シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

マイ・スイート・ハニー

すべてがFになる。


2023年。イ・ハン監督。ユ・ヘジン、キム・ヒソン。

チャとイが出会ってメシ食って結ばれる。


ペペプ~ピョーロルー。
というのは、いま架空のリコーダーに口をつけて「皆さんどうもねー」と言ったときの音を想像で擬音化したものなんだけど、どうでしょう、結構よかったでしょうか、あんまりだったでしょうか、ロマンチックだったでしょうか、ネクロマンチックだったでしょうか、オキロマン目覚めチックだったでしょうあkl。
そんなことより、聞いてよ。
わたし、否、わたくし、否、あちきし、So!あちきしが最も信を置いている近所のスーパー「ライフ」にとうとうセルフレジが導入されたんだが、これが全く以て使いづらすぎるっつーハナシをよ~!
商品バーコードをスキャナーに通して特殊センサー付きの台の上に置くことで会計がなされるっつう絡繰りなのだが、このスキャナーとセンサーが全然…クソッ! 全然反応しよらんのよ…ッ!
しかも機械音声が、又むかつく!

「バーコードを通してください」
「もう一度バーコードを通してください」
「台の上に置いてください」
「バーコードを通してください」
「もう一度バーコードを通してください」
「台の上の商品のバーコードをもう一度通してください」
「もう一度バーコードを通してください」
「諦めないでください」
「なんでバーコード通さないんですか」
「万引きするんですか」
「私の敵は私ですか」
「もう一度バーコードを通してください」
「出てくならお前の身内も住めんようにしちゃる」
「もう一度バーコードを通してください」
「商品を台に置いてください」
「商品を台に置いてください」
「置けって。ええから。一回置けって」
「もえって。一回置けって」
「どないもならんので店員を呼んで下さい」
「ファイト」

こんちきしょおおおお!!!
震えながらのぼってったらええんか!?
ちべ…
冷たい!!
水の中をよぉおおおお!!!
腹立つわあああああああああああああああ。
何度も何度もスキャンして「あかん」言われてスキャンして「あかん」言われてスキャンして「あかん」言われてスキャンして「あかん」言われて「ファイト」言われてからによおおおおおおおお!
しまいに店員さんが走ってきて「お客様、こうです。この角度です。この角度から、スキャン!」ゆうてピッてしてくれるけど、セルフレジに「あかん」言われて、ちょっと笑って俺、「あかんやないか」ゆうて。
まったく、アホみたいな事柄だ。セルフレジなのにセルフでレジできず、しまいにゃあ店員さんが走ってきて実質的に有人でレジしてもらう、みたいな本末転倒沙汰が繰り広げられている。
おれは常々思うとんのよ。
便利も突き詰めると不便になるってね。
そも、機械やAIを御するほど人間は能ある生き物ではない。でも見つけちゃったんだよね。開発しちゃったんだよね。おもちゃを。だから「すごいぞー」なんつって、そのおもちゃで“神様ごっこ”をしてるんだよね。
あー。隕石とか降ってこねぇかな。

そんなわけで本日は『マイ・スイート・ハニー』です。


◆ユ・ヘジン待望のロマコメ主演作◆

 この映画は劇場公開時に観たんすけど、ミスって中盤でウトウトして一瞬だけ居眠りこいちまって、そうなるとそれはもう「観た」うちに入らない、「観た」とカウントしてはいけない、「観た」と人に吹聴してもいけない、ましてや批評するなどもっての外乃介ってんで、仕方ないのでU-NEXTで有料配信されるのを3ヶ月待って550円払ってもう一度観返しました。
とほほでやんす。
そんなこって『マイ・スイート・ハニー』。大人の純愛をシュワッと描いた軽妙洒脱なロマンティック・コメディ。
主演は韓国が誇るとびっきりの奇面俳優ユ・ヘジン。震えるほどにブサイク。ほとばしるほどにイソジンのカバ。
逃げ遅れたイソジンのカバ。
「外見のことを悪く言うなんてルッキズムだよ」だと? 黙れよ。ユ・ヘジンはとてもスペシャルな役者だ。おれはユが大好きだ。ユの顔はおれを幸せにさす。ずっと見ていたい。この映画だってユが主演だから観た。


追われるユ・ヘジンのようす。

どこが「追われるユ・ヘジンのようす」やねん。
イソジンのカバやないか。
イ・ソジンやないか、こんなもん。

そんなユの相手役がキム・ヒソン
おれとしちゃあ初めましての女優だが、本場韓国では遥か古より大層人気な女優だそうで、中学生時代に「ジュニア美しい顔選抜大会」で大賞に輝いてモデルデビューしてからというもの90年代初頭から現在に至るまでTVドラマを中心に活躍している“視聴率の女王”なんだって。
なんでもええけど「ジュニア美しい顔選抜大会」ってなに?



あら美しい顔!
そら輝くわ、「ジュニア美しい顔選抜大会」の大賞に。すぐ輝くわ。
そんな「ジュニア美しい顔選抜大会」大賞受賞者と「イソジンのカバ選抜大会」大賞受賞者が織り成す、えらくさっぱりした炭酸系ロマコメが本作だとオレはおまえに言う!


以下、筋紹介。
製菓会社で働くユは「豆腐チップ」を大ヒットさせた研究員として、来る日も来る日もお菓子の研究ばかりしている、おかしな奴。お菓子だけにな。可笑し。
ユは度を越したルーティン男で、毎日決まった時間に起床し、決まった手順で出社準備をし、決まったスケジュールで仕事をこなし、定時ジャストで帰宅して18時には就寝する。1秒の狂いもない。毎日が同じ生活。まるで特定の一日をタイムリープしているかのようだ。
そんなユには出所したての愚兄、チャ・インピョがいた。博打狂いのチャは、ユの家に転がり込み、ユの貯金をユ水のごとく使い、無チャばかりしていた。ユがユう等生なら、チャはやんチャ。
名前ややこしいな、ほんで。
湯だの茶だの。
しかも劇中ではユの役名が「チャ・チホ」なのよ。
ややこしいな、ほんで!
チャは兄役のチャ・インピョのものなのに、ユの役名までチャだとお茶の奪い合い…。
ほんでチャ・インピョの役名は「ソクホ」やからね。一文字違いでトクホ。
お茶やんけ。
やっぱりお茶はお兄ちゃんのものやんけ。
否。“お兄茶ん”や。こうなってくると。
ユはお湯に落ち着けよー。
なに、わけわからないですか? 安心されたい。おれもわからないよ。
とにかくそんなユが、チャの借金を肩代わりするべく訪れた消費者金融会社でヒソンと出会う。
ヒソンは中学生の娘を持つ天真爛漫なシングルマザーで、ひょんなことからユと「食べ友」になる。というのも、製菓会社研究員のユは毎日お菓子ばかり食べているため慢性栄養失調で、ヒソンの方も毎日部活で帰りが遅くなる娘のために一人でご飯を食べていたものの孤食嫌い。本当は誰かと食べたい。互いの利害が一致したところ、ユとヒソンは頻繁に夕食を共にするようになり、やがて恋愛関係へ―。

…といった中身なんだよね。
恋愛経験ゼロのユと、かつて恋愛で痛い目を見たシングルマザーの結ばれそうで結ばれない、大人のやきもき系ロマコメの佳作でありますよ!


食べ友になったユとヒソン。

◆イ・ビョンホンじゃない方のイ・ビョンホン◆

 韓国映画らしい韓国映画でした。
それすなわち“勉強型”の韓国映画ってこと。
韓流ブーム前夜の『猟奇的な彼女』(01年) の自由奔放なシナリオスタイルが懐かしく思えるほどに、昨今の韓国映画はちょっと可愛げがないほど勉強のしすぎ。しかも“頭”でな。感覚を磨き想像力を養うことより、頭でやってる詰め込み勉強。
たとえば本作。シナリオが秀逸よ。詳しくは後述するがめっぽう巧い。それというのも、ビリー・ワイルダー、ハワード・ホークス、エルンスト・ルビッチら古典映画を研究し尽くし、いいとこ取りをした成果だ。あとチャップリンね。逸脱せずに手堅くオシャレ。はみ出すことなくしっかり粋。そして“大人しく古典映画に倣うことが周回遅れでカメラが回った韓国映画には適当”とする、その判断も正しい。実に好ましい態度だ(韓国映画の歴史なんてつい最近始まったばかりだからさ。朴正煕政権の70年代なんてほぼ無に等しいディケードだったし)。
強いよ、これは。
こんな短期間でこの急成長ぶり。戦後黄金期の貯金を食い潰し、もはや「日本映画」が死に絶えて「邦画」となり下がった映画音痴大国日本がスッと追い越されたのも納得だわな。
いわんや本作にはスクリューボール・コメディの香りさえ漂う。本作は韓国で作られ、韓国人しか出てこない純韓国映画だが、映画の本質というか、やってること自体はアメリカ映画で。
検索しても検索しても「なんで誰ひとり言及してないんですか?」って腹立つぐらい、モロにプレストン・スタージェスの『レディ・イヴ』(41年) なのよ、これ。当ブログでも扱いました『レディ・イヴ』。スクリューボール・コメディの代表作です。アマプラにもあります。それ見てから本作をご覧なさい。まんまですよ、まんま。
主人公の男が金持ちで、ヘビが出てきて、出会いのファーストシーンと抱擁のラストシーンが“足を引っかけて蹴躓く”というモチーフまで全く同じのロマンティック・コメディ。


ただし、現代韓国映画の問題点は、プロットはおもしろいが致命的なまでにショットが撮れないシナリオ・オリエンテッド過多な映画観。
例に漏れず本作も(良きにつけ悪しきにつけ)ずいぶんと賢しい作品ではあるが、そんなプラスチックな感触を和らげているのが、何を隠そう、というより隠しようもないほど不細工なユ・ヘジンの愛嬌。
なんでこんなヘンテコな顔なんだ。
ユの顔が…というよりユを取り巻く空間そのものが歪んでいるからそう見えるのかなってぐらい顔が歪んどる。否。ユがんどる。なんなんだ、こりゃ一体。
錯視トリックか!!?
おれを騙そうってか!?
そんなユ。本作ではいつにもまして個性物凄(ものすご)なキャラクターを演じている。ことあるごとに自分の言葉にツボって大笑いするっていうキャラクターなのよね。その笑い方がまた個性物凄で、肩を震わせながら「エフ、エッフエッフ! エフエフ。エッフ!」と笑うんである。
すべてがFになるんか?
森博嗣の名作推理小説かおまえ。
ヒソンが「これから『食べ友』になりましょう、私たち!」と食べ友契約を提案すると、急にユ…

「エッフ。食べ友ってw
エッフエフwww
エッフエッフエッフフフwww
たwww食べ友wwwwww
エフwww」

なにがおもろいねん。
笑いすぎやろ。Fになり過ぎやろすべてが。
したところ、ヒソンも…

「ヒソヒソヒソ。
そんな可笑しかった?
よくわかんないけどウケたならよかった!
ヒソヒソw」

共鳴してるー。
楽しそうにエフエフヒソヒソとしている~。
ある夜。キンパ屋でヒソンとともにキンパを食べながら、ユ。やおら「優しいキンパは死んだらどこへ行くと思いますか?」とクイズを出した。ヒソンは首をかしげて「わからない」と答えた。
そしたらユ、「天国ですよ」と言ったあと「エッフエッフエッフwww すべてがエッフwww」と笑った。しばらくキョトンとしていたヒソンだったが、ややあって「あーね!」と合点がいきヒソヒソ笑った。

というのも、2人が食事しているキンパ屋の店名が「キンパ天国」だったのだ。

つまんねえ!!!
なんもヒネりがねえ!
キンパ天国で食事しながら、問題「優しいキンパは死んだらどこへ?」、正解「天国」はまんま過ぎるやろ。「あ、なるほど。だから天国なのか!」ってならねえ! まんま過ぎてなんも掛かってねえ。
クイズつまんね~~~~~~。
雑談のレベルが低き~~~~。
でも、だからこそ、こんなゴミクイズでエフエフヒソヒソできる2人(しかも40代)が愛おしいのよ。
しかも、普段、お菓子以外にはドライブスルーのファストフードばかり食べていたユに「キンパのドライブスルーがあればいいのにね」といったヒソンの何気ない言葉や、そのあと関係を深めてヒソンの自宅で手料理を振舞ってもらうようになったユがそのお礼にヒソンが苦手とする車の運転を教えてあげる…という返報行為もすべてが伏線になっていて…。
アッと驚く為五郎!
『すべてがFになる』のFって…
伏線のFだったとユうのかあ!!!

また、おれが気に入ってるのはすべての端役が2回以上登場するという太古の法則なんだよね。
近所のお店の店員さんや、何の接点もない若きカップル、ユに製菓会社の実害を内部告発させようとしたドキュメンタリー監督など、普通ならワンシーンしか登場しないその場限りのキャラクターを決して使い捨てせず、もうひと展開、もうひと掘り下げを試みる貪欲なシナリオライティング。
この映画の脚本家がドン・ヨクって名前だったらよかったのに。残念ながらイ・ビョンホンなんだって。
もちろん天下万民が「イ!?」ってなる方のビョンホンじゃなくて『二十歳』(15年) や『エクストリーム・ジョブ』(19年) などを手掛けた、天下万民が「イ!?」ってならない方のビョンホンね。
紛らわしい方のビョンホンね。
人騒がせな方のビョンホンね。
イ・ビョンホンじゃない方のイ・ビョンホンね。


ユ!!!

◆オナラ、ぶうううう!◆

そんなこんなでユとヒソン。
とんとん拍子で両想いになるが、ふたりの前には愛の障壁が3枚。
1枚目はユの愚兄チャ。賭博狂いの極道者であるチャは「豆腐チップ」で大儲けしたユを引き出し放題のATMとしか見てないので、そんな弟の結婚相手となるかもしれないヒソンは目の上の瘤。鹿爪らしく「弟に近づくな。財産目当てのあばずれが!」などと脅迫し、ふたりの仲を裂こうとする。
一方、ヒソンの一人娘の…、ごめんなさい、調べても役者名がわからないのでム・スメと仮名するが、多感な年頃のムは露骨にユを怪しんでおり、あまつさえ大会では大賞も取った射撃部のエース。「ママに何かしたらすぐ撃つぞ」と牽制的な姿勢を崩さない。
極めつけはユの務める製菓会社内部。若き室長のチン・ソンギュは、栄養失調が加速するユに「会社をやめては?」と提言するヒソンを目の敵にする。なんとなれば、ユは「豆腐チップ」を大ヒットに導いた天才研究員。チンサイドにとっては我が社のヒット商品製造機。そんなユに退職をそそのかすヒソンは邪魔者ってんで、ふたりの仲を裂こうとするンギュ。
そんなさまざまなキャラクターの思惑が複雑に絡み合い、ユとヒソンの距離は縮んだり離れたりを繰り返す。



だけどラストシーンがいいよね。
変なおっさんに「ぶち殺すぞ!」と怒鳴られて怯え倒していたユが、そのあと消費者金融会社の階段から足を滑らせて自分の方へと落ちてきたヒソンを両腕で受け止めるどころか身をひねって自分だけが助かりヒソンは床にしたたか打ち付けられる…という最悪の出会いが、このラストではぜんぶ反転する。
愛を諦め、さめざめ泣いたふたりが偶然再会するクライマックス。
再び登場した変なおっさんがヒソンに因縁をつけるや否や、勇気百倍、こんだユが「ヒソンさんを悪く言うな。ぶち殺すぞ!」と柄にもなく怒鳴り、坂の上から走ってきたヒソンを、今度という今度は身をひねることなく両腕を広げて受け止める。

ユは always gonna be my love
宇多田ヒカル「First Love」


まあ、古い感覚の作劇ではあるけどね。生放送のテレビで公開告白とか。DREAMS COME TRUEばりの「アイシテルのサイン」とか出てくるし。未来予想図II過ぎるやろ、みたいな。
でもいいじゃん、それって。昔ながらのロマコメ映画やトレンディドラマをあえてやろうとしてるわけよね。おれは気づいてたよ。この映画、時代設定はゴリゴリの現代なのに携帯電話をほとんど使わないの。
ユがヒソンと会う方法は、基本“ヒソンのアパートの前で直接待つ”なの。
フィジカルすぎやろ。
忍耐勝負すぎやろ。公衆電話より古いやり口っていう。NTT前夜すぎやろ。
電話もメールもSNSもなし。だって生放送のテレビで公開告白してんだぜ。いったい何十年前の…。テレビとラジオしかなかった時代すぎひん? 高度成長期すぎやろ。戦後間もなくすぎやろ。
かと思えば、ユとヒソンは人肌恋しい夜、顔を自動加工するアプリでビデオ通話しながら「ヒソヒソ、おもろ。鼻おっきなってるやん!」とか「エフエフ。ヒソンさんだって犬の耳ついてますよ。エッフw」などと盛り上がる始末。
急に令和やめ。
IT事情、ピーキーすぎやろ。高度成長期になったりドリカムになったり令和になったり。昭和、平成、令和を横断しすぎやろ。

「あっ、オナラをしてしまいました!」
オナラすな。
つまんねえ。ギャグセンスは昭和である。唐突にオナラで受けを狙ってくる、この態度。
ターゲットどこやねん、この映画…。

ヒソン「オナラ、ぶうううううう!」
オナラぶーすな。黙れ。なんでヒソンまでオナラぶーすんねん。せんやろ、大体、ヒロインは。キンパ天国のクイズからずっとそうやったけど、おもんないねん、基本的に、この映画のギャグセンス。おもろいのはユの顔面だけ。その命綱だけで首の皮いち…

「オナラ、ぶうううううう!」
やめろ。黙れ。
寝てくれ。頼むから。黙れ。寝ろ。つまんねえ。オナラぶーすな。なんやこの映画。オナラぶーしたあとにエフエフすな。ユ。ヒソンもヒソヒソすな。しばいたろかな。

「ぶうううううう!」
はい決めた。
ユ、しばこ♪

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