シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ドラキュリアン

アドベンチャー嫌いの私が大いに楽しみ、最後には敬礼すらした映画。

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1987年。フレッド・デッカー監督。アンドレ・ゴウアー、ダンカン・レガー、トム・ヌーナン。

 

神秘の力を秘めた“光る石”をめぐって田舎町にモンスターたちが集結。その事を知った怪物同好会“モンスター・スクワッド”の少年たちは怪物退治に乗り出す。(Yahoo!映画より)

 

ういうい、おはよー。

俳人デビュー4日目ですが、ある人から「楽しようとしないで下さい」とクレームが入ったので本日をもちまして俳人を引退することにしました。悲しい決断でした。それではさっそく今日の一句を発表します。

 

誰かにひどいことを言われたときは吉田拓郎を聴こう

きっと明日はいい感じ

 

最後にとっておきの句を残したところで本日は『ドラキュリアン』です。

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◆アドベンチャーなんかすんな。家帰れ◆

『グーニーズ』(85年)が嫌いだ。私の苦手とする「ガキ」と「冒険」が両方詰まった映画だからである。『スタンド・バイ・ミー』(86年)は今のところ好きだが、ゆくゆくは嫌いになるかもしれない。

ガキ+アドベンチャーの組み合わせには参ってしまう。もしアドベンチャーをしているガキが私の目の前を横切ったらそいつの頭を引っぱたいて「家に帰れ」と言いたい。

なぜ私はガキのアドベンチャーが許せないのだろう。ちなみに「旅」に対しては憧れを持っているし、映画でもロードムービーが大好きである。

だが「冒険」は好きになれない。文字通り「危険を冒す」と書いて冒険。そしてアドベンチャー(冒険)の語源は「~へ近づくこと」。

いわば危険を冒してまで目的に近づくことが冒険なのである。

ここに私は「人間の果てなき欲望」を見てしまう。自分の命、同伴者の命、あるいは無事を祈る者たちの憂心。それらをすべて擲ってでも欲望へ近づこうとする精神が私にはもうひとつ理解できないのである。「危険も顧みず目的に突き進む」なんて言えば聞こえはいいが、要はただの無鉄砲なのだ。恐らくそこにはマゾヒスティックな自己陶酔や英雄願望もあるだろう。だから「ひとつなぎの大秘宝」を捜そうとするルフィとかも当然嫌いだ。

とはいえ分別ある大人がいろいろ考えた末に「それでも俺はアドベンチャーしてぇんだよ!」と言うのなら、それはもう好きにしたらいいと思う。登山家・航海者・宇宙飛行士・西部開拓者たちのアドベンチャーはそれはそれで理解できるし、人類の発展に貢献している奴らもいるからだ。

だが…、ガキだぞ!?

分別知り初むるガキがつまらない好奇心のために命を落とすかもしれないアドベンチャーに繰り出すことなど断じて認められねええええええッ。

アドベンチャーの途中で死ぬかもしれないし、その手前で人さらいに誘拐されるかもしれない。迷子になったらどうするの。ふしぎな穴に落ちたらどうするの。親御さんは絶対心配してるぞ。

涙に濡れるママンと汗に湿るパパンの気持ちをそのちっぽけな脳みそで考えろォォ――――ッ!

かけがえのないガキどもの命がアドベンチャーなんかで失われてたまるか。遊びなら俺が付き合ってやる。家に帰れ。

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アドベンチャーに繰り出すガキども。

 

そして今回取り上げるのは『ドラキュリアン。ほほっ、ドラキュリアン!

100年前に吸血鬼ハンターのヴァン・ヘルシングが封印し損なったドラキュラが現代に目覚め、フランケンシュタイン、狼男、半魚人、ミイラ男を蘇らせて善悪の均衡を崩す「魔法の石」を探し求める…という内容なのだが、これに立ち向かうのが「モンスター・スクワッド」なるチームを結成したホラーオタクのキッズ5人。

伝説上の怪物を知り尽くしたオタク5人が実際に現れた怪物たちを相手に魔法の石を守りきる…といった冒険活劇である。モロに私の苦手なガキ+アドベンチャー。

でも超おもしろかった!

ズコーッ。

散々アドベンチャー批判をしてきたのに…ズココーッ。

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蘇りし怪物たち!

 

モンスターズ・アッセンブル!

『ドラキュリアン』は往年のユニバーサル・モンスターズの復権を目論んだ野心作である。

ユニバーサル・モンスターズとは20年代~50年代にかけてユニバーサル・スタジオが大量生産していた一連のホラー映画群のことで、様々なモンスターを主役に『魔人ドラキュラ』(31年)『フランケンシュタイン』(31年)『ミイラ再生』(32年)『狼男』(41年)『大アマゾンの半魚人』(54年)などを世に送った。

また近年、マーベルとDCが展開するアメコミ・クロスオーバー商法に便乗したユニバーサル・スタジオが往年のユニバーサル・モンスターズを片っ端からリメイクする「ダーク・ユニバース」プロジェクトを開始したが、その第1作目としてトム・クルーズ主演で製作された『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(17年)が血尿出るほど大コケしたことで早くもプロジェクト中止(大笑い)。

もしも『ザ・マミー』が成功していれば各モンスターの単独作品が続々作られたあとに『アベンジャーズ』(12年)『ジャスティス・リーグ』(17年)にあたるユニバーサル・モンスターのお祭り映画が予定されていたのだろうが、それを1987年の時点で既にやっていたのが『ドラキュリアン』なのである。ほほっ、ドラキュリアン!

 

驚くべきは桁外れの完成度である。子供騙しの安い映画かと思いきや、いやはやどうも…困ってしまうほど面白いのだ。100年後の現代に目覚めたドラキュラの周りに一人また一人と仲間が集まってくる、この高揚感!

肩でゼェゼェ息する狼男、なぜかジョジョ立ちしているミイラ男、フランケンシュタインの眠る棺を持ち上げて川から上がってきた半魚人。そしてフランケンを封印から目覚めさせたドラキュラはアベンジャ…モンスターズ・アッセンブル!」と意味のよくわからないことを叫んで街に繰り出します。このシーンで5人が揃ったときのビジュアルが恐ろしく魅惑的で胸の高鳴りを禁じ得ないのであーる。

なんといっても微に入り細を穿つモンスター造形の妙。ドラキュラがコウモリに変身するSFXも凝っている。雰囲気作りのスモークや照明も一級だ。よう出来たあるわ。

5人それぞれのキャラクター性が動きや外見に表れている点も芸が細かいなーと思った。ちびのミイラ男は大好きなドラキュラの周りをいつもフラフラしているし、半魚人は陸地だとご機嫌ななめでブスッとしている。狼男は血の気が多いが意外にオシャレな奴で、ビリビリに破れた白シャツ+薄色デニムで周りと差をつける!

ちなみにフランケンだけドラキュラ組から早々に離脱してモンスター・スクワッドの側に付きます。蘇らせてもらうだけ蘇らせてもらってドラキュラ親分の元からとっとと去るという裏ぎり。

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ドラキュラと愉快な仲間たち。


モンスターたちがビジュアル担当なら「モンスター・スクワッド」の面々はドラマ担当で、こちらも魅力的に描かれております。

チームの初期メンバーは主人公のアンドレ・ゴウアーとその友人、バカ、太っちょ、弱虫の4人。彼らはいわばモンスター・スクワッド1期生で、ここに不良の上級生が2期生としてチーム入りする。アンドレ坊の幼い妹と弱虫が飼っている犬っころは「修行が足りないから正規メンバーには入れてあげないよ」と言われて研究生の座に甘んじた。ことによるとフランケンを一瞬で手なずけた妹は正規メンバーに昇格したのかもしれないが。

組織体系が完全にAKB48。

不良の上級生、誰かの妹、犬っころ、あと近所に住む怖いおじいさん(実は心優しい協力者)などキッズ・アドベンチャーのお約束に忠実な人物配置がなされているんだ。

そして私が心引かれたのは、通常こういう映画では最初と最後しか出てこない「主人公の親」がガッツリ本筋に絡んでいる点である。アンドレ坊のパパンは熱血刑事で、いつも仕事に追われてママンとの関係は破綻寸前。街にモンスターが現れたことでアンドレ坊を映画に連れて行く約束も反故にしてしまう。

だが、モンスター出現事件がバラバラになりかけていた家族を結び付けた!

「ころしてやるぞー」とか物騒なことを叫びながらモンスターを追うアンドレ坊たちと、必死で息子を追うパパン。このパパンがなかなかステキなのである。息子をかばって狼男にど突き回されるからね。その捨て身の父性に感動するママン!

つまるところこの映画は「世界の危機を救う物語」であると同時に「ある家族の再生の物語」でもあって、2つの並行するストーリーが互いに連動しているってわけさ。

 

とはいえ私はモンスターの味方ですから、彼らが一人ずつ始末されていく映画終盤は胸が痛かった。

スクワッドを追い詰めたミイラ男は包帯をはぎ取られて死亡。大暴れを演じた狼男は銀の弾丸をブチ込まれて死亡。二人ともよく健闘したし、その死は名誉の戦死とすら呼べた。なんと私は無意識のうちに敬礼していたッ。

さて半魚人はと言うと…何の戦果も上げることなく散弾銃の前に散った。

デザインが格好よくて一番好きだったのに…何なんだ、この体たらくは。顔を撃たれてビクビクして死んだぞ。半魚人だけ見せ場がないし、ほとんど人も襲わない。ただ画面の端でゆらゆらしていただけでした。そもそも戦意はおろか日頃から何の意欲もない奴だった。いつもダルそうに歩いてたし(やはり陸地だからテンション下がってたのだろうか)。

そして最終盤、ドラキュラとフランケンはスクワッドたちが開いた地獄の門に吸い込まれていった。妹とフランケンの訣別には少しホロリとさせられる。

  妹    「グッバイ!」

フランケン「グゥゥゥゥゥゥバァァァァァァァァァァ…」

フランケンはあまり賢い奴ではなかった。

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二人はなかよし。

 

◆監督の陰に4人の名士◆

うまく伝えられた気はしないが、とてもおもしろい映画だったな。

こんなステキな映画を作ってくれたフレッド・デッカーは、かの悪名高き『ロボコップ3』(93年)を撮った監督だ。あのロボコップがランドセルのような胡散臭い装置を背負って我が物顔で空を飛び回りながら忍者ロボと対決するという史上最低の映画である。ポール・バーホーベンの『ロボコップ』(87年)を愛する私はこのふざけきった続編に激憤した。

こんなクソみたいな監督がなぜ本作のようなイカした映画を撮り得たのか?

この男の背後に4人の心強い助っ人がいたからだ。

まず製作総指揮に『破壊!』(74年)『カプリコン・1』77年)を監督作に持つピーター・ハイアムズ。監督業とプロデュース業を兼任する70年代の名士である。

次に脚本。これは史上最高の刑事バディ『リーサル・ウェポン』シリーズや、マニア受け抜群の秀作『ロング・キス・グッドナイト』(96年)の脚本を手掛けたシェーン・ブラック。監督作の『ザ・プレデター』(18年)は当ブログ最大のネタ記事になるほどの大失敗作だったが『アイアンマン3』(13年)『ナイスガイズ!』(16年)では高い評価を得ている。

 

…と、ここまでは序章。

本作はモンスターありきの映画なので残りの2人が成功の鍵を握っていたのではないでしょうか。

特撮を手掛けたリチャード・エドランドの名前にピンときた映画好きも多いだろう。『スター・ウォーズ』(77年)『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81年)『ゴーストバスターズ』(84年)のSFXを担当した大家である。

そこに加勢したのは特殊メイクアーティストのスタン・ウィンストン。彼もまたSFX界の巨人であり、手掛けた作品は『遊星からの物体X』(82年)『ターミネーター』(84年)『エイリアン2』(86年)『シザーハンズ』(90年)『ジュラシック・パーク』(93年)など錚々たる名作群。

この映画はリチャードとスタンを押さえた時点で勝ちが決まっていた。モンスターたちに命を与えて過去のユニバーサル・モンスターズから蘇らせたのは他でもなくこの二人なのである。創意がモノをいう特殊撮影は頭で生みだす映画、指先で魔法をかける特殊メイクは手で作り上げる映画

なるほど、道理でCGに依存した「ダーク・ユニバース」が失敗したわけだ。CGが悪いと言っているわけではない。使い方の問題なのだ。『ザ・マミー』に足りなかったのは手作り感だった(他にも色々あるが)

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ダメージファッションのトレンドリーダー・狼男&ジョジョ立ちをこよなく愛するミイラ男。

 

素敵なオマケ『インタ純と半魚人の対談』☆

終始いいとこなしだった半魚人をインタビュアー純が独占取材したようなのでその模様をお送りします。

バトンタッチだ。あとは任せたぞ、インタ純。

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「訊くんだぜ!」

 インタビュアー純(通称 インタ純)

いつもマイクを握って町内を走り回っている気の強い青年。

誰彼かまわず質問をぶつけることから「ミスタークエスチョン」の通り名で恐れられており、今朝は自宅マンションの貯水タンクに向かって「しんどくないのか」と質問した。7月におこなわれた某吉本芸人の記者会見にも潜り込んでいたらしい。

 

インタ純 「作品を拝見させて頂きました。半魚人さんは他の4人よりも個性的な外見ですが、劇中では少し控えめなポジションだったように思います。ご自身ではどのように感じておられますか」

 

半魚人「控えめねぇ。はっきり言ってくれていいよ」

 

インタ純 「居ても居なくてもいいと思った」

 

半魚人「言うねぇ、キミ。実は僕もそう思っているんだよ。だって今回のフィールドって陸地でしょう? 陸の上だとあまり上手くやれないんだよ。第一、めっちゃ乾くし…」

 

インタ純 「やはり身体の乾きはパフォーマンスに支障をきたすわけですね」

 

半魚人「そりゃあ、だって半魚人だからねぇ。乾いたらそれまでだよ。まな板の鯉って感じ」

 

インタ純 「もしかして登場してないシーンではどこかで水分補給されていたのですか?」

 

半魚人「とにかく水場を探し回ったよね。下水道、噴水、公園の水道、公衆便所…。民家の縁側に置いてあった消火用バケツの中にちょっとだけ水が入ってて。それをブッ被ってその日の撮影は乗り切ったよ」

 

インタ純 「ドラキュラさんは善悪の均衡を崩すために魔法の石を探しておられましたが、半魚人さんも同じ目的意識を持っておられたのでしょうか?」

 

半魚人「正直かなりどうでもいいと思った」

 

インタ純 「嫌々行動を共にしていたということですか?」

 

半魚人「そもそも『善悪の均衡を崩す』ってどういう事なのよ。意味わかんねえよ。残りの3人もほとんど理解してなかったし」

 

インタ純 「最後に半魚人さんの末路についてですが、映画をご覧になったふかづめさんは散弾銃で顔を撃たれてビクビクして死んだことに不満を感じてらっしゃるようです。そのあたりはいかがでしょうか?」

 

半魚人「そんなこと言われてもさぁ…。散弾銃で顔を撃たれたら誰だってビクビクして死ぬでしょ」

 

インタ純 「ご尤もです」

 

半魚人「なんか…オレだけ風当りキツくない? オレばっかり槍玉に挙げられてるけど、じゃあチームを裏切ったフランケンはどうなのよ?」

 

インタ純 「ぐうの音も出ない」

 

半魚人「むかつくわー。こんな映画出なきゃよかった」

 

インタ純 「それでは最後になりますので読者に一言お願いします」

 

半魚人「こんな映画は観なくていい。オレの単独作品『大アマゾンの半魚人』を観てくれ。もしくは『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)でもいい」

 

インタ純 「どうもありがとうございました。半魚人さんでした」

 

~インタビュー終了後~

 

半魚人「ちょっと水くれない? また乾いてきたわ」

 

インタ純 「水と呼べるかはわかりませんが、マックシェイクでよければ…」

 

半魚人「風当りがすごい」

 

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本作の逆MVP、半魚人さん。