シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

モン・パリ

おっさんが妊娠をします  ~イタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニがお腹マルチェロ~

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1973年。ジャック・ドゥミ監督。マルチェロ・マストロヤンニ、カトリーヌ・ドヌーヴ。

パリ下町のモンパルナス。美容院で働いているイレーヌと、自動車教習所に勤める恋人のマルコ。結婚はしていなかったが、息子のルカと3人で幸せに暮らしていた。ところがある日、男のマルコのお腹が大きくなって妊娠の兆候が表れ…。(Amazonより)


 はい、おはようございました。
Twitterのリプライ?…で日夜しょうもないコメントがどしどし届くので、まとめてココでお返事したいと思います。今後晒されたくない人は、しょうもないコメントを控えるようにするといいですョ!

KONMA08さん(絵文字濫用変態)
「そうそう…。もう持ってると思うけど、怒りのロードショー3巻、売ってたから買ってもぉた!」
聞いてもいないのに近況報告をしてくれてありがとうございます。そもそも私は『怒りのロードショー』を購読してるなんて一言もいってないのが、このリプの怖いところです。

KONMA08さん(絵文字濫用変態)
「( ≧∀≦)ノ( ≧∀≦)ノ」
僕のTwitterを荒らさないこと。

KONMA08さん(絵文字濫用変態)
「("⌒∇⌒")("⌒∇⌒")("⌒∇⌒")」
顔文字に頼らないこと。意味のある言葉を紡ぐこと。

ツルコプさん(マリオ変態)
「ヘヘヘ!^^)」
脈絡不明の笑みを浮かべないこと。

Gさん(政治変態)
何気にふかづめさんの私へのコメントは、私を可愛く思っていることと守りたい願望を感じて嬉しかったです
Gさんは発言を控えてください。
もう一度アナウンスします。Gさんは発言を控えてください。


れんげさん(黙祷変態)
「ふかづめ氏は同じマンションに住んでいても挨拶してくんないジャンルの人かと思ってた」
失礼なジャンルで私のことを括らないよ。

やなぎやさん(蹴鞠変態)
「ふかぴょん、映画の話したいから記事にもコメントするんだけど、いま急ぎ伝えたいことが。京都に『おこしやす京都AC』っていうサッカーチームがあるんだよ! おこしやすは、昨日サンフレッチェ広島というJ1のチームに5-1で勝ち。サッカー好きにおこしやすの名を刻みつけた。そして聞いて。『おいでやす京都』という別の女子チームがある!」
なにをいってるかぜんぜんわからない。

タカキユウト/地方の人/物書き/バンドマン/コンテンツ紹介/NBA好き元バスケ部副キャプテンさん(肩書き多すぎ変態)
「mixiの時から追いかけてる、ふかづめさんの映画批評。映画の知識と独特な着眼点に基づいて、圧倒的な熱量で一刀両断される映画監督や俳優がいつも可哀想に思えてくるけど、おもしろい」
珍しく人に褒めてもらえたと思って喜んでたのに、結局こうなってしまうのか。

マダム・ミッツ | 人生を楽しむための占い師さん(零距離交流変態)
「色々面白いのでフォローさせて下さい(大爆笑の絵文字)。1番好きな映画は『アトランティスのこころ』。好きなホラー映画は『ドリームキャッチャー』。1番怖かった映画は『サイレントヒル』。よろしくおねがいします」
こちらこそどうかよろしく。マダム・ミッツさんのジャンル別No1映画を知ることができました。聞いちゃいないのに。
それはそうと「好きなホラー映画」と「1番怖かった映画」は一緒じゃダメなんでしょうか。

マダム・ミッツ | 人生を楽しむための占い師さん(零距離交流変態)
『女ガンマン 皆殺しのメロディ』のお知らせツイートに対して…
「擬似マカロニウェスタン!? ウェスタン見ないので…。思わずマカロニとの違い調べちゃった(大爆笑の絵文字)。ワンスアポンアタイムインハリウッドで、リック(ディカプリオ)がマカロニ出演を役者としての都落ちみたいに嘆いてたような…記憶? そうなの? そうとも限らん?」
猛追がすごい。
出会って間もないのに、マダム・ミッツさんからの猛追リプはとどまる所を知りません。大爆笑の絵文字もとまりません。ちなみにご質問への回答は、そう。

しょうもないリプは他にも腐るほどありますが、本日は厳選された7名の変態を紹介しました。
お返事を書きながら気づいたことは、この方々の傾向は3パターンに分類されるということです。意味が剥落したワードや記号を連発してくる呪文型変態と、聞いてもいないことを勝手に教えてくれるアグレッシブアンサー型変態、そしていけしゃあしゃあと失礼なことを言って憚らない傍若無人型変態がその内訳です。
呪文型の対策は、無視をすることです。アグレッシブアンサー型の対策は、読み流すことです。傍若無人型の対策は、返事をしないことです。リプ変態勢は返事をするとつけ上がる傾向にあります。なまじ返事をしてしまったが為にリプが止まらず、時にはリプ変態とリプ変態が合同寸劇のようなものを演じるなどして、私の神聖なTwitterを汚してゆくのです。
今回、精鋭リプ変態勢からの理解に苦しむコメントの数々に頭を抱えながら、私はこう思いました。「なぜTwitterにはこういう人達しかいないのだろう」と。みんな、暑くて、少し頭がヘンになっているのかもしれません。
そんなわけで本日は『モン・パリ』です。おっさんが妊娠をする、といった充実の中身が観る者に襲いかかりますよ。

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◆ドゥミが放つ、珍奇・妊夫コメディ◆

 ヌーヴェルヴァーグの左岸派として名を馳せたジャック・ドゥミだが、一般的にはミュージカル映画の大家として広く愛されているよねぇ。
なんといっても代表作の『シェルブールの雨傘』(64年) 『ロシュフォールの恋人たち』(67年) 。この2本はオシャレ映画の殿堂入りを果たし、女性ファンを中心に今なお根強い人気を誇っているというよ。
まあ、そのあと実写版『ベルサイユのばら』(78年) がつるんつるんにスベり、キャリア半ばでブッ倒れちゃったけど、もともとドゥミは“1960年代にしか撮れない男”なので、たとえ『ベルばら』がヒットしてても時代と疎遠になるのはそう遠い未来ではなかったはず。作品感覚と時代感覚の調和=不調和ってあると思うんだよね。例えりゃあ、そう、俳優のデニス・ホッパーが本腰入れて監督業に乗り出した80年代、時代はもうホッパーの白昼夢なんて望んでなかったわけです。『イージー・ライダー』(69年) 『ラストムービー』(71年) のようなサイケデリック映像が持て囃されたのは60年代末まで。LSDキメてフラフラになっていいのも60年代まで!
だからこそわれわれは、ドゥミの60'sフレンチミュージカルを、ホッパーの60'sアシッドムービーを通して、そこに“時代の匂い”を嗅ぎとり、時おりクシャミなんかするわけだよね!!?

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『シェルブールの雨傘』(左)と『ロシュフォールの恋人たち』(右)。いずれもカトリーヌ・ドヌーヴ主演。


 そんなドゥミが、1973年に「あー」って言いながら撮り散らかした『モン・パリ』は、フランスの至宝カトリーヌ・ドヌーヴとイタリアの国宝マルチェロ・マストロヤンニが共演したコメディである。まるで70年代の風にさらわれるようにドゥミの作風は崩れかかっているし、はっきり言ってショットも編集も観れたものではないが、それでも愛想を忘れないドゥミズムの粋。ほぼこの一点だけで私は『モン・パリ』を擁護するものです!
で、肝心の中身はどんな中身かっていうと、男が妊娠するって中身です。
美容師のカトリーヌと同棲している自動車教習員のマルチェロは、前妻の子を可愛がりながら3人で仲睦まじく暮らしていたが、ある日、マルチェロのお腹をよーく見てみると…お腹がマルチェロ。 何がどうしてこうなったのか、男のマルチェロが妊娠していたのであるよ!
あとはもう天手古舞いよ。医者は「人類の進化だ!」と騒ぎ、マスコミは「怪奇! お腹マルチェロ現る!」と書き立て、ファッション業界は彼をモデルに男性用妊婦服を売り出す。一躍有名人になったマルチェロとカトリーヌ。果たしてベイビーは無事に生まれくるのだろうか!?

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お腹マルチェロ・マストロヤンニ。

◆えすぷり、利いとるわ◆

 男性が妊娠する映画といえばアーノルド・シュワルツェネッガーの『ジュニア』(94年) が思い出されるね。その前ならビリー・クリスタルの『ラビット・テスト』(78年) ですか(未見だけど)。
いずれにせよ、コメディはコメディでも茶化すような笑いが作りにくいテーマなもんで、科学的にアプローチしてみたり命の尊さを訴えてみたり…と何かしら工夫が必要なジャンルなのだろう。
あと、この手のコメディの強みは「あの俳優がこんな役するの?」という意外性なのかな。『ジュニア』にしても、「シュワちゃん」と「妊娠」のコラボレーションが斬新…というか気違い沙汰だったわけでしょう。だからこそ面白かった。
それでいえば本作のM・マストロヤンニもなかなかの狂気沙汰。まあ、もともとイタリア式コメディによく出てた俳優ではあったけれど、いかんせんキャリアがキャリア。M・マストロヤンニといえばイタリア/フランスのスーパースターで、最近映画好きになったみたいな若者がヨーロッパ映画に手を出し始めてまず最初にお目にかかる“お馴染みの顔”じゃない。
ルキノ・ヴィスコンティの『白夜』(57年)
ミケランジェロ・アントニオーニの『夜』(60年)
ルイ・マルの『私生活』(62年)
フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』(60年)『8 1/2』(63年)
ヴィットリオ・デ・シーカの『ひまわり』(70年)
私生活でも当代随一のプレイボーイで、アニタ・エクバーグ、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴ、フェイ・ダナウェイ…と浮名を流した大女優は数知れず。
 そんなM・マストロヤンニがご懐妊…だなんて、まったく因果な話じゃないのさ。ちなみに、撮影時にプライベートでも恋人同士だったカトリーヌとは生涯籍を入れなかったが、1972年には二人の間にキアラ・マストロヤンニが爆誕してもいる。ほぼ本作の設定そのまんま。もう、こうなってくると『モン・パリ』は事実ということが言えていくと思う。
つまりM・マストロヤンニが妊娠したのも事実。

f:id:hukadume7272:20210330070230j:plain泣く子も惚れるモテ男、マルチェロ・マストロヤンニ。

 さて、そんな本作。笑いを求道した作風というよりは、ドタバタ喜劇の中でエスプリの利いた問題提起がなされていく…といった知的なアプローチが採られている。鑑賞中に頭をよぎったのはイタリア式コメディのタッチだな。パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレの『SEX発電』(75年) のような“もしも話”を主題に、社会や倫理の矛盾をチクチクと突いていく作劇の爽快感。
テレビでインタビューを受けたカトリーヌが「私たちは共働きだから、2人目は夫が産むのは至極当然よ」と発言したり、「男性用のピルや中絶手術が一般化すれば、私たちオンナも性に対して自由になれる」という視点があったり。そうした問題提起が、物語の本筋ではなくセリフの端々にピャッと生起してるのがドゥミ作品の…広くいえばフランス映画全体の洒落っ気なのかもわからない。昨今のフェミニズム問題で喧々諤々やってることを、48年も前にサラリとやられたんじゃあ、もうお手上げだわさ。
それでいて昨今、ジェンダー論の名のもとに“男”と“女”をしきりに対立させたがるメディアや論客が多い中、本作をよく見てみると、女はこうだ、いやいや男の言い分はこうだ、みたいに性別を主語にして語っていないことがよくわかる。
つまり“妊娠”というテーマを、ただ現象として描くことに徹している。この上なく理性的な作品だと思うな。少なくとも監督個人のジェンダー観を耳元で怒鳴りつけてくるような“メッセージという名の恐喝”が蔓延している現代アメリカ映画に比べればよっぽど映画の良心を残してるわ。

それでいてカトリーヌ・ドヌーヴの人物造形よ。
お腹マルチェロのマルチェロを難病と勘違いして「イヤンイヤン、あなたがいないと私死んじゃうわ~!」なんてポロポロ泣く精神脆弱ぶりから、始めこそ「バカ女かな?」と思いきや、妊娠だと知ってマルチェロを支えていく中盤以降からはメキメキと積極性を獲得。お腹が大きくなりすぎて教習車にも乗れなくなったマルチェロの代わりに一人で美容院を切り盛りして生活を支えるその姿! 支え、支えられの恋人たちの姿が、そこにはありました。
あと単純にオシャレね。彼女が営む美容院と、そこに集う常連客の賑わい。ロケ地がパリ下町のモンパルナスということもあり、まるでフランス版の山田洋二を観ているようなラリった感覚も味わえます。まったく、男も女もつらいよ。

f:id:hukadume7272:20210330071514j:plain“妊夫”を支えるカトリーヌ。

◆パワー溜飲下げさせ◆

 この第三章では、ついに擁護をやめたふかづめが、いつもの如く「崖から小鹿を突き落とすような発言」をしていくけれども、基本的には失敗してる映画だと思う、『モン・パリ』は。
全編これ凡ショットという大家ならではの手抜きが、画面からマァ緊張感を奪う奪う。塩抜きしすぎた数の子をポリポリと噛んでいる気分だ!

今回のドゥミは『ロバと王女』(70年) の大ヒットに気をよくしたのか、全身隙ありといった弛緩ぶりで、最大の持ち味だった色使いの退行なんて悲しくなっちゃうレヴェル。「手癖でイケるっしょ」と言わんばかりの拘りのなさ。そういう慢心が、たとえばミレイユ・マチューを本人役で出して一曲歌わせる…みたいな要らぬサービスに表れているのですよ。
それに物語の結末もひどい。世界中でマルチェロのように妊娠した男性が急増し、いよいよどういう事なんだという段になって「じつは想像妊娠でした」で片づけちゃう。

や、だとしてもよ。

だとしても男性の想像妊娠が世界各国で、それも同時期に急増した現象をどう説明するの?

医者「まあ、あり得ない話ではなかろう。過去に似たようなケースもある」

や、だとしてもよ。

「似たようなケースもある」で納得できるスケールのアレじゃないでしょ、コレは。
あまつさえ収拾のつかなくなったラストシーンでは、すべてを有耶無耶にするかのように、急にカトリーヌ…。

「あっ、痛ぇ。マルチェロ…わたし妊娠したわ!」

ワレが妊娠すんのかい。

観客の不満の眼差しをそらすために無理やり妊娠した感すげえ。
なにこのパワー溜飲下げさせ。こんなの、もう「おめでとう、カトリーヌ!」って言うしかないじゃん。疑問や不満は残るものの、ひとまずこの結末をハッピーエンドとして記憶するしかねえじゃん、人は!!!
 そんなこんなの下町ぐだぐだコメディ『モン・パリ』。取るに足らない映画だが、30歳になったカトリーヌ・ドヌーヴは着実に色気を増している。彼女が“パリジェンヌ”だった頃の最後の作品として、一度は観ておくのが吉。
…いや、観るフリだけして観ないのが吉。

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