つい時を忘れて描いてしまうのです。

前回、描いてほしい絵をおまえたちに募ったところ、さっそくGさんから「コリン・ファレルの絵描いて」とリクエスト頂いたので、さっそく目をつむって描いてみたんだけど。

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使用画材 黒いペン。総制作時間 2分。寸法 不明。

 

えー結果としましては、3回挑戦して3回とも失敗してしまいました。原因はわかりません。

Gさんには申し訳ないけれど、これに懲りずにまたリクエストして頂ければ幸いです。とりあえず今回の作品はGさんに差し上げますので、プリントアウトしたものを部屋に貼って楽しんでください。

そんなわけで本日は『初恋』です。

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◆ピュア殺し三池が牙を剥く! 『初恋』とは名ばかりのバトルロワイアル無法地帯群像劇!◆

日本国内においては「人気マンガを手当たり次第に映画化する職業監督」として原作至上主義者から迷惑がられている三池崇史だが、海外では「フカサク、キタノに次ぐバイオレンス作家」としてコアなファンを持ち、数々の映画賞に輝き散らしている。

だいたいの欧米人は日本のエログロ文化が大好きだから『切腹』(62年)『バトル・ロワイアル』(00年)を見せていれば満足するような連中で、その意味ではバイオレンスとエンターテイメントの融合にかけては一日の長がある三池崇史は“海外向けの作家”といえるのではないかしら。

個人的には三池崇史をいいと思ったことは一度もないが、それでもマンガ原作の映画を作るたびに実写化という言葉の意味が“原作を忠実に再現すること”だと思い込んでる原作キッズ、またの名を間違いさがし警察から「こんなの〇〇じゃない!」と野次られるようなサル並の文化水準まで堕ちたこの国で映画を撮り続けることはさぞかしストレスだろうなと同情のひとつでも申し上げたくなるほどには優しい心で見つめています三池を。

 

そんな三池が、久しぶりに原作を持たないオリジナル作品を意気揚々と発表した。

余命宣告されたボクサーの窪田正孝が、ヤクザから売春をさせられている小西桜子を救い出したことで歌舞伎町ヤクザの内野聖陽村上淳らに目をつけられる…というのが大筋。そこに麻薬の横領を企てる下っ端ヤクザ・染谷将太と汚職刑事の大森南朋がトラブルを持ち込み、しまいには歌舞伎町ヤクザとチャイニーズマフィア、あとなぜかベッキーを巻き込む一大抗争へと発展していく…というのだ!

これぞ三池が最も得意とするフィールド。

『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(99年)『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)『極道大戦争』(15年)と、過去のフィルモグラフィに一貫するバトルロワイアル形式の無法地帯群像劇である。

三池作品ってこんなのばっかよね。

原作ありきの作品も例に漏れず、『クローズZERO』(07年)『十三人の刺客』(10年)『無限の住人』(17年)と、とにかく色んなキャラクターがとめどなく出てきてあっちゃこっちゃでシバき合って最後まで生き残った奴が勝ち、みたいな。駆け引きも交渉もなく、極限まで野生化されたタダの乱闘。

『初恋』であります。

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安定の三池節が火をふく。

 

なお、映画は窪田正孝と小西桜子の逃避行を主軸に展開していくくせに『初恋』というタイトルは物語と一切関係ない。

てっきり死期の迫ったボクサーと心に傷を負った少女の愛と暴力の逃避行みたいな映画なのかなと思いきや…特にそんなことはなかったや。

ほぼ全編に渡って銃刀法違反者が画面に出続け、やたら怒声が響き渡り、シャブを食べ、生首が転がる暗黒の115分! 血と涎にまみれたスクリーンは人肉粉砕・殴打虐待の百花繚乱へ! …と、そんな感じの映画である。

三池は『初恋』というネーミングについて「あえて内容とかけ離れたタイトルを付けることである種のギャップを狙った」と述べていたが、この言葉を私なりに意訳するなら「客を釣るため」です。

窪田正孝ファンをはじめ、この手の暴力映画を敬遠するピュアネスな客層を騙くらかしたタイトル詐欺。まさにピュアの一本釣り。三池のパッケージ戦略が火を噴いた。

でもさ、血みどろ映画にあえてロマンチックなタイトルを付ける、ちゅうのは対位法としてフツーに格好いいし、こういう映画って意外と沢山あるんだよね。北野武の『HANA-BI』(98年)とか。あとは、まあ、北野武の『HANA-BI』とか。

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全員物騒。

 

◆製作費が足りないシーンはこうしてゴマかす! 秘伝の資金繰りが乱れ咲く◆

トレーラーを見たときは「いつもより丁寧に撮ってるのかな」という印象だったが、それも最初の30分だけ。染谷がチンピラ仲間をうっかり殺してしまってからは早々に三池の悪ノリが始まり、雑な映像処理から繰り出されるギャグとスプラッターでエンドロールまで走破しちゃう。

殺されたチンピラの恋人・ベッキーは車のボンネットに飛び乗って奇声を発しながら角材を振り回すようなゲスの極み乙女と化し、脇腹を撃たれた染谷はコカインを傷口に塗りたくって怪奇・ぶっ飛び男に豹変。ヤク漬けにされたヒロイン・小西桜子はクスリが切れるたびに父親の幻覚を見るが、なぜかその父親がパンツ一枚で阿波踊りをしていて爆笑が止まらないという体たらく。

全員イってもうとるで…。

 

挙句の果ては、大乱闘の最中に窪田のケータイに医師から電話が掛かってきて「余命わずかって言ったけどアレ誤診でした。至って健康です」と衝撃の誤診報告。これは『DEAD OR ALIVE 犯罪者』の結末を彷彿させる卓袱台返しだと思い、唸った。

ちなみに『DEAD OR ALIVE 犯罪者』は、刑事の哀川翔とヤクザの竹内力が激突に激突を重ねる激突ヤクザ映画だが、最終的には激突しすぎて地球が爆発するという三池・エクス・マキナが炸裂するトンデモ映画の金字塔である。

三池・エクス・マキナ…デウス・エクス・マキナを三池がした場合のこと。

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粗削り、というよりは単にヘタな映像処理はさすがの三池節で、とりわけ現場の熱が高まってきた物語後半からは手癖と勢いだけで撮っていて、もはや映画の体を成さないほどにショット/編集/演出のすべてがボロボロに瓦解していく。

ちなみに、どん臭い黒のバンで立体駐車場をぐるぐる回ってるだけの激烈にショボいカーチェイスの結末は“壁をぶち破って車ごと宙に舞う”という派手なスタントなのだが、なんとこのシーンだけアニメーションでゴマかすという妥協演出で予算を浮かせにかかっている。

製作費が足りないシーンはアニメで補う、という見事な資金繰りが発揮された名場面だ。

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アニメで乗り切った。

 

その後、決戦の舞台となるヤケに見栄えの悪いホームセンターにシーケンスを移してからのラスト30分も迷シーンのつるべ打ち。

『イコライザー』(14年)のクライマックスと同じく、商品棚がズラッと並ぶ暗い店内でのかくれんぼバトルが火を噴くのだが、誰がどこにいて何をしてるのかさっぱり分からないうえ、ニアミスや不意打ちといったサスペンス演出にも乏しいのでビタ一文たりともドキドキしないという死に時間が観る者の心拍数を安定させていく。

そのほか、義理を重んじるチャイニーズマフィアの藤岡麻美が窪田たちをわざと見逃す場面では「行け」とジェスチャーしたあとに「行け」と口でも言わせるし、なぜか窪田の技斗シーンを背中越しに捉え続けたカメラは殴り合う二人の様子をいっさい観客に伝えない。

すべての決着をつけたあとに再び車に乗って警察に追われるラストシーンでは、窪田たちが車外に撒いた大量のコカインが煙幕代わりになってパトカーがクラッシュするが、このシーンも横転するパトカーを見せることなく「ドガシャーン!」というSEで全部ゴマかす。製作費が足りないシーンは音で補う…という謎の聴覚表現。まさに資金繰りに次ぐ資金繰り。

しかもその後のエピローグがやけに長ったらしく、アクションだらけの本編でおざなりになっていた窪田と小西の関係性を今さら掘り下げようとし出すので「今からどーこーしても多分むりちゃう?」みたいなビミョーな気持ちに人をさせたままエンドロールを迎えます。

いやー、今回も三池してたなぁ。というか三池しかしてなかった。

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◆駐車場は車を停める為だけのモノではない! 秘伝の駐車場活用法が狂い咲く◆

まあ、三池作品は大体いつもこんな感じなので前章であげつらった瑕疵など織込み済み。それどころか、ある意味では瑕疵ですらなく、むしろその唯一無二の三池節を大いに堪能した私が今現在ニッコリしながらキーボードを叩き狂っているけれども、それとは別に、本当に残念だったのは夜の歌舞伎町の景色があまり楽しめなかったことなんだよなぁ。

やはり歌舞伎町というからにはあの目抜き通りの雑多な風景が見たいわけだが、なんだか物語が進むごとに人気のない路地とか店の裏とか…ロケ場所がどんどんショボくなってくるのだ。

しかも、ロケグレードが下がりきった結果 何かあるとすぐ駐車場にたむろするあたり。

喋るのも駐車場、戦うのも駐車場と…。駐車場の豊富さには事欠かなかったなぁ。新宿在住の観客なら「こんな所にも駐車できるんだ」といった気づきすら得られるチャンスかも。

もっとも、都心で大規模なロケとなると撮影許可や交通整備なんかで何かと人件費がかかるので、まあ経済的といえば経済的なロケ場所ではあるのだけど。

 

役者陣で光っていたのは武闘派ヤクザの内野聖陽とチンピラ女のベッキーでありました。

まったくのノーマークだった内野聖陽はどことなく松本幸四郎(現:松本白鸚)を思わせる渋さと色気を振り撒きながら殺陣とは思えぬ剛腕のみで日本刀を振り回す。この殺陣の美学に無頓着な剛腕アクションというのがいかにも武闘派ヤクザ、いかにも三池作品。野蛮が炸裂していた。

また、スマホのGPSアプリに感心して「ここ? 今ここにいるの?」と舎弟に操作を習ってるシーンが萌えポイントだ。

 

だが真に讃えるべきは、実生活でのイメージダウンを追い風にしてダーティな役に見事還元してみせたベッキーである。

あの“三白眼でちょっと怖い顔立ち”も相俟って、ぶち切れると半狂乱で人を殺害するという真性DQNぶりがいよいよホラーになっていて、劇中屈指の狂人ぶりを体現していた。タランティーノかロドリゲス映画に呼ばれるべき人材。

まあ、なんだな。こうして見ると三池崇史が欧米人を熱狂させている理由が何となく分かる気がするな。三池作品に対して本気で怒ってるのは日本人だけなのだろう。トンデモ映画に対してやけにリテラシーのある海外勢は“そういうモノ”として受け入れるし、たとえ不出来な映画でも「ダメ」ではなく「バカ」として愛してしまえるのだ。

その意味で『初恋』『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』に次ぐバカ映画である。度を越してひどい『テラフォーマーズ』(16年)も捨てがたいが。

f:id:hukadume7272:20200728031702j:plain「おめーの席ねえから!!!」

 

(C)2020「初恋」製作委員会