シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

MAMA

私はホラー映画を観る資格すらない糞ブタ丼650円並盛りである。

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2013年。アンドレス・ムシェッティ監督。 ジェシカ・チャステイン、ミーガン・シャルパンティエ、イザベル・ネリッセ。

 

精神を病み、共同経営者と妻を殺害した投資仲介会社経営者のジェフリーは、3歳と1歳の娘ヴィクトリアとリリーを連れ出して逃走。森の中の小屋で娘たちを手にかけようとするが、小屋に潜んでいた何者かにジェフリー自身が消されてしまう。5年後、ジェフリーの弟が娘たちを発見し、彼女らの心理状態を研究したいドレイファス博士と恋人のアナベルと一緒に、博士が用意した家で共同生活を始めるが…。(映画.comより)

 

おはようございます。前回、ついに「らー」だけで前書きを凌ぐというアクロバティックな戦術を決めた男、ふかづめです。手抜きも裏を返せば経済的ということになるので、どうか「前書きをサボった」とは思わないで頂きたい。

それはそうと、あと10日ほどではてなブログProが解約になっちまう。

ちょうど1年前かなぁ。記事内に広告が表示されたり、文字にキーワード自動リンクが貼られてしまうのが迷惑極まりなかったので金を払ってProを契約したんだけど、その契約期間の終了が差し迫っておるのです。

契約更新したいが…なーんか癪だなぁ。だってすぐれた映画評を無償で提供している上にわざわざ金まで払ってるんすよ、僕。よく考えたらなんやねん、この営み。ワケわからんやないか。

まぁ、映画評は好きで書いてるからいいけど、前書きに関しては苦痛でしかない。つまり私のブログ活動は何の見返りもないどころか、むしろ高い金を払って苦痛を受けに行ってるということが言えるわけです。解脱すんのか? そろそろ解脱すんのか?

ていうか、Pro版の恩恵は読者も受けてるわけですから皆さんが更新料を肩代わりするべきじゃない? 皆さんでワリカンすれば一人頭10円ぐらいですよ。たった10円でこれまで通り快適に『シネマ一刀両断』が読めちゃうのです! おっ得ーゥ!

まぁ、契約更新するかどうかはまだ分からないけど、もししなかった場合は広告&キーワード自動リンクだらけになりますのでご了承ください。

というわけで本日は 『MAMA』。うーうーうー♪

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ホラー映画にとっての私は既に終わっている

久しぶりにホラー映画を語るのではないかしら。観たとしてもブログで扱わないからなぁ。なぜか!?

私ほどホラー映画の批評に適さない人材もまたといないからである。

その理由は『ルール』(98年)に詳しいが、一言でいえば「ホラー映画で怖がれないから」だ。捉えようによっては私にとってホラー映画は存在しないも同然なので、批評もヘチマもないのである。

では、なぜホラー映画で怖がれないのか。

まずもって、ホラーは他のジャンル映画より遥かに数学的な理論体系のもとに制度化されていて、悪い言い方をすれば官僚主義的に撮られている。早い話が「こういうシーンではカメラをここに据えてこういうアングルから撮らないと画が成立しませんよ! ガミガミ!」みたいなことが予め決まっているわけだ。それを逸脱して自由に撮ることは許されないし、たとえ逸脱しても画面ガチャガチャのダメ映画になるだけだから誰も逸脱しない。

だからホラー映画はB級化(類型化)しやすく、ビデオ屋の棚には似たり寄ったりのパッケージが雁首そろえて皆さんのことを待ち構えているわけ!

そしてそれを知ったが最後、二度とホラー映画で「あひゃーん」とか「うぉうオ!」などと無邪気に叫んでは恐怖という悦楽に我が身を浸らせることなど叶わない。ただ一瞬ごとに想定されゆく穏当な画運びに「まぁそうなるわな」、「ハイいいですよ」と上から目線で頷くだけの確認作業が待ち構えているだけズァッツオールなのである。

この確認作業に名前をつけてやるとすれば映画的不幸というネーミング以外はありえまい。映画を「確認」するようになったら映画好きは終わりだ。

つまりホラー映画にとっての私は既に終わっている

もしかすると観る資格すらないのかもしれない。結局のところ、どんなホラー映画よりもこの事実がいちばん怖いんだ。何を隠そう私自身が映画の亡霊だったのですからね!!!!!

 

そんなホラー映画を観る資格すらない糞ブタ丼650円並盛りの私がお届けする『MAMA』評。いっちゃっていいかな。

本作は『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17年)と言っていたにも関わらず“それ”が見えても一向に終わる気配がなく遂には続編を作りやがったアンディ・ムスキエティの長編デビュー作である。

どうやら2008年に製作した短編映画を自ら長編化した作品らしい。最近こういうの多いよねー。たしか『ライト/オフ』(16年)も元は3分弱のYouTube動画で、派手にバズったから映画化したんでしょう。

mixi時代ぐちょぐちょに酷評したけど。

 

さて。この度わたくしめが無作為鑑賞法で引いた『MAMA』は、今や『IT/イット』で時の人となったムスキエティの原点と言える作品かもしれません。製作総指揮はギレルモ・デル・トロだが、脚本や製作には関わっていないのでひとまず無視していい(デルトロ監督作だと勘違いしてる人があまりに多いぞ。しっかりしろ!)。

気になる内容は、一家心中に失敗したバカなおっさんが娘2人を残してくたばり、その弟ニコライ・コスター=ワルドが2人を引き取って恋人ジェシカ・チャステインと共に育てる…といったハートウォーミング・ホームドラマである。

そりゃまあ多少の怪奇現象や心霊殺人も起きはするが、基本的には疑似親子愛に貫かれた感動作。四捨五入したら小津の『東京物語』(53年)です。

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『東京物語』としての『MAMA』

 

◆悪霊が腹立つ◆

山奥の納屋で一家心中から逃れ、そこに棲みついていた悪霊に5年間も育てられたミーガン・シャルパンティエイザベル・ネリッセの幼い姉妹は、叔父ニコライの家に引き取られたあとも野生児さながらの獰猛さでニコライとその恋人ジェシカに牙を向けていたし、白い息を吐きながら狼のごとき四足歩行で家の中を駆け回るようなワイルド・シスターズであった。

まあ、文明から隔絶された山奥で5年も育ったのだから無理はないが、それにしても二人が納屋で発見されるファーストシーンの人ならざる禍々しい動きがおもしろい。トカゲのように素早く地を這い、壁を走り、必要とあらば人に飛びかかるといった一連の動態が不自然なほどぬるぬるしていて、なんというか、実にきもいのである。これはコンピュータグラフィックスの不自然さを逆手に取った演出だが、どうも近頃のホラー作品はこのような「きもい動き」で人を脅かすことを好むらしい。いつから「怖がらせる」ことと「きもがらせる」ことが一緒になったのか。

 

そんなわけで、誰もがこの幼い姉妹を悪霊憑きの類だと思うが、二人はただの人間。

では本作のアタッカーは誰なのかと言うと、姉妹の「MAMA」として彼女たちを庇護していた悪霊である。こいつは納屋から叔父宅へとお引越しして、姉妹に近づく人間にアタックを仕掛けるという傍迷惑な霊だ。てっきり納屋で死んだ女の地縛霊かと思っていたが、すごくアウトドアな奴で好きな所に出向いていけるらしい(そのフットワークの軽さが羨ましくもある)

物語は、母代わりのジェシカが家の中で巻き起こる怪奇現象に苦しめられるさまと並行して、姉妹の精神状態に興味を抱いた老博士が悪霊の謎に迫らんとする雄姿を描く。

本作のジェシカ・チャステインはロック・ベーシストとして主に自宅を中心に音楽活動をしている在宅ロッカー。元ランナウェイズのジョーン・ジェットを彷彿させるゴスパンク風のメイクが抜群にいかしている。

なお、姉妹の面倒を見るジェシカが少しずつ母性に目覚めていくというのが本作の見所である。

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きめきめのゴスファッションに身を包むジェシカ(似合う)。

 

一方、彼氏のニコライはイラストレーターとして主に自宅を中心に創作活動をしている在宅ワーカー。若い頃のショーン・ビーンを彷彿させるハンサムぶりが抜群にいかしている。

なお、悪霊に襲われたニコライが階段から突き落とされて病院送りにされるというのが本作の見所である。

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階段から突き落とされるニコライ。「るるおー」と叫んでいた。

 

そして真打ち登場、悪霊MAMA。

この悪霊は壁の中を縦横無尽に移動しては随意に飛び出してくる…という何とも器用な奴で、宙に浮いたり姿を消すのもお茶の子さいさい、MAMAというよりNINJAとしての技能に秀でた奴である。

だが、その正体は100年前に村人を殺して我が子と心中した精神異常の女で、死してなお未練がましくこの世にへばりつき実の子供と勘違いしたのか姉妹に密着、どうやら長年探し求めていたらしい我が子の骸骨をゲットしたかと思えば次の瞬間にはバキバキに砕いて投げ捨てるというシュール系コントみたいな暴挙に出ただけでなく、姉妹の片割れをあの世に連れていって怖いけど切ないみたいなキレイな余韻を残したのち成仏する…という不届き者であった。

実際、この映画を見た人民の中には「ラストに感動」、「ちょっぴり切ない」といった意見を口にする者が多いが…やや、待たれよ待たれよ。生前いくら精神を病んでいたとはいえ、手前勝手な都合で村人、我が子、姉妹の片割れ、その他罪なき人々の命を奪っておいてラストシーンだけ湿っぽく成仏されても「さいですか」とはいかんよなぁ。

やけに時間をかけて描き込まれていく悪霊のバックボーンに同情の余地がまるで無いため、恐怖感を煽るはずの悪霊まわりの描写がただただ不快感しか煽らないというストレスフルなキャラクターであった。顔もすげえブサイクだし。

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自分勝手すぎる悪霊、MAMA(ほぼほぼNINJA)。

 

その他、おかしな点や負に落ちない点は山ほどあるし、壁の中に潜む悪霊、クローゼットの開閉、悪夢やヴィジョンの幻視といったイメージもただイメージに終始するばかりで一向に演出化されない…など不満は盛り沢山だが、恐らくほとんどのレビュアーが挙げていない点をひとつだけ指摘するなら精神病んでるヤツ多すぎ問題が持ち上がる。

生前のMAMAだけでなく、ニコラスの兄も事業の失敗から精神を病んで一家心中に踏み切ったし、姉妹の片割れは解離性の精神障害を抱えていたことが発覚するが、これらのキャラクターが精神に異常をきたすことには説話的必然性がない。ただ、何かに取り憑かれているのではないか、姉妹は人間なのか人ならざる存在なのか…といった観客側の判断を宙吊りにする為だけに精神病を都合よく援用しているに過ぎないのだ。意味ありげに映ったものがことごとく意味をなさない。『MAMA』です。

 

◆忘れじの演出◆

とはいえ、世のホラーファンに大満足とまではいかないまでも程よく充足した笑みを湛えさせるほどには見所の一つや二つはある映画だ、との言には「たしかにー」と言っていかざるを得ない魅力は随所にみとめられます。

「ベッドの下に何かいるかもホラー」「みだりにクローゼット開けない方がいいかもホラー」である。

このMAMAとかいう糞ブタ丼730円大盛りは、古くからジェシカの自宅に棲みついていた由緒正しい悪霊ではなく、いわば姉妹と一緒に引き取ってしまった招かれざる客。したがって『回転』(61年)『家』(76年)のような“家に棲みつく悪霊”から然るべき洗礼を受ける類のホラー…いわば足を踏み入れた人間を追い返すという論理ではなく悪霊が家に上がり込んできたという図式の当事者なのであって、やってることは完全に押し込み強盗、ひいてはスラッシャー映画の構造と非常によく似てるのね。

実際、家の中での悪霊バトルは「なぜジェシカ達がこんな目に…?」と思うほど理不尽きわまりないもので、ここでの「霊と人間」は「加害者と被害者」に関係化される。

したがって観る者は、ただ成す術もなく画面の前でMr.Childrenの「タガタメ」を口ずさみながら、この理不尽としか言いようのない悪霊による一方的暴力に戦慄するほかはないのです。

子供らを被害者に 加害者にもせずに

この街で暮らすため まず何をすべきだろう?

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寝る間も与えずアタックを仕掛けるMAMA(とても迷惑)。

 

映像面でハッとさせられたのは、すでにレビュアーがこぞって褒めている廊下と子供部屋の長回しである。

廊下からのフィックス・ショットでは、半分開かれた扉の奥の子供部屋で次女が誰かと布団を引っ張り合っている。長女だろうか。すると廊下の奥から洗濯籠を持ったジェシカが子供部屋に近づいてきた。まさにその時、背後から現れた長女に呼び止められたことで、ジェシカは踵を返して子供部屋から離れて行く。

じゃあ子供部屋で次女と布団を引っ張り合っていたのは…?

このショットは「ゾッとする」よりも「ハッとする」という表現の方が適当だろう。誰の目にも怖さより面白さの方が勝るからだ。可視化された三人によって不可視のMAMAを存在させた技ありのカメラワークでした。

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画面には映ってないが、ここには4人いる。

 

だけど私のお気に入りは別のショットにあったのでした。

子供部屋で見た人影を次女と思い込んだジェシカが「やだ、脅かさないでよ!」とこぼしたあと、一階のキッチンから「ジェシカ、朝食できたーん。二人で食べちゃうよー!」という長女の声を耳にするシーンである。二人で食べちゃう…?

じゃあジェシカが見た人影は…?

音響による虚仮威しが氾濫する中、この論理的演出はひとまず貴重と言えます。残念ながら映画終盤ではコンピュータグラフィックスによる虚仮威しの乱打に失望することになるわけだが、中盤までの感覚的恐怖と論理的恐怖の統合には「いいじゃーん」と言っていかざるを得ない魅力が随所にみとめられた。

MAMAと戯れる姉妹を演じたミーガン・シャルパンティエとイザベル・ネリッセのキッズとは思えない不穏な眼差しが忘れがたい。

あと、これだけは言うまいと思っていたがジェシカ・チャステインのおっぱいである。

忘れがたい。

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