シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

SHADOW/影武者

うなれアイアン傘カッター! マカロンとなりて坂を滑れ。チャン・イーモウのバカ様式美はもうイーモウ!

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2018年。チャン・イーモウ監督。ダン・チャオ、スン・リー、チェン・カイ。

 

戦国時代、沛(ペイ)国が敵の炎国に領土を奪われて20年の時が流れた。炎国との休戦同盟により平和な時間が続いていたが、若くしてトップの座を継いだ沛国の王は屈辱的な日々に甘んじていた。領土奪還を願う男たちを束ねる同国の重臣・都督は、敵の将軍で最強の戦士としても知られる楊蒼に、手合わせを申し込む。王は都督の勝手な行動に怒りをあらわにするが、王の前にいる都督は影武者だった。本物の都督は、影武者に対して自由と引き換えに敵地での大軍との戦いを命じていたが…。(映画.comより)


 おっはよ。

この2ヶ月まるまるサボってました。「そういえば俺はよくサボるな」と我が身を顧みて当ブログの活動休止録をまとめることを決意。活動休止にかけては一日の長があるからな。激動のサボリ史に各自想いを馳せ、しみじみとした面持ちで読んで頂きたい。伝説の活動休止型ブロガーの生き様をその目に焼きつけよ。


~シネトゥ活動休止録~

2018年11月05日…家のルーターが爆発する。復旧のメドが立つまで無期限活動休止を余儀なくされた筆者はシネマレビュー最前線からの撤退を決意。読者に別れを告げ『シネマ一刀両断』は惜しまれながらも活動休止。

2018年11月06日…忌々しいルーター爆破事件から一夜…。約12時間もの空白期間を経て活動再開。ネットが沸いた。

2019年08月17日…「昭和キネマ特集」が終わったあと、読者に毒づいて活動休止を発表。10日後に活動再開。ネットが沸いた。

2020年06月23日…「続・昭和キネマ特集」が終わったあと、読者に毒づいて活動休止を発表。活動再開までの繋ぎとして、過去によそで書いた随筆を脳死で連投するという姑息な運営方針でお茶を濁す。この期間に純文学作品『死亡遊戯』を発表。文壇に一石を投じてみせた。

2020年10月23日…レビューストックが底を尽き、無期限活動休止を余儀なくされる。この期間に、珠玉の10選記事『メロハーの話するからちょっとこっち来て』、および珠玉の名随筆『ぺぺん海道 ~ごめんなすって~』を発表。サブカルシーンに波紋を広げた。

2021年01月24日…『TSUNAMI -ツナミ-』評を最後に謎の失踪を遂げる。失踪期間が過去最長の2ヶ月以上だったため、図らずも活動休止の自己ベスト更新に成功。ヘヴィ読者の中でふかづめ死亡説が囁かれたが、都市伝説ブロガーのやなぎやにより一蹴された。

2021年04月08日…2ヶ月の沈黙を破りシネマレビュー最前線にて活動再開。ネットが沸いたし、波紋とかいっぱい広がった。復帰一発目の『アナと雪の女王2』評に寄せられたおかえりなさいコメントは驚異の4件。もっと寄越せよ。

 

そんなわけで本日は『SHADOW/影武者』です。おそろしく知能指数の低い映画だが、私の文章も負けず劣らず低知能です。

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◆強キャラだけが持つ謎アビリティ◆

『HERO』(04年)『LOVERS』(07年)で武侠アクションブームを作ったチャン・イーモウ

巨匠、巨匠と言われているが、宋王朝時代を描いた前作『グレートウォール』(16年)では万里の長城を守るマット・デイモンが60年に1度目覚めるクリーチャーとガシガシ戦う…という小学生並みの低次元馬鹿アクションを大喜びで撮ってた。今年70歳なのに何してんだか。

そんなチャン・イーモウが長年だいじに温めてきたアイデアを孵化することに成功。影武者の宿命を悲哀たっぷりに描いた『SHADOW/影武者』であります。

強大な炎国に境州を奪われながらも休戦同盟を維持しようとする沛国の臆病な王(チェン・カイ)と、このままではジリ貧だから開戦するしかないと主張する重臣の都督(ダン・チャオ)との内輪揉めを主軸としたストーリーだが、実は本物の都督…通称オリジン都督は大病を患い、数年前から地下生活をしており、自分と瓜二つの影武者を都督…人呼んでシャドー都督に仕立て上げていた…というのがミソ。これはダン・チャオの一人二役であります。

境州を奪還するべく炎国の猛将フー・ジュンと決闘の約束をしたシャドー都督は、オリジン都督のもとで必殺剣の修行を積み、自国の王に「おまえ本当に都督け?」と怪しまれながらも「都督、都督」と嘘をつきながら器用に立ち回り炎国進軍の準備を進める。

まあ、なんちゅうか…「ふーん?」としかいいようのない中身ではある。

 

チャン・イーモウ作品といえば華美な色彩感覚が特徴だが、今回は銀残し気味のモノトーンで勝負に出た。いわゆる水墨画のような映像ね。黒から灰色までの濃淡で描き抜かれた映像世界は、満艦飾の下品さとでも呼ぶべき過去作とは打って変わり、きわめて落ち着いた雰囲気に満ち満ちています。

とはいえ中国舞踊のようなワイヤーアクションで物理法則を無視するイズムは従来通り。ほかにもイーモウ印は沢山あって、シャドー都督がオリジン都督の妻スン・リーと偽装夫婦を演じるうちに禁断の愛が芽生える中華ロマンスあり、政略結婚に抗う王の妹クアン・シャオトンが政略結婚に抗いすぎるあまり自ら実動部隊に志願して戦場に繰り出すという無双シリーズのようなムチャ展開ありと…今日も今日とてイーモウはイーモウしとったわ。もうイーモウ。

f:id:hukadume7272:20201202074203j:plainオリジン都督になりすますシャドー都督。

あと、イーモウ印のもうイーモウといえば強キャラに付けられた謎アビリティね。

たとえばフー・ジュン演じる炎国の敵将は「どんな相手でも三太刀で必殺する」というアビリティの持ち主。絶対三発で仕留めるマンなのである。

これは『HERO』のジェット・リーが持っていた「十歩以内の距離でなら確実に相手を仕留める必殺剣「十歩一殺」と同じ。もう発想がボードゲームなんだよ。

また、『LOVERS』では金城武とアンディ・ラウの死闘があまりに長期戦にもつれ込みすぎて秋から冬へと季節が変わるワンクールぶっ通しチャンバラが観る者を怯ませたが、とにかく美術・演出・設定がぶっ飛びまくりのイーモウ作品。このバカ様式美。

そんなエンターテイメント性が横溢したのが『SHADOW/影武者』。詳しくは後述するが、こちらの想像を遥かに超えるバカ豚ポップコーンムービーでした。

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『LOVERS』
の金城武とチャン・ツィ…ツィイ…ツイイ~~。


◆うなれ、アイアン傘カッター! ~そして兵はマカロンになる~◆

後から知ったが、どうやら本作は『三国志』における荊州争奪戦を大幅にアレンジした作品らしい。ちなみに私は柴田錬三郎と北方謙三の小説版、および横山光輝などの漫画版も愛読していた三国シストだが、この映画の原案が三国志であることには全く気付かなかったほどには三国志の原型ないス。
余談だが、炎国武将のフー・ジュン『レッドクリフ』(08-09年)の趙雲役。

さて、前半部は華流ドラマのごとき権謀術数や愛憎渦巻く三角関係が描かれるが、そこは大しておもしろくないので省略しよう。なにしろ俺たちが興味あるのはチャン・イーモウのもうイーモウなんだからね。だって、チャン・イーモウ作品の醍醐味はスクリーンに向かって「もうイーモウ! もうイーモウ!」と叫び続けることだけなんだから。

偃月刀を獲物にする敵国のフージュンは、派手に横っ飛びしながら刀を振って相手の後頭部を斬り付けるという技を得意としていた。そんなフージュンとの決闘に備え、オリジン都督のもとで剣の腕を磨いていたシャドー都督は、スン・リーの傘をさした佇まいに着想を得て「傘術」を開発。傘を盾のように構え、お正月に海老一染之助とかがよくやる傘回しの要領で絶えずくりくりと回転させることで相手の攻撃を傘の表面で滑らせてしゃなりしゃなりと受け流す…という必殺封じを完成させます。

f:id:hukadume7272:20201202072032j:plain傘術を会得するシャドー都督。

なるほど。「柔よく剛を制す」を地でいっとんな。これによってフージュンの三太刀必殺剣をうまく捌こうという作戦なわけだ。こういう風にロジックがちゃんとあるバトルモノなら好きよ、私。

とはいえこの傘術、“防御には長けてるものの肝心の攻撃手段がない”という欠点がある。そこをどう克服するのか?

…なんてことを思ってる内に、いよいよ迎えた決闘当日。

「早く勝負しようよ」といって偃月刀を構えるフージュンを前に、シャドー都督が取り出した傘がこちら。

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どえらい改造加えてた。

ちょっと聞いてた話と違うっていうか、えらい変わりようっていうか…。

一見すると武器には向かなさそうな“傘”を使って最強の偃月刀使いに立ち向かう…というのが物語上のフックだったはずなのに、むちゃむちゃ武器してるやん。それも凶悪な…。悪辣な…。ていうか、どういう技術をどういう風に結集したらそうなるの。

しかもこのアイアン傘カッター。柄の部分の持ち手を引っ張ることで扇風機みたいにブゥーン!ブゥーン!と高速回転するのである。ごっつ怖いやん。ていうか、オリジン都督にしごかれながら散々修行してたのに…結局は科学の粋がモノ言うんか?

おまけに一振りするたびにガシャガシャいって超うるせえのよ。この傘。

だが、この決闘はシャドー都督が仕組んだ“目くらまし”だった。決闘と称してフージュンを引き付けてる間に、沛国から率いた奇襲部隊に州境を包囲させて炎国の拠点を落とそうという算段らしい。

そんなわけで、フージュンとの決闘とクロスカッティングされるのが奇襲部隊による拠点制圧戦。隊長のワン・チェンユエンが「みんな構えてー!」と号令した途端に、部下たちが一斉に構えた武器がこちら。

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量産可能らしい。

さっきのやつやんけ。世界でひとつだけのシャドー都督のオリジナル武器かと思いきや、すでに製品化されて皆に支給されてるやん。

部下A「今こそ沛国の底力を見せるとき。この傘カッターに希望をたくす」

部下B「この傘カッターが沛国の未来を切り拓いてくれるって、オレ信じてる」

傘カッターもろてごっつ喜んでるやん。

ほいで、ワン隊長が「行ってー! みんな行ってー!」と号令した途端に、部下たちが一斉に取った行動がこちら。

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移動も可能らしい。

単なる回転式カッターかと思いきや、柄の両端が傘状になっててその隙間に身体を折り畳んでマカロンみたいな感じになることで敵軍の矢を防ぎつつ斜面をくるくる滑りながら突撃するという酔狂きわまりない移動法「アイアンスライダー」を思いついてるやん。

部下A「すごい速度で斜面を滑っています」

部下B「ちょっとお尻は痛いけど、気持ちいいんだ」

アイアンスライダーしながらごっつ喜んでるやん。

だが、くるくると回転しながら斜面を滑りきった奇襲部隊の中には、一部、アイアンスライダーから降りたあとに若干ふらついてる者がいた。

酔うてもうてるやん。

いちびってスライダーして目ぇ回ってるやん。

それにしても凄いな、この子ら。傘ブゥーンするわ、マカロンなるわ、くるくるしながら斜面滑って目回すわ。傘の日感謝デーなの?

バカが過ぎてお腹一杯だよ。もうイーモウだよ!

 

このあとも物語は進んでいくが、どんでん返しの連発には少々胸焼け。

全編にわたって雨が降りしきるという視覚効果も、舞台のほとんどが王宮(室内)なのではさほど意味がないうえ、画も話も小さくまとまっていて、なんだか『CASSHERN』(04年)を観てるような気持ちに人をさせる。

間違ってもこういう映画を観て「映像美」などとみだりに口にするような人間にだけはならないでおこう、と改めて心に誓いました。

美しさを讃える行為にはそれ相応の覚悟がいるからです。それは作り手とて例外ではなく、たとえば本作には「私はこういう映像が美しいと感じる感性の持ち主です」というチャン・イーモウの告白がべったりと画面に染み付いているのですから。

だがチャン・イーモウの潔さは、この変わらぬ美的感覚にあり。愚直にもあくまで作家性を変えず、何度もイーモウするトライアル・アンド・チャン。

とはいえ『SHADOW/影武者』はバカの詰まった宝石箱なので、人はただ奇天烈なイマジネーションに不意打ちされながら前後不覚の酩酊感に襲われていればよい。何度も言うが、チャン・イーモウ作品の醍醐味はスクリーンに向かって「もうイーモウ!」と叫び続けることだけなのだから。

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病身のオリジン都督。

 

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